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竜の騎士と木苺のタルト




「ネア、今日のリノアールはやめようか」



その日、ディノが突然そんな事を言った。

一緒にお茶をしていたネアは目をぱちくりさせ、取り敢えずこくりと頷く。



「まぁ。何かあるのですか?ですが、ディノがそう言うのならやめておきますね」

「…………うん。やめておこう」

「ただ、ディノが問題があると判断したのであれば、予定を変更するのは構わないのですが、…………また、困ってしまっていることを、私に隠していませんね?」

「君が、竜に浮気するといけないからね………」

「解せぬ」



思っていたのとはだいぶ違う理由に、ネアはぎりぎりと眉を寄せる。


とは言え伴侶の魔物は大真面目であるし、ディノがその必要があると判断したのであれば、ネアも、お出かけはまた今度にしようと思う。

だとしても、正確な理由は教えて欲しいところだ。


すると、テーブルの向かいに座り、何やら仕事のものらしい書類を広げていたアルテアが顔を上げた。

ひらりと外側に向けて振った片手は、最近編纂中の使い魔仕草語録によると、そうだなという同意を示す言葉の中の、ややぞんざいめな仕草である。


本日の選択の魔物は、袖を折り上げ、眼鏡をかけているお仕事仕様の装いだ。



「今日は、ナインが公務でこちらに来ている。外出しないのが賢明だろうな」

「……………あやつめは、滅びればいいと思います」

「シルハーンが話しているのは、その、リシャードの護衛騎士の事だろう。竜種の騎士で、如何にもお前が好みそうな揃えだが、あいつは伴侶持ちだ。くれぐれも手を出すなよ」

「おかしいです。なぜに私が、とんだ浮気者かのように言われているのでしょう?」

「いいか、狩るなよ?」



ネアとしては、なぜ狩る事が即ち浮気疑惑なのか謎で仕方ないが、竜は自分より強いものが好きなのだそうだ。


ごく稀に違う資質を好む個体もいるらしいが、概ねそのような嗜好なので、魔物達はとても警戒しているらしい。



(……………でも、団栗にも荒ぶるディノだけではなくて、アルテアさんも警戒してしまうとなると、素敵な騎士さんなのだろうか…………)



そう考えた人間は、密かにわくわくする思いを弾ませる。


きっと素敵な角のある、凛々しい騎士に違いない。




「…………その方は、どんな騎士さんなのです?」

「竜の騎士なんて…………」

「まぁ。個人的な興味からの質問ではないので、どんな方なのかくらい教えてくれても良いと思うのです。率直に言えば、今後もあの精霊めとは仲良くなれそうにありませんので、うっかり近くにいた際に巻き込んで滅ぼさないようにしておきたいですから」

「………そうなのかい?」

「ええ。私にはディノがいるでしょう?」



そっとその手を取れば、いきなりご主人様に手を掴まれた魔物はきゃっとなってしまった。

目元を染めておろおろしている魔物に、ネアは優しく話しかける。


「その方にも伴侶さんがいるのなら、それはきっと私にとってのディノのようなものなので、見ず知らずの方とは言え、その幸せな家族を不注意で壊してしまいたくはありません」

「……………ずるい」

「ふふ。私が極悪非道な罪人にならないよう、協力して下さいね?」



本当は素敵な騎士ぶりを知りたいだけな邪悪な人間にいいように転がされてしまい、ディノはこくりと頷いた。


そうして教えてくれた話によると、その騎士は冬の星を司る竜で、どこかの国に囚われて弱っていたものを、逃げ出したところでナインが拾い、部下にしたのだという。


ネアがガーウィンへの潜入捜査を果たした際にはまだガーウィンのニコラウスの傘下に居たが、本来はリシャード枢機卿の片腕という立ち位置なのだそうだ。

ナインは、その竜が囚われていた頃から、彼の紛争時などの仕事の速さを買っていたのだとか。


あの事件が解決された事により、晴れて中央からの査察という役回りで銀白と静謐の教区に派遣されたその竜は、漸くリシャード枢機卿の指揮下に戻ったらしい。


なお、銀糸の髪に水色の瞳の背の高い黒い騎士服の竜だと知ったネアは心を躍らせたが、頭に角はないと聞いて一瞬で興味を失った。



目を輝かせて話を聞いていた伴侶が、すとんと真顔になったのを間近で見てしまい、ディノは慌てて膝の上に三つ編みを献上している。



「でしたら、黒い軍服の素敵な竜さんはワイアートさんがおりますので、そちらの竜さんを鑑賞する必要はなさそうですね。後はもう、うっかり殺してしまわないよう、見付けたらどこかにぽいしておきましょう」

