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水の入ったグラスと手の中のもの




真夜中に目を覚まし、馴染んだ気配に指先が震えた。

夜は静かで密やかで、けれどもこの屋根の下には幾つもの人の気配がある。

眠っていても起きていても感じられるその温もりは、夜空にまたたく星のようであった。



瞬きをし、その視界に曇りがない事を確認しようと思ったが、疲労感にずぶずぶと沈み込みそうになる。

だが、どうしても目を覚まし、起き上がらねばならなかった。

折角用意された食事を無駄にはしたくなかったし、喉に張り付くような乾きがある。


深い熱傷は癒えても、そこで磨耗されたものの影響が出ているのだろう。



「…………っ、」


思わずいつもの癖で手の甲で目を擦りそうになり、ここ数日の癖でぎくりとする。


だが、手を持ち上げ慎重に指先で触れてみても、どこにも問題はなさそうだ。

先程は寝起きで少し朦朧としていたが、視力にも、瞼の動きなどにも問題はないだろう。


このまま眠っていたいと訴える体を無理矢理起こし、深い息を吐く。

相変わらず喉には微かな痛みがあり、意識が端から崩れてゆくような疲労感は抜けないまま。



(それでも、…………これは、手に入れておかないとな)


そう思いよろよろと立ち上がり向かった先には、テーブルの上に魔術の覆いをかけて用意されている、簡単な晩餐があった。


コンビーフとマスタードのサンドイッチに、新鮮なチーズとハムのサンドイッチ。

そして、澄んだ琥珀色の牛コンソメのスープに、良く冷えたままの果物の入った陶器の鉢。

丁度これくらいがいいのだという絶妙なところのものばかりで、何も食べる気がしなかったのにテーブルに着くと急に空腹だと感じた。


リーエンベルクに来てすぐに眠ってしまったウィリアムだが、意識を失う前に、ネアがここに軽食を用意しておくと話していたのだ。



(そうして用意されたものを、無駄にはしたくないな)



小さく微笑み、そう考える。

これ迄の自分が得ることのなかったものが、まるで当たり前のようにテーブルの上にあるのだ。


水差しには冷たい水が用意されていて、以前に酷い障りを得て体が不自由だった時に、飲み物の準備も出来ずに床に落としたグラスの事を思い出す。

水差しの横には水が注がれたグラスが置かれ、しっかりと冷えているのを示すようにグラスの縁が曇っていた。


恐らくそれは、水差しを持つ力もなかったらと、すぐに飲めるような工夫がなされたのだろう。

振り返ってみれば、寝台の横のテーブルにもそのようなグラスがあった。


たったそれだけの事なのに、何かが胸の奥に込み上げてくるような苦しさと安堵が押し寄せ、ただ、そのグラスを見つめていた。



『一人にはしておけません。傷が治って眠るだけであるのならいっそうに、絶対にリーエンベルクに連れて帰りますからね。なおこれは、様子を見れないと落ち着かないという私の我が儘によるものなので、諦めて連行されて下さいね』



離宮でそう言ったネアの眼差しを思い出そうとしたが、あの時は既に疲労感に体が重たくなっており、記憶の中の映像はぼんやりとしていた。

あのとんでもない傷薬を飲み、その後味を何と消したまでは良かったのだが、そこから暫くするとシュプリまで飲んでしまったせいか、突然、足元が沈み込むように体が重くなったのだ。



『君が、そこまで消耗するのは珍しい。あの経典に描かれていたのは、かなり高位の女神であったらしいから、今迄にない程のものだったのだろう』


立ち上がろうとしてふらついたところを、腕を取って支えてくれたシルハーンが、そんな事を話していた。


確かに、女神本人の訪れよりも、かくあるべきという万能の姿を記した経典が流れ着く方が遥かに面倒だ。

よりにもよってそんなものに出会い、それを知らずに備えなくあの領域に踏み込んでしまった。


(あのような場面では、気体化出来る精霊達の方が動けるな…………)


