野外演奏会と水色の鈴蘭 2
弾み、小さく咲きこぼれ音楽が流れてゆく。
木漏れ日の下には柔らかな風が吹き、大勢の観客が美しい音楽の中で耳を澄ませた。
飾られた水色の花にまた小さく祝福の煌めきが落ち、木々の枝から吊り下げた花飾りを揺らして小さな生き物達も聴き入っている。
それは、囁き声から饒舌な歌声になるような音楽だった。
小さな問いかけが美しい音楽になり、物語の扉を開くように広がってゆくのだが、その先にあるのは、どこまでも、どこまでも、手綱を離さなければ行ける見た事もないような世界だ。
ここから先には何があるのだろうと目を凝らし、その度に、音階の中にずっしりと溺れてゆく。
(……………ああ、これは……………難しい音楽だ)
ネアはふと、そんな事を思った。
小さな災いを花冠の中に閉じ込めて飼い慣らしてゆくような危うさと期待があるので、今はまだ結ばれていない円環の端が届けば、きっと上等な祝福になるのだろう。
そんな音楽がゆっくりと円を描いてゆく様を眺めながら、木々の枝を揺らす僅かな風の中に佇んでいる。
「……………ほわ」
「ネア、……………大丈夫かい?」
「う、上手く言えませんが、……………美しい花輪の中に閉じ込められて、美味しいお菓子を貰ったような気分でした。…………こんな感想を持つのは初めてなのですが、………なかなかやるなと思って感心してしまうのです」
「君がそのような感想を持つのであれば、今の音楽に記された調伏の術式は、完全なものだったのだろう。………私達を捕らえるには足りずとも、多くのものの心を掴んだようだ」
「む……………むぐ?」
目を瞬き、夢から覚めたような思いでその言葉を聞いた。
見上げる先にいる水紺色の瞳の美しい魔物は、確かに、ネアが唸らされた花冠ごときでは鎮められないような特等のものだろう。
そしてそれは、反対側に座っているアルテアにも言えたし、少し離れた場所でなかなかやるなという眼差しをしている、エーダリアの隣の騎士にも言えるのかもしれなかった。
「今の音楽は、調伏のものだったのです?」
「季節の系譜を鎮め、その願いで土地に宿すことの出来る音楽だ。……………あの音楽を作った者は、エーダリアなどより階位の高い魔術師だったのだと思うよ」
「まぁ。………そんなことまで分かってしまうのですねぇ」
「この音階を組める者は、そうそういないだろうからな。…………こうして演奏してのけた楽団にも、かなりの力がある。まだ小さな楽団だが、いずれ国内外を問わず名の知れた楽団になるだろうよ」
「ええ。それは間違いありません!…………以前こちらにいたリーエンベルクの騎士さんの推薦で、発掘された楽団なのだそうです。ザルツ近郊にある小さな都市の楽団なのですよね」
ヴェルクレア国内で、市という名称を持つ土地は幾つかあるが、その中でもザーグル市と言えば、音楽好きでは知らぬ者もいないだろう。
バイオリンの弦を作る工房が軒を連ねる美しい土地で、小さな湖を囲む景観はどこか一枚の絵葉書のようでもある。
(でも、楽器作りの工房が多い代わりに、音楽家はあまり暮らしていないのだとか)
本日の野外演奏会に招かれているこの楽団は、そんなザーグルでは珍しく、市外でも評価を得た市民楽団なのだ。
ここ五年で作られたばかりの若い楽団だが、三名程の楽団員の技量が飛び抜けており、そこから他の者達も技量を上げてゆき、今の形にまで育ったと言われている。
「元々、あの辺りは、何某かの鎮めの要素を持った土地だからな。その土地で暮らしている事で、魔術的な役割や分類の付与があったんだろう」
「ふむ。市内在住の方による楽団ですものね。………ディノ?」
「そう言えば、……………随分昔に、植物の系譜のものが何か障りを出していたような気がするけれど、そのあたりで必要な者が招聘されたのかもしれないね」
「そんなところだろうな。集められた人員が根付けば、土地に独特の資質が凝る事がある。曲を書いた者も異端だが、あれを演奏してのける技量もそれなりのものだ」
「そしてアルテアさんは、チェロ奏者の中にお目当ての方がいるのです?」
「………放っておけ」
(………おや?)
