新年のお祝いともふもふ戦争 2
新年の振る舞い料理が並ぶリーエンベルク前広場で、ムギャワーと銀狐の雄叫びが響いた。
ギャーというもっと高めの鳴き声がジゼルの肩に乗せられた子狐で、互いにもふもふ尻尾である。
「…………おい。どうにかしろ」
「とてもぐったりのアルテアさんですが、今はバンルさんの手腕にかけましょう」
「あいつが知ってるのは、使い魔だけだろ」
「アルテア。あの狐は、ノアベルトだよ」
一瞬、銀狐をただの銀狐扱いしてしまった選択の魔物は、そこではっとしたように無言になった。
あんまりな狐具合に、どうしてもその事実がこぼれ落ちてしまうのだろう。
白い睫毛が僅かに震え、静かに深く息を吐く。
ネアは、慌てて話題を変えることにした。
「そ、そして、お互いに胸毛を見せ合っているので、戦争の理由が変わった模様です?」
「どっちが毛並みがいいか、競っているみたい」
そう教えてくれたのは雛玉状態のほこりとも対話が出来るゼノーシュで、今はジャガイモによく似た雪茎と呼ばれる野菜のキッシュを食べている。
檸檬色の瞳をきらきらさせているところを見ると、素朴な料理なだけにネアはもっと特徴のある料理を選んでいたが、かなり美味しいキッシュのようだ。
「ふむ。毛並みの素敵さで言えば、ムグリスディノのお腹や、ちびふわのお尻などもなかなかにふかふかですよね。こちらとて負けません!」
「やめろ」
「ご主人様………」
「とは言え、ふかふかの偉大さは言うまでもないものの、純粋な毛並みの素晴らしさだけで言えば、ウィリアムさんな霧竜さんのとろふわなお腹でしょうか。顔を埋めてももしゃもしゃしない、素晴らしい毛皮でした」
「いいか。お前は、二度と擬態したあいつに近付くな」
「また今度、狐さんの為に擬態して貰った際には、ディノと一緒にふかふかするのですよ?」
「言っておくが、あいつの擬態は雑だぞ」
「あら。擬態用の魔術符を作ったのは、もう一度霧竜さんにくっついて寝たいノアなので、大丈夫ではないでしょうか?」
「………は?」
銀狐による霧竜へのご寵愛を知ってしまったアルテアが呆然としている間に、戦場に入っていったバンルは、何かをヒルドとジゼルに渡している。
すると二人は、それぞれに受け取ったものを荒ぶるもふもふのお口に突っ込んだ。
「むむ。戦争が終結しましたね」
「終わったのだね………」
「双方もぐもぐしているので、何か美味しいものだったのかもしれませんね」
「おい。あいつの認識はどうなっているんだよ………。まさか、精神まで獣に寄せているんじゃないだろうな?」
「そのあたりは、我々も深追いはしないことにしているのです………」
ネアは、世の中には追及しない方が幸せなこともあるのだと主張し、お皿に招いたキッシュを、フォークとナイフで切り出してぱくりと食べる。
そして、あまりの美味しさにびょんと椅子の上で跳ねた。
「弾むな」
「むぐ。またしても肩を押さえられる仕打ちですが、このキッシュはほくほくとろりです!」
「ほくほくとろり………なのかい?」
「一つ丸ごとだと少し大きいので、私のお皿から、少しだけ食べてみませんか?」
「………可愛い。分けてくる」
「恥じらいの傾きなので、了承と見做しますね!」
ネアは、ほくほくとろりとキッシュを伴侶な魔物にも切り分け、なぜか目の合ったアルテアにも苦渋な思いで切り分けた。
アルテアと料理を分け合うのが嫌な訳ではないのだが、美味しかった料理にはお腹に収めるべき必要量があり、その最低基準を下回りかねなかったのだ。
「……………美味しい」
予想通り、子供舌の魔物の王様は、このキッシュが気に入ってしまったようだ。
ジャガイモ食感の雪茎がほくほくしていて、その間に恐らくとろけるチーズが挟み込まれている。
それをミルフィーユ的な層にして、焼きむらが出ないようにキッシュの中に入れてしまう技量は、作った料理人の腕なのだろう。
大きなものを切り分けるのではなく、一人分ずつで焼いてあるキッシュだ。
両手の親指と人差し指の輪で作れるくらいの大きさにしたのは、キッシュの御馳走感の主張なのかと思っていたが、どうやら、中のチーズが流れ出さないようにという理由だったようだ。
