ホスピタル☆業魔殿。
「うむ……、こんなところか…… 」
その言い方にはかなり微妙ないい加減さが垣間見えた。
ただ、よほど自信があったのだろう。
術式を逐えて振り返りもせずにその場をあとにしようとする。
「あの……先生? 」
ゴージャスに空いた破廉恥な胸元。
全く以て、けしからん美貌をその身に纏う白衣の天使 ── 絶世の美女と思わしき看護師が不安げにしていた。
「あぁ、大丈夫だから 」
まるで今すぐにでも堕ちそうなぐらいに眠たげに片眼を擦りながら血みどろになった両手を洗い落とそうとしている。
蛇口を捻り、ただずっと溢れてくる清涼感が心地好い。
そもそも、特殊な病院である。
有りとあらゆる生き物 ── というか。 死者や悪魔ですら治療せねばならないというのだ。
時には、天使や神々ですら患者として当然のように控え室で待ち受けている。
「ふぅ…… 」
その溜め息が言い表すモノは愚痴というか、どちらかと言えば人材不足ということだったのだろう。
たった一人で病院を切り盛りすることは正直、合間の食事や、睡眠時間すら限界まで削られてくる。
「大丈夫ですか? 先生…… 」
心底心配する助手であったが、ブンブンと振るう尻尾の先の逆三角形のシルエットと。
世間一般で言うところの美魔女らしき立ち振舞いがわざとらしい淫魔っぷりだった。
「かまわないから。 はい、次の人~…… 」
それを余所に次なる診察札へと手を伸ばし、異形のお医者さんが診察室へと患者を導く。
「えぇ~っと……はいはい。 風邪っぽいんですね。 ふむふむ…… 」
上半身を脱がせ、はち切れんばかりのバディに聴診器をあてがい、くだされた結論からというと ──
「あぁ、なるほど。 勇者ですか 」
転生したての、とは告げずに。
やることは単純である。
「じゃあ、採血しますね~」
一瞬にして、空っぽになった。
少なくとも。
お医者さんに吸血鬼は選んではいけない。
ノーライフキングなら、尚更のこと。