ジンデンのシロップと鉱石葉のお酒
窓の外は少し風が出てきたようだ。
窓辺には、まだ葉の密度が低い庭木の枝が、水色がかった早春の影を落とし、新芽を食べようとしている小さな毛玉のような生き物が、先ほどまで降っていた雨に濡れた枝から、足を滑らせてつるんと落ちてゆく。
ネアは、会食堂の窓辺に複雑で詩的な影を落とす午後の光を見ていたかったが、既に、お鍋の中のジンデンの実はいい頃合いだ。
ジャムやシロップはその製造過程も楽しいので、あまりよそ見をしている時間はない。
一度、併設した厨房の側に戻り、今度は窓からの景色が初夏になるという不思議な差異をおかしく思いながら、ことことと優しい音を立てているお鍋を覗き込んだ。
「ジンデンの実のシロップは、氷砂糖と一緒に漬け込むような作り方ではなく、こうして一度煮込むのだそうです。加熱する事で、後からの甘みが出てくるので、美味しいシロップになりますからね」
「うん。…………甘い匂いではないのだね」
「ええ。私も初めてなので驚きました。こう、………僅かに果実の香りがする夜の草原のような、不思議ですがとても素敵な香りです。………むふぅ。この香りのクリームなどがあれば買ってしまいたいくらい、良い匂いでした」
ネアは、もう一度深呼吸していい匂いを胸いっぱいに吸い込み、お鍋の中のジンデンが無事にシロップに向かっている事を確認する。
厨房の薄い水色の琺瑯に似た素材のお鍋の中では、赤い実が火にかけられくつくつと煮えており、やはり、工程としてはジャム作りによく似ていた。
だが、苺のジャム作りに出るような果実の色の泡は出ず、澄んだ赤い色の煮汁が甘く煮詰まってきている。
こちらは苺ジャムを作る工程と同じように、煮込まれてゆくと一度色が抜けて僅かに白っぽくなっていた。
この一度抜けた色がまたしっかりと果実の中に戻ると、宝石のような赤色になるのだろう。
お気に入りの木べらを手に取り、焦げ付きなどがないのかを確かめながら丁寧にかき混ぜると、しゅわりと立ち昇ったのはきらきらと輝く細やかな金色の光だ。
おおっと目を丸くしていると、ディノが、とても良い祝福だよと教えてくれた。
ジンデンの実は少しだけ強火で煮込むので、こうして丁寧に手をかけてやる必要があるものだ。
製造の行程が食べ物というよりも魔術薬としてのそれなので仕方がないのだが、ネアのように、美味しいシロップとして使う者も少なくはないのだとか。
しかしそれは、あくまでもウィームに限られる。
他の領や諸外国では高価な魔術素材になるジンデンの実は、間違ってもパンケーキにかけて食べるような勿体ない事は出来ないのだそうだ。
王都でも、ほんの僅かな実をザハの食事代程の値段で買えるくらいだと聞けば、希少性というものはやはり土地の資質ありきなのだ。
例えばウィームでは、砂の祝福や夏の陽光の祝福を宿した植物は珍しい。
住民たちの魔術素養が異様に高いので、彼等が仕入れや旅に出る度に持ち帰り、手に入れられない事もないのだが、ウィーム領内では本来育たないものである。
そのようなものはやはり、店頭に並ぶ際には少しばかり割高になるのは当然とも言えた。
「ちゃんと作れているのか?」
「む。使い魔さんが戻ってきました。…………まぁ!その綺麗なミントグリーンの液体は何でしょう?ライムソーダのような綺麗な色です!!」
「ジンデンの葉を結晶化させて漬け込んだ、ジンデン酒だ。迷いの魔術の剥離効果があるからな。そっちを作り終えたら少し飲んでおけ」
「…………沼味ではありません?」
「香草酒というよりは、果実酒に近いな。まだ苦味のある檸檬で作った酒のような味わいだ」
「ほろ苦いけれども爽やかな果実味のお酒……………じゅるり」
「おい、そろそろ火を弱めろ」
「は、はい!」
アルテアもジンデンの実を加工していたのか、白いシャツに黒いジレだけのお料理スタイルになっていた。