(ああ、いいな。こういうお祝いの席に出されるとっておきの料理にも、素朴な美味しさを追求したものがあって、とっても美味しい…………)
頬を緩めてむふんとなってしまう乙女は、ウィームの料理文化に深い敬意を払っている。
リーエンベルクで提供される料理が素晴らしいのは勿論だが、その土台には、ウィームという土地の文化があるのだ。
ネアは魚介類とオリーブの油をたっぷり使った沿岸部の料理や、香辛料たっぷりの砂漠の料理もみんな美味しくいただけるのだが、やはり毎日食べるなら、バターとチーズを使った料理が好きらしい。
そこに香草類をしっかり使用し、甘いとしょっぱいを組み合わせてくるウィーム料理は、もはや至高の領域と言っても差し支えないだろう。
そう考えかけ、ネアはおやっと首を傾げた。
「ディノは、アンセルム神父のことは以前から知っています?」
「……………浮気」
「そちらの興味はさっぱりないのですが、ふと、ガーウィンの時にアンセルム神父が作っていた料理が、どれもウィーム風だったことに気付きました」
「そうなのかい?」
「ええ。アルテアさんも色々なお料理を作ってくれますが、ウィーム風の味付けや調理法に近いような部分があるのです。こちらに本宅があると聞き、成る程と思っていたのですよ。ウィリアムさんのお料理もとても美味しいですが、ウィーム風ではありません………」
ふと気付いた疑問だったのだが、なぜかディノとアルテアが顔を見合わせている。
そしてここでも、その答えを持っていたのはゼノーシュだった。
「あの精霊は、少し前にウィームに住んでいたんだよ。五年くらいかな。僕、何度か会ったことがあるもん。多分、大聖堂か、王都の中にある教会にいたんじゃないかな」
驚くべき真実を明らかにした見聞の魔物は、アンセルムについての説明をグラストにしている。
だから、ウィームへの訪問でこちらに来たりするのだろうと付け加えているゼノーシュに、ネアはむぐぐと眉を寄せた。
「アルテアさんも、ご存知なかったのですか?」
「……………もっと古い時代であれば知っていたが、最近の居住については、把握していなかった。ウィームを空けていた事もあるからな。………ゼノーシュ、統一戦争後か?」
「うん。僕ね、お気に入りの店がなくならないように、何度もウィームに来ていたから。ほら、僕が来ているお店だと、ヴェルリアも悪い事したり出来ないでしょ?でも、オフェトリウスがいたから大丈夫だったみたい」
「……………そうだったのだな」
それは、エーダリアも初めて聞いたことだったようだ。
思わず鳶色の目を瞠ってしまった領主に、広場に集まった支持者たちが何だ何だという顔をしていたが、目を瞠った後のエーダリアがふわりと微笑んだのでほっとしたらしい。
「ゼノーシュのお陰で、永らえた店もあっただろう」
酷く優しい声で、そう言ったのはグラストだ。
ぱっと笑顔になったゼノーシュに、またどこかできゃあっと声が上がる。
今の歓声はなんだろうと不思議そうにしているエーダリアは、各会の察知能力はあまり高くないようだ。
「……………む。………てい!」
ネアはここで、雷鳥によく似たこわこわタオルのようなものが、ディノの足下にそっと近付いていることに気付き、素早く対処した。
お客の出入りの多い本日は、ある程度の遮蔽結界の緩みが必要になる。
その結果、高位の魔物達の気配を気にしない小さな生き物であれば、こうして入り込んで来てしまうこともあるのだ。
まずは足でがしっと踏みつけておき、くたりとしたものを拾いあげて背後に投げ捨てる。
どこかでわっと声が上がったのは、恐らくエーダリアの支持者達あたりだろう。
ネアは、実際に守ったのは伴侶だが、みんなのウィーム領主のことだって守れる偉大な家族なのだと胸を張っておいた。
「ご主人様………」
「お前は、目を離す度に妙なものを狩るな」
「まぁ。なぞのけばけばが、私の魔物の足下に忍び寄ったので追い払っただけですよ?」
「会の連中に燃料をくべるだけだが、いいんだな?」
「かいなどありません」
そんな話をしていると、影が落ちて目を瞬く。
