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霧の朝と鯨の影




それは霧深い朝であった。

ウィームは気温の変化があったことで、しっとりとした深い霧に包まれており、雪深いこの季節に霧がこれだけ立ち込めると、白に灰水色がかった不思議な世界に迷い込んでしまったような気持ちになる。



しゃわりと光るのは、霧の系譜の妖精や精霊だろうか。

ぼうっと燃える鉱石が風に流れる霧の隙間に見えたが、すぐにまた霧の向こうに隠されてしまった。




(ここは、どこかしら……………)




そんなことを考え、ネアは周囲を見回す。

覚えのない装いでもこもことして歩き難く、なぜこんなに着膨れしているのだろうと、首を傾げた。



直前に何かあったかなと記憶を辿れば、何かが顔に激突してきたような朧げな記憶が蘇る。



(そう言えば、人形劇の最後に…………)




毛玉のようなものが、ネアの顔面を襲ったのだ。




そう思い出し、ネアはさあっと青ざめる。

ここは禁足地の森のようだし、鏡などが近くにある筈もないのだが、自分の顔がどうなってしまったのか、怖くなったのだ。



まずは鼻があるかどうか触れて確認してみたかったが、そもそもなぜ森を歩いているのかが分からない以上、鼻がなかったことに気付いて弱ってしまうのは避けたい。




「ふぎゅ……………」




けれども、鼻がないかもしれないと考えると、不安になってあれこれと思い悩み初めてしまう。

か弱い乙女に、なんという仕打ちだろう。



(もう伴侶がいるから、鼻がなくなってもお嫁に行けないということはないかもしれないけれど、これから先、二度と鼻をかめなくなってしまうし、みんなから鼻がないと馬鹿にされるんだわ…………。もしかしたら、ディノだって怖がってしまうかもしれない…………)



悲しい予感にへにょりと眉を下げたネアは、そのままどこかへ歩いてゆこうとして、むぐっと体が動かなくなった。



「むが!」

「ああ、良かった。まだこちらで目を覚ましたばかりだね。魂の後ろ側に滑り落ちてしまうなんて、君が迷子になったらどうしようかと思ったよ……………」

「ディノ………………」



どうやら、背後から忍び寄った魔物がふわりとネアを拘束してきたようだ。

鼻がないかもしれない人間は、頼もしい魔物に出会えてほっとしたものの、慌てて両手で顔を隠す。



「…………ネア?」

「……………ふぎゅ。あの毛玉めに、がつんとやられたのです。お鼻がなくなってたら恥ずかしいので、こうして顔を隠していることを許して下さいね」

「……………もしかして、それが悲しくて後ろ側に滑り落ちてしまったのかな?」

「滑り落ちる的な自覚はないのですが、気付いたらここにいました……………。ここは、どこか不思議なところなのですね?」

「以前、郭公の訪れがあった時に話した、人間にある魔術回路の一つだよ」

「こんな風に、霧と雪のところもあるのですね……………」

「いや、このように霧が出ているのは、ウィームが濃霧だからだろう。…………君は恐らく、一度目を覚ましてから、…………何か、とても悲しいことがあって、心や魂の後ろ側に滑り落ちてしまったんだ」



そう言われて考えてみたものの、人形劇の後に毛玉に激突された記憶しかなかった。

しかし、心を締め付けてずしりと重くするような感覚はずっとあって、その意識は全て、顔面が酷いことになってやしないかという思いに支配されている。



「…………よく思い出せませんが、恐らく、顔が心配だったのだと思います。……………こうしている今も、鼻がなかったらどうしようととても怖いので、目を覚ました私が失踪したのなら、鼻がなかった可能性も……………」



そう呟きじわっと涙目になったネアに、ディノがふつりと微笑む気配がした。


こちらを覗き込む眼差しは美しく、額にかかる真珠色の髪も艶やかだ。



「安心していいよ。君の顔はどこも損傷していないから。どうやら、あの石束子の妖精は、触れることで、持っている束子が長持ちする小さな祝福を授けるらしい。そのせいで、守護結界が機能しなかったんだ。ごめんよ、ネア」