酷い失態であったが、そのような知見を得たので、同じような事が起こった場合にはナインやアンセルムを使うのがいいだろう。

一つは収穫があったかと微笑み、まずはグラスの水を飲み干すと水差しから水を注ぎ足し、サンドイッチに手を伸ばした。



一口齧り、咀嚼し、二口目で口に押し込む。


塩気と、旨味と香りに、独特なマスタードの味わい。

たったそれだけのサンドイッチなのだが、これが疲れ切った体のせいか、妙に美味い。

リーエンベルクで用意されたものなので、恐らくは、パンそのものも美味しいのだろう。


そう考えてまたグラスを取って水を飲むと、二つ目に手を伸ばした。


二個目のサンドイッチを食べ終えると、今度はスープにも目が向くようになる。

こんな時はまずスープからというのが一般的なのだろうが、ウィリアムの場合は、食事を摂るだけの余力が危うい場合は、可能な限り固形物から口に入れるようにしているので、どうしても順番が逆になってしまう。


だが、スプーンを使う手間を省き、そのまま口を付けたカップからスープを飲むと、染み入るような美味しさにこちらも絶対に必要だなと得心した。

具材は、しっかりスープの味が染みた玉葱が入っているばかりだが、それがまた丁度いい。


食事を始めたからか、ここで少しの余裕が出来、前髪を片手で掻き上げる。

首筋に手を当てて体温を確認したが、まだ少し高いようだ。



(ある程度の期間であれば、食べなければならないということもないんだが………)



それでもと思って食事をすると落ち着くのは、実際には何かが消費されているのか、或いは、生き物らしくありたいと願う心の働きか。


長引く戦がひと月以上だったりすると、数日間飲まず食わずで眠りもしないという事も珍しくはない。

相手が高位の人外者である場合は、そこに体の損傷や障りなどの磨耗も加わる。

望んで訪れる場所より、望まずとも行かねばならない場所が圧倒的に多いが、そのどこであっても終わらせる為の手を休める事は許されないので、今回は遥かに恵まれている方だ。



だが、穏やかさに身を寄せると、我が儘になるらしい。



(避暑地で休んだばかりだったが、…………明日いっぱいくらいまでは、戦場に戻らずにいられるだろうか)



今迄は、思考しないようにして立ち上がれるのであればすぐに戦場に戻っていたが、準備された食事や安心して過ごせる部屋のせいか、そんな事を考えた。


また、現実的な問題として、あの漂流物の殲滅に参加した者達は、今暫くは動けないだろう。

ウィリアム程の負傷の者はいなかったにせよ、簡単に治せない傷を負った者達は体を休めさせた方がいい。

流石に今回は、相手が悪かった。



(となると………)


