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星型フェーブと繰り返しの箱



「……………む」


その日のネアは、思いがけない落とし物を見付け、途方に暮れていた。



新年早々にひやりとさせられた庭園水晶の事件も漸く落ち着きを見せ、か弱い乙女は、使い魔の手で恐ろしい薬湯を飲まされて今日に至る。


温かい沼味など断固許されないと思うのだが、僅かな悔恨も込めて差し出されると優秀なご主人様は屈せずにいられないのだ。

よって、今日はそんなアルテアが置いていった、今年二個目の王様ガレットを食べるのも吝かではない気持ちだった。



(だから勿論、きちんと運動もしてみせるのが賢い淑女なのだ!)



使い魔が腰問題に煩いので、ここでもまた、快気祝いをしたばかりの魔物が心配しないよう、運動なども嗜むのが素晴らしいご主人様である。

そんな経緯があって、今朝のネアは、禁足地の森の側

の見回りを引き受け、ディノと一緒に歩いていた。



今日は雪は降り止んでおり、灰色の雲間には明るい部分も見える。


さくさくと雪を踏む感触を楽しみつつ、雪化粧の森の美しさに目を細めていた時だ。

ふと、少し先に何かが落ちている事に気付き、目を瞬く。



そして、奇妙な陶器の人形を見付けた。



「……………ディノ。これは、昨日みんなで食べた王様ガレットの中に入っていた、星型の陶器でしょうか」

「同じような形に見えるね。……大きくなってしまったのかな」

「使い魔さんがお仕事に出てしまったので、当たったフェーブが巨大化して森に落ちているのかどうかは悩ましいところですが、何となく、別のものだという気がします」



雪の上に落ちていたのは、星の形をした陶器人形だ。

そもそも、今年のフェーブは生物形態ではないので陶器人形と表現するのもおかしい。

となるとこれは、星型フェーブでいいだろうか。



(少しふっくらした可愛い星型に、手描きの優しい風合いの模様。色合いや筆遣いまで、全部が同じように見える)


それでもなぜか、別のものだと感じるのだが、別案件かというとそうも思えない。

あのガレットあってこその、この遭遇という気がしたネアは、首を傾げた。



「ディノ。何か良くないものなのでしょうか?」

「………いや。寧ろ、祝福の気配が随分と強いものだ。どちらかと言えば、助けや収穫になるものだろう」

「という事は、拾っておきます?」

「…………私が拾ってみよう。ネア、これを持っておいで」

「みつあみ………」



伴侶の魔物に持たされた三つ編みを手に、ネアは、ディノがその星型フェーブを拾い上げるのを怖々と見守った。


悪い物だった場合はすぐさまハンマーで粉々にするとしても、素手で触って大丈夫だろうかと息を詰めていると、ディノは何事もなく陶器の星を拾い上げる。

触れても良かったのだなと、ネアは胸を撫で下ろした。


念の為に排他結界を薄く挟んで拾ったというディノも、あまりにも何の魔術の反応もないと困惑の表情になっているので、ただの落とし物なのだろうか。



(でも、昨日の王様ガレットがあって、今朝、リーエンベルクに…………?)



「普通の陶器かな」

「まぁ。何だか可愛い星型フェーブですが、特別な仕様などはないのですね」

「祝福はとても強いけれど、………それは齎されるものではなくて、この陶器の星に宿っているもののようだね」

「……………そして、気付いてしまったのですが、また少し先にも落ちていませんか?」

「ご主人様………」

「さては、謎感が怖くなってきましたね……?」



二個目の星型フェーブが落ちていたのは、少し離れた木の根元であった。


ぎりぎりリーエンベルクの敷地内の木かなという大きな木の下で、柔らかな卵色とも言える薄黄色の星が転がっているのだが、丁寧に置いたものというよりは、無造作に転がっているように見えた。



「…………やはり、こちらも先程の物と同じようだ」

「ふむ。となると、祝福の宿った星型のフェーブ。………ディノ、例えばこれを持っていると、いいことはあるのでしょうか?」

「祝福がしっかりと宿っているので、護符のような役割は果たすかもしれないね。ただ、何かの作用を備えたものではないから、魔術を大きく動かすような祝福ではないだろう」

「ふむ。お守り的なものにはなっても、明日の星祭りの星屑のように願い事は叶えてくれないのですね」

「うん。これが局地的な出現なのか、他でも起きていることなのか、念の為に確認を取った方がいいかもしれないね」

「はい。エーダリア様にご連絡してしまいますね」



ピンブローチな通信端末からエーダリアに連絡を取ると、すぐにヒルドがザハに確認をしてくれた。


幸い、他の王様ガレットでは起こっていない事態であったが、一件だけ、当たった子供が箱に仕舞っておいた筈の星のフェーブが、なぜか寝台の上に移動していたという報告があったらしい。