立っていたのはなぜか困ったように微笑んでいるベージで、ネアは優しい目をした氷竜の騎士団長の姿に目を輝かせた。
「まぁ。ベージさんです!お姿が見えないので、今年はいらっしゃらないのかなと思っていました」
「ご挨拶が遅れました。あちらで、…………少し話し込んでいたものですから」
「……………む。ニエークさんがいたような気がします?」
「少しだけ顔を出すと話していたから、来ているのかもしれないね」
「オルガも同行させているのか?」
「うん。雪を降らせてしまうことのないように、あまり長くは滞在出来ないそうだ」
「雪の魔物さんですものね。……………エーダリア様は、なぜこちらをじっと見るのでしょう?」
「い、いや。何でもない……………」
そんな様子を見て微笑んだベージは、見惚れるような所作で新年のお祝いを言ってくれた。
ネアは、素敵な騎士ぶりになんだかどきどきしてしまい、先程のキッシュなどを勧めておく。
檸檬色の虹彩模様のある水色の瞳を瞠ったベージは、にっこりと微笑み必ず食べますねと言ってくれた。
「ベージなんて…………」
「あらあら。美味しいもの情報でも、荒ぶってしまうのですか?」
ディノは少しだけ荒ぶったが、ベージが困ったように微笑むと、キッシュには雪茎が入っているのだと付け加えていたので、そろそろこちらの氷竜については気にならなくなってきたのだろう。
ベージは、エーダリアと、けばけば尻尾になってしまった銀狐を抱いて戻ってきたヒルドにも挨拶をしており、涙目の銀狐と暫し見つめ合っていた。
恐らくそれが塩の魔物だと知っているに違いないベージは困惑したように視線を彷徨わせた後、銀狐に微笑みかけておくことにしたようだ。
銀狐の尻尾が控えめにふりふりされると、ほっとしように退出してゆく。
「ヒルド。任せきりですまなかった。あの騒ぎは、何か切っ掛けがあったのだろうか?」
「あちらの精霊が、私の羽に向かって前足を伸ばしたのが気に入らなかったようですね。たまたま、光の加減で羽の影が落ちましたので、それが珍しかったのでしょう」
「羽だったので、嫌がったのだな………」
妖精の羽は、断りなく触れていいものではない。
成る程と頷いたエーダリアに、銀狐は狐語でムギャムギャと話しかけている。
うっかりそんなエーダリアの隣になっているアルテアの表情がとても暗いので、ネアは、海老の入っている料理を探し出し、そっと使い魔のお皿の上に届けてみた。
「……………そして、今の状況でたいへん言い出し難いのですが、街に向かう並木道に立っているのは、ボラボラでしょうか?」
「………そのようだ。今年初めての観測になるので、出足が遅れていたものの、今日の賑わいに興味を引かれて姿を見せたのだろう」
「まぁ。今年初めての観測になるのですね。こちらまでは距離があるので来ないとは思いますが…………ほわ。一瞬で、気付いたご婦人達に狩られてしまいました。あの方達は、精霊さんだったのですね…………」
「そうだな。外周には精霊を配置しておけ」
「アルテアさんの系譜の生き物なのでは……………」
王様を慕う毛皮エリンギたちには是非に優しくしてあげて欲しかったが、そう考えたたところで、以前見た巨大ボラボラを思い出しだネアは、ぴっと竦み上がった。
美味しいお菓子のお店がある集落は魅力的だが、あの凱旋パレードのようなものをもう一度やりたいかというと、本年の参加は遠慮させていただきたい。
ネアが、そんな事を考えていた時のことだった。
「あ、あれは!!」
料理を取りに来ている領民の頭の上に、初めてみるもふもふを発見してしまったネアは、かっと目を見開いた。
視線を辿ったエーダリアが、ネアの見つめる壮年の男性の頭の上を見てああと声を上げる。
「職人街にある寝具工房の、綿栗鼠だな。ああ見えて竜種なのだが、工房の外まで同行していられるということは、あの者に余程強い守護を与えているのだろう」
「わたりすさん!………ここからでも、素晴らしいもふふか具合の真ん丸栗鼠ですね。竜感が皆無なのが気になるところですが、まるふわでなんて可愛いのでしょう」
「ネアが竜に浮気しようとする…………」