ぞんざいに袖を捲り、落ちてきたら伴侶の魔物に助けて貰うネアとは違い、アルテアは丁寧に袖を折り上げぱちんと挟む袖留めで落ちないようにしている。
そんな几帳面さも、良質な選択を重視する魔物らしい姿なのだった。
からからころん。
どこかで不思議な音がして、ネアは目を瞬く。
きょろきょろと周囲を見回せば、その音はお鍋の方から聴こえてくるようだ。
「もしかして、ヒルドさんの話していた、煮えると聞こえてくる音はこれなのでしょうか?」
「火を止めて、粗熱を取るまではそのままだな。………スプーンはいらん。しまっておけ」
「お味見は………」
「まだ苦いだけだぞ。出来上がってからにしろ」
「なぬ………」
腰に手を当てて呆れたようにこちらを見たアルテア曰く、ジンデンの実はこれだけ砂糖を使って煮込んでもまだ苦いのだそうだ。
これも魔術薬の特徴の工程で、錬成してゆく魔術が完結しない限りは、完成品としての質を備えないのだとか。
そう思うと不思議でしかなかったが、ネアは綺麗にとろりと赤くなったお鍋の中のジンデンの実を木べらで少しだけひっくり返し、ここで焦げ付かないようにしつつも、お鍋を冷たい水で絞った布巾の上に置いた。
(魔術の系譜上、氷水で冷やすのは良くないらしいから、このまま少しだけ時間を置いて。けれど、魔術薬だから残りの工程はあっという間に出来てしまうらしい………)
粗熱を取ったジンデンの実のジャム風になったものを、魔術薬シロップを入れる特製の瓶に入れると、最後にひと欠片の夜の雫をぽとんと落とす。
きっちりと蓋をしたら、しゃかしゃかと軽く振ってジンデンシロップを作る為の詠唱を唱え、最後に瓶の蓋に祝福の口付けを落とせば出来上がりだ。
詠唱と口付けはネアには出来ないので、今回は、アルテアの監修の下でディノがやってくれる。
万象印のジンデンシロップなので、体に良い事は間違いない。
「瓶を出しておきますね。…………ディノ?」
「これも、共同作業になるのかな?」
「ふふ、勿論です!アルテアさんが見ていてくれるので、頼もしいですよね」
「…………私も、シロップを作った事になるのかい?」
「あら、仕上げをするのはディノなのですから、今日は、私と一緒にジンデンの実のシロップを作ってくれた事になりますね」
「…………うん」
シロップ作りは初めての魔物である。
そう言われて嬉しかったのか、目をきらきらさせてこくりと頷くと、お鍋の中で宝石のように輝く赤いジンデンを見つめて、口元をもぞもぞさせていた。
「では、この隙にパンケーキを焼いてしまいますね」
「ご主人様!」
「今日は牛乳で粉を伸ばした、バターたっぷりのパンケーキです!ジンデンシロップは少し酸味があるので、クリームも用意しておきましょう」
アルテアは厨房の一角に座り、手帳を開いて仕事をしているようだ。
休日のお父さんかなと思ったが、いつもはお母さんなので、仕事をしているお母さんなのかもしれない。
その後で厨房にやって来たウィリアムは、昼食後は部屋で休んでいた。
まずは贅沢にお昼寝をし、その後は魔術の障りがないように人間に擬態して騎士達の剣の練習に付き合い、少し体を動かしてきたそうだ。
さっとシャワーを浴びて来たらしく、少しだけ髪が濡れている。
ふあっと吐き出す吐息は、とても静かで柔らかい。
どれだけ穏やかな時間でも心の端が焦げ付く事はなく、指先まで満たされてゆくのは不思議な充足感。
その甘さと美しさは、心の底まで震わせる音楽の中に身を落としたよう。
(……………生まれ育った屋敷で一人で暮らしていた時も、美味しいジャムを買って、幸せだった日もあったけれど、………)
その頃のネアは広い屋敷で一人きりで、誰かとお喋りをするような事はなかった。
そして、会食堂の側に戻って視線を投げた窓の向こうにぶーんと飛んでゆく、不思議な布切れのような生物を見かける事も勿論なかったのだ。
(でも、…………)