「という事はこれも、アルテさんのフェーブが分裂したものの可能性も…………」

「ご主人様………」

「まぁ。ディノは怖くなってしまいました?………震えているので、分裂説はいけないようです」

「こうして手にしても、過分に祝福を宿した陶器のものである以外には、特別なことはないのだな」


ディノの手元を覗き込み、興味津々の目でそう言ったのはエーダリアだ。

慌てたようにヒルドが腕を掴んでいる。


「念の為に、ディノ様より前には出ないようにされて下さい」

「ああ…………」

「では、拾うよ」

「はい。お願いします」



現場確認の為に外に出てくれたエーダリアとヒルドが揃ったところで、ちょっぴり怯え気味な魔物の手による二個目の星型フェーブが拾い上げられた。


ネアは、二個揃うと何だか可愛さが増して見えるぞと呑気なことを考えていたが、重要なお役目を果たしてくれた魔物を撫でて労うことも忘れなかった。



「これで二個目ですが、何も影響は出ていません?」

「……………うん。分裂したのかな」

「もしかして、分裂するようなものは苦手ですか?」



そう問いかけると震えながら頷いたので、ネアは、現状は分裂したという証拠はないとディノを安心させておいた。


脱脂綿妖精などの襲来もあるので、きっと、得体の知れないものが沢山あるのは怖いのだろう。



「…………もしや、あちらに落ちているのも、同じものだろうか」

「おや。……そのようですね」

「まぁ。向こうにもあるのですね」

「ご主人様…………」

「ディノ。私だけでなく、エーダリア様ととヒルドさんもいるので大丈夫ですからね」



そうして、落ちているフェーブを追いかけて行けば、禁足地の森沿いの雪の中に、点々と陶器の星が見付かった。


最終的には、星型フェーブが七個となり、ディノはすっかり分裂を疑う悲し気な目をしている。

こんな時はノアにもいて欲しかったのだが、塩の魔物はただ今デート中なのだ。



(そうなってくると、帰宅時に刺されて帰ってくるかもしれないので、それまでにこの騒ぎをなんとか終えておきたい……!)



「…………グラストから連絡が入りました。他には確認されていないようですね。また、ゼベルによると、侵入者が置いていったというようなことは考え難いようです」

「となると、顕現に近いのかな」

「リーエンベルクの排他結界には触れない範囲のものなのだろうが、なぜ、ガレットのフェーブなのだろう………」



思っていたよりも数が多いのでと、ゼノーシュにも敷地内を探して貰ったのだが、ネア達が見付けた以上のものはなかったようだ。


今年のザハの王様ガレットは全てが同じ形のフェーブを入れていたそうだが、広範囲にばら撒かれたのであればまだしも、ここだけにとなるとやはり何か理由はあるのだろう。


そんな事を考えていると、木の上からこつんと何かが落ちてきた。



「………む?これは……ぎゃ?!」

「ネア?!」


続けて雪の塊も落ちてきたので悲鳴を上げたネアを、すぐにディノが持ち上げてくれる。

ディノは、雪まみれになったご主人様から慌てて雪の塊を払ってくれたのだが、いきなりの仕打ちにネアはわなわなと震えるしかない。


最近は、庭や森に住む生き物達も、この人間を怒らせてはならないと学んできているので、近くの雪枝から飛び立つ時は慎重になっている。

よって、久し振りの雪かぶり事件だった。



「ここにもですか。…………木の上となりますと、全てを見付けるのは難しそうですね」


エーダリアを下がらせたヒルドが屈み込み、雪の中から拾い上げたのはやはりの星型フェーブではないか。


手で払うのは難しいと察したディノが魔術で雪をしゅわんと消してくれたので、安堵の息を吐いたネアもそちらを覗き込む。



「まるで、星祭りのようですね。あちこちに祝福の星が落ちていて、それを探して拾うなんて」

「…………もしや、それを模しているのではないか?その、………アルテアの主人はお前だろう。お前の願いを汲むような形で、フェーブの祝福が星祭りの収穫を再現してくれているということは、ないのだろうか」