「むぅ。他の方にべったりな竜さんを、毟り取ったりはしませんよ?」
「……………まさか、綿栗鼠を見るのは初めてか?」
「アルテアさん?………はい!初めて拝見するもふもふです!あんなに素敵な竜さんがウィームにいたなんて、今日まで知りませんでした」
そう答えながら、ネアはアルテア越しに、エーダリアの膝の上の銀狐がぶるぶると震えていることに気付いた。
どうしたのかなと首を傾げると、突然、ムギャワーと鳴き始めるではないか。
「っ、お、落ち着いてくれ。どうしたのだ…………?」
「やれやれ。綿栗鼠の話が出たからでしょう。竜種となりますと、エーダリア様もネア様も好むところだと考えたのでは?」
「まぁ。ウィリアムさんなとろふわ竜はいいのに、綿栗鼠さんはいけないのですか?」
そちらの方面は大丈夫なのかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。
銀狐は一瞬考え込むように虚無の目でぴたりと止まったが、残念ながらやはり不可という決断を下したのか、また鳴き始めてしまった。
「あんなに遠くにいるではないか………。それでも気になってしまうのだろうか」」
「むぅ。さては、子狐さんとの戦争の後なので、まだ敏感な時だったのですね?」
「ノアベルトが…………」
「……………食卓の近くで、尻尾を振り回すな」
おまけに、ここで思わぬ事態が起きた。
目を丸くしてこちらを見ている男性の頭の上で、どうやら自分の存在が銀狐を狂乱させているようだぞと気付いた綿栗鼠が、どこか得意げにふかふか尻尾を振ってみせたのだ。
おまけにその尻尾は、目視では確かにたいそうなもふもふであった。
「……………グラスト。あの竜も飼っちゃだめ」
「ゼノーシュ?」
「む。そちらもそう言えば、竜さんは禁止でしたね……」
「グラストは僕のだから、竜は駄目なの…………」
「ぎゃ!ゼノのお顔が…………!!」
ネアは慌てて個包装で持ち歩いている、クッキーモンスター用のクッキーを取り出そうか、それともこのような場所では失礼に当たるのかを考え一瞬動きを止めてしまった。
すると、困ったように優しく微笑んだグラストが、青年姿の契約の魔物の頭にぽんと片手を置いたではないか。
その途端ゼノーシュは、くしゅんといつもの愛くるしい顔に戻った。
まさに、正しい鎮めの儀式が行われたのだ。
「さて、後は狐さんですね…………」
「ノアベルト。竜は飼わないから、問題ないのではないかい?」
心配になってしまったらしいディノがそう話しかけてやると、銀狐はまたぴたりと動きを止めた。
幸い、銀狐にもふふかをアピールしていた綿栗鼠も、一緒に居た男性が料理を取り終えたので入場区画から離れている。
しかし、涙目でぶるぶる震える銀狐に見つめられるとディノはおろおろしてしまい、ふうっと溜め息を吐いたのは、間に挟まれて食事もままならない選択の魔物であった。
「……………こいつも、エーダリアも、許容量いっぱいだろうが。どこにあの竜を入れる余地があるんだよ」
「まぁ。狐さんの表情が穏やかになりました!」
「…………良かった。……………その、何か食べるか?」
「エーダリア様。その状態で食事をさせると、手がかかるのでは?与えるのなら、ネイが食べやすいものにして下さい」
「ああ。だが、…………家族なので…………っ?!」
今度は喜びのあまり、銀狐はムギャワーと鳴いた。
ぶんぶんと尻尾を振り回し、エーダリアの胸に前足をかけてムギャムギャと狐語で喋っている。
あまりの勢いに、エーダリアの両隣からは、ヒルドとアルテアが手を伸ばして、テーブルの上の料理に銀狐の冬毛が舞い込まないように覆いを作っていた。
「ノアベルトが…………」
「むぅ。このままでは、せっかくのお客様からエーダリア様が見えなくなってしまいますね。みなさん、定められた順番でお料理を取りに来ているので、楽しみにしていたエーダリア様を見られなかった方がお気の毒です………」
「……………おい?!」
なのでネアは、すぐさま行動に出た。
このような場合は、大丈夫だろうかと悩んでいる間に、順番が来た者達が後続に追われて移動せざるを得なくなってしまう。
