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秘密の色と見慣れた色





「あなたの瞳の色は、秘密を隠した夜の色だわ」



そう言って女が、満足気に微笑む。

にっこり笑ってそうなのかなと首を傾げながら、紹介制だというティーサロンを見渡した。


こういう店に来るのは嫌いじゃないし、可愛い女の子とデートをするのも好きだけど、時々なぜか息が詰まりそうになる。


でも、嫌いじゃないというのが問題なようで、時々、ぱさぱさのパンを齧ってみたくなるのだ。



(味気なくて甘ったるい。息が詰まりそうな軽薄さだけど、僕は多分、それも嫌いじゃないんだろう。だって、そんな生々しさも、命って感じだもんね)



勿論、デートをする女の子がみんなこうではない。

一緒に話をしていて楽しい女の子もいるし、知らない事を教えてくれる女の子や、夢や理想を持ち、そのために必死に努力している女の子もいる。



(………ただ、僕の一番欲しかったものが、そこにはなかったっていうだけで)



そして、そのたった一つは家族という名前をしていて、もう見付けてしまったのだ。

だからノアベルトは、今迄よりも軽薄に、今迄よりも気負わずに、必要なだけ恋人達の間を渡り歩いていた。


頻度はぐっと減ったけれど、次に会う誰かはきっと何か素敵なものを持っているに違いないと期待する必要はないし、その誰かが期待通りじゃなくても、砂を噛むような虚しさで夜明けの空をじっと見ていなくてもいい。


それは、なんて安らかさだろう。


大勢の者達が賑やかに過ごす舞踏会で、まるで誰もいないような寒々しさを感じなくてもいいし、何かを考えようとしたまま何も考えられずに日が暮れることもない。



何しろ、リーエンベルクの生活は忙しいのだ。




「……………エーダリア、僕を匿って欲しいんだよね」

「また、銀狐の時に何かを壊したのだな?ヒルドであれば、私も一緒に謝ろう。先延ばしにしない方がいいと思うのだが……………」



朝食後に尋ねたエーダリアの部屋で、ノアベルトは不思議な満足感を覚えていた。


ノックはしたけれど、当たり前のように家族の部屋を訪ね、追っ手だけど家族なヒルドから守って貰うのはとてもいい気分だ。

叱って貰うのも好きだが、ヒルドは本当に怖い時があるので、あまり怒らせないようにしている。



「あはは、今日は違うよ。ガーウィンのちょっと面倒なご令嬢が持っていた情報を持ち帰ったからさ、ヒルドが、何をしたんだって怒っちゃって」

「……………ノアベルト。少し座らないか」

「……………ありゃ」



ヒルドに追われている理由を話すと、なぜかエーダリアが瞳を揺らした。


長椅子に座らせられて困惑していると、エーダリアがおぼつかない手つきでお茶を淹れてくれる。

こうして見ているととても不器用だが、魔術師であるエーダリアは、本来このような作業は不得手ではない。


(だから多分、僕にお茶を淹れようとしているから、緊張してるのかな)



緊張なんかしなくていいのにと、こんな時に思う。


でも、大事にしてくれているからこそ緊張してくれるので、こんな時期は今しかないのかもしれない。

いつかきっと、エーダリアが雑にお茶を淹れてくれるようになった頃には、今日の事を思い出して懐かしく思うのだろう。


あの頃も悪くなかったと。



「……………すまない。上手く淹れられていないかもしれないが。たまたま、ポットの紅茶を切らしていてな」

「ってことは、徹夜したでしょ。魔術書かな」

「………っ、今は、私の事はいいのだ。今日は仕事がないので、ゆっくり過ごせるのだしな」

「うん。自由に過ごせる時間は、たっぷり自由にしているといいよ。今は僕もヒルドもいるし、ネア達もいるからね。……………ほら、何かがあって忙しくなる日も少なくはないからさ」

