ラフィオ
それは、飾り板を手にしていた時のことだった。
ラフィオは片足で長い木の板を押さえ、片手には彫刻を施す為の小刀を持っていた。
ふと、自分は随分と遠くまで来たなと考えてしまい、ラフィオは苦笑した。
つい半年前まで、ラフィオは伯爵家の令嬢であった。
しかし、生まれながら魔術の可動域が高く、災いを呼び込む子供として断罪され、今はこうして市井で暮らしている。
見上げた空は軒先に縁取られ、青い青いその向こうを鳥が飛んでゆく。
豪奢な舞踏会の広間や、優雅なお茶会のサロンからは見えなかった鮮やかな景色に、ラフィオは少しだけ安堵していた。
(……………最良ではない。寧ろ、私の人生は惨憺たるもので、守ってくれる人もいなければ、今後の人生を立て直すにあたり、安心出来るだけの材料も多くはない)
けれどもラフィオは健康で若く、まだまだ働ける体は頑丈だった。
王との誓約を求められた事で、家族からも縁を切られたが、それをしなければ家族達はあの社交界で生き延びられなかったし、貴族として生きてきた彼等がそこを外れて生きて行けるだけの場所はこの国にはなかった。
仕方のないことだ。
このような国の中で異端に生まれつき、それでも家族は、最後にラフィオの為に儀式を取り付けてくれた。
もう二度と会えなくなる娘の為にと、伝手を頼って一人の精霊と話を付けてくれ、その為に支払った金額はかなりのものだっただろう。
災いの子供は追放しなければならない。
もう二度と会えないけれど、処刑をするような国風でなかったのは幸いで、その後の暮らしを案じて出来る限りの事をしてくれた家族がいた事に感謝しよう。
最良ではなくても、これがラフィオの精一杯。
幸運もあったからこそ、こうしてとある工房の弟子にもなれているではないか。
(だからこそこの仕事では、私も力になれるのだと証明しなければ!)
これからは職人を目指すラフィオにとって、この仕事は絶対に成功させなければならなかった。
祭りの為に使う飾り板の角を取り、四隅に僅かな窪みを彫りつけるだけの仕事だが、見習いはここから始めるのが常である。
家族を失っても、婚約者に裏切られても、これからもラフィオの人生は続いてゆく。
その為に必要なのがこの仕事で、やっとラフィオが手にすることの出来た恩寵なのであった。
そう考えながら、板を固定して加工していた時のことだ。
(…………あれ、)
くわんと視界が揺れ、ラフィオは目を瞬く。
目眩かなと思ったが、今朝はお茶を飲んでから工房に来たのだし、昨日だって乾いたパンをお湯に浸して食べた。
立ち眩みにしてはおかしなその歪みは、なぜだか徐々に強くなってくる。
くわん、くわんと視界と体を揺らし、やがてラフィオの世界は真っ暗になった。
「おや、迷い子かもしれないな」
「へぇ、珍しいな。ウィームで呼ばれる事は滅多にないんだが」
「…………うーん、迷い子かねぇ。こりゃ、可動域が低くないかい?」
「おお、こりゃまずいかもしれないねぇ。誰か、詰所にいる騎士を呼んできておくれ!」
ラフィオが次に目を覚ました時、そこは見知らぬ土地であった。
時代や国も違う場所に呼び落とされるのが迷い子だと知ってはいたが、迷い子にすらなれない迷子を外れの子と言うのだと初めて知ったのも、このウィームだ。
ウィーム。
この土地は、そう呼ばれている。
恐ろしい程に美しい、魔術と人外者に愛された古くは豊かな国であった場所。
今はヴェルクレアという国の一領ではあるが、この土地の人々は、ウィームはウィームだという自負を心の中に抱いている。
そんな土地に落とされた理由はしょうもないもので、ラフィオが削っていた板が妖精除けだった事から、忌々しい飾り板を作る人間の子供に悪さをしてやろうとした妖精に、あわいに落とされたらしい。
どこかにやってやろうという悪意が、望み焦がれるものを呼び落とす迷い子とは正反対の理由で、ラフィオを同じような境遇に置いたのだった。