「……………か、顔は平気なのですか?」

「うん。どこもおかしくないから、安心していいよ」

「…………………ぎゅ」



そう言われて漸く、ネアは自分の顔を手で撫でてみた。



(…………ちゃんとあるわ…………)



確かにどこも減ってないようだし、穴が空いている気配もない。

そして嬉しいことに、触れても痛くないし傷などもなかったようだ。




「……………もしかして、怪我もしてません?触っても痛くないみたいです」

「……………今朝までは、祝福が強く作用し過ぎてしまったものか、微かに赤くなっていたんだ。祝福を取り除くのは意外に難しくて、元に戻すのが遅れてしまったから、君はそれを見て悲しくなってしまったのかな?」

「……………赤く…………」



そう言われたところで、まだ夜明け前の薄暗い部屋で、グラスに映った自分の顔を見て愕然としたような記憶が揺れた。


ゆらゆらとさざめく怖い夢のようにも思えるが、あれは覚醒時のことで、それが悲しくてこんなことになっているのかもしれない。



また眉を下げていると、ディノが二人の体の位置を入れ替えた。



「おいで、………うん。もう怖いものは何もないし、顔の赤みはウィリアムが取り除いてくれたからね」

「まぁ、ウィリアムさんが来てくれたのですか?」

「今回は良きものとして授けられたものの反応だから、終焉の魔術がないと安全な排除が出来なかったんだ。…………石束子の祝福はなくなってしまったけれど、もう一度欲しいのなら、捕まえてきてあげるよ」



鼻があると聞いてから安心して体をディノの方に向けてはいたが、悲しげな声でそう言う魔物にそっと抱き締められると、ほっとする。

しかし、石束子なる謎めいたものを捕まえる話になってしまい、ネアは、慌ててディノを見上げた。



「…………い、いえ。考えてみましたが、それはもうなくても良さそうです!」

「うん。それなら良かった。帰ろうか」

「はい」




微笑んで頷くと、ディノもほっとしたようだ。



ネアはふわりと持ち上げられ、お馴染みの淡い薄闇の転移を経て、見慣れた部屋の中に戻った。

けれどもそこで、くるりと視界が反転するような眩暈に襲われ、思わず目を閉じてしまう。





「………………む?」

「おはよう、ネア」



次の瞬間、ぱちりと目を覚ませば、そこには白金色の瞳を細めたウィリアムの顔があった。

真上から覗き込まれているので、位置的に考えれば、ウィリアムの膝枕で横になっていたらしい。



こちらを見下ろして微笑むのは、第二席の終焉の魔物だ。

仕事帰りにそのまま来てくれたものか、純白の軍服姿は、座っているであろう長椅子にくしゃりとなったケープの裏地がはっとする程に赤い。


よく見れば最高位に近しい魔物らしい怜悧な美貌なのだが、なぜかこの魔物には、せいぜい端正な面立ち程度の近所のお兄さんのように思わせてしまう不思議な空気感がある。


それは、彼の司る終焉の要素が、雑踏に紛れるもの、或いは日常に隣り合う身近なものとして存在するからだそうで、その特性を生かしてなのか、あまり仕事のない時には人間に混ざって暮らしていたこともあるらしい。




(………………良かった。瞳の色も暗くないし、疲労感もあまり濃くはないから、酷い戦場からの帰りではないみたいだわ……………)



ネアがウィリアムに会うと、まず最初に確認してしまうのはそんなところだった。



終焉の魔物の仕事は過酷で、誰かの穏やかな一生の最後に寄り添うことは殆どなく、系譜の王として駆り出されるのは、殆どが凄惨な戦場や、災害の後の無残な村々、疫病で滅ぼされた町などだ。