そんな話をしていると、ふっと、何かがどこかに触れたような気がした。
顔を上げたネアは、すぐ近くの木の枝に小さなモモンガ姿の妖精が座っている事に気付く。
なぜかこちらをじっと見ているので、魔物達が気になるのかなと目を瞬くと、突然、横から伸びた手に目を覆われてしまう。
「むが?!」
「……………この子は、私の歌乞いだよ。立ち去るといい」
「ムキュ」
静かなディノの声が聞こえ、がさりと木の枝が揺れる気配がした。
アルテアの手を引き剥がし、ぷはっと視界を取り戻した乙女は、何やら冷ややかな気配を纏う魔物達に首を傾げる。
「………あのモモンガさんに、何か問題があったのですか?」
「木漏れ日の妖精王だ。あまり見かけないものだけれど、上質な音楽に惹かれてやって来たのだろう。君を気に入ったようだったから、追い払っておいたよ」
「なぬ。……………もふもふ」
「ネア?浮気はいけないよ?」
「あのちびころもふもふは、どう考えても浮気ではありませんが、ディノが嫌ならぽいしましょうね。……そして、まさかの王様だとは思いませんでした」
「ったく。お前は余分を呼び寄せ過ぎだな…………」
「大人しく演奏会のお客でいるだけなのに、なぜこんな目に遭うのだ……………」
ネアは解せない思いで首を傾げ、参加者の紹介と季節のご挨拶の最後に始まるエーダリアの登壇に、慌てて前に視線を戻す。
本日の司会は、ウィーム中央にもある音楽院の学長で、エーダリアとも親交があるらしい。
このような若い楽団に活躍の場を与えてくれたと褒められてしまったエーダリアは、初めて見る人には少し温度が低く思えるような美麗な面立ちで、生真面目にお礼を言っている。
(出会った頃は、…………あのエーダリア様の面立ちだけを見て、きっと冷淡な人なのだろうと思っていた)
でも今は、僅かに照れているのが分かるし、その上でこうして無事に野外演奏会が開催出来た事に安堵し、集まった領民達を優しい目で観察しながら、皆が幸せそうかどうかを確かめているのが見て取れる。
あの場所にいるのは家族なのだと思えば、ネアは、いつの間にかこの世界で過ごしてきた日々が、思っていた以上に長いものであったことに少しばかり驚いた。
「…………ディノはもう、私がどんな音楽が好きなのかも、分かってしまうのですよね」
「うん。…………ネア?」
「子供の頃に野外演奏会に行った時の事を思い出して、今の私の家族の事を考えていたのです。その頃の私は、私の伴侶が、こんなに優しくて素敵な魔物さんになるとは、少しも思っていませんでした。そして、使い魔さんを得て、偉大なる狩りの女王になるということも、勿論想像もしていなかったのです」
「………おい、その言い方をやめろ」
「む?……………使い魔さんを捕まえて?」
ネアが、捕縛過程も説明が必要だったかなと付け加えると、なぜかアルテアは渋面になった。
ふっと微笑む気配がしたのでそちらを見ると、近くの席に座っていた青年が小さく会釈する。
(……………あ、………ミカさんだわ)
擬態をしていたが、なぜだかそう感じたネアは、であれば、その隣に座っているのは誰なのだろうかと考えてしまった。
親交のあるグレアムだろうかと思ったが、どうやら初めましての人だという感じがするのだ。
なお、その奥に座っているのは、エーダリアの会の人で、ハンカチを握りしめてエーダリアの方をじっと見ている。
勿論、皆が楽しむ演奏会なので、演奏の合間とは言え、お喋りをするときには音の壁を作ってあった。
となればつまり、ミカはこちらの会話を聞いて反応したのではなく、やり取りの様子に何かを感じて微笑んだのだろう。
「……………む」
しかし、ネアが周囲を見ていたから不安になったのか、膝の上にそっと三つ編みが献上されるではないか。
