人形飾りの祝祭と桃の実
「…………ふぎゅわむ」
その日、ネアはとてもまずい状態にあった。
とは言えそれは、会食堂のテーブルの上に白いお皿に載った桃を放置していたエーダリアの責任であり、それは誰かからの献上物だと考えてぱくりと食べてしまったネアには一片の落ち度もない。
その桃の皮を剥いて美味しくいただいた直後、ぼふんと体が縮んでしまったのは、とんでもない裏切りであった。
よって魔物は先程からめそめそ泣いている。
「ネアが減った………………」
「…………なんという屈辱でしょう。蠱惑的な大人の女性を、なぜこんなちびころにしたのだ。ゆるすまじ」
四、五歳くらいの無垢な外見でそう暗く呟くネアは、中身まで小さな子供になってしまわなかったことには感謝していた。
もしそんなことになったら、大惨事中の大惨事である。
淑女としての尊厳は地に落ちるようなものだ。
なお、おかしな桃を放置して厨房に何かの食材を取りに行っていたエーダリアは、向かいの席で頭を抱えていた。
さぞかしネアに対して申し訳なく思っているのかと思えば、こちらの領主は、今回の事故がとある妖精に伝わることを恐れているらしい。
「…………くっ、ヒルドに見付かる前に、どうにかしなければだな。…………とりあえず私の執務室に移動しよう。何もしなくとも五時間で元には戻るが、……………っ?!」
ここでエーダリアが鋭く息を呑んだので、何だろうとそちらを向けば、扉のところに立っていたのは、部屋の温度が氷点下に下がりそうな微笑みを浮かべたヒルドだ。
正直なところ、毎回このパターンなので、エーダリアはそろそろ戸口を注視してから発言をするべき時期なのかもしれない。
「エーダリア様?」
「………………ヒルド、………いや、これは………………」
「……………人形飾りの桃が原因でしょうか。なぜ、厳重に管理されていた桃でこのような事が起きたのか、ご説明いただいても?私はあなたに、くれぐれもネア様やゼノーシュが事故に遭わないように慎重に管理して下さいとお願いしておきましたよね?」
「…………………ああ、すまない」
何らかの弁解を用意していたようだが、微笑んではいながらも温もりの欠片もないヒルドの眼差しに心が折れたのか、エーダリアはがくりと崩れ落ち、ネアはご主人様が減ったと落ち込んでいるディノの膝の上でもぞもぞと身動ぎした。
(今のヒルドさんの言葉からすると…………)
エーダリアに注意喚起が成されていたということはネアの無実を主張するのに使えそうだが、あの言葉の内容からすると、ヒルドは元々ネアがあの桃を食べてしまうのではと警戒していたことになる。
それはつまり、ヒルドの想定内でネアが失態を犯したということになるのではなかろうか。
ネアは、すっかり小さくなってしまったものの知能レベルにも影響は出ていなさそうな頭で考えた。
叱られてしまう前に、ヒルドを味方につけなくてはならない。
「……………ふぎゅ、ヒルドさん」
(そして、このような時は、あえて子供であることを利用するに限る…………!!)
目をしぱしぱ悲しげに瞬きで揺らしてみせ、ネアはわざとらしく小さな手をヒルドに伸ばしてみた。
するとヒルドは、はっとしたように瑠璃色の瞳を瞠り、こちらに歩いてきてくれる。
歩みに合わせて揺れる服裾に、こつこつと踵が鳴り、エーダリアが音もなくがくりと項垂れた。
「ネア様、…………どうか、ご安心下さい。あの桃は、アルバンの西部にある小さな集落では祝祭で使われているものでして、体に害があるとは聞いておりません。時間が経てば元に戻りますからね。……………何かご不調などはありませんか?」
「…………ないでふ。しかしながら、このちびこさの無力感はなりません。これでは、ディノのお膝から下りるのも一苦労ではないですか。…………ヒルドさん?」
なぜか会話の途中でヒルドが口元を片手で覆ってしまったので首を傾げると、こちらを見たヒルドの羽がざあっと光った。
「…………っ、……申し訳ありません。つい…………。大変愛らしいお姿になりましたね」
「…………むぐ。むちむちちびちびで、たいへん遺憾と言わざるを得ず…………」
「ネアが減った……………」
「この通り、私の魔物はしょんぼりです…………」
「おや、ディノ様はそのようなご反応なのですか……………。ですが、肉体的な年齢が下がったことで、守護などの不具合もあるのは確かですね。…………アルテア様を呼ばれては如何ですか?私も、至急ネイを起こして参ります」
「……………不具合」
「ええ。年齢に応じて、可否が変わってくる守護がある筈ですよ。ディノ様、その、…………伴侶としての契約は問題ないでしょうか?」
そう尋ねたヒルドにネアはぎくりとし、向かいに座っていたエーダリアがぞっとしたような目をして顔を上げた。
「ま、まさか、そこにも影響するのか………?!」
「……………それはないよ。こんな事がないように、決して元の状態には戻せないようにしてあるからね」
「……………そのお陰で救われたようですが、何となくぞわっとしました」
「ご主人様………………」
ヒルドがノアを起こしに行っている間に、ネア達は、エーダリアから桃についての説明を受けることになった。