そのような悲劇の地に下り立ち、死者の行列を率いて死者達を死者の国に送る仕事をしていることから、彼は死者の王と呼ばれて畏れられ、忌避される。


人間が好きだというウィリアムにとって、それはどれだけの苦痛だろうか。



幸いにもネアは、ディノの指輪のお蔭でウィリアムから望まない影響を受けてしまうことはない。

その結果、ウィリアムにとってのネアは、自分がその破滅を司らなくてもいい希少な人間で、同時に二人は、ディノを挟んだ友達でもあるのだった。



「…………ん?どうした?」

「ウィリアムさんの目を見ていました。昨晩までのお仕事は、大丈夫でしたか?」



そう答えたネアに、ウィリアムは微かに目を瞠って、途方に暮れたような無防備さを垣間見せる。


すぐに穏やかな微笑みに切り替えてしまったが、人間にこうして接して貰うことに慣れていないのだ。

今ではネアだけでなく、エーダリアやグラストなど、ウィリアムに接する機会の多かったこのリーエンベルクの他の人間達も、彼をきっとこのように労わる筈だ。



「はは、………………そんな風に迎えられると、…………堪らないな」

「……………悲しいことがあったのです?」

「いや、大丈夫だ。……………何はともあれ、ネアが無事に戻ってきてくれて良かったよ。…………ああ、シルハーン、無事に目を覚ましましたよ」

「うん。顔が赤かったのが悲しかったようだね。君に相談して良かったよ」

「ん?それで、魂の後ろ側に逃げ込んでいたのか。てっきり、石束子の妖精が怖かったのかと思ったんだが、そこは女性なんだな」




そう微笑んだウィリアムの隣には、ディノが気遣わし気に立って、こちらの様子を見てくれる。


ネアは、二人を心配させないようにと先程から体を起こそうとしていたのだが、何だか首の様子がおかしくて上手くいかずにいた。



むぐぐっと眉を寄せると、こちらを覗き込んだ二人の魔物が不思議そうな目をする。

ここにいるのが、この世界に二人しかいない魔物の王族な二人なのだと思えば、何だかもの凄い光景なのかもしれないが、同じ棟に住んでいるノアだって、元王族であるし、使い魔な魔物は第三席だ。




「ネア……………?」

「く、首が……………ぐぎぎ……………」

「………おっと、もしかして、首を痛めたか?」

「首が痛いれふ………………」



頑張って少しだけ体を動かしたことで、ネアは、何の手だても気遣いもなく、自分がそのままウィリアムに膝枕をされていたことに気付いた。


しかしながら、太ももと長椅子の座面との高低差を考えていただければ、ネアの背中の下に何かを敷くような繊細な心遣いが必要だったのは間違いない。

とは言え、顔面を赤くしたネアを救う為にウィリアムは来てくれたのだから、ここでその事実を口にするのも憚れた。


何という心の豊かさだろうと、己の慈愛の心に感心しつつ、ネアは、どうやら眠っている時に寝違えたのか、あの妖精に直撃された時に首を痛めたのかもしれないと言っておいた。



「君を寝かせる前に一通り治癒は施しておいたから、寝ている間に首を痛めたのかもしれないね。可哀想に、痛かったのだね……………」

「…………………そして、いつの間にか、寝間着に着替えております」

「………………うん。コートのままでは眠れないだろう?」

「そしてなぜに、寝間着の上からカーディガンにガウン、ストールでもこもこなのでしょう?毛糸の靴下も履いております…………」

「ノアベルトがね、着替えさせた後で薄物だと、君が不安になるかもしれないと言うから、沢山着せておいたよ」

「……………むぅ。それでもこもこだったのですね……………」



ネアは、そう呟きささっと視線を泳がせた。

もう伴侶になったのだから、着替えさせて貰うのもおかしくはないのだが、以前のように荒ぶれない分、何だか気恥ずかしくて頬が熱くなってしまう。


若干、巻かれたストールが背中の裏でごつごつしてしまい、これも首を痛めた原因ではないかなと思わないでもなかったが、ネアはここでもにっこり微笑んで、頑張った魔物に有難うと伝えておく。