今日のリボンはディノのお気に入りのラベンダー色のもので、ネアは、やれやれと思いながらも大事な魔物の三つ編みを手に取ってやった。
「次の曲が始まるよ」
「は!……………お目当ての曲の一つです!」
慌てて背筋を伸ばし、三つ編みを握り締めたまま、指揮者の手が持ち上がる瞬間に胸を弾ませる。
音楽の始まる時はいつも、この瞬間に本の最初の頁を捲るような楽しさがあるのだ。
魔術と結ばない音楽の庭で育ったネアにとって、音楽はただ、純粋なばかりの喜びと楽しみであった。
だだん。
思っていたよりも重厚な出だしで曲が紡がれる。
わくわくと続く旋律を待っていると、瞬きほどの間に、はっとするような美しいものへと転じていった。
鮮やかで強く、胸を揺さぶるような美しさのあるその曲は、どこかで悲しく、けれども力強い。
ほうっと震える息を吐き、ネアは夢中でその音楽の中に入り込んだ。
口元をむずむずさせ、目を輝かせてたっぷりと堪能してしまう。
そして、曲が終わる頃にはもう、くたくたになっていた。
「……………ぎゅわ」
「気に入ったかい?」
「はい!以前にウィリアムさんが弾いてくれた曲も好きでしたが、同じような雰囲気でこのような曲もあるのだなと、すっかりお気に入りになってしまいました!ディノのお勧めが、ぴたりなのですよ」
「……………うん。……………可愛い」
「おい、妙な弾み方をするな」
「ここはもう、感動のあまりに弾んでもいい筈なのです。あちらのもふもふとて、弾みっぱなしではないですか」
「ほお?あれは、夏レインカルだがいいんだな」
「……………同じ振舞いはしませんよ?」
立派な淑女たる自分が、よもやレインカルと同じ反応ではまずいと、ネアは慌てて椅子に座り直した。
今回は次の曲がすぐに始まり、柘榴の木の系譜の精霊だという美しい女性が恋の歌を歌った。
とは言えこちらの曲は、ちょっぴりネアの好むものとは方向性が違い、ふむふむ力強い感じなのだなと頷くに留まる。
そして、休憩の時間になると、ディノにそんな感想を伝えてみた。
「………やはり、季節の系譜によって好まれるものが違うのですね。夏の系譜の方々は、三曲目で大盛り上がりでした」
「好む色や香りが違うように、音楽にも嗜好があるからね。………今年は、どちらの店からかな?」
「では、白葡萄のお店のパイからにしますね!」
「いいか、くれぐれも、二個までにしておけよ」
「お母さんです……」
「やめろ………」
すかさずアルテアに注意され、ネアは、ぎりりと眉を寄せる。
実はこっそり、先程の約束を忘れていないかなと思っていたので、野望を挫かれたのであった。
野外演奏会と言えば、音楽と共に楽しむのがこの葡萄パイだ。
白葡萄と赤葡萄の店があり、種類の違う葡萄を使い、お砂糖を振りかけじゅわっと焼き上げた葡萄パイの香りが、それぞれのお店の方から漂ってくる。
もう一店舗、甘いものが苦手な人用に、葡萄パン寄りの商品のお店もあるが、ネアとしてはやはり甘くて美味しい葡萄パイがあってこそ。
焼き立てのものをさくさくじゅわっといただくと、何とも言えない幸せな気持ちになれるのだ。
ネアは列に並んで白葡萄のお店のパイを買うと、その内の一つをアルテアに手渡した。
「はい、どうぞ。時にはこうして、使い魔さんを労ったりもするのです」
「節操がないのは今更だが、買い与える相手は選べよ」
「むぅ。私はこれでも倹約家ですので、無差別なふるまいなどはしないのですよ。……………はい。ディノの分です。一緒に食べましょうね」
「うん。…………ずるい」
「未だに残る謎の運用のままですが、もうこれでいいのかなという気がします」
それぞれのパイのお店には、様々なもの達が葡萄パイを買いに来ていた。
今年も変わらず、どちらの店のものを選ぶか長考する者達も見られ、予め店を決めておいたのか、特別なご贔屓なのか、お目当ての店に突進する毛玉妖精などもいる。
