珍しすぎる来訪者
彼の名は、アレク。アレク・テレジア、賢者である。
アレクの見た目は、髪が無造作に生え、前髪で目元が隠れ、その上ひげもあまりに無造作に生えているため、一目見た感じでは決して賢者には見えないだろう。
そもそもテレジアは、元は勇者であるため、魔法だけでなく剣の技量もとても高く、旅の知識も豊富で、英雄を目指していたため、薬草などの知識的なことも多く学んでいたもだった。そのため、多くの物事は、自分で片づけてしまう。そんな彼にも仲間がいた。冒険者をやってた頃に同じパーティーを組んだ4人の少年少女たちである。アレクが彼らに出会ったきっかけは、国に勇者を辞めて、冒険者になると言ったときに紹介された初心者冒険者である。アレクは、彼らを一から指導し鍛え、そして冒険者としてやっていけるようにしたのだ。無論国側は、彼が少年たちの世話をできなくなり帰ってくることを望んでいた、いや、そもそもそれが理由で、初心者で子供な彼らを選んだわけなのだが、アレクは知る由もないことだった。
そんなアレクは今、田舎で長い余生のような人生を送っていた。そもそも、彼が田舎に引っ込んだのは、仕事に疲れたのではなく、おっさんになったため、物語の英雄のように、辺境で暮らすことを求めたからである。彼はそれほどまでに、英雄に憧れていた。
そんな彼は、今日もまったりとした日常を、送るのだった。
アレクはもはや日課となったポーションづくりを終え、家にこもり本を読んでいた。無論一人で大きな家に住んでいるため、彼が使っているのは二階にある寝室と執務室、一回にある書斎と風呂場、それに台所だけなのだが、本を読むときは決まって執務室で読んでいた。大きな窓が三つある部屋に、窓に背を向けるよう設けられた机といすを使い、静かな空間と程よい日光にさらされながら、今日も本を読みふけっていた。
「なかなか面白い本だな。いや~こういう生活もいいね、ここで一生暮らそう。だってめんどくさいし、やることないし、暇だしな。もう国側との関わりもないし、住所教えてないしな」
そういいながら本を読んでいる彼の家に、来訪者が来た。
「おやおや、誰だろうねえ、はいはい~、今開けますから」
そう言いながら玄関の螺良を開けると、そこには一人の配達人がっ立っていた。
「アレク?・テレジアさんですね、手紙をお届けに参りました。どうぞ」
そう言われ、驚きながらも手紙を受け取った。
「ご苦労様です」
そう言うと、配達人はそそくさと行ってしまった。
その後、アレクは執務室に戻り、手紙を後回しに読書を再開した。
外との繋がりをほとんど断っている彼に手紙、どれも四枚とは、とても珍しいのであったため、手紙をその場ですぐ開けるという動作をしなかったのだ。それが、後にどのような結果になろうとも。
そうしているうちに夕方となり、お腹の虫が鳴ったため、夕飯を作っていた。
この辺りでは、大きな池と、畑が多くあるので、食のほとんどが魚料理である。
アレクには、旅での体験があるため、やはり料理もできていた。
田舎に引っ込み暇が増えたため、その腕がかなり上がってるということは、まさに暇つぶしが故にとしか言いようがなかった。それほどまでに暇な賢者の日常はこのようなものだった。
何かの事件に巻き込まれるでもなく、トラブルが多発するでもなく、本当にまったりで優雅な日常を送っていたのだ。
彼は英雄になりたかった。今でも、自分にしか成し遂げられない何かを求めいる。
しかし、彼はこの日常も気に入っていた。何もないまったりとした時間が永遠と続くような、そんな優雅な日常も好きだったのだ。
しかし、事はすでに起きていた。
さしあたって、この一週間後には、日常が崩れかけることなど知る由もない。
彼は忘れていたのだ、珍しすぎて忘れていたのだ。
今日、手紙が四通も来ていたことを。