勿論、ラフィオは呆然とした。
血の滲む思いでラフィオが手に入れた仕事が生かしようもなく、それこそ命を削って手に入れた便利な体が不便にしかならないこの土地で、これからの生涯を過ごすことになるのだ。
紛然とし、途方に暮れ、けれども泣かなかったラフィオの心は、自分で思っていた以上にその前の騒動でひび割れていたらしい。
はらはらと、美しい雪が降る。
清廉で艶やかで、ラフィオの大好きなこの天気は、胸がふわりと満たされるような、ウィームを最も優しく彩る天候である。
あの日にウィームに迷い込んでから五年が経ち、ラフィオは、ウィーム領から出されていた補助金のお陰で、漸く魔術学院を卒業したばかりであった。
(……………私は、この街に落とされて良かった)
自分が外れの子になったと知った時の悲壮感はどこへやら、今のラフィオは心からそう思うようになった。
雪靴で雪を踏み、また空を見上げた。
ウィームが好きだ。
堪らなく、例えようもなく、ウィームという土地が好きで堪らない。
(だって、こんなに優しくて美しくて、更には美味しいものだらけで、優秀な職人が沢山住んでいる街がどこにあるというの?!)
そんなラフィオの主張にはいつも、他の土地から移り住んだ者達が力強く頷いてくれる。
彼等もまた、ウィームから何らかの恩恵を受けている者達で、時々集まって食事会をすると、ウィームに住むようになって良かった事を語り合うのだ。
何しろ、外れの子という、迷い子にもなれない可動域の低いラフィオにすら、まずはとウィーム領から生活補助金がぽんと出て、ラフィオはその額に呆然とした。
違う時代からこちらに迷い込んだ事を魔術で証明された後は、ここで暮らしてゆくかどうかの意思確認がなされる。
その上で、最初の補助金が出され、ラフィオは年齢と保有していた知識などを考慮の上で、魔術学院の職人科への入学が許された。
一年は補助金で生活をし、学生生活の中でこの街と国と時代を知る。
学生という役割はきっと、管理と教育をし易いものでもあるのだろうが、それでもウィームで与えられている待遇は破格のものであったとラフィオは思う。
(相応しい対価と引き換えに、後見人を得られると言われたけれど、…………あんな対価に本当に意味があったのかしら?)
身元の確認や対話による聞き取り調査で、ラフィオがこの土地に支払った対価は、ラフィオの暮らしていた国の情報だ。
(最初は、国防や王達の情報について聞かれるのかと思ってひやりとしたけれど…………)
国政や貴族の情報などを明かしても仕方がない。
何しろ、ラフィオの暮らしていた国はもう、六十年以上前になくなってしまっている。
そう言われてまた呆然としているラフィオの前に現れたのは、ウィームの防衛に関わる騎士達と、魔術学院の教授と、他の数人の専門家達であった。
尋ねられたのは、祝祭の作法や、民衆の生活、土地の野菜や料理のこと。
流行っていたドレスの形や、子供の頃に聞かされた絵本の物語など。
そうしてラフィオが提供したものは、各部門の専門家にとって、異国の文化や歴史の研究において大きな価値を持つ生きた資料となる。
彼等はその資料としてのラフィオの話に値段をつけ、ラフィオという人間がここで暮らしてゆく補助金の額を決めるのだ。
(最低補助額に加えて、渡した情報に見合うだけの金額を手当てとして貰える。研究への協力でおこづかいも稼げるし、その対話からウィームでどう暮らしてゆくかの適正も探って貰う事が出来る)
そんな仕組みを作ったひとは、どれだけの叡智を持つ者だったのだろうか。
不思議に思ったラフィオがそれを尋ねると、ラフィオが学院で師事していた教授は、恐らくダリル様だろうとからりと笑っていた。
あの、悪名高く麗しい書架妖精ならさもありなん。
ラフィオは、密かなダリル様の支持者である。
巷で噂の弟子達のようにお近付きにはなれないが、時折市場や街中で見かけると、その日はいい気分で過ごせてしまうくらいには大好きだ。