「ワイアートなんて……………」

「それ以前に、お前と遭遇したらあいつが逃げ出すだろうよ。かつては、ウィリアムを怒らせたことで強欲な人間共に下げ渡された竜だ。終焉の守護の気配には敏感だろう」

「…………ウィリアムさんが、なのですね」



それは少しだけ意外な話で、ネアは目を瞠った。

どちらかと言えば、ウィリアムは竜には好意的な印象が強かったし、その不興を買ったのであれば、中途半端に残しておくという事は珍しいのではないだろうか。



「その竜は、かつて系譜の王だった者だ。長らく宝を得られず、また、それ以外の要素での心労も重なって狂乱したようだね。…………ウィリアムが彼を殺して終わりにしなかったのは、彼を狂わせた悲しみが少なからず自分にも覚えのあるもので、その部分に心を寄せたからだろう。だが、その竜が狂乱したのは戦場だったから、少し壊し過ぎてしまったと話していたよ」

「……………壊され過ぎてしまった竜さんが、今は無事に伴侶を得られていて、心からほっとしました」

「と言うより、ある程度無力化して人間達に任せようとしたが、途中で加減が面倒になったんだろうな」

「まさかそんなことはないはずです…………」



ネアは、ここにはいない終焉の魔物の為にそう弁明したが、心の中では、少しだけそうかもしれないと思ってしまっていた。


だからと言ってウィリアムが残忍だという事ではなく、終焉の魔物は兎に角忙しいのだ。

寧ろ、ウィリアムを一度は怒らせておいて生き長らえたのだから、限りなく幸運とも言える。



(でも、……………ウィリアムさんは、その人の嘆きに触れて、とても悲しかったのかもしれないわ…………)



それが知り合いではなくても、深い悲しみに触れると、こちらの心までがひび割れそうになる事がある。

場合によっては、こちらもかなりぎりぎりで踏ん張っているので、出来れば見たくなかったという事もあるだろう。



「………ネア?」

「……………何となくですが、ディノにもきっと寂しい時間が沢山あった筈なので、大切な伴侶を撫でておこうと思いました」

「…………爪先を踏むかい?」

「むぅ。仕方がありませんね」

「ご主人様!」



おずおずと爪先を差し出してきた魔物に、ぎゅっと踏んでやり、ネアは嬉しそうにほろりと微笑みをこぼしているディノを微笑んで見つめる。


こんなところは困った嗜好であるが、ここはネアの家の中であるし、ディノが嬉しそうにしていると胸がほかほかするのだ。



「アルテアさんも撫でて欲しいですか?」

「いらん。何でだよ」

「その、…………最近は恋人さんの影もなく、こうして、お仕事すらリーエンベルクに持ち込んでしまうくらいです。もし、泣きたい夜などがあったら、一緒にお酒などを飲んで悩みを聞きますので、言って下さいね?」

「……………おい、その本は何だ」

「む?これは、ダリルさんから借りた、使い魔と仲良し!という本の三巻です。使い魔がしょんぼりしている時は、その理由を知る事に尽力し、そっと寄り添うのがいいそうですよ」

「いいか、その本は即刻返してこい」

「なぜ荒ぶり始めたのだ…………」



ネアは、それはとても有用な本であると一生懸命使い魔に説明したが、来週に予定していたオレンジのタルトを取り上げると言われてしまうと、渋々ながら返してくると約束するしかない。