「……………うんざりだが、やるしかないか」



小さく呟き、耳を澄ましてみる。



それは、望んで聞こうとしなければ聞けない声や音楽で、こちらが扉を開けば世界中のあちこちから押し寄せて来るものだ。


悲鳴や慟哭に、誰かがどさりと倒れる音。

喘鳴に絶叫に、戦場で響く様々な戦いと死の音。

低く轟くような災いや障りに、音ばかりは清廉なベルのような、疫病の足音。


だが、そのどれもまだ、鳥籠が必要な程ではない。

ほっとして扉を閉じようとしたその時に、誰かの怨嗟の声が聞こえた。



化け物め、怪物め、呪われてしまえと誰かが呟く。

悍ましい、恐ろしい、いなくなってくれと誰かが叫ぶ。


こうして届く声の先に居るのは、きっとウィリアムが少なからず関わった者達だ。

そのような声しか拾わない筈なのに、聞こえなかった事は一度もない。


身勝手で、醜悪で、どこまでも拒絶に満ちている。

とは言えその殆どがやがては死者の国に落ちてくるのだから、何とも不思議な事であった。



どれだけ憎んでも、呪っても、結局この手の中に落ちてくる。

魂を磨きやり直して、何度でも、何度でも。

目眩がする程に、吐き気がする程に、何度でも。




「……………ウィリアム」


不意に、その声が聞こえ目を開いた。

慌てて、体を起こして座り直す。


「シルハーン……………」


いつの間にか、近くにあった椅子に、シルハーンが座っていた。

明かりの一つも点けていない夜の部屋の中で、ぼうっと白く浮かび上がるような姿は、けれども気遣うような眼差しでこちらを見ている。


呆然としたまま目を瞬き、別に不思議ではないのになぜか途方に暮れてしまう。



「目が覚めたのだね。少し食べられたようだけれど、大丈夫かい?」

「……………ええ。……………まだ疲労感が残っていますが、食事を出来るくらいには」


こんな風に尋ねられるとは思っていなくて、思わず返答がしどろもどろになってしまう。

だが、シルハーンはその動揺には気付いていないようだ。

安心したように頷くと、こちらを真っ直ぐに見つめ、僅かに眉を寄せた。



「終焉の気配を聞いていたのかい?」

「鳥籠の必要な土地がなければ、明日も休めるといいなと思っていました。俺の資質では、あまり褒められた事ではありませんが」

「それでいいのではないかな。可能であれば、明日もここでゆっくりと休むといい」

「……………そうですね。幸い、急ぎの仕事はないようなので、朝寝坊出来そうです」

「うん。……………それと、あまり怨嗟の声には耳を傾けない方がいいだろう。他に、………自分の名前を呼ぶものが何もないのなら、それすらも一筋の糸なのかもしれないけれど、今の君にはもう、このような場所があるからね」



告げられた言葉に目を瞠り、困惑したまま頷いた。


頷きながら、シルハーンもそうして怨嗟の声にすら縋った事があるのだろうかと思い、そんな過去があったかもしれない事が堪らなく呪わしいと思った。



「確かに、もうあのような声を聞く必要はないですね。…………こうして、俺を預かってくれる場所がありますから」

「ネアがね、とても心配していたよ。…………ただ、床にノアベルトが…………銀狐が落ちていたので、アルテアに見付からないようにヒルドに預けに行っているんだ。ヒルドの部屋に送ってきたので、こちらには私が先に来た」

「……………ノアベルトは、……………床で寝ているんですね」



それもそれでどうかと思ったが、ノアベルトですらそこまで緩んでしまうような場所なのだろう。

ゆらゆらとスープカップの中で揺れる琥珀色のスープを見て、間違いないなと小さく微笑み、今日はここに来て良かったと思う。


だからこそ、こんなに疲れていても無理矢理起き上がり、これ迄にはどこにもなかったサンドイッチや、グラスに注がれた水や、スープを楽しむのだ。



(…………ん?ヒルドの部屋に……?)



ふと、彼が妖精であることを思い出して眉を顰める。

シルハーンが問題がないと判断したのならいいのかもしれないが、おそらく今は就寝時刻に近い頃合いだろう。


そんな時間に、本来ならそれだけでまずい妖精の部屋への訪問を許していいのだろうか。



だが、その懸念の答えを示すように、扉がノックされた。

ウィリアムが声を発する前に、シルハーンが、ネアが来たようだから扉を開けてくるよとそちらに向かう。




「………良かったです。少し、食べられているみたいですね。あまりお邪魔してもいけませんが、様子だけは見ておこうと思いまして」

「おい、こいつを一人で出歩かせるな。屋内でも簡単に事故るだろうが」

「むぐ。だからこそ、ヒルドさんのお部屋からアルテアさんを呼んだのだ……」

「そもそも、この時間に妖精の部屋に入るな」

「アルテア。ヒルドであれば大丈夫だよ。そのように崩すことの方が嫌だろう」



どうやら、シルハーンはネアをヒルドの部屋に預け、アルテアに迎えに行かせることにしたらしい。

そうすればネアが一人にならないし、これ同時に、アルテアがエーダリアやヒルドの部屋がある区画に自由に出入り出来るようになったということでもある。


すっかりこの輪の中に入ったのだなと思えば、こうして夜遅くに部屋を訪ねる者がいる今の自分を思う。



「………ネア」



考え事をしていたら、額に触れる手があった。

目を瞬き、隣に立ったネアを見上げると、こんな暗い部屋でも光をよく集める鳩羽色の瞳をほっとしたように揺らして、熱は下がりましたねと微笑んだ。



「…………擽ったい感じだな」

「むむ、触れ方でしょうか………」

「いや、………こうして、案じられると」

「あら。随分前からこのように案じていますよ?」

「………そうだな。……ただ、実際にこういうことがあると、まだ慣れないらしい」

「ふむ。ではもっと慣らしてしまい、そこから当たり前のように体調の悪い時はこちらで過ごせるようになるがいいのです。傷が深い時などはやり過ごし方の嗜好もあるでしょうが、今くらいであれば、リーエンベルクにいた方が楽だと思いますから」