とは言え、そのようにしてラフィオの生活を支えていた補助金も二年目からはなくなるので、ラフィオは学業と両立出来る仕事を見付け、朝市と夜市で、倒れていたラフィオを見付けてくれたご夫婦の店を手伝う事になった。
ところが、そこからはまぁそんなものかと思えばそうではない。
品行方正な暮らしをしていると、祝祭の時期には、余分を補えるような生活補助金が出るのだから驚きだ。
それはつまり、自分の稼ぎは生活の為に使うだろうからと、祝祭を楽しむ為のおこづかいをあげようという優しさなのだ。
勿論そこにも理由はある。
ウィームの祝祭は魔術の儀式としての側面が強く、参加して貰った方が後々の面倒が少なくなる。
また、ウィームを知るという意味においても重要な機会であった。
その辺りでもう、ラフィオはウィームが大好きだと高らかに叫びたい気持ちでいっぱいだった。
初めて参加した祝祭で沢山の屋台料理を楽しみ、美しい街並みにうっとりして、その日の夜は格安の賃料で暮らしている学院の部屋で喜びのあまりじたばたしたくらい。
家を出てすぐのところで、市場では隣の店のおかみさんにあった。
乳製品を扱う店の主人である彼女は、まずは店への搬入などをする為ラフィオより早くに市場へ向かうのだ。
いつも朗らかで楽しいご婦人は、ラフィオの大好きなご近所さんの一人でもある。
「ラフィオ、また森の散歩かい?」
「ええ。今朝は綺麗に雪が積もっているので、少し歩いてこようと思います」
「気を付けるんだよ。あんたはあまり高度な魔術は扱えないんだから」
「はい。でも、私は抵抗値だけはかなり高いので、こう見えても頑丈ですよ!」
「まったく、あんたが儀式とやらをしないでウィームに来たなら良かったのに、勿体ない事をしたねぇ」
「………おかみさん、それは言わないで下さい。元々の可動域だったら、高給取りの魔術師になれたはずなのにと思うと、悔しくて眠れなくなるんです」
「あはは、そりゃ悪い事をしたね!散歩から帰ったら、仕事の前にうちの店に寄りなさい。美味しい雪毛長牛の牛乳をご馳走してあげるよ」
「わぁ、いいんですか?」
そんな話をし、ラフィオはすっかりご機嫌でいつもの散歩道を歩いた。
王都を追い出される前にラフィオの家族が手配してくれた儀式は、精霊の呪いをかける事で、娘の大きすぎる魔術の可動域を減らすものであった。
既に貴族社会からは追放が決まっていたが、この先は一人で生きてゆく娘が市井に下りても迫害されないようにと、ラフィオの異端さを減らしてくれる為の儀式だったのだ。
であればそれを最初にしておけばと思うだろうが、呪いは呪いなので、そのようなものを背負っている娘はそもそも王都では暮らせなくなる。
追放処分が決まったからこそ、可能になった措置でもあった。
(……………あの国は、もうないのだ)
そう思うと不思議な気持ちになるが、家族とはもう二度と会えないと決められ、追放の誓約書に名前を書いた後のことだ。
祖国と思えば郷愁の念も募るが、決して生きやすい環境ではなかったそこを、過分に惜しむことはなかった。
国が滅びたのはラフィオが生きていた時代のより少し先のことなので、両親や兄は、人外者と契約でもしない限りは穏やかな生涯を終えるだけの余裕はあったと思う。
彼等の人生がせめて穏やかなものであって欲しいとは願うが、それは家族への愛情であって故郷への執着ではない。
正直なところ、今の生活を捨てて故郷に戻れと言われたら、ラフィオは地面に転がって泣き叫ぶだろう。
夜明け前の森は美しく、ラフィオの日課の散歩は、今の自分が置かれている環境を噛み締める為のものであった。
リーエンベルクに暮らしている歌乞いのネア様も、恐らくは迷い子ではないかと言われている。
であればあの方も同じようにこの土地を愛するのだろうかと考えていたところ、どうやらそちらも似たような欲求を日々満たしているようで密かに親近感を覚えていた。