「なぬ…………」



言われてみれば確かに、星祭りの後の木々には、拾い損ねた星屑が引っかかっている事がある。

だがネアは、どんなに欲しくてもそのあたりは小さな生き物達の領分なのでと、これまでは手を出さずにいた。


(………そこまでを、再現してくれているのかしら)


フェーブが星祭りの再現をしてくれているのであれば、そんな事もあるのかもしれない。

だが、何のためにそうしているこだろう。

ぎりぎりと眉を寄せて木の枝を見上げた、その時のことだ。



「ネア。ヒルドと一緒にいてくれるかい?」

「………ディノ?」

「木の上に何かあるようだね。下ろしてみよう」

「はい。では、ヒルドさんと、エーダリア様と一緒にいますね」

「うん。少しだけ離れておいで」


何かに気付いたように、ディノが僅かに瞳を瞠った。

すぐに地面に下ろされたネアは、ヒルドに手を繋いで貰い、木の枝の上の何かを下ろしてくれるというディノから離れる。


高さがあるがどうするのだろうと思っていると、ディノは、事も無げに虚空に薄い硝子板のような足場を作り、まるで予め用意されていた階段を登るように枝の近付いている。


冬の日の僅かな風に、長い真珠色の三つ編みがふわりと揺れた。

雪景色の中で、枝に手を伸ばす魔物の姿は、どきりとするくらいに艶麗だ。



「……………ああ。これを見付けさせようとしていたのかな」


ややあって、そんな声が聞こえた。


ネアは大事な魔物に何かがあってはまずいと、ハンマーを手にしていたのだが、振り返ったディノの表情を見て大丈夫そうだと肩の力を抜く。

隣では、エーダリアも安堵の息を吐いていた。



こちらに来たディノが、手のひらくらいの大きさの木製の小箱を見せてくれる。



「まぁ。オルゴールのような箱です」

「………木製の小箱、のようですね」

「まさか、…………繰り返しの箱だろうか」



はっとしたように呟いたエーダリアに、ディノが静かに頷く。


先程まで分裂したかもしれないフェーブをあんなに怖がっていたのに、今は魔物らしい眼差しで、手にした箱を見つめている。


「繰り返しの箱、というものなのですか?」

「ああ。良い物でも悪い物でもないのだが、伝承や人々の思いなどから生まれた魔術現象だと言われている。森や河原で発見されることが多いそうだ」

「むむ。現象、なのですね…………」

「命を持ったものではないからね。育つというよりは、現れるものかな。水辺に氷が張るように」

「漂流物の問題が出ていた際にも話題に上がったと思うが、見知らぬ箱というものは、中に何が入っているのかが分からないものだ。そのようなものを恐れたり、或いは、何か価値のあるものが入っていないかと希望を持ったりするような思いから派生したとされている」



(繰り返しの箱………)



