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栞の魔物と手にない祝福



薄暗い書庫の中を、淡い光の小鳥が羽ばたいてゆく。

その翼が落とす細やかな魔術の煌めきに目を瞠り、ネアは、手に持っていた本を落としそうになってしまった。



(鳥さん…………!)



よく分からないが、生き物という感じはしないのだ。

であれば、祝福が形を成したような、何か良い収穫物であるのかもしれない。


そう思えば、そっと忍び寄って捕獲してしまうのがいいだろう。

強欲な人間は、ほんの少しの疑問も抱かずにそう考えたのだった。



「…………ネア、その鳥は私の魔術の使いなのだが」



しかし、邪悪な人間が光る小鳥にそっと近寄ってゆけば、背後から呆れたような声がかけられる。

ぎくりとして振り返れば、どこか困惑すら湛えた眼差しでこちらを見るエーダリアが、戸口に立っていた。


今日は外出の予定がないらしく、ひとつ屋根の下で暮らしているからこそ見分けのつく、少し寛いだ服装をしている。

ネアは、そんなエーダリアから隠すように、小鳥を捕まえようとして持ち上げていた両手をすすっと下ろした。




ここは、リーエンベルクの中にある図書室だ。


ウィームの重要な書物はどうしてもダリルダレンに偏ってしまうが、それでも充分な蔵書を蓄えた、領主館の資料室でもある。


とは言え、揃えられた専門書は、戦後に買い足された物が圧倒的に多く、かつてこの部屋に収められていた貴重な書物や記録の多くは、統一戦争時の焚書で失われてしまった。


統一戦争の悪夢の中で、積み上げられ火を投げ入れる瞬間も見ていたネアは、その日の事を思うときりりと胸が痛んでしまう。


けれども、ここに集められた本の数はきっと、リーエンベルクの書庫を復活させようとした誰かの愛情と努力の証でもあるのだ。

その証拠に、ここにいるウィーム領主は、焚書を免れたウィームの歴史に触れる本を、こっそりこの部屋に増やしているらしい。




「………この鳥さんは、獲物になるようなものではないのです?」

「ああ。私の魔術の一端でしかないものだ。探し物が何種類かあったので、探索魔術をその形にして切り分けたのだが…………」

「むぐ。エーダリア様が生き物を模るのなら、狐さんであるべきなのでは………」

「い、いや、それもどうなのだ。ノアベルトは、契約の魔物なのだぞ。その姿を模した魔術を、気安く使う訳にはいかないだろう」



ネアは、なんと紛らわしいのだろうと考えてしまったが、どうやらこちらのウィーム領主は狐型のものに遠慮があるらしい。


だが、一言、高い位置にある本を取るのには、翼のある生き物の形の方がいいからなと付け加えてしまったせいで、足元に寄り添っていた銀狐がけばけばになる。


今日はどうして狐姿になってしまったのか、狐仕様の塩の魔物は、エーダリアの騎士気分で足元に寄り添っていたようだ。

むぎむぎ鳴きながら弾んで体当たりされているエーダリアに、ネアは、途中までは尻尾を振っていたのになと真実の残酷さを思った。



「お前がここにいるのは、珍しいな」

「ええ。今日は調べたい事があったので、久し振りに書庫に来ました。いつもは、分からない事はディノ達に教えて貰って終わりなのですが、時にはこのように本の頁を開く事で、探していなかった知識をも得られる機会を作ろうと思ったのです」

「キュ…………」



そんなネアの胸元には、むくむく毛皮のムグリスなディノが収まっている。


若干暗い目をしているのは、相変わらず、伴侶を疎かにするご主人様の読書時間に抵抗があるからだろう。

なのでネアは、読書の間、ずっとべったりくっついていられるからと、伴侶にムグリス化して貰い、そんな伴侶を胸元にしまってしまった。


それは勿論、大事な伴侶の事を思っての措置であり、その方が心置きなく調べものが出来るという本音などは隠していない。



ここで、ぴかっと雷が光り、書庫に青白い影を伸ばした。


続けてごろごろと音が響き、銀狐が、慌ててエーダリアの足の間に体を押し込んでいる。

ぐいぐい体を捻じ込まれて転びそうになったエーダリアが注意しているが、守り給えという目で足の間に頑なに居座っている銀狐は、落雷の音がする度に尻尾がぴーんとなってしまっていた。


(…………以前は、大丈夫だったような気がするけれど………?)