両親を亡くし、復讐を終えてから祖国に戻り、懐かしい屋敷で一人きりでピアノを弾いていた時にふと、誰かの気配のようなものを感じた事があった。
不思議とそれは両親やユーリのものではないとわかっていて、けれども、どこか懐かしい温かなもの。
だから、こうして不可思議な生き物達に囲まれているネアは、少しだけ考える事がある。
もしかしたらあの場所は、決して一人ぼっちではなかった時もあったのかもしれないのだと。
少なくともお別れを告げられる迄は槿な誰かはいたようだし、屋敷妖精のようなものや、埃の妖精だっていたかもしれない。
くしゃくしゃになって泣いていた夜に、優しく頭を撫でてくれた手のひらの温度は、夢ではなく、あちらの世界の魔法に愛して貰えなかったネアが、とうとう会うことの出来なかった隣人のものかもしれないのだ。
ずっと、どこまでも、どこまでも。
これからは一人で、もう誰もいない。
それでも毎日は続いていて、扉を開けて家を出てゆけば、家の前の通りにすら、当たり前のように大多数の幸福を有している人達がどれだけいるだろう。
祖父母や親戚まで合わせた沢山の家族に囲まれている人達を見ると、なぜこうも世界は不公平なのだろうと思えてならず、ネアはいつも、ぱたんと家の扉を閉めて、きらきらとした明るい世界から逃げ出した。
そんなネアが、子供の頃に父が読み聞かせてくれた絵本ばかりを読んでいたのは、その世界の子供達は、大抵一人きりだからだ。
そして、一人ぼっちになってしまった善良な子供には必ず、竜や妖精や精霊が手を差し伸べてくれる。
ただ、悪い子供だったネアには、魔法の贈り物が与えられる事はなかっただけで。
そこに救いの形はあるのだと、そう示してくれる約束の形として、物語は常に有用な薬であった。
「……………むぐ」
「ネア、どうしたんだい?」
こちらの世界に於ける精霊と物語の中で読んだ優しい精霊との違いについて考えてしまい、渋面になったところで、心配そうな顔をしたディノにそっと覗き込まれた。
透けるような真珠色の髪に、淡い水色の影を落とす長い睫毛。
水紺色の瞳はなんて澄んでいて、そして深く美しいのだろう。
かつては美しかった屋敷も老朽化し、栄養の足りない観賞用の庭木が花を咲かせなくなると、ネアにとって美しいものは、あまり身近ではなくなった。
季節の宿す美しさはみんなのもので、ネアだけの宝物はいつも擦り切れて色褪せたまま。
それなのに、こんなに美しいものが、宝物になるだなんて。
「…………今日は、とても贅沢な一日ですね」
「そうなのかい?」
「ええ。早めの朝食の後で森にジンデンを収穫にゆき、岩壁さんとの戦いもありました。美味しい昼食をいただき、その後でこうしてシロップを作っているのです。そんなシロップで、みんなでいただくおやつのある、贅沢な一日だと思いませんか?」
「岩壁の精霊はいいかな………」
「……………そう言えば、エーダリア様から、国内にいる岩壁の旅人達の現在地を把握しておくようにすると言われたのです。今回はウィリアムさんとアルテアさんでしたので事なきを得ましたが、本来なら討伐で大変な事になるのだとか」
「………そうなのだね。顔が浮かび上がる程に悪変が進んだものは少ないと思うけれど、それでも警戒をしておくのは良い事だろう」
ネアはここで、顔が浮かび上がっていないそれは、ただの移動する石壁で余計に怖いのではと考えたが、合成獣こそが怖いこちらの生き物達にとっては、顔など浮かび上がって来ない方がいいのだろう。
ネアは更に、エーダリアの話していた、社会に不満を持っている石壁達が過激思考に偏るという問題については、今後、石壁を冷静な目で見られなくなるので思考のお皿からぽいっと投げ捨てた。
ネアがパンケーキを焼いていると、そんなご主人様の様子が可愛くてならないと大喜びだった魔物は、アルテアに声をかけられてジンデンシロップの仕上げに向かった。