ただ、この繰り返しの箱の厄介なところは、手にした者の記憶を参照してしまう部分にあった。

例えば、小箱の中から忘れていたブローチを見付けた者がこの箱を開くと、また同じブローチを手に入れてしまう事が出来る。


だが、開いた箱の中から災いを引き当ててばかりの者は、もう一度同じ災いに見舞われる羽目になるのだ。




そう聞いたネアは、ぞっとした。

箱関連と言えば、言うまでもない。

アルテアの事件があったばかりではないか。



「……………もしかすると、この箱をアルテアさんが開いてしまうと…」

「うん。そうなるだろうね。だから、この星の形をした陶器が、私達に近くに繰り返しの箱が派生していることを教えてくれたのではないかな」

「フェーブさんが…………!」

「………そうか。アルテア本人に回収させると、万が一があるのだな」

「加えて明日は、星祭りになります。星屑を探す生き物達が、木を揺すってあの箱を落とすようなこともあり得ましたからね」

「成る程。星屑に埋もれていたら、気付かずに開けてしまう可能性もあったのだな………」



エーダリアのその言葉に、ヒルドの手の中のフェーブがちかりと光ったような気がした。

だが、全員がはっとして見つめた先で、陶器の星はただの陶器ですと言わんばかりに沈黙している。



「この素敵な星さんは、ガレットの中から星を引き当てたアルテアさんの幸運を、こうして守ってくれたのかもしれませんね」

「うん。そのようなものなのかもしれないね。私達に星を拾わせたのは、星祭りを想像させたかったのかもしれない」

「まさか、あんな木の上に危険な箱があるのだとは思いませんでした」

「使いようによっては、祝福にも転じるものだよ。……………ヒルド、廃棄してしまう事も出来るけれど、使い道がありそうかい?」

「であれば、万が一にも開かないように蓋を固定した上で、ダリルに任せるのが良いでしょう」

「ああ。それがいいだろう。もう一度回収しておければというようなものも、あるかもしれないな」

「ではこちらは、……………おや」



ここでヒルドは、持っていた星型フェーブをどうしようかとこちらに見せようとしたのだろう。

だが、手を上げようとしたところで、目を丸くした。

いつの間にかその手の中は、空っぽになっている。



「なくなってしまったのか…………」

「まぁ。可愛い星型フェーブでしたのに…………」

「私が持っていたものも、消えてしまったようだね」

「ふむ。という事はやはり、その箱が危ないぞと教えて下さる為の道標だったのですね」

「……………その場合、フェーブが移動していたという子供にも、何か事情があるのかもしれないな」

「急ぎ、騎士棟に連絡をしておきましょう。街の騎士を向かわせ、子供部屋に問題がないかどうか調べた方が良さそうですね」

「ああ。そうしてくれ。私は、ダリルを通して、フェーブを手にした者達に事情を共有して貰うようにする。なぜなのかは分からないが、今年の王様ガレットのフェーブは、効果が目に見えるものらしい」



慌てて各所に連絡を取るべく戻っていくエーダリア達に、ディノが拾った小箱は騎士棟から派遣されたロジと、エドモンが回収してダリルに届けてくれることになった。


この二人の組み合わせは危険物の運搬に最適であるらしく、今は動かしてはならないなどと的確な判断で動けるのだそうだ。



木の上にあった箱を発見したのも見回りの成果の内なので、ネアは、そっと差し出されたディノの爪先を踏んでやりながら、一度も触れないまま消えてしまった、可愛い星型フェーブのことを思った。



(特に問題がない物であれば、可愛いから一つ欲しいなと思っていたから残念だったな………)



「今年は、漂流物関連で色々と開催がずれ込むものが多く、星祭りも明日ですものね。今年のザハの王様ガレットのフェーブが星型になったのは、星祭り前に発売となったからだと箱に入っていた説明書きに記されていました。もしかすると、星祭りとの繋がりはその時からあったのかもしれません」

「うん。願いを叶えるものを模したことで、得られる祝福が強まったのかもしれないね。どのような祝祭も、前日から前夜にかけては魔術の階位を上げる時間となる」

「まぁ。星祭りの前日だったからこそ、繰り返しの箱まで案内してくれるだけの力を持ってくれたのかもしれませんね!」



そう思うと、何だか王様ガレットが愛おしくなるのが人間の単純なところだ。


一通りのフェーブ周りの問題を解決した後、リーエンベルクのお茶の時間に切り出される事になった二個目の王様ガレットを凝視し、ネアは、この美味しいおやつがいつでも買えればいいのにと考えてしまう。


素朴なお菓子なので食べる機会も広いと思うし、焼き立てさくさくの状態の美味しさは素晴らしいとしか言いようがない。

だが、中に入ったフェーブを誰が引き当てるのかという楽しみばかりは、きっとこの時期限定のものなのだろう。


残念ながら、動けなかった間に溜まっていた仕事や用事を片付けに出ているアルテアは不在となる。

ウィリアムも同じように、仕事に出ていた。



だとすれば、今日は家族で過ごす午後でいいのだろう。

なぜか雪まみれで戻ってきたノアを加えてテーブルに付けば、香ばしいガレットと紅茶の豊かな香りに包まれた会食堂で、胸の奥がほこほこになりそうな柔らかな家族の時間が始まる。



「ノアはなぜ、くしゃくしゃになって戻ってきたのですか?」

「薔薇の祝祭にも一緒に居たいっていうから、そこは家族と過ごすよって言ったら、窓から放り出されたんだよね。…………女の子なのに、力強過ぎると思わない?」

「竜だったのかい?」

「うん。今回は珍しく、竜の女の子だったんだ。宝でも契約の子供でもなければ、案外付き合い易いかなって思ったんだけど…」

「どこも、怪我はしていないのだな?」

「……………ありゃ。僕泣きそう………。やっぱり、家族が一番だよね」



素直に心配してしまうエーダリアに対し、ヒルドは呆れ顔だ。

なぜ、王都で暗躍していた際は様々な調整に長けていたのに、このような場面では足を取られるのでしょうねと言われ、ノアは青紫色の瞳を瞬いた。



「…………家族の自慢をし過ぎるからかなぁ。以前はさ、約束のある関係にはなれないよって言っていたんだけど、今は家族が最優先だよって話しちゃうし、家族自慢もしちゃうんだよね」