「ああ。……………それで、ガーウィンのご令嬢の話だが…………。……………ポヌマス子爵家のご令嬢ではないだろうな?」

「…………ありゃ。あんな殺伐とした話、もしかしてエーダリアも知らされてたの?」

「ダリルは、私にも知らせておく主義なのだ」

「ああ、そっか。……………ダリルだもんね」



ポヌマス子爵家は、ガーウィンの祭祀を輩出している名家である。


家格は特別に高くはないが、堅実で用心深い一族の気質は、大輪の花を咲かせることはなくとも、絶やさず美しい花を咲かせる程度の実益を上げてきた。



(でも、それは表向きの評価で、……………あの一族はさ、狡賢くて執念深いんだよね)



堅実という言葉には、二通りがあるとノアベルトは考えている。


根に誠実さがあれば素晴らしいものだが、堅実の皮を被った執念深さも、その本来の気質が明かされないままに堅実だと評される事が多い。

そして、ポヌマス子爵家はまさに後者なのであった。


(聖職者向きと言えばその通りって感じだし、レイラあたりは好きそうな気質かな)



信徒の問いかけや不安をよく見抜き、欲しい言葉を与える才能は観察力に長けていてこそだ。


例外的に相手の求める答えをすぐに導き出せる者もいるが、それは個性に近い。

代々一族の気質として受け継ぐには不安定なものなので、ポヌマス子爵家は、観察に必要な知識を集め、訓練によってそれを身に付ける。


後は簡単だ。


柔らかく微笑み、或いは悲し気に瞳を揺らしてみせ、相手の望む言葉を吐くだけでいい。


とは言えそれは、充分に稀有な才能ではあるが、上に立つ者にはまた別の才能が必要となる。

なので、そちらの才能を持たないポヌマスの人間が、己の技量を過信してより階位の高い椅子を目指せば、上に立つに相応しい個性を持つ者達に、即座に粛清されただろう。


己が手でそれなりに立派な椅子を勝ち取る者達は、良い人間か悪い人間かはさておき、観察による共感という才能が狡猾さでもあると気付けるくらいには、慎重だからだ。


だが、ポヌマス子爵家は、決して最上位を望まない一族だった。


二席や三席という地位も望まず、いつも欲するのは四席以下の補佐に近しい席や、大きな組織の中のそれなりに優秀だが中庸であるという役回りばかり。

つまりポヌマス子爵家の人間達は、身に付けた観察力によって、自分達が求められる椅子や役割をも慎重に見定めているのだった。



(それはそうだよね。需要と供給の釣り合いは、いつだって大切だ。そういう意味で、あの一族は、自分達が望まれて大事にされる場所を探すのが得意で、見付けたそこが理想よりも下位であっても、躊躇わずにその場所を選べるだけの賢さもある)



そんな子爵家の娘に、ノアベルトが近付いたのには訳がある。


ポヌマスの者達が、情勢の観察と綿密な計算を以って、単身者が多いリーエンベルクの騎士達の中から、グラストとアメリアに標的を絞り、子爵の娘との婚約の打診をかけようとしていたからだ。



最近、ウィーム大聖堂の教会騎士を通して妙な打診が増えたなと考えたのは、ノアベルトだけではなく、ゼノーシュもであったらしい。


ネアはよく愛くるしいと言っているが、彼だって公爵位の魔物なのだ。

さりげない誘いや相談の体裁を取ったその接触が、人となりを探る為であったり、身の周りの状況を掴もうとしてのことだとすぐに気付いたのだろう。


今回は問題の質を懸念し、ダリルとヒルドが呼ばれ、ノアベルトも参加しての協議となった。


(本来なら、グラストがいてもいいんだけど、求婚の打診が悪意あってのものって訳でもないからなぁ……………)



ポヌマス子爵家の連中は、別にウィームに目や耳となる者を潜入させようとしている訳ではない。

ただ、あの一族の嗅覚で、娘と年頃が見合う者達を見定め、その中からより有益な者をと、リーエンベルクの騎士に狙いを定めただけだ。

嫁いだ先で、もし、その娘がガーウィンに有用な情報を横流し出来たとしても、それはただの成果でしかない。


今はただ、居心地のいい巣を探しているだけの、外来種である。



「でもさ、僕はそれでも排除するんだよ。グラストは兎も角、アメリアにとってはいい縁でもあるのかもしれないけれど、あの一族は駄目だね。…………あの勘の良さと執拗な観察の習慣は、悪意がないからっていう理由だけで受け入れると、刺さったまま抜けない棘になりかねない」



エーダリアまでが、今回の問題について聞き及んでいるとは思わなかった。

となれば彼にも深く関わる内容なので説明しなくてはいけないのだが、とても憂鬱なことでもある。


こんな風に言えば、エーダリアは困った顔をするだろうと考え、ノアベルトは敢えて何でもないことのように、けれどもそれが魔物の狭量さのように告げるしかなかった。


(……………あれ?)