だが、狡猾な人間は、既にその本は読破しているとは一言も言わなかった。




冬の長いウィームでは、窓の外にはまだ晩冬の雪が残っている。


だが、冬の盛りの時のような煌めきや青白くけぶるような色の厚みは減退し、季節のエンドロールを控えた雪景色は、近付いてきた春の系譜の訪れを待っているようにも思えた。



「……………ディノ、リノアールへのお出かけを中止にする代わり、今夜はスケートに行きませんか?そろそろ、スケートの季節も終わりが近づいてきましたものね」

「おや、では君の好きな、温めた牛乳の飲み物を買うかい?」

「むぐ。ラベンダー蜂蜜のホットミルク…………」

「好きなだけ買ってあげるよ」

「俺は仕事が入っているが、くれぐれも事故るなよ?」

「おのれ、スケート遊びをするだけではありませんか!」



これ迄の指南書の知識が生かされ、たいへんよく懐いている使い魔は、ご主人様が遊びに行くだけのお出かけですら、わざわざ不在を伝えてくれるようになった。


だがネアは、義兄な魔物から情報を得て、そんなアルテアの仕事とやらが、少しばかり危うい悪さに出掛ける事だと知っているのだった。


鋭く視線を巡らせて使い魔の指を確認すると、ふむふむと厳かに頷き、ザハとは少し味わいが違う、リーエンベルクのメランジェを飲む。

ふんわりと甘い味に心を緩ませ、ネアは、そろそろ白けものとも触れ合わなければなと考えた。



「アルテアさん、今夜はお忙しいようですので、リンデルは外さないようにして下さいね」

「……………ノアベルトか」

「かもしれませんし、違うかもしれません。ウィーム領の障りにならなければ、どのような悪さをしていても構わないのですが、……………その、アルテアさんは少し事故に縁深い魔物さんですので…………」



ネアがそう言えば、アルテアは瞳を眇めてこちらを見ていたが、ややあって本当に邪魔はしないらしいと結論付けたものか、視線を書類に戻した。


そちらの書類は、時折教会誓約の魔術印が見えるので、今夜の仕事には関係のないものなのだろう。

案外、リシャード枢機卿としての仕事のものなのかもしれない。



「アルビクロムの外周に、僅かだが侵攻の兆しがあるようだね。事前に防ぐにせよ、問題を起こそうとしてる人間がいるようだ」

「……………隣国の、甘やかされた我が儘王子だ。どうも、アルビクロムの軍部に失策があったらしいな。領内で解決するものだが、この二、三日の間は近付かないようにしておけ」

「むぅ。悪い奴が攻めてくるのであれば、戸外の箒もあるのですが、そうして何かが動くこともアルテアさんの手の内なのでしょう。アルビクロムには用事もないのでぽいです」

「お前は、相変わらずの雑さだな……………」

「ノアから、エーダリア様達に注意喚起もありましたので、身内に被害が及ばなければ問題ないと判断しました」


ふんすと胸を張り、ネアは既にこちらの安全確認は取れているのだと主張する。

しかしアルテアは、その情報が一昨日には入っていたと知ると、酷く遠い目になってしまった。



「こちらの議会にも一報が入っていなかった頃か。……………くそ、軍部の中枢にかなり確かな伝手があるな……………」

「どのような事をしても構わないけれど、こちらに火の粉がかからないようにはしておいで。アルビクロムには、この子の知人の家もあるのだろう。そろそろあわいから戻る頃合いだ。そちらまでは、戦火が及ばないね?」

「…………あくまでも国境域の紛争に留まるものだ。領の中心地にまで攻め込まれる可能性は、ないに等しい」

「そうなるのであれば、王都でも手を打つだろうけれどね」



魔物の王として言葉を発したディノの声は、しんしんと静まり返る雪の夜のように静かだった。

だからこそ、アルテアもひやりとしたのだろう。

言動に出さずとも、僅かに変化した瞳の色からそれが見て取れる。



「ディノ、私の師匠を案じてくれて、有難うございます」

「君を、あのあわいの中で守ってくれた者達だからね」

「ふふ。きっとウェルバさんなら、そんな侵攻はくしゃりですね」

「ムガルはまだ彼等の傍にいるようだ。……………ずっとそこにいるのかな」

「だとすれば、それはムガルさんにとっては幸せな事かもしれません。そんなムガルさんが大嫌いだというダナエさんにとっても、アルビクロムに居てくれれば、遭遇せずに済みそうでいい事尽くしですね」

