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妖精書店と古い栗



ウィームの空を見上げると、早朝に比べて灰色の雲が増えたようだ。

空気は澄んでいて僅かに風があり、灰色の雲の端には少しだけ虹がかかっていた。


この季節のウィームらしい天候で、尚且つ、万象の魔物のお誕生日二日目感もある素敵なお天気であった。



「ディノ、これから向かう妖精書店では、注文していた本を受け取りますからね」

「……………本なんて」

「ふふ。そんな風に荒ぶると思いましたが、今回のものはディノの本なのですよ」

「私の、………本なのかい?」



案の定、困惑したような目でこちらを見た魔物に、ネアは微笑んで頷く。

これから向かう川沿いにある妖精書店は、写本や製本を引き受けてくれる工房の一つだ。


魔術師や研究者が多く、魔術関連の自主出版なども珍しくないウィームでは、このような妖精書店が三店舗あるらしい。

今回は、その中でも評価の高い川沿いの工房を、ヒルドに教えて貰ったのだ。



「昨年の贈り物だったキルトを、ディノがとても大事にしてくれているので、そのように育ててゆける贈り物もしておきたかったのです」

「……………贈り物、なのだね」

「ええ。リボンは皆さんの力も借りていますから、私だけで用意する贈り物も準備していたのですよ」

「ずるい…………」



もう一つ贈り物があると知った魔物は傾いてしまい、空の虹はくっきりとアーチを描いていた。


虹の変化に気付いた往来の人々が、はっとしたように持ち歩きの魔術書などを広げ始めるのも、ウィームのこの季節の風物詩なのかもしれない。

とても素敵な祝福具合なのでと、街路樹の木のうろに入っていた毛皮妖精達も、わらわらと出てきて枝の上で日光浴ならぬ虹浴をしている。



大事な伴侶のお誕生日なのだから、ネアが、幸せな一日だと感じるのは当然だろう。

だが、二人で手を繋いで歩くウィーム中央の街並みは、何でもないようなところまでがいつもより美しく思えた。


街路樹の枝葉に混ざり始めた紅葉の気配や、老舗の陶器工房のショウウィンドウに飾られている、花籠の置物。

美しい街並みを彩る歩道の花壇には、満開の花々を育む妖精達がいる。

街角には歌劇場の次の講演のポスターが貼られ、青色に塗られた扉が目印のペン軸専門店の隠れ家のような佇まいは、見ているだけでもわくわくしてしまいそうだ。



「まだまだ、行った事のないお店が沢山あるのですねぇ。何度か出掛けたカフェやリストランテのメニューも新しくなってゆきますし、お店に並ぶ商品にも新しいものが出てきます。あちらにある公園でも、今年の秋は一緒に焼き栗を食べたいですし、またイブメリアの季節にはお気に入りの屋台に行きましょうね」

「……………うん。君と一緒なら、どこにでも行くよ」



ご機嫌で魔物を見上げたネアに、ディノは目元を染めてこくりと頷く。


通りかかった花壇の花がぴきぴきと音を立てて結晶化してしまい、その花枝に住んでいた猫耳毛玉妖精のような生き物が、歓喜のあまりにばいんと宙返りしていた。



「ディノが一緒にいてくれて、ディノに出会えて、毎日がとても幸せなのです。こんな風に二人でお出掛けするのは勿論ですが、私にはこんなにも大事な魔物がいて、その魔物の為に贈り物の準備を出来るのだと思うととても素敵な気持ちになるのですよ」

「虐待する…………」

「今日は、素敵な伴侶がいることを誇らしく思う日でもあるので、私もディノの誕生日を一緒にはしゃいでしまいますね!」

「…………ネアが可愛い。……虐待」



今日は何でもない日ではないけれど、それでも、これからも続いてゆくお祝いの日だ。

誰もが持っていてネアが羨ましくてならなかったものの輝かしさで、こうして今、大事な伴侶の手を握って一緒にウィームの街を歩いている。


(ああ、幸せだな………)


わくわくしながら準備していた贈り物を取りに行き、その後は、宝石のバイオリンの演奏のある果実のタルトのお店でお茶をしてからまた街歩きをし、リーエンベルクに戻って遅い昼食を終えた後には、ディノのお城に向かうのが今日の予定であった。