きらきらと木漏れ日の落ち、飾られた花の彩りが美しいリーエンベルク前広場の会場では、この休憩時間になると、あちこちでお喋りの輪が出来る。
葡萄パイのお店では、冷たい紅茶や氷河の水、少し割高になるのがこのような催しらしいシュプリなども振舞われ、シュプリグラス片手に葡萄パイを齧る紳士達の姿は、これまでも、ウィームでずっと見られてきたものなのだろう。
肌に触れるだけでうっとりとするような心地のいい風に唇の端を持ち上げていると、ディノとアルテアが何やら顔を見合わせている。
何かあったのだろうかとそちらを見上げると、ふいに、ざあっと風が木々を揺らし、どこからともなく、水色の花びらがはらはらと降ってきた。
「……まぁ、これは?」
「くそ。……………先を越されたか」
「先程の妖精王かな。気に入った演奏者を見付けたのだろう。祝福を授け、守護の契約を結んだようだ」
「それで、急に木漏れ日が先程よりも綺麗に感じられるようになったのですね」
「うんうん。でも、アルテアも、その音楽家の後援者の座を狙っていたみたいだけどね」
「ノア!」
後ろからかかった声に振り返ると、休憩時間にこちらに来てくれたエーダリア達がいた。
ノアの言葉におやっと眉を持ち上げて観察すると、確かにアルテアは、何とも言えないような苦々しい表情である。
「チェロ奏者の青年が、木漏れ日の妖精王の祝福を受けたようだ。演奏会の途中でここまでの結びが得られるのは珍しいからな。今年は、思いがけず良い演奏会になりそうだ」
そう教えてくれたのはエーダリアで、片手に持っている紙包みを見ると、今年は赤葡萄のパイから食べているようだ。
隣に立つヒルドの羽にもその木漏れ日が透け落ち、足元に美しい彩りを落としている。
「あの青年は、何某かの祝福は持ち帰ると思っておりましたが、珍しい個体が現れましたね。心地良さを祝福とする妖精ですから、良い人生を歩むでしょう」
「……………ほわ。あのもふもふ妖精さんは、そんな素敵な祝福を持っていたのです?」
「おや、ネア様は既にご存知でしたか」
「こちらを通りかかったからね。この子にも興味を示していたので、もしかすると、……あの青年はグラフィーツの系譜の資質を持つのかもしれないよ」
「ありゃ。そっちの才能なら、アルテアよりも木漏れ日の妖精と組んで貰った方がいいかな。………でも、だからこそ、アルテアも目を付けたのかもしれないけれどね」
「……………アルテアさんがとても気に入ってた青年は、別のお相手に取られてしまったのですね」
ご主人様に買って貰った葡萄パイを無言で食べていた選択の魔物は、ネアがそう言うと、眉を顰めて酷く暗い目をする。
失意の内に居るのは間違いないので、もう触れないようにして上げようかなと思ったところ、なぜか、指先でびしりとおでこを攻撃された。
「ぐるる!!」
「いいか、その妙な表現は二度とするな。音楽家の支援と管理は、以前から行っているものだ。妙な壊れ方をすると、小さな都市一つは滅ぼしかねない災厄になるからな」
「………そうなのですか?」
「音楽は嗜好品だ。それが狂っていると知らずに耳を塞げないまま、取り込まれる者も多い。その界隈のものも人気はあるが、あれは、嗜好品の程度に収まっていてこそ道楽たり得るものだ。……………過ぎるものだと、他を望めなくなるからな」
「ふむ。白葡萄のパイでお腹がいっぱいになると、赤葡萄のパイが食べられずに勿体ないということですね」
「わーお。僕の妹は、パイでまとめちゃったぞ…………」
「幸いにも、私の場合は二個ずついただけるので、楽しい時間が長く続くのですよ!………むむ、」
ネアはここで、白葡萄のパイを食べ終えているディノの手からひょいと紙袋を取り上げ、自分のものと一緒に丁寧に畳んだ。