「そもそも、ムガルがあの土地の食事で満足するのか?」

「……………わたしは、なぞのぱいではないなにかのことはおぼえていません……………」

「ご主人様……………」



ネアは、どこかの食堂で食べたパイに似て非なるものの記憶が蘇りかけ、慌ててぶんぶんと首を振った。

ここでアルテアは、個人の通信端末に連絡が入り、すっと立ち上がって音の魔術で通話を遮断している。



(……………アルビクロムでアルテアさんが一緒だった女性達は、二人とも綺麗な人だったな……………)



第一希望ではないものの、軍服風の制服の綺麗な女性というのも悪くはない。

ネアは、ほんの少しだけ、今夜から起こる事件で彼女達がアルテアとの仲を深め、紹介して貰ってお友達になるという素敵な夢を思い描いた。



腰に片手を当てて通話を続けているアルテアは、如何にも有能そうに見える。

今日は漆黒のスリーピース姿で、雪のようなクラヴァットがさらりと揺れた。

そんな装いを凝視したネアは、さっと伴侶な魔物を振り返り、いつも素敵な白さのディノの装いを検分する。



「……………ネア?」

「ディノ、今度出かける歌劇場の公演では、ディノの漆黒の燕尾服姿が見てみたいです。きっと、きりりとした印象になって恰好いいと思うので、そんな姿を見せてくれませんか?」

「……………ずるい」

「まぁ、見せてくれないのです?」

「凄く甘えてくる……………」

「謎の定義に収められましたが、結果が良ければそれで良しとしましょう」



こんな服を着て欲しいという要求は、魔物としては甘えられているようで嬉しかったようだ。

少しもじもじしていたディノだったが、ふと、アルテアがテーブルの上に置きっぱなしにしてある書類の一枚に目を留め、小さく息を吐いた。



(おや……………?)



何か困った事が書かれているのだろうかと見ていると、美しい指先が、その書類の上に伸ばされる。

丁度通話を終えたアルテアが、はっとしたように目を瞠るのが見えた。



「……………む、」



ディノの指先に引き寄せられるように、書類の中から立ち昇ったのは不思議な煙だ。

もくもくと雲のように湧きあがり、ディノの指先に触れるほんの少し手前で、ぱきんと凍り付いたように固まってばらばらと砕け散る。



「……………アルテア、インクの呪いがかけられていたようだ。こちらに持ち込む際には、きちんと調べておいで」

「俺の見落としだ。何か、惑わせる術界のようなものがかけられていたようだな」



ほんの一瞬、アルテアがディノに一礼した姿を見てしまい、ネアはおおっと思いつつも、ここは大人の優しさから見なかった風を装う。


このような時は、アルテアですらきちんと謝罪するのだ。



「ディノ、今のくもくもしたものは、悪いものなのですか?」

「あのような書類は、扱う際に触れるものだろう?そこから侵食魔術をかけるんだ。接触面しか魔術反応がないので、視認し難いものでもある」

「触れているところから、気付いたりも出来ないのです?」

「一階層、魔術の試練が敷かれていてね。最初に発見出来なかった者は、その試練から篩い落とされる。その際に魔術の侵食を認識出来ないような対価を課されるんだ。啓示というものを祝福とする、教会や聖域で扱われる魔術だね」