そこまで雷が嫌いだっただろうかと首を傾げ、ネアは、結局エーダリアの靴の間にぎゅっと挟まっている義兄を見下ろす。


銀狐は満足のいく位置を押さえてご満悦だが、ネアの胸元の伴侶は、魔物感の喪失速度が心配でならないのか、悲し気に三つ編みをへなへなにしていた。



「狐さんは、…………雷が怖くなってしまったのです?」

「先日の雨の日に、中庭で雷の精霊を踏んだらしい。尻尾の毛が焦げていたと、ゼベルが教えてくれた」

「………まぁ。………出来れば、本当は魔物さんであることを思い出していただき、尻尾を守って欲しかったですね」

「ああ。それ以来、雷を酷く警戒していてな…………」

「キュ…………」



そんな会話に、そう言えば自分は魔物だったと気付いたのか、銀狐は目を真ん丸にして震えていた。

しかし、エーダリアの魔術で作られた小鳥がぱたたと飛べば、びょいんと飛び上がって追いかけていってしまう。


尻尾を振り回してしゃかしゃかと走る後ろ姿は愛くるしいが、ネアには、大事な義兄に魔物としての理性を失わないで貰いたいという願いもあるのだ。



「そろそろノアは、狐さん禁止月間を設けた方が良さそうですね…………」

「ああ。ヒルドとも、似たような事を話している。最近は、………少し振り切ってしまったからな」

「ええ。アルテアさんに告白をするのだと頑張っていた時には、まだ魔物さんの自我が残っていたのですが、やっぱり夏が終わってから告白すると決めた途端、すっかり狐さん度合いが上がってしまいましたね…………」