さすがに、ここまで食品に触れたものを記念品として持ち帰る事はもうなくなったが、それでも少し名残惜しそうに燭台印の紙袋を見ていた魔物は、それをご主人様に奪われてしまい、悲し気に眉を下げている。
「さて、次は赤葡萄のパイを買いにいきましょうか?何か、飲み物も買いますか?」
「………赤葡萄のパイは、…………買えるのかな」
「なぬ…………?」
どこか不安げなディノの声に、ネアは不穏な予感を覚えて振り返った。
(…………これは)
すると、次なるお目当ての店である赤葡萄のパイのお店に、むくむくとした水色の毛玉の行列が出来ているではないか。
「ぎゃ!あんなに遠くまで並んでいます!!」
「もう、白葡萄で二個も食べたんだ。充分だろうが」
「あ、赤葡萄は別なのですよ!!…………こんな毛玉さんは、去年まではいなかった筈なのです………」
「木漏れ日の系譜の者達だね。王が守護するべき者を得たので、お祝いに出てきてしまったのかな」
「王様の祝福などそっちのけで、赤葡萄のパイを買おうとしているのはなぜなのだ……………」
「パイの方が気に入ってしまったのかな……」
ネアは、それでも負けじと並ぼうとしたが、お店から出てきた少女が、ここまでで販売終了となりますと声をかけたのは、ネアよりも三人も前のところであった。
失意のあまりに項垂れる乙女は、なぜか、そっとしゃがみこんだ家族を見付け、怪訝さに首を傾げる。
「エーダリア様、もしかしてどこか体調が悪いのですか?」
思わずそう声をかけると、エーダリアがぎくりとしたようにこちらを見た。
「い、……………いや。気にしないでくれ」
「あ、さっきの木漏れ日の系譜の落した祝福か。結晶化した鈴蘭は珍しいよね」
「ぐるる……」
「僕の妹が威嚇しちゃうから、言えなかったのかな。…………いいものだから、ネアも収穫していくかい?」
「ぐる………」
確かに、赤葡萄のパイのお店の周囲には、先程まではなかった結晶化した水色の鈴蘭が咲いていた。
気付いた領民達も摘んでいるので、持ち帰るといいようなものではあるのだろう。
それは赤葡萄のパイを奪った敵の痕跡であると不満たっぷりであったネアだが、何の収穫もないよりはと渋々一輪の水色の鈴蘭を摘み、持ち上げる。
(でも、………綺麗だわ)
指先で触れるとしゃりんと音を立てる鈴蘭は、色硝子で作られた美術品のような美しさだ。
木漏れ日の下で煌めき、吸い込まれるような不思議な魅力は、やはり特別なものだという感じがする。
「……………さて、後半が始まる。そろそろ席に戻るか。………その、残念だったな」
「今年の赤葡萄のパイは、美味しかったですか?」
「そ、そうだな。………だが、白葡萄のパイも、美味しかったではないか」
「それは、どちらも食べられた人にしか言えない台詞なのですよ……………」
ネアが少し悪変しかけていたからか、気付いたノアが、慌ててエーダリア達を連れていってしまった。
聞けばエーダリア達の葡萄パイは、店主から予め用意して貰っているものなのだとか。
悔しさに足踏みをし、よろよろと席に戻ったネアはしかし、続く後半の演奏の素晴らしさに、演奏会が終わる頃にはすっかり笑顔に戻っていた。
持ち帰った水色の鈴蘭は悔しいので仕舞い込んでいたが、エーダリアの執務室でも、その鈴蘭を外に出しておくとあまりの心地よい魔術に触れた銀狐が眠りこけてしまうということで、蒐集庫に隔離されたようだ。
木漏れ日の系譜の妖精は何種類かいるが、今回現れた者達はとても希少なのだそうだ。
そんな系譜の者達が現れて齎した祝福は、滅多に手に入れられるものではないらしく、エーダリアはまたお気に入りの蒐集品を増やしてしまったようだ。
明日は、「薬の魔物の解雇理由」の発売に合わせ、ネアハーレイの短編を上げる予定です。
こちらとは切り分けて、短編のお話として出させていただきます。