「なんとなくですが、その伝え方がまずいのだという気がします。……………誰か、女性との浮ついた交際に長けた方がいれば、話し方などを学んでみます?」

「……………わーお。何となくなんだけど、あんまり学びたくないなぁ」

「ご主人様………」



さくさく、ほろり。

ガレットの生地は、バターをたっぷりと含み温かい。

その中に入っているアーモンドクリームは、どこか素朴な甘さなのに濃厚で、幾らでも食べられてしまう恐ろしい一品であった。



「……………むぅ。そろそろフェーブと出会える筈なのですよ……」

「おや……。私のものに入っていたようですね」

「今年はヒルドかぁ。僕も当たるかなって思ったんだけどなぁ」

「アルテアさんは手作りの筈なので、どんなフェーブなのか見たいです!」

「ええ。こちらですね。…………ネア様が手にされてもいいように、繊細な造形にしたのでしょう」

「まぁ。可愛い包み紙の飴……………これはまさか、ちびふわの大好きなフルーツケーキ……」

「アルテアが……」

「ネア。その、………関連性については、あまり指摘しないようにするのだぞ」

「む、………むぐ!気を付けますね。………ですが、包み紙の模様まで絵付けで入っていて、とても可愛いフェーブですね。これをアルテアさんが、丁寧に作ったのですね…………」

「あ。そう言えばさ、…………この前ウィリアムとアルテアの部屋に入った際に、机の上にそのフルーツケーキの箱があったんだよね。もしかして、それでかな」



(そう言えば…………)


言われてみれば、自分用にと買いに行った際に、アルテアの分も買ってきてお裾分けしたのはつい最近だった。


その時のものかなと考え、ネアは、手元にあったからといってフェーブにしてしまう程のフルーツケーキ好きには、今後もお土産にしてあげようと考える。



「っていうかそれ、嬉しかったんだろうなぁ」

「ふふ。ちびふわの大好物なのですよ」

「随分と祝福が重いと感じておりましたが、喜びなどを感じながら作られる品には、良い祝福が込められると言いますからね」

「良いものを手に出来たな」

「ええ。こちらもきっと、あの方の選択なのでしょう」

「……………まぁ。もしかすると」



カードから、今日の星型フェーブな出来事を共有しつつ、アルテアに今年の王様ガレットのフェーブを何にしたか覚えているかを聞いてみると、暫くして、覚えていないという返事が返ってきた。


どうやらそれも、食べられてしまったまま戻らなかった選択の一つのようだ。

少し寂しいが、買ってきたフルーツケーキが、一つの障壁になったのであれば幸運なのだろう。




「テーブルに置かれたフルーツケーキは、自分で買ってきたものだと思っていたそうです。私がお土産にした三十六個セットを食べ尽くしてから自分で買った可能性もあるので、そればかりは、どちらとも言えませんが……」

「…………残っていたものではないかな」




そして、ネアはその日以降、雪の中に落ちていた可愛い星型フェーブがすっかり気に入ってしまい、似たようなオーナメントや置物がないのかあちこちを探し歩くようになる。


素朴な絵付けだったのでなかなか似たようなものがなく、お目当て通りの品物に出会えるのは、随分と経ってから再びダムオンに出掛けた先でのことだった。


あのグラタン皿のお店で出会った星の置物は、もしかしたら、星型フェーブをガレットの中から引き当てた選択の魔物が、もう一度ダムオンに来られるようにと祝福してくれているのかもしれない。



なお、寝台の上にフェーブが移動していた少年は、寝台のその位置が覗き込める窓の外側に、あまり宜しくない植物性の妖精が棲みついている事が判明したそうだ。


建物の僅かな窪みを利用して根を下ろしていたようで、その家の父親が怒り狂って引き抜いて燃やしてしまったのだとか。


そのまま成長すると、子供に悪い夢を見せるようになる要請だったと聞けば、その家のフェーブが、父親の手作りの素敵な水晶の立体額縁に飾られ、大事に保管されているのも、当然なのかもしれない。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 緊張する展開の後の、こういうほっこりする話も好きですね〜。 不思議な世界観を感じると共に、穏やかな日常が戻ってきたんやな〜、と感じます。 アルテアさんがフェーブの記憶を失っている辺りに、彼…
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