けれどもなぜか、こちらを見た契約相手は、どこか悲し気な微笑みを浮かべる。

その眼差しには、理解と諦観があった。



「そうなのだろうな。…………私も、ポヌマス子爵家の介入や接触は、好ましくないと考えていた。聡明なご令嬢で、騎士達が心を寄せるような可憐な女性だと聞いてもいるのだが、心を情報や商品だと考えている者達は、リーエンベルクの騎士には相応しくない」



きっぱりとそう告げたエーダリアに、ノアベルトは目を瞬く。



「……………ありゃ。エーダリアでも、そんな考え方をするんだ」

「王宮に暮らしていた頃に、………ヒルドが、そのような者達の視線に常に晒されていたのだ。……………母上のところにいた頃の処遇は言うまでもないだろうが、兄上の代理妖精になった後にも、ヒルドを取り巻く環境はまた少し変わった。……だが、その立場は、今度はポヌマス子爵家のような気質の者達を呼び寄せてしまったのだろう。何度か、……そのような目的でヒルドを望まないでくれと言いたいような者達から、ヒルドとの間を取り持てないかという打診をされてな。……………私は、王都では立場が弱かったので、そのような提案を出来る者達もいたのだ」

「……………え、そいつ等、全部殺そう」

「………ノアベルト」



エーダリアが置かれていた環境を、軽視したことは一度もない。


ノアベルト自身も王宮で何度かその扱いを見ているし、想像するのは容易いくらいだろう。

だが、エーダリアが話してくれたことや、そのような憤りをエーダリアが持たねばならなかったという事実を本人の口から聞かされると、途方もなく腹立たしく悲しかった。



「前にさ、……………ヒルドが、王都から来た人間を凄く嫌がっていたんだよね。その時に、堪らなく腹が立った。ヒルドはさ、僕の友達だし、もう家族になったんだから、それが例え過去の事であってもどうしようもなく不愉快だった」

「…………お前が今もその話をしていると知れば、ヒルドは喜ぶだろうな。…………とは言え、二度とそのような話題には触れられたくはないだろう。彼は、誰かに話して心を癒すという訳でもないようだ」



当たり前のようにヒルドを理解し、そんな事が言えるエーダリアにも、二度と誰にも触れられたくない傷があるのだろうか。


もしかしたらそれは、エーダリアが手放さなかったというぬいぐるみに纏わる過去だろうか。

それとも、いつかの死者の日にリーエンベルクに近付こうとした、愚かな死者の事だろうか。



「……………そんな思いや、懸念ってさ、しないで済むならしたくないし、家の気質や教育で相手を判断しない方がいいって考えを人間が好むのは知っているんだけどさ、ポヌマス子爵家は避けたいよね」

「ああ。………そのような判断をせねばならないことも、身勝手で卑怯なことかもしれない。だが、私は、騎士達の主人だからな。余計な世話かもしれないが、棘かもしれないものを、そのまま手に持たせてしまう訳にはいかないのだ」

「うん。まぁ、そういう訳だから、僕がちょっと近付いて軌道を変えてきたんだよね。人間ってさ、どれだけ冷静に判断をしているつもりでも、小さな恐怖や欲望ってどうしようもなく決断を鈍らせるんだ」

