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リドワリア




「小さなオレンジだけど、甘いんだ。どうだい?」



その港町に流れ着いたのは、乗ってきた船が座礁したからであった。


偶然近くを通りかかったヴェルクレアの商船に拾われ、小国の商人のふりをして港に入ったのだ。

幸い、体が小さかったので検疫の妖精がこちらに来る前に逃げ出し、干し草の詰まった荷馬車の影に隠れて夜になるのを待ってから、王都の程近くにある美しい港町にやってきた。



(この国は確かに美しいけれど、僕にとっては、美しいというばかりでは、少し違うような気がするんだ)



そんなことを考えながら、星を見上げた。

星空は高く清廉に煌めいているのだが、何があったものか、海の方は少しばかり騒々しい。

けれどもその賑やかさが少しだけ羨ましくて、小さな小さな溜め息を吐いた。




リドワリアは、災いの名前を持って生まれた子供だった。



小さな森の側にある国で生まれ、奉公に出されたのが四歳の時。

そして、海の近くの村で暮らすようになると、どうも両親が名付けに仕損じたようだぞと思い知らされたのである。



この世界には、多くの高貴な名前がある。

その名前の中の一部は、不思議となぜか階位の低い者達には扱えないようになっており、例えば、名付けの候補に上がってもなぜかみんなが恐ろしく感じる名前があれば、その名前は既に他の誰かのものだという証なのだ。


記された名前や口にされた名前の響きにその領域の魔術が展開されると、障りや災いに近付いた時のような恐怖に駆られれ、人々はそれを避けるという。


だが、ごく稀にそのような反応を示さない鈍感な者達がいる。


もしくは、生まれながらにして鈍感なのではなく、何かの障りでその予兆に気付かずにいたり、敢えて子供に人ならざる者の領域にある名前を授け、道具のように育てる者達も。


リドワリアの両親がそのどちらだったのか、どちらでもなかったのかは分からない。

さして貧しくはない貴族の家であろうとも子供を奉公に出して厄介払いする人達であるし、正直なところ、殆ど記憶もないのだ。

恨んでいるかと言えば恨んではいないが、この名前をどうにかして欲しかったというのが正直な思いでもある。



とは言え恐らく、この名前のせいでリドワリアはまるで使用人の子供のように家を出されたのだろう。




「……………オレンジを買ってしまった」


ぽそぽそと歩くリドワリアの手の中には、瑞々しい小さなオレンジがあった。


試食を貰った際に本当に甘くて、今の自分がどれだけ貧しいのかを知っていたくせに、我慢出来ずに買ってしまったものだ。

小さな硬貨を渡して一個だけのオレンジを受け取ると、店主は何かを察したようであった。

人の良さそうな顔をくしゃりと歪ませ、気象性の悪夢で農園が被害を受けていなければ、おまけをしてやれたのになぁと言ってくれたのだ。



(だから、それだけでもう、……………今日は僕にとって幸せな日だ)



漁船ではなく、海の近くで妖精や精霊が悪さをしたときに見張りの船を出す為に作られた海鉱石の桟橋に歩いてゆくと、その端に腰かけて海を眺め、こぼれるような星明りの下で、ゆっくりとオレンジを剥いた。


しゅわりと瑞々しい果汁が零れ、慌てて腕に唇を寄せる。

清しい香りは甘酸っぱくて、いつまでもこんな匂いに包まれていたいと思うくらいにいい匂いであった。




温かな気候の土地は豊かだと言うが、このヴェルリアはどうだろう。


美しい街並みや港は清潔で美しいものの、いささか手入れと管理が行き届き過ぎている。

この大国の王都だと思えば騒々しいくらいであったが、身寄りのない小さな子供が一人で暮らしてゆくには、潜り込める隙間や暗がりのない土地なのだろうと思う。


例えば、見上げた高台の瀟洒な屋敷の庭には、美味しそうな果実のなる庭木があるのだが、羽を持つ妖精達はその実を奪えても、困窮している下働きの子供には手が届かない。


あれが、かつてリドワリアの暮らしていた海沿いの小さな村だったら、どこかから持ってきた壁に梯子をかけて、美味しそうな果物なんて取り放題なのだ。



(でも、ここは異国で、…………僕が見た事もないような綺麗な国で、……………綺麗過ぎて、僕みたいな子供はどこに行けばいいか分からない事だらけだ)



