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お茶の時間と下敷きの下




「おや、お疲れですか?」


仮縫いのドレスのチェックが終わり、くしゃんと長椅子に崩れていると、ヒルドがそう微笑んだ。

急遽秋告げではなく別の舞踏会で着る事になったドレスは、最終的な修正などがあり、一度シシィが持ち帰るそうだ。



「今回はヒルドに追い出されませんでしたね」

「ですが、もう良いでしょう。お帰りの案内をいたしましょう」

「まったく、これだから独占欲の強い男は…………」

「おや、シシィ。大きな独り言ですね。聞こえておりますよ?」



ヒルドとそんなやり取りをしているのは仕立て妖精のシシィで、本日は艶やかな秋色のパンツスーツだ。


裾広がりのパンツは小粋な縫製でシンプルながらにお洒落なジャケットとお揃いなのだが、なぜかひらりと裾が揺れて軽やかに見える。

上着と同じ秋冬素材のウール地をこんなにも違う質感に見せる縫製の技術に感動しつつ、ネアは、背中の真ん中部分から広がるマントのような形状を取り入れた上着の可愛さに、もう一度唇の端を持ち上げた。


手足が長く髪の短いシシィだからこそ襟元のリボンの形などが小粋に見えるので、ネアには楽しめないデザインである。

とは言え、こうして眺めていいなぁと憧れるのは素敵な贅沢さなのであった。



(私にも、短めの髪型が似合えば良かったのだけれど…………)



何度か憧れた事もあるが、ネアは、あまり短めの髪型が似合わない。


それは練り直しという行為を経てこちらの世界に移り住んでからもそうで、きっと、表情や気質なども大きく関係しているのだろう。

以前の世界と造作自体はあまり変わっていないので面立ちのせいかもしれないが、身に持つ色相が変わった事で、もう少し可能性が広がると思っていたネアはがっかりしたものだ。


なお、ディノにそんな話をしたところ、ご主人様が髪を切ろうとしていると思った魔物はすっかり衝撃を受けてしまい、ネアが減ってしまうと一日めそめそしていた。

どうやらこちらの世界では、そのような障害もあるようだ。


(魔物さんは、生まれながらに姿形が固定しているから、尚更なのかも。アルテアさんがよくやるように、その上でアレンジを加えて雰囲気を変えたりするのが上限なのだもの。………ある日突然、自分の持つ印象に飽きてしまったりはしないのだろうか…………)



そんな事を考えてしまったネアだったが、そもそも、魔物達は何かを司る存在だ。


系譜を持つという区分の竜や妖精とは違い、容姿的な自由はかなり狭い。

それは勿論、色合いや造作を変えると司るものの資質から外れてしまうからなのだが、突然雰囲気を変えてみたくなるというような自由がないのだと思えば、何だか大変そうだなという気もする。


だが、本来ならその自由がある筈の竜や妖精も含め、人外者達はあまり自身の印象を変える事には積極的ではないようだ。

突然髪色の変わった妖精などは見ないので、系譜で区分されている者達にも、ある程度は厳密な決まり事があるのかもしれない。



「少しこちらの部屋でお休みになると良いでしょう。新しい紅茶をお淹れしました」

「…………ほわ、クッションにもたれていたら、目を瞑ってしまっていました」

「仮縫い合わせは、同じ姿勢を保っていたりしなければなりませんから、知らずにお疲れになったのでしょうね」


いつの間にかまたしてもくしゃんとなっていたらしく、ネアは、前のテーブルに紅茶を置かれて慌てて体を起こした。


自室ではないのだが、やはりリーエンベルクの中にいると緊張の糸が切れやすい。

新しい環境への対応がそこまで得意ではないネアだが、リーエンベルク内の客間であれば、幾らでもお昼寝出来てしまう。


強欲な人間は、ここを丸ごと家だと認識しているのだ。



「まぁ、とってもいい香りですね。有難うございます」

「ネイやディノ様たちが協議している、今年の茶葉ではありませんのでどうぞご安心を」

「リーエンベルクでも、一種類発見されてしまったのですよね。美味しそうなブレンドだったので、少し残念です」

「ええ。ああして流通するまでの生産者の努力を踏みにじったのですから、相応の報いは受けるでしょう。ですが、アルテア様やネイ達の懸念するように、これだけ市場や生活に大きな影響を与える事故ですので、その裏についてもしっかりと精査してゆかねばなりません」