「……………今回は、どちらを使ったのだ?」

「恐怖、かな。……………多分もう、リーエンベルクの騎士は望まないよ。ほら、うっかり魔術浸食があったら怖いからね。そんな手法を使うのも、ここの住人には残酷かな?」



微笑んでそう問いかけると、エーダリアは小さく微笑んで首を振った。


今日は休みだからか、いつもよりゆったりとした服装をしている。

きっちりと襟元までボタンを留めていそうなエーダリアが、自室で休む時には、襟元は寛げておきたいという事を知っている者は家族くらいだろう。



部屋のカーテンを開ける無防備さも、すぐに身なりを整えるに至らない襟元を緩めた服装も、判断力が鈍る徹夜での読書も。

その全ては、エーダリアがリーエンベルクに来るまでは、贅沢だったことばかり。


魔物とは違う脆弱な生き物らしい不自由さで、ずっとずっと檻の中にいた子供の願い事だ。


でも彼は、はっとする程に清廉で、ひやりとする程に老成していたりもする。

その複雑さがきっと、魔物としてのノアベルトの目を引いたのだろう。



「そのような策があったのは、盲点であった。望まずに得たかもしれない才能と引き換えに背負う不自由さだが、それが盾になるのであれば、今後も惜しみなく使おう。………安心していい。ウィームの民は、そのような戦い方にも慣れている」

「……………うん。そうだろうね。エーダリアも含めてだけどね」

「はは、そうかもしれないな。…………それと、好んで出掛ける…………その、……女性との約束はいいのだ。だが、今回のようなことをしてまで、リーエンベルクを守ろうとしなくていいのだからな?お前は、そのような時間を過ごしてくると、すぐに疲弊するし、すぐに落ち込むだろう」

「……………ありゃ。……………ええと、これって虐待かもしれない」

「真面目な話をしているのだ。自分で思っているより、そのような関わり方は不得手なのではないか?………あまり無理をしないでくれ」

「……………うん」



そう言ってくれたのが嬉しくて堪らなかったので、そこでは素直に頷いたが、ノアベルトは今後も、必要であれば誰かに微笑み、甘い言葉だって囁くだろう。


その全てに嫌悪感を覚える訳ではないし、その過程のどこかだってきっと楽しめはする。

でも、こんなにも大切なものがあるのだから、そうするべきだと考えたら、躊躇いはするまい。



大切なものが生きていて、それを守れるという喜びには代え難い。



「……………ええ。ノアはそれでいいのだと思いますよ。守れない事程に、取り返しのつかない悲劇はありません。勿論、程々にしておき、私の大事な義兄をあまり磨耗しないことが最優先ですが、それでもと必要に駆られて対策を練る事については、私はそれでいいのだと思います」


同じ話をしたところ、ネアはとても分かりやすい反応をした。


「そういうところ、ネアは、エーダリアやヒルドとは違うんだよね。僕と同じ意見だ」

「そして、環境というものは、間違いなく人間を変えます。異種族間での常識や嗜好が違うように、同じ人間同士でも、環境というものは、それに近しいだけの差を作るものなのでしょう。………でなければ、私とあなたは違うのだという理由で、誰かを異端扱いはしませんし、差別や偏見もない筈です。異国との戦争も随分と減る筈なのですから」



あっさりとそう言ってのけて、ネアは刃物のような灰色の瞳を眇める。


ああ、エーダリアやヒルドの昔の話や、リーエンベルクの騎士を巻き込みかねなかったポヌマス子爵家の暗躍を知り、とても怒っているなと思ったが、こんなネアも可愛いのでそのままにしておこう。



「ネアは、ポヌマス子爵家のご令嬢を、もしかすると純粋で優しい子かもしれないからって、受け入れるべきだとは言わないんだね」

「寧ろ、その一族の方に対し、受けてきた教育や育ててきた価値観とは別のものを有していて欲しいと願うことも、一種の高慢さなのでは?」

「あ、………そっか」

「そして、それはそうとして、私は私の領域がとても大事なので、そこにとげとげを持ち込みかねないものがあるとしたら、ただの疑いの段階からであれ、容赦なく毟り取って投げ捨てます」