辛うじて仕事を見付ける事が出来たのは、リドワリアが働き者で仕事に慣れていたからであった。


長い間独りぼっちで働いてきたので、誰かに指示を仰がずに望まれているであろう働きをすることには慣れていたし、無駄なお喋りもしなければさぼりもしないと、今の雇用主は喜んでくれている。



(でもここは物価の高い王都で、僕の稼ぎなんかじゃ、日々の生活でやっとなんだ。お金を貯めてどこか他の土地に移住したいけれど、見ず知らずの国で僕みたいに体の小さな子供が、次の仕事を得られるとは限らない。そうすると、…………こんなに日々の暮らしが苦しいのに、どこにも行けないまま、ここでぐるぐる回るようにして生きていくしかないのだろうか)



大人になれば、出来る仕事の幅も広がるだろう。

そう言って笑いかけてくれる今のご主人は、リドワリアが、この名前故に成長が遅い事を知らない。



可動域は決して低くないのだから、本来であればとうに身長が伸びていた頃合いなのだ。

けれども、この名前に宿る誰かの欠片が重過ぎて、リドワリアは少しも大きくなれないままでいた。



(………最初に、僕が呪われている事に気付いたのは、誰だっただろう)



あの海の近くの村に、偶然立ち寄った魔術師が何かを言っていたので、彼が、村長にリドワリアの名前の秘密を伝えたのかもしれなかった。


リドワリア自身も知らなかったので、誰かが気付いてくれて良かったと思うべきだったのかもしれないが、海の系譜の特等の呪いを持つ子供を置いておける程、あの村も結局は裕福ではなかったのだ。



そしてリドワリアは、そのまま別の港の下働きとして売られる事になった。



奉公に出された先に名前の秘密を隠していたと厳しく糾弾され、勤め先を変えるということではなく、奉公先への賠償金を払う為の奴隷とされたのだ。

小さな木の檻の中に入れられ、途方に暮れていたあの日、あの日もこんなこぼれるような星空だった。



『俺は、あまり良くないものだから、君に最後までは付き合ってやれないが、もうすぐ大きな嵐が来る。その扉の蝶番は緩んでいたようだから、外しておいた。……………もし、君が何かの願いを掴むのであれば、この嵐は味方になってくれるかもしれない』



リドワリアが乗せられた船はほどなくして更に大きな異国の商船に積み荷を移し替え、運ばれる先が違う港町どころか異国であることを知ったリドワリアが、一人で泣いていた夜の事だった。


ばさりと音がして真っ白なケープが揺れ、誰かが檻の外に立ち、そう言ったのだ。


リドワリアが入れられていた檻はあまりにも小さかったので、膝を抱えて蹲っていたリドワリアには、それがどんな人だったのかまでは分からなかった。

ただ、ぼうっと暗闇に光るような白い軍靴があまりにも綺麗で、ああ、人ならざる者に出会ったのだと理解したのだ。



かくして、嵐は来た。



船は荒ぶる海の上で木の葉のように揺れ、呆気なく座礁し更なる異国の商船が生き残った船員や商人達を救ってくれた。

そうしてリドワリアの思い出話の冒頭に戻る訳なのだが、これで、どうして検疫妖精から逃げねばならなかったのかもわかるだろう。



あの場で色々な事を調べられてしまったなら、リドワリアが乗員ではなく積み荷であったことが明かされてしまった筈だ。

船長や船を管理する商会の職員たちは生き延びていたので、これ幸いと回収されて、どこかに売り捌かれてしまっただろう。


あの白い軍靴の男性の忠告を聞き洩らさず、リドワリアは、壊れた扉を押しのけて檻から出ると、すぐに近くにあった床を拭く為の汚い布で、もっと汚れていた自分のこれ迄の汚れを拭い、肌が赤くなるのも構わずに木材片を入れてあった麻布で更に体や髪を磨いた。