その言葉に、ネアはこくりと頷いた。


「ディノから教えて貰いました。たまたまこれだけ大きな影響が出たのではなく、その殆どが陽動や目晦ましに過ぎない、罠である可能性もあるのだと」

「今回は高級茶葉でしたので、そのような見方は必ず出るだろうと思っておりました。特定の土地のものであれ、各国の要所に流通している事くらいは事前に調べられますからね」

「…………今回は、犯人めが茶葉に悪さをした理由は、伏せられているのですよね?」

「そう考えますと、禁忌に触れるような要因、或いは祟りや障りを経緯に持つ行為なのでしょう。あくまでも、発端となった理由は、という事ですが」



世界各地を騒然とさせた、茶葉に悪さをされた事件は、なぜそうするに至ったかの行動理由の一部が伏せられている。

魔術的に不利益があるのでと敢えて明かされないと聞けば、込み入った事情もあるのかもしれない。

だが、そこから先の考察や解決はネアの仕事ではない。


こちら側にも大切な仕事があるのだとすれば、諸注意に耳を傾け、うっかり巻き込まれないようにする事だ。



「ふぁ。お花の香りと果物の香りが…………」

「秋の紅茶ですので、このような季節に見合った天候の日は宜しいかと。昨年の物が残っていて幸いでした」

「ふふ。こちらの世界の保存魔術の偉大さには、感謝するばかりなのです」


紅茶そのものは、元々そこまで保存可能期間は短くないが、魔術保存の恩恵を受けられる土地ではその上限を大きく超えての保管が可能となる。


特にリーエンベルクのように、専用の保存部屋のある場所では、最長では十年単位での期間延長も可能だ。

とは言え、エーダリアは必要以上に長い保存を望む方ではなく、季節ごとに新しく仕入れる銘柄と保存に回す銘柄をしっかり分けて管理していた。



(今回は、一つの畑の茶葉だけで済んだけれど、歴史上では紅茶の妖精さん達が大暴れをして、三年間も新しい紅茶が出回らなかった事があるのだとか…………)



そのような事が起こると、生産業者そのものの疲弊にも繋がり、扱いが再開しても市場の回復には時間がかかる。

リーエンベルクのような施設では、そうした可能性を見越しての危機管理もなされているが、これは日常生活に向けた領主の館としての運営に必要不可欠な品、全てに於いてである。



ほこほこと、紅茶のカップから湯気が上る。

いい香りと美味しい温かさに、ネアはすっかり体がくたりとなっていた。

休憩時間なのか、隣に座ってくれたヒルドの体温に、むにゅりと頬を緩めると、何だか素敵な気分ではないか。


今のネアは、美味しい紅茶を自由に飲めるし、大事な人と並んで椅子に座るという贅沢が許されている。

小さなティーバッグを、如何に薄く何杯にも分けて飲むかばかり考えていた頃を思えば、紅茶が何種類もあるだけでもこの上ない幸せであった。



「…………ふぁ。幸せでふくふくします」

「このような時間もいいですね。………王都では、あまり縁がありませんでしたから」



隣でそう言って淡く微笑んだヒルドを見上げ、ネアは、友人達との休憩などもなかったのかなと首を傾げた。

尋ねてみたいが、場合によっては心の傷に触れてしまうのであまり穿り返したくはない。

少し躊躇いもぞもぞしていると、こちらを見たヒルドがふわりと微笑んだ。



「どんなご質問にも、お答えしますよ」

「…………む、むぐ。では、王宮では、自由な時間にお茶をしたりなどは出来たのですか?」

「ヴェンツェル様の侍従になってからは、同僚と休憩をする事もありましたよ。エーダリア様と初めて出掛けたのは、あの方がガレンに籍を移してからですね」

「ふふ、エーダリア様はきっと、とても嬉しくて幸せな日だったのでしょうね」

「最初は、昼食に出ただけでしたが、…………良い日でしたね」



懐かしむように柔らかな微笑みを浮かべたヒルドの瞳は、どきりとするような綺麗な瑠璃色だ。

並んで座る長椅子には羽の影が落ち、こちら側に流している髪の毛の孔雀色が麗しい。


ヒルドが着るのは自分の持つ色彩の領域の服が多いのだが、時折、黒などの装いになるとぐっと印象が華やかになる。

そんな時はもうはわはわするしかなく、ネアは、銀狐カードもいいが、ヒルドのカードも欲しいと思う次第であった。



(……………妖精さん)