ネア様もきっとラフィオと同じ。
街に出てウィームの美しさに触れることで、ここに暮らしてゆける喜びを噛み締めているに違いない。
実のところ、ウィームには迷い子は少なくはない。
これだけ魔術が凝り、人外者が多い土地なのだからそれも当然のことで、迷い子の為の補助金制度があるくらいなのだから察せるというものだ。
とは言え、ラフィオのようにぽいっと投げ捨てられて落ちてきた迷子は珍しいようで、例外なくほぼ規格外の可動域を持っている優秀な迷い子とは違い、可動域の低いラフィオは、危うくウィームから追い出されてしまうところであった。
(だから、外れの子。可動域の低い人間にはここでの暮らしは難しい。ここに家族が住んでいる訳でもないのだから、そうなれば、ウィームの外れや他の領に送るしかない)
最初はあまりいい印象ではなかったその名称は、迷い子を好む人外者も多いウィームだからこそ、その名称なのであった。
妖精達が、残念ながら自分達の手元に置けないそんな迷い子に対し、外れの子という名称を付けたのだとか。
だから、精霊の呪いが不完全で抵抗値は高いまま残っていたラフィオが、こうしてウィーム中央で暮らせたのは、ラフィオの人生に於いて最大の幸運だったのだと思う。
(それに、……………あの国では災いを呼ぶとされた私の可動域だけれど、ここでは、ご近所さん達も同じような数値なのだもの)
ウィームでラフィオは、異端者から、ただの迷子になった。
それがどれだけの救いで、どれだけの希望だったのかはラフィオにしか分からない事だけれど、与えられた幸せな日々に恥じないだけの真っ当さで、この土地で生きていきたいと思う。
なお、ウィームに来るまでは、木の加工をする職人が天職だと思っていたが、こちらに来てからは菓子職人が天職になるようだぞと進路を変える事にした。
ウィームで好まれる木材は堅く、ラフィオの可動域では綺麗に加工出来ないのだ。
その代わり、器用な指先はクリームやチョコレートの細工に向いていて、可動域が低くても専門の魔術道具を使えば色々なことが出来る。
そんなラフィオの人生を支える道具を与えてくれたのは、祝祭における儀式道具の研究をしている魔術学院の教授である魔物で、彼は、興味深い飾り板の文化を教えてくれたラフィオをとても可愛がってくれた。
若干、生き物としてではなく、お気に入りの生き字引のような扱いではあるが、それでも菓子細工用の素晴らしい魔術道具を与えてくれたのだから感謝しかない。
彼とは今でも、学業の合間にお茶をする事がある。
質問の多さは相変わらずだが、ラフィオにとってのこれ迄の人生にも意味を与えてくれる彼の存在は、思っている以上に有難いものであった。
『……………悍ましい女だ。まさか、災いを呼び込むほどの可動域を持つとは。古くより、大き過ぎる可動域を持つ者は、この国に災いを及ぼすとされてきた。そんな女と婚約していたなど、俺の人生の汚点ではないか。さっさと消え失せろ。二度と俺の名前を呼ぶな』
あの舞踏会の夜、ラフィオは誕生日だった。
婚約者に褒めて貰おうと新しいドレスを着て、うきうきと王宮に出かけていった。
その前日に触れた魔術道具によって、高過ぎる可動域が明らかにされ、王宮の騎士達が自分を追い出す為に控えているとは思いもせずに。
恋を奪われ、家族を奪われ、尊厳は地に落ちた。
けれどもそれは対価だったのだと、今は考えている。
こうして、ウィームという素晴らしい土地で新しい人生を得る為の、必要な対価だったのだと。
「ラフィオ!」
さくさくと雪を踏む足音が聞こえて来た時から察していたが、後ろから駆け寄ってきたのは、婚約者のリレルだ。
彼は、僅かながらも氷竜の血を引く街の騎士で、たいそう美しい顔面を積極的に無駄にしてゆくように、せかせかと走っている。
「リレルは見回り?早いのね」