「……………むぅ。アルテアさんに飲ませるお薬は、千倍でいいでしょうか」

「おい、やめろ。侵食魔術の類は、こちらで対応薬を持ってる」



ネアが首飾りの金庫からさっと加算の銀器を取り出すと、顔色を悪くした使い魔は慌てて逃げていった。


今夜は忙しくなるようだし、体調は万全な状態で向かって欲しい。

ネアは、アルテアが自前の薬を服用して魔術侵食を剥離させている間、じーっとその動作を凝視していた。


銀のスプーンを握り締めて監視され、アルテアは顔を顰めていたが、侵食の洗浄が終わると終わったぞと教えてくれる。

どのように剥離して、その魔術がどうなったのかまではネアには見えなかったが、ディノも頷いているので無事に回避出来たらしい。



「今のものが知らずに進んでしまうと、どうなっていたのですか?」

「沈黙の魔術の一種だったようだ。術者が望んだ時に、本人に気付かせず沈黙を守らせる。議論を好む教会では有用なものなのだろうね」

「そう言えば教会組織では、同意を得る際には、沈黙で示すのでした」

「枢機卿の同意を狙ったものだろう。…………ガザの聖堂の、修繕費用の申請書類か。……………この一件は、もう少し掘り下げた方が良さそうだな」



ネアは、レイノとして滞在した時に触れた教会の雰囲気を思い、あの独特な組織の中で枢機卿としても働いている選択の魔物について考える。

普通の人間であれば過労死待ったなしだが、そのあたりは高位の魔物は体力的なものも人間とは違うのだろう。



(……………もしかして、ナインさんがこちらに来ているので、アルテアさんが、その間に書類を仕上げているのかな)



さっと飛ばし読みせずに真剣に目を通していたので、なかなか厄介な案件のものばかりなのだろう。

時折書面を手帳に書き写したりもしているようで、勤勉な魔物の姿といった趣きが少し面白い。


だが、どうして珍しくリーエンベルクで仕事をしているのかなともう一度考えたところで、ネアは不穏な符号に気付いてしまった。



(……………そう言えば、会食堂でお茶をしようと言い出したのは、珍しくディノだったような……………)



そして、冒頭の会話に記憶を戻せば、おのずと真実が見えてくるのではないだろうか。



「……………もしかして、アルテアさんがここでお仕事をしているのも、ディノがお茶をしようと言い出したのも、私をお外に出さないよう見張る為なのですか?」

「ご主人様……………」



このような話題では嘘が吐けない魔物がすぐにしゅんとしてしまい、ネアは、事情を説明してくれれば、脱走したりはしないのにと渋面になる。



「ここまで警戒されると、その竜さんはそこまでのものなのかが気になってきました……………」

「ネア、竜は飼えないよ?」

「むぅ。そんな竜さんへの関心を逸らすには、美味しいおやつくらいのものがないとどうしようもありませんね」

「アルテア、何かあるかい?」

「ったく、昼食を食べたばかりだろうが……………」

「その竜さんは、黒い騎士服なのですよね?」

「木苺のタルトだ。一切れだけだぞ」

「タルト様!!」



勿論優秀な使い魔は、木苺のタルトに綺麗に立てた生クリームを添える事も忘れなかった。


お皿の縁には緑のリースの絵付けがあるので、まるで絵のような佇まいだ。

その芸術的な一皿に、ネアは椅子の上で小さく弾んでしまう。



「……………おい、弾み過ぎだ」

「まぁ、この弾みは、このタルトに対する正当な反応だと主張します!メランジェのお代わりをお願いしますが、アルテアさんも飲みますか?」

「いや、俺はこのままでいい」

「ディノは、………まだ飲み途中ですね。………ふふ。ディノのお陰で、素敵なおやつに出会えました」

「もう、竜はどうでもいいかい?」

「ええ。こんな素敵なタルトに勝る竜さんなどいるでしょうか。ぽいです!」



やがて、ほこほこ湯気を立てているメランジェが運ばれてきて、ネアは待望の一口目をお口に入れた。

甘酸っぱい木苺と、その下のムース部分の組み合わせの素晴らしさにかっと目を見開き、また椅子の上で小さく弾んでしまう。



爪先までぱたぱたさせているネアに、ディノは目元を染めて可愛いと呟いているので、こちらも何だか幸せそうだ。



「むぐ!よくお店のタルトだと、果物の下はクリームだったりもするのですが、アルテアさんのタルトは私の大好きな美味しいムースなどが敷かれていたりして、甘くなり過ぎないので幾らでも食べられてしまいますね!」

「可愛い、沢山動いてる……………」

「何を言っても、一切れまでだからな」

「むぐぅ……………」




幸せなお茶の時間が過ぎ、その日はなぜか夕刻に、リーエンベルクにワイアートの訪問があった。


季節外れの上質な雪菓子が沢山収穫出来たのでと、わざわざお裾分けに来てくれたのだ。


その際、ワイアートは華やかな儀式用の黒い軍服風な盛装姿だったので、ネアは、噂のガーウィンの竜の騎士は拝見出来なかったものの、素敵な竜具合をたっぷり満喫したのだった。









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