「……………君は、傷深い時の方が一人でいたいと思うんだな」



思わずそう言えば、こちらを見たネアが目を瞬く。

そして、困ったように小さく微笑んだ。



「かもしれません。これまではそうだったのでしょう。でも今は、そんな時にもディノや、こちらの家族や、アルテアさんやウィリアムさんがいてくれることに慣れてきたように思います。…………一人でやり過ごす方法しか知らなかった日々が思いのほか長かったのかもしれませんが、今は、両親がいた頃のやり方に戻しつつあります」

「…………そうなんだな。君が、………手傷を負った際に、一人でやり過ごす方が楽な時間があるのだと理解した事が、少しだけ気になった」



この感覚はもう、そうしてきた者にしか分からないものなのだろう。


ロクサーヌや他の誰かには、それは悪癖だと言われた事がある。

だが、それでも尚とならないものは、もはやこちらとしても仕方ないのだと困り果てていた。



「私の場合は、嗜好というよりは習慣でしたが、少しだけ嗜好もであるのかもしれません。……………そして、ウィリアムさんは、選択肢があるのだと覚えていて下さいね。ただでさえ負担がある時に、無理をして輪に入る必要はありませんが、どちらも選べるのだと思っているといざという時に楽ですから」

「ああ。次回からは、好きな方を選ぶようにするよ。…………障りなどがない時は、ここに来るかもしれないな」


そう言えば、ネアがぱっと笑顔になり、不思議な胸のざわめきを感じた。


「ふふ、それが私の一番のお勧めでした。戸建てのお家程にお部屋が近くもありませんので、ある程度は距離を保ちつつ、いざという時には誰かの目が届く範囲で療養出来るのが、リーエンベルクのいいところなのです!」


そう考えてみれば、リーエンベルク程に過ごし易い場所もないだろう。

今更そんなことに気付きながら、口先ばかりではなく本当に今度からはこちらに来ようと思う。



どれだけ親しくても、恐らく、ネアやシルハーンであっても、一人にしておいてくれた方が楽だと思う場面もきっとあるだろう。

だが、こんな風に甘やかされてしまえば、その線引きを都度引き直せるリーエンベルク程に、我が儘に過ごせる場所もない。



「……………困ったな。まさか、ここまで贅沢に過ごせるとは思わなかった」

「何か入用のものがあれば、お部屋の通信版でも、カードからの呼び出しでも、すぐに対応出来ますからね。必要なものなど何もなくて、ただお喋りをしたいという時にだって、誰かに声をかけてくれればいいのです」



それではまるで家族のようだなと思いかけ、ノアベルトがいつも口にしている言葉を思い出した。


じわりと、聞こえる筈のない音を立てて何かが込み上げてくる。

一度は飲み込んだだ筈の不可思議で強い感情が、胸の中で暴れるように。



「……………ああ」

「まだ本調子ではないと思うので、私達はそろそろ帰った方がいいかなと思うのですが、今回は選択肢が四つあるのですよ」

「ん?四つなのか…………?」

「はい。皆で部屋を出て、ウィリアムさんにはお一人でのびのびだらんと過ごしていただく。一緒にもう少しお喋りをする。続き間にこっそりいるけれど、ウィリアムさんにはこちらの部屋でゆっくりしてしまう。そして、アルテアさんと二人きりにして差し上げる、の四個の選択肢があります」

「……………おい、最後のは何だ」

「うーん。最後のは、加えなくて良かったかな」

「あらあら…………」



怪訝な思いでそれはいらないのではと伝えたのだが、ネアは、どこか人の悪い微笑みをうかべるばかり。

ついついアルテアと顔を見合わせてしまい、それでも、互いにないなと思って視線を外した。



「どれにしますか?」

「そうだな、……………それなら、」



その夜は、食事を終えるまでの間は、ネア達が部屋に残っていてくれた。

ただし、泥のような疲労感は変わらないままであったので、あまり会話は続かないかもしれないと言えば、ネアは、こちらでお喋りをしているので気になった時だけ入って来て下さいねと、思ってもみなかった選択肢を増やしてくれる。


食事を終えてすぐにでも眠りたかったのに、ネア達に残って貰ったのには理由があった。



(……………当たり前のように、家族のように、……………そこにいる誰かを得るのは初めてかもしれないな)