時々、こうしてヒルドが隣に座っているだけなのに、ネアは心がはしゃいでしまう事がある。

ぴょこんと跳ねた胸に落ち着き給えと申し付け、隣のヒルドの羽の美しさに魅入られてしまわないようにした。


妖精の粉とは別に、ネアはヒルドの羽が大好きだ。

ふくよかな青緑と付け根のあたりの菫色の組み合わせがヒルドの妖精らしい美貌を引き立てていて、おかしな言い方だが、浮ついた妖精ではなく、これは本物のお伽話の妖精なのだと思わせてくれる。


だが、ネアの不徳の致すところでもあるが、見つめてしまうと粉を強請っていると思われかねないので、こっそりと愛でるべきなのだ。


断じて粉が美味しいからではない。

ネアは、一人の美しい妖精を見ているのだ。



「…………ネア様」

「…………は!はい!」


ふっと潜めるように囁かれた声音の甘さに、ネアは、びゃっと背筋を伸ばす。

決して悪い事を企んでいた訳ではないのだが、何となくやましい気持ちになるのはなぜだろう。

僅かにこちらに体を捻った事で表情が逆光になり、奇妙な背徳感を覚える。


すいと伸ばされた指先が唇に触れ、ヒルドの秀麗な額にこぼれた髪が、さらりと揺れた。

密度が濃く、髪色と同じ美しい孔雀色の睫毛の落とす影はどこか物憂げだ。

唇の端を持ち上げ、淡く淡く、けれどもどこか捕食者のような不可思議に危うい微笑みを浮かべたヒルドは、この上なく美しかった。



(ああ、この人はやはり、王様なのだ…………)



そんな表情には脆弱さの欠片もなく、その心を損ねる物を容易く滅ぼしてしまえるであろう災いの影すらある。


何となくだが、彼を隷属として手中に収めた王妃達は、運が良かっただけだったような気がした。

一度目の彼は一族の為に首を垂れ、二度目の彼は、鎖をかけられたまま心を動かす対象を喪った。

かけられた鎖を解き、最後に手に入れたエーダリアを奪われたなら、この妖精はヴェルクレアを滅ぼす毒になったかもしれない。


ネアがいつかの嵐の中で見た妖精よりも、あの林檎の木の妖精よりも、障りを出せば最も恐ろしいのは、この妖精なのではあるまいか。


話を漏れ聞く限りなかなかに狡猾なこの国の王が、厄介な王妃を宥めたお気に入りの妖精をそのまま逃がしたのは、そんな未来を呼び込まない為だったのかもしれない。


何しろ同じ最高位の妖精のひと氏族は闇であるが、ヒルドの系譜は湖であり森である。

その上、唯一光竜を狩る事を可能とした、武勇に長けた妖精なのだ。



(それが例えば、エーダリア様が最近になって階位を上げたように)



同じ土地で暮らし、潤沢が過ぎる魔術の恩恵を受けているのは何もエーダリアばかりではない。

ヒルドは、妖精種の中でも階位上げを可能とする、育むという資質を持つ妖精なのだ。



「………失礼、粉砂糖が」

「むむ。…………は、恥ずかしいです。拭ってくれて、有難うございまふ」

「いえ。私はこうして世話を焼くのが好きなようですから」

「で、ですが、淑女としては、食べたばかりの栗の焼き菓子の粉砂糖をつけているのは、なしなのですよ………」


悲しい思いでそう伝えると、ヒルドはくすりと笑い、時々こうしてお世話をさせてくれませんとねと悪戯っぽく笑う。

そこでネアは、ぎゅうと体を寄せてヒルドの耳元に唇を寄せると、銀狐がまたプールで遊んで貰おうと画策している旨を伝えておいた。


「…………やれやれ。あの時は、エーダリア様の体力がありましたのでどうにかなりましたが、私一人だと厳しいかもしれませんね。ディノ様を連れて、ネア様もご一緒しませんか?」

