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甦 読語  作者: みけサク
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……

彼はイキノコリ、ココロにオモッタ通りに言葉をヨミダス。

そして彼はフタタビカタル。

 ―――気付くと僕は見慣れない部屋で横たわっていた。


 薬品独特の匂いで満たされた部屋に僕は一人だった。もう夜なのだろうか、室内は薄暗くやけに静かだった。

 『一体、どれくらい気を失っていたんだ? 』

 僕は一人しかいない部屋に向かってそっと口を開いた。しかし、口から出た言葉は篭ったものだった。


 《ほぼ半日と言ったところだな。もう夜明け前だ》


 落ち着いた平坦な声と共に、薄暗い室内に二つの紅い色が見えた。それはちょうどあの黒い少年の瞳と同じ色。

 僕はいつの間にか付けられていたマスクを外しながら外し、言葉を返す。

 「もしかして僕が目を覚ますまでずっと待ってた? 」

 《時間など我の前では何の意味も無いがな》

 そりゃそうか。僕が死に掛けている時に時間を巻き戻してやり直させてくれたのだから。

 「それでも待たせて悪かったね。取り敢えず、お茶でも出すよ」

 僕は起き上がってお茶の用意をしようとしたが、体がまるで何かに引っ張られるような感覚がして上手く動かなかった。

 僕の様子を見て、目の前の少年も慌てたように僕の体を支えて、そっと元の体勢に戻してくれる。

 《気を遣う必要は無い。お前は大人しく怪我を癒すことだけを考えろ》

 少年には珍しく少しきつい口調で僕にそう告げて、ベッドの傍に立て掛けられていた折り畳み椅子に腰掛ける。

 《それに、さっき見たがこの病室にポットは置いてないぞ》

 「あらら、誰も見舞いに来てくれてないのかな」

 《どうだろうな。もしかしたら見舞いにて、帰る時に返却したのかもしれないがな》

 お互いにどうでも良いことを口にして、僕は彼との再会を喜んだ。

 「運命は変わったでしょ? 」

 《ああ、見事だったよ》

 「まさか、まだ生きてるなんて自分でも驚きだよ」

 《運命を変えた本人が驚いてどうするのだ》

 呆れたように彼が突っ込む。彼と僕はそれから他愛も無い話をした。本当に他愛も無い話。好きな女優の話とか面白かった漫画の話。

 それからお互いの失恋話。

 それは実夜以外の友人と初めて心から話す事が出来た、凄く落ち着いた時間だった。


 《さて、我はそろそろ行くとしよう》


 やがて、少年が病室を後にしようと立ち上がる。

 「もう行くの? 」

 《ああ、あまり長居も出来ない身なのだ》

 もう、充分過ぎるほど長居をしたがな、と彼は苦笑いと共に零す。

 「四神、煉獄だっけ? 」

 《ああ、『四人の神が死者の罪を聖なる炎で浄化する場所』だ》

 何だ、それは。けど、当の本人はそれに気付いていないのか至って真面目な表情だったので、僕としてもそれについて突っ込むのは止めておこう。

 「有難う、煉獄。君のお陰で心残りは無くなったよ」

 《別に感謝される事はしていない。運命を変えたのはお前の力だ》

 「それでも有難う、だよ」

 そう運命を変えることが出来たのは紛れも無く、機会を与えてくれた煉獄のお陰だから。

 《変わっているな、お前は》

 その言葉を残し、四神煉獄やさしいしにがみは僕の病室から去っていった。

 それを見届けて僕はゆっくりと瞳を閉じる。意識が心地良く薄れていった。

 白い建物の屋上に一人の少年が立っていた。全身黒一色という出で立ちに、顔を覆い隠すほど長く伸ばされた黒い髪が、彼の着るオーバーコート共に冬の寒空の下、風に靡いていた。

 彼は音も無く、静かにその紅い双眸から涙を流していた。

 彼はほんの僅かの時間言葉を交わした少年のことを思い、彼の為に泣いていた。


 《レン…》


 彼の名を呼ぶ声に振り返れば、顔見知りの少女が立っていた。

 《ミカミ。お前が何故、此処にいる》

 《ヨリが教えてくれたの。『また“死神”が他人の為に泣いてるから慰めてやれ』って》

 彼はそっと涙を拭い、少女と向き合う。

 《…我らのしていることに意味はあるのだろうか…》

 彼は自らの心に抱いていた疑問を少女にぶつける。

 《『更科誠』という少年に我は運命を覆す機会を与えた。時間を戻し、死を回避させようとした。


………なのに、何故運命は変わらない!


 何故、あいつに二度の苦痛を与える結果になった! 全身を機械で繋がれ、苦痛を味わいながら死んでいかなければならない! 》

 彼の言葉に少女は優しい声で語りかける。

 《意味ならあったよ。本当なら即死だったはずなのにその子の寿命は半日ももった。それに、その子はレンに感謝してたじゃないか。『ありがとう』って》

 《それは死を回避出来たと思っているから――》

 《違うよ。その子はもうすぐ自分が死ぬことだって分かっていたはずだよ。自分のことだもん、分かって当然だよ。

 それでもその子はレンにもう一度チャンスを貰って、心残りを無くすことが出来たから感謝したんだよ》

 少女は慰めるように彼の頭を優しく撫でて、耳元で断言するようにはっきりと口にする。

 《だから、レンはもっと自分の持つ力に誇りを持って良いんだよ。レンの力で救われる人が大勢いるんだから》


 そして、彼と少女の姿はいつの間にそこから消えていた。

 彼らが消えた数分後、この病院の一室で昨日交通事故により大怪我を負い運ばれてきた少年が静かに息を引き取った。その死に顔は安らかな笑顔だった

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