ある程度の汚れが落ちると、ずっと世話をされる人々の知らない扉の向こうでせかせかと働いてきた日々の知恵を生かして、着替えに足りるようなものがしまわれている部屋を見付け、服とまではいかずとも役に立つものを見付け、外見を誤魔化せるようにと、布を巻き付けたり縛り上げたりして工夫して装いの印象を変えてみた。


甲板の柱にへばりついているところをヴェルクレア商船の船員に拾い上げられたので、海に落ちた人ほどには着崩れてはいなかっただろうが、すぐにぐしゃぐしゃになってしまったその装いから、リドワリアは更に遠い異国の民だろうと推察されたようだ。



(僕の、最低で最良だった冒険は、そこまでだ)



頑強な造りと海竜の守護のお陰で嵐の中も危なげなく航行するヴェルクレア商船の中は、他にも救助された船の人々が乗せられていて、まるで小さな街のような広さで。

いい匂いのするトマトと豚肉の煮込みのスープを貰い、夢中で食べたあの夜程に、希望に満ちて幸せな時間もなかっただろう。


流れ着いた先がこんな大国ではなく、入国管理がもう少し杜撰であれば、リドワリアはどこかの国の小さな商人の子供として、もう少しましな暮らしをしていたかもしれないのに。



「……………だからさ、国が豊か過ぎるのも、考えものなんだよ」



誰もいない桟橋で小さく呟き、丁寧にひと房ずつにしたオレンジをまた一つ口に入れる。


じゅわっと噛み締める果実は甘く爽やかな酸味で、あまりの美味しさに小さく弾みたいくらいだ。

大事に残しておいても干からびるだけなので、リドワリアはこの美味しいオレンジを今夜は贅沢に食べると決めていた。


本当は、持っていた硬貨で古くなったパンか小麦を買う筈だったのに、まさか、たった一つのオレンジになってしまうだなんて。


でもきっと、この大切なオレンジを誰かに取られたり海に落としたりせずに食べていられるのだから、これもまた不幸ではない筈なのだ。



「………ああ、どこかに行きたいな」



それはどこだろう。


どこでもいいけれど、幸せで優しいところがいい。

リドワリアの名前を聞いても誰も眉を顰めず、健やかに働けて、笑い合えるような仲間のいるところ。

リドワリアが一人の人間として受け入れられ、誰もが手にしている筈の幸福をきちんと享受出来るところ。



ここではやはり、未来はない。

こんな港町まで治安も良く、綺麗に並んだ漁船の周りには取りこぼした魚が落ちている事もない。

体の小さなリドワリアが夜まで出歩いていてもさして問題がない代わりに、何も手に入れられず大人しく小さな下宿宿に戻るしかないのが、この大国の港町であった。



(きっと、沢山お金があったら、ここは最高なんだろうな)



料理は美味しく、治安も良く、国が豊かで安定しているので、比較的おおらかな人々が多い。

ヴェルクレア四領の中では気性の荒い方だというヴェルリア人も、リドワリアにとっては殴ったり蹴ったりしない、温厚な人々であった。



「……………今日は確かに失敗した。パンを買えないとこれからの三日分の食事をどうすればいいのか分からなくなるけれど、でも僕が買ったのは嗜好品なんだ。…………僕は、あのお金で、僕の心を守るに相応しい尊厳を買ったんだ」



最後のオレンジを口に入れて噛み締め、また、誰ともなく、そう呟く。

夜の海には人ならざる者達も多いが、リドワリアはこれでも可動域は三百近くあるので、相手が人外者であればある程度の自衛は出来るのだった。



(だから例えば、今度の休みの日にガレンを訪ねて、あの白い塔の門番に、僕も魔術師になりたいと言ってみるのはどうだろう………)