「キュ………」



お喋りをしていると、ざあっと雨が屋根を叩く音が聞こえてきた。

雷が鳴っているのでそろそろかなと思っていたが、窓の外はあっという間に土砂降りになる。


ウィームでも初夏の雨は珍しくはないのだが、こうして、南方の土地のスコールのような降り方をするのは珍しい。


だが今回の雨は、悪夢の類でも、割れ嵐でもなく、嵐の精霊の嫁入りが近くであったからなのだそうだ。

慶事にあたる荒天なので、増水などの危険は変わらないもののどちらかと言えば歓迎される。


とは言え、大雨で畑はくしゃくしゃになったりもするので、実害がないという訳でもないのが悩ましいところだ。

恩恵を恩恵として享受する為に、早めに上がって欲しいのが本音である。



「エーダリア様は、お仕事の調べ物でしょうか。数が多いのであれば、お手伝いしますよ?」

「いや、仕事の資料を集めてはいるのだが、半分は個人的な興味からなのだ。このような日にしか開かない本は多いからな」

「まぁ、嵐の日にしか読めない本もあるのですね」

「というより、このような日にしか現れない書物があるのだ。………スリフェアのようなものだな。特殊な魔術特異点となる事で、どこからか戻されてくる失われた書物がある」



そんな事を聞いてしまえば、ネアは、目を輝かせて書庫を見回すしかなかった。


エーダリア曰く、そうして戻される本は、何がどのような条件で姿を現すという規則性はまだ解明されていないらしい。

とは言え規則があるのは間違いなく、本日は、前回の慶事である嵐の日に目にした本の、残りの物を記録してしまう為に図書室に来たのだと言う。


「むむ。となると、今のうちに大勢でえいやっと探した方がいいのではありませんか?」

「このような気象条件と、私の休日が重なる事は少ないからな。私個人の楽しみも兼ね、ゆっくり進めてゆこうと思っている」


強欲な主張をしてしまったネアにくすりと笑うと、エーダリアは、この作業ではもう、十年以上記録を続けているのだと教えてくれた。


ついつい焦ってしまったものの、それが個人の楽しみ方なのであれば、邪魔をするのも無粋であろう。

ネアは、手に入れた本はその日の内にぐいぐい読破してしまう質なので、そんな風にゆっくりと楽しみを噛み締められるエーダリアが羨ましくなる。



「そちらの調べ物に戻ってくれ。邪魔をしてしまったな」

「いえ。こちらでも、もし不思議な本を見付けたらお声がけしますね」

「ああ、宜しく頼む」



雨音の中で、薄暗い書庫をゆっくりと歩く。


エーダリアと別れたネアが探しているのは、この世界にある召喚魔術の本だ。

コルジュールの波ラッコ事件で、呼び寄せる系の魔術の危うさを考える切っ掛けとなり、休日の今日、時間を取って勉強してみようかなと思っている。


あまり専門的な召喚魔術は、知るという魔術の繋ぎが危ういそうだが、このリーエンベルクの書庫にあるくらいの本であれば、郷土史のような書物の記載に留まるだろう。

なので、この書庫の中にある書物の範囲であればと、ディノも承諾してくれた。

勿論、本を開く時には伴侶の事前確認を得てからだ。



(これでも、歌乞いとしての才能には満ち溢れているのだから、知らずに、その種の言葉を使ってしまう事のないようにしよう………)



そう自負するネアが、こんな風に警戒しているのには理由がある。


ここ数日の内に、紙虫と呼ばれる紙製の使い魔達の大規模な渡りがあると、先日、ガレンの観測結果が発表されたばかりなのだ。


紙虫は、かつてネアも、アルテアから送り付けられた事がある、紙を折り上げ、使い魔のように動かす魔術で生まれる物だ。


動物や道具の形の物も多いが、虫の形の折り紙から始まった魔術なので、今も紙虫と呼ばれている。

だが、そうして放たれたものの、目的を果たせずに世界を彷徨う紙虫は多い。


野生化すると、形状には拘らずに、紙製の使い魔同士で大きな群れを形成し、自分が果たし損ねた仕事を探して世界を彷徨うようになる。

山間の土地が多いウィームでは馴染みがないが、紙虫の渡りを季節の風物詩としている国もあるのだとか。


幸いにも、呪いや災いを宿した紙虫は、体が重くて渡りの群れには加われない。


よって、こうして空を渡るのは害のない紙虫だけとなり、今はもう失われた折り方で出来た紙虫を求める好事家達も、世界のあちこちにいるのだそうだ。

希少な紙で折られた紙虫は、収集家達にとって憧れの一品となり、あちこちの商会で高額取引されるのだとか。



そしてネアは、そんな紙虫に多大なる心の傷を抱えていた。



「…………むぐ。く………虫まみれの事態だけは、何としても回避するのだ」

「キュ…………」


もし、以前にアルテアが寄越した昆虫の姿をした紙虫が、その渡りの中にいたとする。

どうやらあの形状は割と一般的な折り方であるようなので、総数は多めだと聞いて震え上がったのが昨日の昼食時の事だった。


そんな悍ましい紙虫が上空に差し掛かった時に、よりにもよって、召喚魔術に結ぶ言葉に触れてしまったりしたら、どんな大惨事を引き起こしてしまう事か。


想像力が豊かな人間は、コルジュールの波ラッコの群れ事件から、紙虫まみれの大惨事を思い描いてしまい、絶賛、大警戒中なのだった。




「キュ……」



暫くの間、目星をつけた本を手に取ってぱらぱらと読んでいたりすると、胸元に設置された伴侶が、居眠りを始めた。


うつらうつらしてからはっとするのか、声を上げて三つ編みをしゃきんとさせる事を繰り返している。

眠っていていいと言ったのだが、ムグリスディノ的には、ネアの読む本を査定する為にもここは起きていたい状況であるようだ。


ぴかっと空が光り、また書庫の中に鮮やかな青白い影が伸びる。


奥の書架のところに先程の小鳥が見えたので、エーダリアもまだ調べ物をしているのだろう。


こうして同じ部屋でゆったりと過ごす日も家族のようではないかといい気分になっていると、ごろごろぴしゃんという一際大きな落雷の音が響き、胸元から這い出そうとしていたムグリスディノが、ぴゃんと飛び上がった。