「ふふ。家族でプール遊びを楽しむのもいいですね。これからお外は寒くなってゆくのに、屋内でプールを楽しめるのはとっても贅沢ですから」

「そう言えばネア様は、こちらに来たばかりの頃に、リーエンベルクにはプールもあるのかとグラストに尋ねたそうですね」

「ぎゃ!」

「ですので、ディノ様のプールを作った際に、やはりプールがお好きだったかと、グラストが話しておりましたよ」

「ち、違うのです。…………あの時の私はまだ、王宮やお城のようなところに暮らしている方の暮らしぶりがよくわからず、お金持ちの方や、偉い方のお宅にはプールがある可能性も高いのではと思ってしまいました。……いずれ、私はここを出てゆくことになるだろうと思っていたので、リーエンベルクに在籍している間に、使える館内施設は余さず楽しもうと思っていたのです………」


勿論、当時のリーエンベルクにはプールはなく、ネアは、困ったように申し訳ないと言ってくれたグラストの顔を見て、恥ずかしさに死にたくなった。


それでも、食後のデザートやお茶の時間のケーキなどでお代わりをしていなかった、清貧な頃のネアである。


ただし、リーエンベルクを出てゆく際には、支給されていたドレスの中から一番素材のしっかりした物を貰ってゆこうとは思っており、ひと揃えしっかり目星をつけていた。

また、その際に紅茶難民に戻らないよう、餞別代わりに、少し紅茶を分けて貰おうとすら企んでいたのだ。


お砂糖もと考えていなかったのがなけなしの良心であったが、この世界に呼び落される直前まで公園の葉っぱを使った自家製紅茶の計画を実行しようとしていたネアからしてみれば、美味しい紅茶を飲める生活を喪うのは耐え難かった。



何となく、そんな思いを今更ではあるがヒルドに告白すると、ゆっくりと瞬きをしたヒルドが、なぜかネアを膝の上に引っ張り上げてしまう。


「むぐ………」


横向きに着席する姿勢であるので、ヒルドの表情がよく見えてしまうのが落ち着かない。

その上、腹筋と背筋の自活力の足りないネアにとって、背もたれをヒルドの腕一本に預けるのは、随分な勇気を必要とする事態であった。


「………ヒルドさん?」

「このような時は、抱き締めるものでしょう。…………ネア様、では私が、ここで一つ約束をしておきましょう。今後どのような事があっても、あなたがまた紅茶や食事に困る事など決してないよう、私の名前にかけての誓いを」

「………ふぁ」

「どうせなら、衣食住の全てをお約束しておいた方がいいかもしれませんね。勿論、ディノ様がいる限り、そしてこのリーエンベルクで暮らしている限りそのような心配は生涯していただかなくて結構ですが、その上でもしもの事があれば、私があなたを守りましょう」

「…………ディノも一緒でも構いません?」

「ええ。勿論ですよ」



だが、そんなもしもはいらないのだ。

今の暮らし方が変わるかもしれない日は、ずっと先でいいし、この暮らしを奪われるのは耐え難い。


(いつの間に、私はこんなに贅沢になってしまったのかしら…………)


ちくりと痛んだ胸に、ネアは、安心したように微笑んでみせた。


そのもしもを考えるのだとしたら、誰よりも目を覆いたいのはヒルドだろう。

ネアは、ヒルドが今迄に失ってきた温もりを埋めて余るだけ、エーダリアはこれから五百年くらいは生きればいいのだと唇を噛む。



「ネイが、何も考える事なく安易に祝福を増やしておりますからね。あの方は、下手をすると封印庫の魔術師達よりも長生きするかもしれませんよ」

「む。………封印庫の魔術師さんは、随分なご長寿なのです?」

「最年長の者は、先々代のウィーム王の即位より以前に任命されたそうですからね」

「先々代…………」

「以前、ディノ様からも心構えをとご説明いただきましたが、………ネイの魔術資質には、魔術の根源だけではなく、命そのものを司るにも近しい要素があるようです。海の者達に髪を譲り渡した際に多くの蓄えを手放したそうですが、それでも所有する資質を変えないのが魔物ですからね…………」