「わーお。一番獰猛かもしれないぞ」


気分が良くなってそう言えば、ネアは、ふすんと鼻を鳴らした。


「ここばかりは、綺麗事を言っていても仕方がないですからね。そしてそもそも、アメリアさんの理想の奥様像は、もふもふの毛皮のある、ゼベルさんの奥様のような方です」

「…………… ありゃ。じゃあ、そもそも成立しないんだ」

「なので、出会いを奪う罪悪感もいらないのですよ?どれだけ情報を集めても、その理想の奥様像は、とっておきの秘密なので、表に出る事はありませんけれどね」

「あ、そっか……」

「それと、ヒルドさんが迎えに来てくれるようなので、きちんと話をしましょうね。ヒルドさんは、ノアを心配してくれているのですからね?」

「妹に売られた………」

「まったくもう。家族を心配させてはなりませんよ!」



そう言って胸を張ってみせたネアに、ノアベルトはふと気になって、質問してみた。



「ねぇ、僕の瞳の色ってどう思う?」

「ノアの瞳の色ですか?………毎日見ても綺麗だなと思う、大好きな家族の色です」

「………うん。だよね!」



それは多分、特別ではなくて当たり前のもの。

そうして繋いでおいてくれるから、ノアベルトは、この家をただいまと言って帰る居場所だと感じられるのだろう。


それが嬉しくて口元をむずむずさせていると、扉のところにヒルドが立っている事に気付いた。

完全に気配を絶って近付いてきたようなので、どきりとして背筋を伸ばす。



「…………ネイ」

「ごめんなさい………」

「謝る事ではないのかもしれませんが、私は、あなたを、そのような形で摩耗するのは御免です。………少し話をしましょうか」

「え、連行されちゃうの………?」

「おや?以前に私にこのような話をしたのは、あなただったように思いますが?」

「あ、自分で自分の首を絞めたってことになっちゃったのかな………」



ヒルドに連れられて続き間に抜けると、そこにはシルが立っていた。


部屋にいないなと思ったけれど、ネアと二人きりにしてくれたのか、仕事部屋の方にいたらしい。

こちらを見る眼差しは、どこか心配そうでもある。



「………その、ノアベルトにも、ギモーブをあげた方がいいのかな」

「え、それって、アルテアがネア用に作ったやつじゃない?!」

「……疲れてはいないかい?」

「……………うん。疲れてはいないよ。僕の家族がみんなここにいて、今日もご機嫌だからね。でも、やり方を間違えたかもしれなくて、ヒルドに叱られるかもしれない」

「…………叱るばかりではありませんよ。今後、あなたが無理をしないよう、互いの認識を擦り合わせておくだけですからね」

「それならいいのかな………」

「あれ?ヒルドの目、本当に笑ってる?!怒ってない?!」




後日、ポヌマス子爵の娘の婚約が発表された。



人間に擬態していた高位の人外者に遭遇してしまい、指先が魔術侵食により結晶化したその娘は、王都の医療院の魔術師に嫁いだそうだ。


子爵家の娘の相手としては格下過ぎやしないかと言われはしたが、商人や船乗りの多い王都では、階位以上に重用される役職である。


ガーウィン側からすればそれなりの繋ぎを得たという婚姻になりそうであるし、王都の側からしても、治療の為に通っていて出会ったと言われてしまえば反対も出来ない。

せいぜい、有能な魔術師がガーウィンに引き抜かれないよう、ポヌマス子爵家にもそれなりに甘い汁を吸わせておくしかないだろう。


やはり、あの一族は自分の居場所の見つけ方が上手いのだ。




余談だが、子爵家の娘はすっかり人外者に怯えるようになってしまったので、当初、子爵家側から提案されていたウィームへの新婚旅行は、すぐさま、ヴェルリアの小さな島に変更されたそうだ。


魔術侵食を受けた体では、そうそうウィームには足を踏み入れられないだろう。

何でもない街角にも、高位の人外者がいる土地なのだ。


そして、その娘が受けた魔術の障りが、偶然などではなく、ウィームを守護する者たちの齎した障りではないだろうかと、彼らは疑い続けるだろう。

過分に望むこともそれによる不利益も好まない一族は、慎重に慎重に、過ぎたる椅子や危うい住処を避け、ウィームからは遠ざかってゆくに違いない。



身の程を知り、不用意な危険を冒さないのが、あの一族の評価するべき点である。

この世界には、どれだけ興味を惹かれても不用意に覗き込んではいけないものもあるのだと知った彼らの囁きが、戒めとして残ることを願うばかりだ。








明日6/14の更新は、お休みとなります。

TwitterにてSSを書かせていただきますので、もし宜しければご覧下さい。

なお、次の更新はバルバの予定です!

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