「ほわ、………さすがに今の音は、私もびっくりしました。雷はどちらかと言えば好きな方で、嫌いではないのですが………」

「浮気…………」

「あら、ディノは元の姿に戻ってしまったのですね?眠っていても良かったのですよ?」

「君が良くない本に触れるといけないからね。………おや、」



そう呟き視線を巡らせたディノに倣えば、書庫の壁をすいいっと泳ぐペンギンの姿が見えた。

かつての無垢なネアに、にゃわなる祝福を与えてしまった、恐るべき栞の魔物の登場だ。



(久し振りに姿を見たような気がする……)



そんな事を考えているネアの前で、本の中からざあっと逃げ出してきた小魚を追いかけ、栞の魔物はすいすいと書架の上を泳いでゆく。


でっぷりとした体形のペンギンは、可愛いというよりはどこかふてぶてしい動きだが、自分の仕事をしているだけなのでと、ネアは気にしていなかった。

せいぜい、本の虫を追いかけている書架は避けてあげようと、そんな気遣いをしたくらいである。



しかし、激しさを増した窓の外の雨の様子や、こんな日にだけ現れるという本など、意識が散漫になってしまっていたからだろうか。

ネアは、そんな栞の魔物の、思案深げな眼差しには少しも気付いていなかった。




「おや、祝福だね」

「なぬ?!…………もわもわぴかりとしたものが、どこからか飛んできました」

「栞の魔物からのようだよ。悪いものではないけれど、………何か本を開いていたかい?」

「なぬ。現在、こちらで開いている本はありません。一体何の本の祝福を寄越したのだ」



こんな時、人間は、嫌な予感というものばかりは、ひしひしと感じるのだろう。



ひたひたと背筋に触れるような不穏な気配を覚えつつ、祝福の光が飛んできた方に向かう。


するとそこには、書架の端に腰掛けた栞の魔物がいて、こちらに気付くと、どうぞどうぞというような、やけに人間臭い仕草をする。

その足で、てんてんと叩いて見せた一冊の本の背表紙に、ネアは、くらりと視界が揺れてしまった。



「ぎゃ!」

「ネア?!」

  