朝の段階で思わぬ大事件が起きてしまったが、幸いにも今日は、ウィリアムの仕事がなくリーエンベルクに残ってノアやアルテアの様子を見ていてくれる。

いざという時は、グレアムもリーエンベルクに戻れるそうだから言われ、予定通りに過ごすようにと送り出されたのだった。



「…………今、定時確認をしてみたのですが、ウィリアムさん曰く、アルテアさんは狐さんの背中の毛が抜けてしまった部分に、薬草軟膏を塗ってくれているそうです」

「……………アルテアは、………落ち着いたのかな」

「狐さんも頑張って甘えているようなので、このまま諦めて元の関係に戻るのではないだろうかというのが、ウィリアムさんの予想みたいですね。私も、真実を知ってしまった直後は失踪するものだとばかり思っていましたが、思っていたよりも落ち着いている印象です」


ネアがそう言えば、ディノは小さく微笑んで頷いた。


「恐らく、アルテアの中で既に幾つかの分岐と選択を重ねているのだろう。彼は選択だから、そうして自分で選び取ったものを簡単には投げ出さないだろう」

「むむ。よく、手をかけておられた方を、ぽいっとしてしまっているような気もするのですが…………」

「それは、観察と思案の段階なのではないかな。結論を出すという段階になると、手放してしまうものが多いような気がするからね」

「つまり、…………狐さんは、その全ての試練を乗り越えて愛でるという結論に至ったもふもふなのです……?」

「うん…………。自分の屋敷の中でも受け入れていただろう?…………あれは、とても珍しい事だと思ったから、その時に何かを選択したのではないかな」

「ほわ。……………ノアは愛されていますねぇ」

「ノアベルトが……………」



選択の魔物と銀狐の関係は滑らかに説明出来たディノだったが、その銀狐がノアだと考えると、途端に心が不安定になってしまうらしい。

怯えたようにぎゅっと羽織りものになってきた魔物をよしよしと宥めてやっていると、通りの反対側にある銀狐専門店の支店で、何やら号外が配られているのが見えた。


「……………あれはまさか、…………狐さん号外」

「何か、報せの印刷物が配られているようだね………」

「アルテアさんが真実を知ってしまったというような内容ではないことを、祈るばかりですね」

「ご主人様………」



ネアは、高位の魔物達にはあんまりな内容の号外ではないことを祈っていたが、その号外だと思われる紙を手に正面から歩いてきた紳士達が、あの愛くるしさであれば受け入れざるを得ないので大事には至らないだろうと話しているのを聞いてしまい、ウィームの人々の情報伝達の早さに慄いた。


間違いなく、今朝の事件の話ではないか。



(でも、……………リーエンベルクの内側でのことが、どうして、こんなに早く知れ渡っているのかしら…………)


情報の漏洩という意味では不安にも思ったので、ネアは、念の為にエーダリアに連絡を入れておく。

そうすると、家事妖精やリーエンベルクの騎士達の中にもいる銀狐会が、ヒルドに事実確認をしに来ていたことが判明した。


というのも、いざという時は、銀狐の大事な予防接種担当の魔物を捕縛する為、銀狐会でウィーム全土に広域の捕獲網を敷く予定だったからだと聞くと、ネアは、心に傷を負ったばかりの使い魔が見知らぬ人達に駆られずに済んだことに胸を撫で下ろすしかない。



「ふぁ。…………アルテアさんは、脱走せずにいてくれて良かったです」

「逃げたら、…………追われてしまうところだったのだね」

「狐さんの会には、エーダリア様の会との重複登録の会員さんも多いそうです。何となくの印象ですが、そちらの会の方は、…………容赦なくアルテアさんを狩りに行きそうですものね………」

「うん………」


もしそんな展開になっていた場合、どんな恐ろしい狩りになったのだろうと思えば震えるばかりだが、それは同時に、リーエンベルクに来るまでは大切なものを見付けられずにいた塩の魔物が、今やこんなにも領民達に愛されているという事でもある。