「エーダリア様に、あれこれして差し上げるのが嬉しくて、ノアは色々と作ったり贈ったりしていますものね。…………は!ヒルドさんにもです…………」

「ええ。ですのでディノ様は、私も、エーダリア様も、少々規格外の寿命になるだろうと」



そんな事を聞かされ、ネアは、ぱっと笑顔になってしまった。


差が縮まらないとなるとやはり問題はあるのかもしれないが、当初の状態よりも長い時間を二人が共に過ごせるのなら、何よりの幸いではないか。

それに、そうなれば、ネアもずっとこの幸せの形を維持出来る。



(身勝手な願いだけれど、………あまりにも我が儘だけれど)



以前は、一番最後だったのだ。

それどころか、一人残されてからの時間があまりにも長かった。

だから今回は、家族のような人を見送るのは出来る限り避けたい。

同じ人間のエーダリアが自分より年上である事が、ネアはずっと気掛かりであった。



そうして、何年も何年も、このリーエンベルクでみんなで幸せに暮らすのだ。



時間が解決する事で外周の環境が変わり、新しく喜ばしい加算があるかもしれない。

そう考え笑顔になりかけたネアは、魔物がとても狭量だったことを思い出し一瞬ひやりとしたが、ノアは比較的そのような問題は寛容な方だ。

だが、銀狐が問題で、あのムギャムギャ甘えん坊狐は、どちらかと言えば全てを独占したいお子様枠である。


(だ、…………大丈夫なはず!!)


そもそも、そちらの懸念よりも先に、銀狐の正体をアルテアに告白するという重大な任務が、今年の秋にもなってまだ果たされていないではないか。


ふるふると首を振り、その時に引き起こされるであろう大騒ぎを考えないようにすると、ネアは、ヒルドの質問に応えて幼い頃に絵本で読んでいた妖精の話をすることにする。


ほこりの妖精だけではなく、ネアの記憶の中には、様々な絵本や両親から聞かされたお話の妖精が住んでいるのだ。

だが、無事に椅子も解除されて隣り合って座ってお喋りしている内にすっかり気が緩んだのか、どうやらそのまま居眠りしてしまったらしい。



次に目を覚ましたのは、ディノ達が部屋に迎えに来てくれてからの事であった。



「ありゃ、目を離した隙に甘やかしてるぞ…………」

「む、むぐ。…………ぐぅ」

「ネアが、ヒルドを下敷きにするなんて…………」

「…………聞き捨てならない言葉が聞こえたので、釈明の為に起きますね。私は…………ぎゃ!下敷きにしてる!!」



ヒルドを下敷きに寝ていたと気付き、ネアは飛び上がりそうになった。

おまけに、ヒルドの背中の下からは美しい妖精の羽が覗いているではないか。


本人は全く気にかけていないとは言え、ヒルドは、痛みなどを好ましく思いがちになるという、危険な趣味がある。

本人の痛くないは信用出来ないので、こちらで気を付けていてあげなければならない。



(それなのに、ヒルドさんを敷布団にした上に、…………羽が、あの綺麗な妖精の羽が下敷きに…………)



どうやらネアは、長椅子で横になったヒルドの上に乗り上げる形で眠っていたらしく、ヒルドの背中の下には、ちょっぴりひやりとするような感じにくしゃっとなった妖精の羽が見えている。

割れたり千切れたりしていたらどうしようと蒼白になったネアに対し、目を覚ましたヒルドは、丈夫ですからねと困ったように苦笑していた。



その夜は勿論、伴侶の魔物が自分も下敷きになるのだと荒ぶってしまい、ネアは、代替案として膝枕などを提案してみた。


膝枕だと、ご主人様に上から見つめられた魔物がすぐに死んでしまうので、とても簡単なのだ。

それに加えて、エーダリアも長生きすると知って嬉しかったので、ずっと一緒だという言葉をもう一度ディノに伝えておいた。



案の定、魔物はすぐに死んでしまったが、なぜか顔をクリームだらけにした銀狐が部屋を訪ねてきたので、体力を消耗する夜には変わりなかった。

どうか、顔から食べに行く手法を再検討して欲しい限りである。










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