本の題名を見るなり悲鳴を上げたネアを、慌ててディノが持ち上げてくれる。

その瞬間にまた雷がぴかりと光るのだから、まるで、舞台の殺人事件の場面の効果か何かのようだ。



「ネア?!何かあったのか?」


そこに、悲鳴を聞いたのか、艶々とした宝石を削った装丁の本を手に、エーダリアが駆け付けてくれる。

しゃかしゃかと足音が響き、慌てた様子の銀狐も一緒に来てくれた。



「し、栞の魔物さんが…………」

「ま、まさか、また何か祝福を得たのではないだろうな?」



おろおろする魔物よりも察しのいいエーダリアの問いかけに、ネアは、じわっと涙目になりつつ、こくりと頷いた。


犯人である栞の魔物は、いい贈り物をしたぜと言わんばかりに気障ペンギン風な挨拶をし、どこかの本の中に帰っていってしまう。



「ネア、望ましくない祝福を貰ってしまったのかい?」

「ふ、ふぎゅわ。…………この本の題名を見て下さい。わ、私には、あまりにも荷が重いと言わざるを得ず…………」

「ご主人様と僕…………何の本なのかな…………」

「こ、このような本も、この書庫にはあるのだな…………」

「なぜ、二人とも、ささっと目を逸らしたのだ。私だって、まだ怖くて頁を捲れていないのですよ?」

「取り敢えず、障りになるような内容ではなさそうではないか。…………その、伴侶を得た者への贈り物のつもりなのだろう」

「ぐぬぅ。エーダリア様が、それとなく距離を取ろうとします!」

「君が持っている、使い魔の躾の本の類ではないのかい?」

「…………ふぁい。もう少し、禁書的なものだと思われます」

「禁書…………」



ネアは、震えながら羽織りものになった魔物と一緒に、そっと目次を覗いてみた。


すると、不出来な恋人を磔にする方法や、少しの刺激を求めて、伴侶を逆さ吊りにする方法など、にゃわなる奥義のあれこれが記されているだけでなく、逃げようとする下僕に首輪をかけてしまう方法など、無垢で可憐な乙女にはいささか刺激が強過ぎる作法があれこれ記載されている。



「………命令を聞かない使い魔を、鍋に閉じ込める方法」

「な、なぜ、お鍋なのでしょう。嫌な予感しかしませんので、その項目は開かないのです!」

「野生の下僕の狩り方…………ネアが浮気する…………」

「たいへん不本意ですので、この祝福は封印して下さい!!」



そんな専門書の作法を祝福で貰ってしまったネアはたいそう荒ぶったが、うっかり受け取ってしまった栞の魔物の祝福は、祝福の中でも、本人の持つ属性に付随する叡智の付与という善良なものにあたる為、引き剥がしが出来なかった。


ネアは、本人の持つ属性とは何なのだと怒り狂ったものの、どうやら、既に付与されていたにゃわなる祝福とがっちり魔術が絡み合ってしまったらしい。



「むぎゅ。ふぇっく…………」

「うーん、これなんか凄いよ。遠方の下僕を一声で跪かせる方法だって」

「おのれ、ノアは、すっかり楽しんでしまっているではないですか…………」

「だって、ここに書いてある事って、殆どネアに出来る事だからね。だから、そこまで心配しなくても大丈夫だと思うなぁ」

「ぐるる………」

「伴侶や恋人用と、下僕用と、野良用の三章に分かれているんだね。…………ありゃ、エーダリア?」

「私も、この本の祝福を受け取ってしまったようだ…………」

「え、僕が目を離した隙に!!」



人型に戻ったノアに、そのご主人様と僕の検分をお願いしていたところ、周辺の書架を見ていたエーダリアも、おかしな祝福を貰って帰ってきた。


慌てたように立ち上がったノアだったが、そんなエーダリアの手にあったのは、もふもふとお散歩という可愛らしい本ではないか。

その題名を見た瞬間、塩の魔物はにっこり笑い、すとんと椅子に座り直す。



「な、なぜエーダリア様にはその可愛らしいお散歩絵本で、私には、このご主人様と僕なのだ…………」

「ご主人様…………」

「うん。なんか、そのシルの呼び方からもう、ネアは逃げられないんだろうなって感じがするよね」

「っ、使い魔で椅子を作る方法まで書いてあります………」

「え、それってもう実践済みなんじゃ…………」

「ぐるる…………」



後に判明した事だが、栞の魔物は、雷雨の書庫が大好きなのだそうだ。


ぴかっと雷が光ると本の虫が見付けやすくなり、そんな日は、ご機嫌で沢山の祝福を与えてくれるらしい。

手にしていない書物の祝福ですら授けてくれると知り、それが仇となったネアは、悲しみに暮れるしかなかった。



その後、祝福が欲しい本を手に、書庫をうろうろするエーダリアの姿なども見られたが、残念ながら栞の魔物の祝福大盤振る舞いな営業時間は終了してしまったようだ。


雨が上がり、漸く陽が差してきた窓辺の椅子に残されたのは、それぞれに意気消沈して座り込んだ、ネアとエーダリアであった。


勿論ネアは、念の為にこの事態を報告した使い魔から、カードで叱られる羽目になる。

選択の魔物は、決してお鍋に閉じ込めてはならないらしい。












明日7/22の更新はお休みとなります。

TwitterでSSを書かせていただきますので、もし宜しければご覧下さい。

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