あの塔が学院ではなく研究機関に近しい場所である事は知っていたけれど、もしかしたら、変わり者の魔術師の誰かが、弟子にいいぞと考えてくれるかもしれない。



(或いは、もう少し待遇の良くなる魔術道具を扱う商会の下働きや、店員になれないだろうか)


今のご主人はいい人であるが、なにせ、港街の食堂の店主である。

リドワリアがどれだけ丁寧に魚の下拵えや掃除をしても、支払えるお金には上限があるのだった。



(………明日は、どんな日になるだろう。僕は、いつかどこかに行けるだろうか……………)



それとも、この美しいけれどどこにも隙間のない港町で魚の下拵えと店の水場の掃除をしながら、ずっと昔に暮らした屋敷の窓から見えた景色を時折思い出し、その度に違う名前であればと胸を痛めて生きてゆくのだろうか。


どこにも行けないが最低ではなく、けれども、一欠片の夢も持たず、諦観にも似た日常を抱えて。




「……………やっと見付けたぞ!!ここにいたのか!」



オレンジも食べてしまったし、いい匂いのするオレンジの皮は持ち帰る事にして、さてそろそろ帰ろうかと立ち上がった時のことだった。

いきなりそんな声がかけられ、リドワリアは、いきなり誰かにひょいと持ち上げられてしまう。



「わぁっ?!」


驚いて悲鳴を上げると、くるりと体を返され、自分を持ち上げている男性が見える。

背の高い短髪の男は、見た事がないような捩じれのある角を持ち、竜であると分かる容貌をしていた。



(……………白いに近い色がある)



白に近い髪色には、青紫色が混ざる。

綺麗な水色の瞳はなぜか、夜を思わせた。


白持ちかもしれないと気付きぞっとしたが、なぜだか、恐ろしいと感じない。

これはどうしたことだろうと目を丸くして、吊り下げられたままその竜を見上げていると、こちらを見ていた青い瞳がふっと柔らかくなる。



「……………名前は何という?」

「な、……………名前は、明かせません。海の系譜の方だとお見受けしますが、……………僕の名前は、海の高貴な方の名前の響きを持っていて、不敬にあたりますから」

「俺の名前は、リドワーンだ」

「……………っ?!」



突然明かされたその名前に、リドワリアは息を呑んだ。


全く同じ響きではないが、どことなく自分の名前に似ていないだろうか。



「……………もしかして」

「お前が持っているのは、俺の名前の欠片なんだろう。本来、この程度であれば問題はない筈なんだが、……俺は、一族の中でも少し特殊でな。人間がその名前を持ったままでいると、何かと障りが出る。……………お前を見付けてくれたご主人様に感謝するといい。なぜだか妙に俺に似た印象の子供を見たと言われなければ、海の妖精達に話を聞いてまで、探してみようとは思わなかったからな」

「僕を、……………探してくれていたんですか?」



誰かに感謝するといいと言われたような気がしたが、リドワリアはこれからどうなってしまうのだろう。


人ならざる者の名前を勝手に借りる行為は、罪に等しいもので、人間の領域の多くでは禁忌とされる。

この国ではもしかすると違うかなと思ったが、そんな事はなく、やはりリドワリアの名前は呪いに近いものであった。



「俺達も、慈悲深い一族ではない。ご主人様がお前の姿を目に留めなければ、放っておいてもいいところだが、あの方の目に留まったものを、このまま死なせるのもまずいだろう。……………まずは、俺が立ち会えば名前を変える事が出来るので、改名させて身を削る名前の繋ぎを切り、………それからは、兄上にでも任せるか。……………小さな生き物が好きだからな」