ウィリアムに手助けして貰い何とか体を起こせば、何某かの要因でぐきっとなった首は、すぐさまディノが治してくれた。

無事に鼻が欠けていないことも確認し、痛いところもなくなると、先程までいた場所のことを少しだけ考えてみたりもする。




「……………ディノ、私が先程いた場所も、迷い込むと危ないところなのでしょうか?」



そう尋ねると、ディノは水紺色の瞳を思わし気に翳らせた。



昨晩、ネアが意識を失ってしまっていたからか、三つ編みが少しだけ乱れており、きっとこのまま眠ったに違いないので、後で綺麗に梳かして編み直してやろうとネアは心に留めた。

リボンも、二日続けて同じものを結ぶと皺になってしまうので、昨日とは違うものに取り換えてやろう。



「あの場所はね、郭公の時のものとは違って、どこか外側に繋がるようなところではないんだ。けれどもとても広い事が多く、その心や魂の持ち主の心象風景を映すことが多い。魔術の弊害で落ちることもあるけれど、恐ろしい思いをしたことで、心を損なった者が迷い込むことが多いんだよ」

「…………まだ、ぼんやりとしか思い出せないのですが、顔が赤かったのがとても辛かったのかもしれません。…………そういうところだったのですから、ディノには怖い思いをさせてしまいましたね…………」

「ウィリアムがすぐに気付いてくれたから、入り口のところで捕まえられた。眠りの淵の浅い覚醒状態から入り込んだから、あの辺りはまだウィームの森だったようだね」

「ウィリアムさん、重ねてご心配をおかけしました…………」



ネアがあらためてお礼を言えば、ウィリアムはにっこりと微笑む。

幸いと言うべきか、悲しいことにと言うべきか、ウィリアムは人間が己の心の内側に逃げ込む事例を多く見て来ているので、ネアが後ろ側に滑り落ちた瞬間にそうだと分ったのだそうだ。



無事に元気になり、ネアは立ち上がり、乳白色の霧で隠された窓の外を覗いてみた。

先程目を覚ました場所によく似てはいるが、そこは見慣れないどこかではなく、自室の前の庭だと分るようなおぼろげな輪郭も見える。




「……………ほ、ほわ………………」



いつものリーエンベルクのいつもの部屋だとほっこりしたネアだったが、ふとその霧の向こうに、得体の知れない大きな生き物の影が揺れた。


どう見ても家くらいの大きさはあるので、驚いてしまって慌ててディノの後ろに隠れると、後ろに隠れられたことで弱ってしまった伴侶の代わりに、ウィリアムが一緒に窓の向こうを覗き込んでくれる。



「ああ、鯨の影だな。ウィームでは珍しいが、このあたりは守護で守られているから、出ては来られないだろう。念の為にエーダリア達に知らせておいた方がいいと思うぞ」

「く、鯨さんだったのですね。てっきり、ホラー的なやつかと思って、ぞわりとしてしまいました…………」

「かわいい、ネアが背中に隠れてくる……………」

「顕現すれば、厄介な生き物だからな。霧は扉になることが多い。雪の系譜の強い時期のウィームにこれだけの濃霧は珍しいと思っていたが、気温差だけではなく、鯨が近くのあわいを彷徨っていた可能性もあるな」



顎に片手を当ててそう呟いたウィリアムは、慣れた様子で、ネア達の部屋の魔術通信端末の所に行くと、通信に応じた誰かに鯨の影があると報告してくれた。

幸い、もう起床時刻であるので、ヒルドが起きていて対応してくれたようだ。

既に鯨の情報は、見回りの騎士達からも入っていたらしい。



「全部で、四頭の鯨が目撃されているらしい。鯨に追われた者か、鯨を呼ぶ本がこの近くに迷い込んだな……………」

「……………まぁ、鯨さんは本に呼ばれてしまうこともあるんですか?」

「ああ。鯨は読書家なんだ。他にも、煙草の煙に誘われることもあるから、アルテアは鯨除けを持っていた筈だぞ」

「むむ。そうなると、使い魔さんを招聘すれば、追い払えるのかもしれません」




ネアがそう言えば、ディノが、それはどうだろうねと首を傾げた。


鯨たちはまだこちら側に出てきていないので、この状況では、鯨除けは効果がない可能性が高いという。

今はこのままどこかに行ってしまうことを期待しつつ、万が一に備えておき、鯨がこちら側に出て来てしまった場合には、鯨除けを焚くといいのではないかと教えて貰い、ネアはこくりと頷いた。



