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甦 読語  作者: みけサク
1/5

心残

ココロにノコル

 白くぼやける

                         シカイ


                                                   口の中を満たす鉄独特の                    

                                     アジ


                       ゴムの焼ける嫌な

                     

    ニオイ

                                                           騒然とする人々の 


                  コエ


                 全身を駆け巡るように痛む


                                                   カラダ


 どうやら僕はこのまま死んでしまうようだ。僕の体からゆっくりと赤い液体が道路へと染み出していく。

 呆気無いものだと思う。未来に希望なんて持たず、ただただ現在を惰性で生きていた。少し嫌な事があれば死にたいと思っていた。いつ死んでも良いと思っていた。寧ろ早く死にたいとさえ思っていた。

 その願いは叶ったのに―――




          ―――何故、僕は泣いているのだろう




 血の味が苦いから? 違う。

 臭いがきついから? 違う!

 傷が痛むから?   違う!!

 漸く死ねて嬉しいから? 違う!!!

 絶対に違う!!!

 今頃になって『生きたい』と思っている自分自身がとても悔しい。何で僕はもっとちゃんと生きていなかったんだ。

 もう、目は見えない。味も感じない。臭いは消えて、声も聞こえず、痛みもない。

 やっぱり僕の命は此処でお終いのようだ。

 ははは…。おかしいや。笑おうとしたけど、もう動かない。もう終わるからもう動かない。やっぱりちゃんと生きていれば良かった。もっとちゃんと。

 せめて、彼女に僕の思いを伝えておけば良かった。


 《生きたいか? 》


 聞こえないはずなのに、声が聞こえた。

 感じないはずなのに、触れられるのを感じた。

 見えないはずなのに、その姿が見えた。

 黒いオーバーコートに、黒いズボン。無造作に伸ばした黒い髪は彼の顔の大半を覆い隠し、時折髪の間から紅い瞳とモデルのように整った顔立ちが覗く。

 その出で立ちはまるで死神のようで、けれどあれ程『死』を拒絶していたのに僕は不思議と恐怖は感じない。

 《お前が望むなら、俺はお前にチャンスをやろう》

 高くも無く低くも無い落ち着いた声。優しくも無く冷酷でも無い平坦な声。

 彼は続ける。

 《もしそれでお前が『運命』を覆すことが出来たなら、お前はもう一度生きることが出来る。さぁ、どうする。やるか、やらないか? 》

 訊かれるまでも無い。僕の答えなんて始めから決まっている。

 僕は動かないはずの体を動かす。少し動かすだけでも全身が痛みを訴える。答えを口にするだけで真っ赤な液体が口から溢れ出す。

 「……や……………る…」

 小さく掠れた声を必死に告げる。聞こえないかもしれない微かな声。けれど、僕の言葉は彼に届いたらしい。

 黒い髪の隙間から、彼の穏やかに微笑む口元が見えた。

 《了承した。今一度お前に生きる機会を。運命を覆す力をこの四神しがみ 煉獄れんごくに見せてくれ》

 こう言って、彼はゆっくりと僕の目を手で覆う。彼の手から暖かな温もりが伝わってくる。 あれ程痛かった全身の痛みが次第に和らいでいく。

 野次馬が騒ぐ声も遠く遠くなっていく。

 鼻についていたゴムの焼ける嫌な臭いも今では全く気にならない。

 口内に広がっていた血はいつの間にか無くなっている。

 彼の手に覆われた僕の視線は、彼が作り出す黒の中をじっと見つめていた。黒い黒い闇。けれど不思議と怖くない。彼の暖かな手が僕の不安を取り除く。僕は彼に身を任せ、黒い闇を見続ける。

 やがてその黒い闇の中、白い微かな光を見つけた。白い光は次第に大きくなり僕を包み込んでいく。

 そして―――――――


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