「え…………。……………ええ?……………あの、ぼ、僕は、この近くの食堂で働いていて!!」



そのままリドワリアを抱えてどこかに移動しようとするので、思わずそんなことを言ってしまった。


すると、こちらを見た精悍な面立ちの竜は、困ったように眉を寄せると、何が問題なのか分からないと言うではないか。


なのでリドワリアは、仕事をしているので急に姿を消す事は出来ず、明日の仕事に出られないのなら、休みの連絡をしなければならないし、どこか遠くに連れていかれるのであれば、借りている部屋の賃料などをどうするのか話し合わなければいけないと訴える。

何しろ、昨日ここひと月分の賃料を払い込んだばかりなのだ。


お金の問題は、どうしても放っておけなかった。



「そうか。そのような事が人間の大事なら、俺も知っておいた方が良さそうだな。ご主人様は人間なんだ」

「……………ご、ご主人様がいらっしゃるのですね」

「そう呼ぶことは許されていないし、お側に控える事も許されていないが」

「それは本当に、あなたのご主人様なんですか……………?」




驚いた事に、リドワーンと名乗った竜は、紳士的であった。


リドワリアの事情をきちんと考慮した上で、けれどもそれなりに強引にその夜の内に手続きを済ませると、ヴェルリアの港町を発ち、その日の夜の内にはもう、リドワリアは夜海の竜の国に到着していた。



あまりにも壮麗な漆黒の王宮と、海の中に差し込む月の光の美しさにリドワリアが声もなく見惚れている内に、リドワーンとその兄だという大柄な竜の話し合いも終わったようだ。

兄竜だという人物は、あまりにも突然過ぎると頭を抱えていたが、リドワリアと目が合うと、にっこり微笑んでくれる。



「随分と小さいな。その体では不自由も多かっただろうが、名前を変えれば魔術が上手く循環するようになる。任せられたからこれからは俺が面倒を見るが、嫌いな食べ物と好きな食べ物は早めに申告しておいてくれ」

「……………たべもの」

「食事と酒は、豊かな暮らしの大事な糧だからな。好まないものを出されると嫌だろう」

「……………兄上、儀式長を捕まえてきましたので、すぐに手続きを済ませてしまいます。俺は、ご主人様の側を離れる訳にはいきませんので」

「………こんな弟だが、我が一族の祝福の子なんだ。王子でもあるのだがなぁ」

「……………王子様に、ご主人様がいていいのですか?」

「ははは、俺もそこが疑問だ!」




豪快に笑って頭を撫でてくれたその人が、リドワリア改め、海を意味する名前を貰った、ハーヴの生涯仕える主人となった。



体が年齢に相応しい大きさに育つまでと言って面倒を見てくれたのだが、父親を知らないリドワリアは彼がすっかり大好きになってしまい、このままお側に置いて下さいと頼み込んだのだ。


奥様からは、求婚みたいねと笑われたが、その頃にはもう夜海の竜の国には親しい友人も出来ていて、ハーヴになったリドワリアは、夜海の竜の王女の侍女であった夜海の精霊を伴侶にして、長らくをその地で過ごすことになる。




「なぁ。………祖国に帰りたいと思うことはないのか?休暇なんぞいくらでもやるし、いつだって、好きに出掛けて、好きなだけのんびりしてからまた、このお前の国に帰ってくればいいだろうに」



ハーヴの優しいご主人様は何度もそう尋ねたのだが、ハーヴは、ここが自分の国ですからと微笑んで首を振る。


やっと行くべき場所を見付けてそこに腰を下ろしたのに、外海に出るなんて御免である。

またいつぞやの夜のように嵐に巻き込まれて、望まない場所に迷い込んだら一大事なのだ。




「いいえ、ずっとここにいさせて下さい。僕は、やっと安心して暮らせて、一緒に過ごせる仲間のいる、食事の美味しい最高の住み家を見付けたんですから」




余談だが、ハーヴの好物はオレンジになった。

あの日の星空の下の桟橋での事を思い出す度に、今の暮らしの幸せを噛み締められるからだ。



あの日のように一個とは言わず、今は好きなだけ食べられるので、時折ジュースにもしてしまう贅沢さである。








明日の更新はSSサイズになります。

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