ネアはちょうど手が離せなかったので、瓶への詰め替えはディノ達に任せてしまう事にする。
今回はウィリアムが生クリームを泡立ててくれたのだが、僅かな時間でしっかりと硬めのクリームが仕上がり、ネアは感嘆せずにはいられなかった。
「さぁ!パンケーキが焼き上がりましたよ!おやつパンケーキなので小さめの薄いパンケーキをたくさん焼いてあります。…………ふぁ!」
「おい、弾むな」
「これは綺麗なものだな。こんな風になるのか………」
薬シロップ用の瓶に入れられたジンデンは、鍋の中にあったときより鮮やかな色に見えた。
滲むような赤色がきらきらと輝き、まるで透明度の高い赤い宝石をぎっしり詰め込んだ瓶のように見える。
すっかり目を奪われているネアがびょいんと弾むと、少し恥じらいながらではあるが、ディノが仕上げの詠唱を唱えてくれた。
「森の恵み、森の寿ぎ、森の秘術。夜と雨の境界で鳥の歌を聴き、祝福の雫を落とす幸いよ。甘い安らぎを齎し、結んで薬とならん事を」
低く甘く、どこまでも美しい魔物の声に、ネアはうっとりと聞き入った。
思えば、ディノの詠唱を聞くことは殆どないのだ。
時折、詠唱がないと入れない施設や、開封できない紅茶缶などで助けて貰う事もあるものの、こんな風に魔術を結ぶ万象の魔物を見られる事は希少だろう。
封をされた瓶の上に落とされた口付けは、ほうっと溜め息を吐きたいくらいに美しい。
胸に手を当ててくらりと倒れる美しさではなく、どこか儀式めいた荘厳な美しさだった。
(……………あ!)
しゃわんと、瓶の中の赤い実がより透明度を増してゆく。
きらきらとした赤い光が瞬き、詰め込まれていたジャムのような状態のジンデンの実が、しゃばしゃばしたシロップに変化する。
それはまるで魔法のような、不思議な不思議なシロップの出来上がる瞬間であった。
「ふぁ………」
「……………出来た」
「す、凄いです!!ディノが、ジンデンの実をシロップに変えてくれました!!」
「…………ネアが可愛い………」
「シロップになる瞬間がとても綺麗で、こんな風に出来上がる瞬間までとても素敵なのですねぇ………」
「可愛い、掴まってくる…………」
そしてそこからはもう、美味しいジンデンの実のシロップをかけていただく、パンケーキの祝祭となる。
窓の外ではまたヴェールのような霧雨が降っていて、この早春の時期のウィームの天候の変わりやすさを示していた。
ぼんやりと明るい雲間から降る雨は繊細で優しく、春の花々はそんな雨を気持ち良さそうに浴びている。
雨の中をびゅんと飛び抜けていったのは、春の系譜の妖精達だろうか。
ぽたぽたと軒先から落ちる雨の雫に、窓に描かれる美しい雨の影。
そんな風景の青白く繊細な影の中で、ネア達はほかほかと湯気を立てるパンケーキの上に贅沢にジンデンの実のシロップをかけ、たっぷりと載せた生クリームとともにいただく。
パンケーキの完成を狙って訪れた悪い銀狐は、溜め息を吐いたアルテアが、隣の席に座らせてパンケーキを切り分けてやっていたので、ネア達は少しだけ震えてしまった。
(……………何だか、アルテアさんの狐さんへの面倒見の良さが、どんどん上がってきているような………)
銀狐がそれを当然のものとして受け入れ、ますます甘えるのがいけないのだが、最近はもう見ていてはらはらするしかない。
ウィリアムの表情も若干硬くなっているが、おろおろしてしまうディノよりは冷静なようだ。
またしても換毛期を誤魔化して乗り切ろうとしているふかふかの尻尾を振り回し、銀狐は、子供用の椅子の上でむぎむぎと弾んでいる。
そんな疑惑の尻尾をちらりと見て、アルテアが顔を顰めた。
「おい、ブラシがけはしているのか?」
「…………換毛期がまだ訪れないようです。普通の狐さんなのに、謎ですねぇ。もしかすると、ふかふか毛並みの呪いでもかけられてしまったのかもしれませんね」