こんな風にみんなが心配してくれていると知れば、きっとノアは嬉しいだろう。

そんなことを考えディノとお喋りをしながら歩いていると、お目当ての書店が見えてきた。



「さて、ここが妖精書店です!」

「この建物が、そうだったのだね」

「ええ。スフレのお店の近くなので、何度か前を通った事がありましたよね。私は、てっきり古書の修繕などをしてくれるお店だとばかり思っていました」



妖精書店は、川沿いの賑やかな通りの中に店を構えている。


大きな硝子張りの出窓があり、夜鉱石や雪結晶の小さなイーゼルに飾られた本は、美しい魔術書のような凝った装丁のものが多いようだ。


水色がかったくすんだ灰色の壁に、艶々とした真っ赤なドアベルが何とも可愛らしい。

その隣にかかっている入り口の横の明かりが、夜になるとぼうっと丸く光るのが絵のようで、ネアは、ひそかにお気に入りの建物の一つに数えていた。



からんころん。


扉のベルを鳴らして店内に入ると、書架の奥にある木製のカウンターに座っていた老婦人が顔を上げる。

目元の皴がなんとも趣き深く美しい、くるりとした巻き毛のご婦人は、記録の系譜の妖精であるらしい。

琥珀色の髪に深い緑の瞳、そして羽はウィームの冬空のような綺麗な灰色だ。



「いらっしゃい、お嬢さん。お待ちしておりましたよ」

「はい。今日はお願いしていた本を引き取りにきました。お誕生日の魔物も一緒なのです」

「…………ああ、そのリボンをしているのね。なんて素敵なんでしょう」

「ふふ。本のお願いをした際にはまだ制作途中でしたが、この通り、大事な伴侶への贈り物になりました」



ディノの三つ編みには、今日も贈り物のリボンが結ばれている。


それを見た主人は嬉しそうに微笑み、とてもよく似合っているわと褒めてくれた。

初対面の人に褒められた魔物は驚いてしまい、ぴっとなると慌ててネアの背中の後ろに隠れている。

そんな様子を見て、店主はネアと顔を見合わせ、くすりと微笑んだ。



「優しそうな目の、素敵な魔物さんね。お嬢さんが、あんな一生懸命贈り物の手配をしていた理由が、こうして見ているだけで分かってしまうわ。素敵な贈り物に携われた事を、誇りに思います」

「そう言っていただけると、ますますこちらにお願いして良かったと嬉しくなってしまいます。……………まぁ。これが出来上がった本なのですね!」



布手袋をはめた主人が奥から持って来てくれたのは、一冊の鳩羽色がかった装丁の本であった。

細やかな星屑のような光の入る紺色のインクで記された題字を見て、ディノが水紺色の瞳をきらきらさせる。



「リボンの、………図鑑なのだね」

「ええ。ディノは元々、手放すリボンも含めリボンのスクラップをしているでしょう?でも、そこにはリボンに纏わる情報などの記録は少しだけなので、読み物のようにこれから先もずっと、色々なリボンの歴史を書き重ねてゆける図鑑があれば楽しいなと思ったのです」

「……うん」

「現段階で持っているリボンは、このお誕生日のリボンまで全て収録済ですからね。今後、年に一回ぐらいの頻度で図鑑を更新してゆき、二人の思い出の記録にも出来ればと思ったのです」

「……………有難う、ネア」



微笑んだ店主から渡された図鑑は、特別な箱も包装紙もない贈り物だ。


万象の魔物の持ち物の図鑑なので、見合った包装を探すのが難しいと、事前に相談が来ていた。

しかし、そのまま渡してくれたことですぐに中を開いて見れてしまい、最初のリボンの頁を見ただけで、ディノは涙目になってしまった。


「このリボンも、……書いてあるのだね」

「挿絵も引き受けてくれるのですが、天鵞絨の質感も素晴らしくて、素敵だと思いません?」

「……………うん。これは、君が買ってくれたリボンだね」

「少し複雑な履歴ですが、ディノが略奪してきた紺色のリボンも記載しています。そこから始めて、今のお誕生日のリボン迄の間は、もうずっとディノの為に買ったものしかないのだと比較も出来るかなと思いました」