(このままでは、狐さんの尻尾がエーダリア様を綺麗に隠してしまっているもの…………)
ネアはまず、横向きに座り直して体を前に倒し、隣のアルテアを跨ぐようにエーダリアの方へ手を伸ばした。
エーダリアの膝の上で大はしゃぎの銀狐の後ろ脚を掴み、えいっと引っ張り寄せる。
すてんと転んだ銀狐が目を丸くしている間に、ちょうどいいところにある使い魔の膝の上で仰向けひっくり返してしまい、ふかふかのお腹を撫でて鎮静化を図る。
「撫でてしまうのかい?」
「ええ。まずは落ち着いて話が出来るよう、屈服させるのですよ」
「屈服させてしまうのだね…………」
うっとりふにゃふにゃになった銀狐が大人しくなったので、ネアはにっこり微笑んでから、ご挨拶の視界を遮ってはならないと静かな声で言い含めた。
すると、はっとしたように青紫色の瞳を真ん丸にした銀狐が、尻尾をけばけばにして頷いてくれる。
「リーエンベルクの自慢の狐さんなので、きりりとしていると素敵ですよ?」
「……………お前は、そうやって大人しくさせてしまうのだな」
「エーダリア様だと、狐さんも甘えてしまいますものね。はい。お利巧狐さんになったので、そちらにお戻ししますね」
「あ、ああ……………」
ぴしりと尻尾を伸ばし、胸を張った銀狐は衛兵の行進のような歩みで、エーダリアの膝に戻ってゆく。
膝の上を歩かれてしまったアルテアが遠い目をしているが、怒りはしないあたりがお気に入りの証なのだろう。
またしても事件を解決してしまったとネアが満足気に頷いていると、なぜか、銀狐置き場になっていたアルテアが暗い目でこちらを見るではないか。
「……………おい」
「む?…………ちょうどいいところにあったので、お膝をお借りしました?」
「お前には情緒がないのか!姿勢を考えろ!」
「まぁ。狐さんとのお話は、テーブルが死角になっているのではしたなくはないかと………。身内のやり取りですので、あまり表に出すのは好ましくありませんものね」
「ほお?それだけで済むと思っているのか?」
「お膝の借用代として、ちびふわのお腹も撫でておきます?」
「やめろ………」
とは言えネアも、使い魔のお膝を跨いでのことだったので、少しお行儀が悪かったかなと反省する。
だがこんな時は、何一つ非はありませんという感じに澄ましているのが、淑女の作法であった。
「さて。続きのお料理に戻ろうかと思います!」
「あのね、このシュニッツェルは新しいお店のなんだって」
「こちらにソースがありますので、お取りしましょうか?」
「はい!ディノの分もいただきます?」
「うん」
食事に戻ったネアは、いつの間にかテーブルに並んでいた初めましてのシュプリをグラスに注いで貰い、デザート類なども抜け目なく確認しておく。
だが、これでみんなも落ち着いたかなと周囲の様子をそろりと窺うと、なぜか一部の領民が泣いているではないか。
「……………まさか、私が狐さんを虐めたように見えたのでしょうか?」
「……………お前の会の連中だろ」
「ご主人様………」
「かいなどないのですよ…………?」
お澄まし狐になるべくエーダリアの膝の上に戻っていった銀狐は、料理を取りに来た領民がウィーム領主の方を見ると尻尾の先だけを振ってみせるという上品技を編み出し、なんてお利口なのだろうと領外からのお客達までをも魅了していた。
時折、もふもふな連れのいる領民が近付くと涙目でさっとエーダリアを振り仰ぎ、その度にエーダリアが微笑んで頷くので、ウィーム領主の微笑みを引き出す幸運の狐として喜ばれたのだとか。
なお、リーエンベルクの歌乞いは容赦のない魔物遣いと調教が素晴らしいというおかしな噂を立てられたので、か弱い乙女は断固として抗議してゆく所存である。
雪の魔物は、途中で様子がおかしくなったので、オルガに急ぎ連れ帰られたらしい。
新年の振る舞いが終わるまでは雪雲がウィーム中央を避けてくれていたので、どこかで雲の魔物が頑張っていたのかもしれない。
書籍作業の為、明日1/20、明後日1/21の更新はお休みとなります。TwitterにてSSを上げさせていただくので、宜しければご覧下さい!