「ほら君は、またそんな意地悪を言うんだ!君が一人で早朝の散歩に出かけたと聞いて、僕がどれだけ心配したことか。いいかい、結婚したら、家の周りに君がぐるぐる回れるような円形の庭園を作るから、散歩はそこだけで済ませてくれ給えよ」
「…………え、何その狂気的な庭。絶対に嫌なんだけれど」
「ラフィオ……………。どうして君はそう、…………意地悪なんだ」
「ああ、またすぐに涙目になる!」
君は何て意地悪な女性なんだろうと最初に言われたとき、ラフィオは、一目惚れしてしまったこの人は私の事が嫌いなのだわと胸が痛くなった。
リレルは、街の人々が倒れていたラフィオを運び入れた街の騎士の詰所にいた騎士の一人で、身寄りのないラフィオの後見人となってくれた人だ。
冷たい印象のある整った面立ちは、水色がかった金髪と青い瞳のせいでどこか近寄り難く、頭は良さそうだけれどちょっと面倒そうな人だぞと思われかねない言動は、排他的にも思えた。
けれどもリレルは、とても怖がりで愛情深い人なのだ。
ラフィオの事を意地悪だと言うのは、大事に思っているラフィオが、すぐにリレルを怖がらせるような危ない事をするからで、その度に胃を痛めているリレルからすれば、常にラフィオから虐められているようなものであるらしい。
そんなややこしいリレルの真意に気付くと、ラフィオはこの後見人の事が大好きになった。
「ラフィオ、手を繋ごう。君はその、……………可動域が低くて、見ているとどきどきする」
「うん。怪我をしそうで心配で、ハラハラするのよね?」
「さして変わらないだろう。これ以上の嫌がらせはやめ給え」
「ふふ、じゃあ、リレルが不安にならないように、手を繋ごうかしら。………それ何?」
「腹巻だ。君は体を温める魔術で周囲の温度を調整出来ないのだから、もう少し体を温めないと」
「……………コートの上から、腹巻を巻けと言うの?」
「体調を崩したらどうするつもりだ。また私に寝込めと言うのか!」
「困った人ねぇ………」
そんな事を大真面目に主張するリレルを宥めながら、ラフィオは大好きな婚約者と手を繋いで夜明けの森の美しさを楽しんだ。
正直なところ、寒いのは苦手だ。
それでもこの国の雪景色は美しく、こうして外に飛び出して行ってしまう。
嬉しくて、嬉しくて。
幸せで自由で、ラフィオは弾むように毎日を過ごしていた。
(私はもう、一人ぼっちではない)
あの国で異端者として市井に追いやられたからこそ、ウィームに来られた。
そして、半端な儀式で不安定な体を持つ娘だからこそ、優しいリレルはラフィオを見ていると心配でならず、毎日ハラハラしている内にラフィオの事を好きになってくれたらしい。
竜の血を引く彼には、寄る辺なくか弱い者を慈しむ反応のようなものがある。
竜種が愛や恋として惹かれるのは本来なら強さであるが、稀にこうして、庇護するべきものを愛してしまう竜もいるらしい。
竜騎士の一族に生まれた友人からは、竜の宝になると大変だぞと遠い目をして言われたが、リレルはもう、ラフィオの人生にとって欠くことの出来ない大切な人であった。
「リレル。結婚したら、お屋敷の周りをぐるぐる回る庭はいらないから、ずっと私と仲良くしてね」
「君は、当たり前のことをどうして要求するのだろう。それは当然の事だ。何かして欲しい事があるのなら、僕が考えていない事にしなければ意味がないだろう」
「…………じゃぁ、森での散歩は許してくれる?」
「なんて意地悪な事を言うんだろう。君は、僕を殺すつもりなんだな…………」
「大袈裟ねぇ……………」
けれども、そんな人だからこそ、ラフィオを選んでくれたのだから、この人の事はずっと大事にしよう。
そう思っていたラフィオは、翌日、森で見付けたちょっと悪変が始まっていそうな花を、危険物として引っこ抜いて騎士の詰所に持って行ったところ、リレルを号泣させてしまった。
リレルの上司からも、彼を心労で殺さないでやってくれと頼まれてしまい、少しだけむしゃくしゃしている。