「うん。………君とお揃いのリボンもあるね」

「ええ!……………こうして、髪に結ぶ用ではないものの、ディノが捨てられずにいたシュタルトの美味しい塩の袋にかかっていたリボンもありますよ」



説明しながら隣の魔物を見上げると、涙できらきら光る水紺の瞳は、嬉しそうに図鑑を見ている。

そんな魔物を見ている店主もにっこりしてしまい、その直後、あら、肩凝りがなくなったわと笑顔で目を丸くした。



ネアは、思っていたよりも贈り物を喜んでくれたディのを見て、すっかりご機嫌であった。

支払いと引き取りを終えると、ディノは贈り物の図鑑にすぐに守護をかけてしまい、店を出る前には、大事そうにどこかにしまっている。


もしここで、贈り物を店内での引き渡しにせずに、ネアが手にしていたら、より大きな悲劇は免れられなかっただろう。




「危ない!!暴れ栗だ!!」



そんな叫び声が聞こえてきたのは、ネア達が果実のタルトのお店に向かっている時であった。


暴れ馬のように言うが、それは何だろうと眉を寄せたネアは、どこで騒ぎが起きているのかなと振り返る。

まさか、問題の暴れ栗が、こちらに向かって走ってくるものだとは思いもしなかったのだ。



「ぎゃ!!」


直後、何かがすぐ近くで爆発した。


戦争でも始まったのではあるまいかという破裂音に、ネアは慌ててディノを守ろうと立ち塞がる。

もうもうと立ち上がる粉塵の中、何か小さな茶色いものが、歩道を集団で走ってくるのが見えた。



どおん!


その直後、また何かが爆発した。

ネアは、素早くディノに持ち上げられ、体ががくんと落ちてゆく感覚に息を呑む。

わぁぁぁと誰かの叫び声が聞こえ、今度は少し離れた位置から爆発音が聞こえる。



「大丈夫か?!」

「ネア、無事か?!」


何が起こったのか分からずにぎゅっとディノに掴まっていると、頭上からそんな声が降ってくる。

ネアは、そろりと目を開けて上を見ようとしたが、まだ粉塵が舞っていてよく見えなかった。



「……………ディノ、怪我はしていませんか?」

「うん。………ネア、大丈夫かい?」

「……………ふぁい。……………ざらざらと歩道を駆けてきた栗的ななにやつかが、続々と自爆しました」

「……………祟りものだったようだね。栗も、………爆発してしまうのだね」

「ぐぬぅ!よりにもよって、大事な魔物のお誕生日にこんなことをするなんて!!」

「どうして爆発してしまうのかな……………」

「自爆などするせいで、私の大事な魔物がしょんぼりではないですか!!」



幸い、ディノがすぐに排他結界を立ち上げてくれたので、ネア達は無傷であった。


川沿いのこの区画は硬くて水はけの良い石材を道造りに使っていたので、それが爆散された結果、粉塵が酷かったそうだ。

しかしそれも、ディノの結界のお陰で粉塵まみれになる事もなく済んでいる。


ネア達が落ちたのは、あまりにも凄まじい爆発に陥没した歩道の下で、他にも何人もの歩行者が巻き込まれる事となった。


たまたま近くを歩いていたらしく、駆けつけて救出してくれたのは、ジッタとアレクシスだ。

騒ぎを聞きつけてどこからか走ってきたグレアムも、すぐに手を貸してくれる。



「……………ほわ。グレアムさんにまた会えました」

「どこも怪我はしていないな?……………シルハーン、ご無事で良かったです」

「うん。……………栗の祟りものが爆発したようだよ」

「ええ。近くにある食品倉庫で、保存したまま忘れられていた大粒の栗の廃棄が行われていたそうです。焼き栗用として販売される予定だった箱が、他の商品に紛れて忘れられていたようですね」