「なんだそれは」
「…………うーん。…………アルテアは、かなり可愛がっているんですね」
「そんな訳あるか。隣で床を汚されるのが鬱陶しいだけだ」
「…………アルテアが」
「ディノ、………ええと、その、使い魔さんが狐さんを可愛がる事自体は、とても良いことなのですからね?」
「……………うん」
そんな空気になってしまったので、アルテアは給餌を一時停止したものの、すぐに涙目の銀狐に前足でてしてしやられてしまい、溜め息を吐いて再開する羽目になっている。
果たして今年中に告白の機会が得られるのか、かなり怪しくなって来たと思わずにはいられない。
「………あぐ!…………むふぅ。甘酸っぱいシロップがとても美味しいですし、実は目の奥がすっきりしてきているので、知らずに蓄積していた眼精疲労などが緩和されているのかもしれません!」
「薬効としての魔術補助は、とてもしっかりとしているようだね。祝福の色もとても澄んでいて良いものだ」
「美味しくて目と指先にいい、素敵なシロップです!…………むむ、ウィリアムさん?」
「これ迄気付かずにいたが、俺も随分と視界がすっきりして驚いた。…………そうか。こんな風に作用するものなんだな」
「ふふ。ウィリアムさんの疲労にも効いてくれて良かったです!」
こちらを見てにっこり微笑んだウィリアムは、寛いだ微笑みを浮かべており、いつもより深めに椅子に腰掛けているようだ。
森の中のガゼボで見た鋭い眼差しを思えば、どれだけ日々の仕事の中で心が磨耗されているのかが分かるので、このままゆったりしていって貰おう。
「…………美味しいね」
「まぁ、どうして涙ぐんでしまうのです?」
「ネアと一緒に作ったシロップ…………」
「むむ、さては感動しましたね?はい。あーんして下さい」
「……………虐待する」
「あら、いりませんか?」
「ずるい。………凄く甘えてくる」
なお、邪悪な人間は、美味しいパンケーキの時間の締めには、きちんと塩っぱいものも用意しておいた。
今日はプチトマトをさっと揚げて塩をまぶしたおやつで、さくさくといただけるが知らず知らずの内に癖になる危険な食品である。
残念ながら自作ではなく、ウィームの市場で買ってきたものだが、とても美味しいのだ。
「これも飲んでおけよ」
「む。美味しそうな檸檬のお酒風のやつですね!」
「植物の系譜のものは、同じ系譜で揃えて扱うと効果が強くなる。どうせならその方がいいからな」
「……………むぐ。なぜ頬っぺたをつんとしたのですか?」
「食い過ぎだ」
「ぐるる…………」
「ネア、アルテアの意地悪は気にしなくていいからな?」
「…………お前は、あのガゼボの後から妙に噛みつくな」
「はは、最近のアルテアは、ネアに甘え過ぎじゃないですか?」
またしても向かい合ってしまった魔物達の隣で、ネアはこれは美味しいものだろうかと銀狐にじーっと見つめられながら、ジンデンの葉を使ったお酒をいただいた。
「……………まぁ。とっても美味しいのです」
アルテアの言う通り、ほろ苦い味わいがアクセントとなった檸檬のお酒のような美味しさではないか。
ウィリアムとアルテアがあれこれ言い合っている間に、そのお酒が気に入ってしまったネアは、こそっと二杯目をいただいてしまった。
「むぐ!」
「………っ、おい?!まさか、二杯目か?!」
「……………む?とても美味しいので、二杯目でふ」
「シルハーン、こいつを部屋から出さないようにしておけ。紐も出しておいた方がいい」
「…………もしかして、二杯目からは薬効が強いのかい?」
「酩酊の祝福が重ねがけされる」
「…………むぅ。大袈裟なのだ。ういっく」
ネアは、気分良く美味しいお酒を飲んでいるのにと眉を寄せたが、なぜかその後からの記憶があまりない。
気付くと、けばけばになった銀狐を抱いて、ヒルドの膝の上に乗せられていたので、何かいけないことをしてしまったのかもしれない。