もしかしたら、シルハーンも、グレアムやギードも、望めばそうしてくれたのかもしれない。

だが、誰一人としてやりようを知らなかったので、そうなることはなかった。

親密な関係にあった女性達もいたが、そちらについては、そこまで踏み込まれる方が負担であった。


それなのに今は、眠気に手元が覚束なくなるとグラスに水を注いでくれる誰かがいて、顔を顰めて、さっさと横になれと言うアルテアがいる。


近いようで近過ぎず、どうしてこんなに当たり前のようにこの場所があるのだろうと考えると、寝台に戻る体にはどうしようもない怠さがあっても、酷くいい気分であった。



(これは、今までとは違う安堵だ………)



誰かが立ち去らないということではなく、誰かが手を差し出してくれるという喜びではなく、ここが、より当たり前の場所になったという安堵なのだろう。


時には選ばないことも許してくれ、戻って来ればいつもそこにあるというものは、成る程、恋人に求めるには酷なものだ。



だからこそ、今の形だからこそ。

このたった一つだけが、無理なく叶えてくれる。




目を覚ますと、既に昼近くになっていて、誰かの手が額に当てられた。

ひんやりとしたその温度の心地よさに目を細め、伸ばした手で掴むと柔らかな微笑みの気配がある。



「まぁ。駄目ですよ、狐さん。まだボール遊びは難しいので、大人しくお見舞いでいて下さいね」

「カーテンはこのままでいいのかな…………」

「ええ。起きられるまでは、このままでいいのかなと思います。……………今はまだ眠そうなので、食べたいものがあるかどうかもその時に聞きましょうか」

「うん。……………ノアベルト、……………その、ここでボールを投げるのはやめようか」



手のひらの温度の心地よさに目を閉じると、そんな会話が聞こえてくる。


静かな声なので寧ろ話していて欲しいくらいだが、恐らくは狐姿でいるのであろうノアベルトが、何をしているのかが気になってしまう。


ネア達は、起きられるのか、とは問わない。

気遣って欲しいが望まずにいて欲しいだなんて身勝手にも程があるが、居心地がいいのは、このような時にどうして欲しいのかと考えるかの嗜好が近いからでもあるのだろう。


引き寄せた手のひらに唇を寄せ、ただ、この慰めや許容だけを与えてくれる心地よさに酔いしれた。



(……………起きてから入浴して、…………食事と、死者の行列の中の者達の被害確認もしておくべきか。……………だが、もう少しだけ)



そう考えて目を閉じる。

一人きりで倒れるように眠りに落ちて、うだるような暑さの中で目を覚ます砂漠の朝も嫌いではなかったが、これは癖になりそうだなと心の中で小さく笑う。


目を閉じてはいるが完全に眠りには落ちていない状態のまま、ぼんやりと聞こえてくるネアとシルハーンの会話を聞いていると、子守歌は歌わないようにと話している声が聞こえてきて、それは確かに駄目だと考えた。


ネアは悲し気に唸っていたようだが、幸いにも、歌わずにいてくれたようだ。

窓の向こうで静かな雨音が聞こえるので、今日は雨の日なのだろう。

雨音は、戦場でも良く聞く音であったが、もうどこにも怨嗟の声は聞こえない。



意識が落ちる直前に、何か手触りのいい毛皮のようなものが飛び込んできたので、それを片手で抱きかかえたまま眠りに落ちる。

なぜだがその後は、ボールを延々と投げ続ける夢を見た。










10月刊の校正作業と二度目の疫病対策期間にて、9/4〜9/7はお休みをいただきます。


余裕があれば、TwitterからSSのお知らせをさせていただきますね。

なお、お休みの後は、クッキー祭からのディノのお誕生日となります!

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― 新着の感想 ―
ウィリアムさんに抱きかかえられて 尻尾をケバケバにした銀狐が 目に浮かんでしまいましたw
[一言] 家族って良いなって思えますね。 私もこんな家族が欲しい・・・
[一言] 早くも続刊でしょうか。楽しみにしております。 そして次はクッキー祭りなのですね。ほこりとアルテアをに期待しつつも継続理由に入ってから疫病祭りがほとんど扱われていないようで少しさみしいです。
感想一覧
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