「……………植物の系譜だからかな」

「……………ええ。そちらは、悪変すると惨事になりますからね」



美味しい焼き栗になれないまま箱詰めにされていた栗たちは、今年の初物の栗が倉庫に届いた事で、怒り狂ったのだそうだ。


その結果、祟りものの古栗となり、脱走して歩道の人々を襲っていたらしい。


まさかの遭遇で爆発に巻き込まれたネア達を含め、近隣の住民たちや街の騎士団が全ての栗を捕縛や討伐するまでに、四十人もの領民がその騒ぎに巻き込まれる事となった。



「ちょうど道幅が狭くなっているところでしたので、私達のいた場所での爆発が、一番酷かったそうです。でも、ディノが私を守るついでに歩道の崩落現場を整えてくれたので、巻き込まれた方々は皆さん軽症で済んだそうですよ」

「怨嗟で階位を上げていたのかもしれないけれど、思っていた以上に大きな魔術反応だったからね。君が楽しみにしていた店も近くにあったから、色々と壊れない方がいいのだろうと思ったんだ」

「ふふ。私の魔物は、何て頼もしいのでしょう!お陰で栗事件も大事にならず、グレアムさんも一緒にタルトを食べられるようになりましたね」

「……………可愛い」



その後、街の騎士達や駆け付けたリーエンベルクの騎士達からの聞き取りを済ませたネア達は、無事にお目当ての果物のタルトのお店に入れていた。


店内で演奏される宝石のバイオリンの旋律にうっとりと頬を緩め、季節の果物いっぱいのタルトを頬張り、メランジェを飲んでいる。



たまたま近くにアレクシスやジッタのような実力者がいたお陰で、あの場ですぐに十六体の栗の祟りものが討伐されたらしい。


残念ながらその場から逃げてしまったものは、同じようにたまたま近くにいたミカやイーザ達が追跡してくれ、そちらからの情報を得たグラスト達とゼベルが対処したのだそうだ。



駆け付けて無事を喜んでくれたグレアムには、声をかけて一緒にお茶をする事になった。

ノアとアルテアの騒動の続報を伝えると、ほっとしたように息を吐いている。


今日は何かと心労の多いグレアムが安心してくれたようで、ネアは、思いがけない再会を喜んでいた。

先程まで一緒にいたらしいギードは、アルテアが落ち着いたと聞き、買ったばかりのお詫びの品を再びリーエンベルクに届けてくれているらしい。



「この後は、リーエンベルクに戻るのか?」

「ええ。遅めの昼食を頂いた後は、ディノのお城で二人で過ごす予定なのです。ギードさんもいらっしゃるようですし、リーエンベルクまでご一緒します?」

「いや、俺はもう失礼しよう。ギードも謝罪の品を届けたらすぐに帰ると話していたから、午後は、家族や二人でゆっくりと過ごしてくれ」

「では、そうさせていただきますね。賑やかな事が沢山あったお誕生日二日目でしたが、まだまだ私の手作り晩餐など、盛り沢山の予定なのです」

「ご主人様!」



楽しみにしている晩餐の話が出たので、ディノが嬉しそうにもじもじする。


それを見たグレアムは、ハンカチでそっと涙を拭い、ネア達がメランジェを飲んでいる間にお会計を済ませてくれるという贈り物を残して先に帰っていった。



店を出ると、今も事件のあった歩道の周りには街の騎士達が残っているようだ。



「………まぁ。今は規制線が張られていますが、あのあたりが先程の爆発現場なのですね。今度から、暴れ栗が出たという声が聞こえたら、気を付けましょうね」

「また、爆発してしまうのかな………」



なお、暴れ栗はふくふくとした栗に、栗鼠耳と尻尾がついている生き物なのだそうだ。

祟り栗や、栗の障りとも言われており、なぜ栗鼠形状に進化するのかは解明されていない。


じっとしていると本物の栗鼠との見分けがつかない事もあると聞き、ネアは、焼き栗を食べに行くときにも周囲には注意を払おうと頷いたのだった。




勿論、その後の誕生日の夜は、素晴らしい時間だったと付け加えておこう。

ネアの大切な魔物はたくさんの虹をかけたし、その日の夜もウィームでは、オーロラが観測されたらしい。


アルテアとウィリアムは、ノアを含むリーエンベルクの家族と一緒に晩餐をいただいたそうだ。

銀狐事件も、ひとまずは穏便な解決となったようである。















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