(……………何度か遭遇したことはあるけれど、こんな風に近くに、その影を感じたのは初めてだわ……………)



鯨は、その資質や属性、成長過程で様々な形に姿を変える生き物だ。

バルバで食べる青い胡瓜的な姿だったり、正式な名称は、また別の系譜の生き物に分類されるものの、砂漠に現れる砂鯨や、古い書庫で本が凝って鯨になったりもする。


厳密に鯨と呼ばれるのは一種のみだが、大まかに鯨として認識される輪は、実はかなり広いのだという。



「アルテアは、朝食後にまた戻ってくるようだから、その時にまだ鯨の影があったら、鯨除けを借りておくかい?」

「……………もしかして、アルテアさんも来てくれたのですか?」

「昨晩の内に、慌てて様子を見に来たよ。あの劇を見ていた子供達が、ウィームの歌乞いが死んでしまったと勘違いして怖がっていたんだ。その騒ぎをどこからか聞きつけてきたらしい。観客の中に一度アイザックの姿を見たから、彼が伝えたのかもしれないね」

「まぁ、…………アルテアさんにもご心配をおかけしてしまいました。もう大丈夫なので、鯨さんの問題が落ち着けば、わざわざ戻ってきていただかなくても大丈夫かもしれません……………」

「ネア、……………。その、………アルテアは、葡萄ゼリーを作りに戻ったんだ。君が、体調が悪い時には欲しがる筈だと話していたのだけど、欲しくないかい?」

「ぶ、葡萄ゼリー!!」




その朗報に、ネアはぱっと笑顔になった。


せっかくの人形劇を最後まで観られなかった落胆や、祝祭の最後の方で気を失ってしまったのだから、エーダリア達にもきっと多大な迷惑をかけたに違いなく、石束子めという暗い感情が胸の底で凝っていた。


そんなもやもやした思いが、葡萄ゼリーへの思いにふわりと軽くなる。




「ウィリアムさんも、一緒に朝食を食べてゆけるのですか?」

「ああ。今日は夕方まで時間があるからな。鯨のことも気懸りだし、暫くはここにいようと思っている。先程の通信の時に、ヒルドからも、朝食の準備があるので時間があれば食べていって欲しいと言って貰ったよ」

「ふふ、さすがのヒルドさんです。私の記憶が確かなら、今日はあつあつジャガイモグラタンが出る筈ですよ」

「それは楽しみだ」



微笑んで頷いたウィリアムには少し部屋で待っていて貰い、ネアは顔を洗って着替えを済ませてしまうと、昨晩は怖い思いをさせてしまったディノの髪の毛を丁寧に梳かしてやった。



大事に三つ編みを編んでやり、今日は夜色の黒いリボンをきゅっと結べば、本日の三つ編みの仕上がりに魔物も嬉しそうに目をきらきらさせる。




それは、ウィームが濃い霧に覆われた不思議な朝だった。



あたりには霧が立ち込め、その中を巨大な鯨の影が行き交う。

鯨達は昼過ぎまで霧の中をゆうゆうと泳ぎ回っていたが、ウィームには入れないと分ると、諦めて去っていったようだ。



傘祭り用のビーズの腕輪を作る予定だったので外出の予定はなかったが、外に見回りに出た騎士達は、どこからともなく聞こえる鯨達の鳴き声に落ち着かない一日だったらしい。


エーダリアが特別な魔術で結晶化させた鯨灯を作り、どうして鯨が集まってしまったのかの原因は、今後解明されると言う。



ネアは、今回のヴァロッシュの祝祭での事故以降、毛玉状の生き物を見ても油断せずに、まずは固くないかどうかを警戒するようにしている。




なお、葡萄ゼリーはとても美味しかったので、三個も食べてしまった。








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