実はこの説明がまだだったと発覚し、エーダリアはヒルドから厳しく叱られている。
部屋を出る前にヒルドは一度ネアを魔物の膝の上からひょいと抱き上げてあやすと、こちらが恥じ入ってしまいそうなくらいに艶やかに微笑んだ。
むちむちした頬に口付けまで落としてから解放してくれたので、すっかり幼子に対する仕打ちである。
ネアはそんな風に慈しまれる擽ったさにほんわりとはしたものの、やはり大人の女性としてはたいへんな打撃であると言わざるを得ない。
アルテアを呼ぶべきなのだろうが、絶対に笑われるので、その耐え難い苦痛の予感と戦っていた。
「お前が食べてしまった桃はな、人形飾りの桃と呼ばれている。トウフェムと呼ばれる小さな集落で、古くから祝祭に使われる祝福の桃だ。食べた者を五時間だけ幼児の姿に戻す祝福があり、集落の人々はこの桃を食べ子供の姿に戻ると、その祝福を使って飾られる人形で無邪気な人形遊びを楽しむそうだ」
この桃が生まれたきっかけは、トウフェムの大人達の嘆きが、桃の精霊に届いたからである。
トウフェムではこの時期、美しい人形飾りの祝祭があるのだが、一家につき四十五体もある小さな人形で遊ぶと厄払いになるというその祝祭は、大人達にはなかなかの苦行であった。
何しろいい年をした大人達が、飾り付けた人形で本気で遊ばなければならないのだ。
そんな恐ろしい祝祭を誰が始めてしまったのかは謎だが、話を聞いていたディノ曰く、その羞恥を乗り越えて祝祭の祝福を得るという形は犠牲の魔物のものに似ているのだとか。
とは言えその対価はあまりにも人々の心を蝕んでしまい、彼等の嘆きを聞いた桃の精霊が、毎年四十五体の人形を桃の精霊に収める代わりに、五時間だけ幼児になれる桃の祝福を授けてくれたのだ。
「しかし、思考まで幼児になると大変なことになるからな。幼児に戻すのは肉体のみとしたのだろう」
「桃の精霊さんは恐ろしいことが出来るのですね……………」
「本来なら階位的には不可能な魔術だから、その土地ではかなり丁寧に祀られているのか、或いは桃の精霊達の仕事にみせかけて、他の高位のものが力を貸しているのかのどちらかだろう。………時間の座の精霊の気配を感じるから、この祝福は本来は時間の座の精霊からのものかもしれないよ。幼子の姿でいることを資質とする、黎明の精霊達がいるからね」
(となると、もしかして黎明の精霊さん達は人形が欲しくて…………)
人差し指くらいの小さな人形が、その集落の名産品なのだそうだ。
所謂造形が繊細過ぎて夜中に見ると怖い系のものではなく、ほっこり可愛い系の人型の人形に、集落の女達の器用さでこれでもかと凝りに凝った洋服を作って着せる。
民族衣装やドレスなど、色鮮やかで可憐なあまりにも素晴らしい仕上がりに、その人形達は人外者への対価や献上品として有名なのだとか。
「調伏の魔術具とされているが、実際には彼等の心を満たす為の物だ。恐らく、その人形の愛好家は人外者の中にも多いだろう」
「…………可愛い人形に癒されてしまうのですね………………」
「そう言えば、エヴァレイン………グレアムの伴侶だった魔物が、そのような人形を集めていたことがあったね…………」
「そうなると、まず間違いなく、奥様の為に、集落の方々に厄払いの祝福を授けようとしたのでしょう…………」
「人外者に好まれる品を作るということは、作り手達が拐われたり、無理な注文を受けたりする危険とも隣り合わせだからな、そこから守る為の厄払いなのだろう」
ではなぜ、その桃がリーエンベルクの会食堂に置かれていたかと言うと、とある騎士の甥っ子達がその集落に遊びに行った際に、捥いで持ってきてしまったのだそうだ。
勝手に持ってきてしまっても障りがあるものではないが、悪用されると大変な事になりかねないので、その騎士がエーダリアの元に持ち込んだらしい。
「そして今日は休日のエーダリア様は、桃を加工した場合には祝福がどうなるかという実験をする為に、うきうきでここに桃を置いたまま、厨房に相談に…………」
「……………まさかこの時間にお前が来るとは、思っていなかったのだ。だいたい、なぜ誰のものかも分からない桃を食べたんだ…………」
「桃が乗ったお皿は五枚もありました。これはもう、デザートとして皆に振る舞われたに違いないと確信するに至り…………」
ネアとしては、そんな桃であれば置き方があるだろうと主張したいのだが、育ちのいいエーダリアは、食べる為に育てられた桃をそのまま机の上に転がしておけず、なぜかデザート皿の上に一個ずつ載せて置いてしまった。
その結果、ネアはこんな目に遭ってしまっているのだ。
「君の容姿は、外部からの介入で変えられないように魔術指定されているのだけれど、擬態を含め、排除していない魔術もあるんだ。今回は厄払いの為の祝福の効果だから、弾かなかったのだろう。この祝福自体にも、守護などがあってもそれに阻害されず、祝福として姿を変える為の魔術が敷かれているからね…………」
そう教えてくれると、魔物は切ない溜め息を吐いてネアを抱き締める。
小さくなってしまった伴侶が可愛いと思うような心の余裕はなく、ディノは、ネアの総体積が減ってしまったことが悲しくてならないらしい。
(そもそも、魔物には、子供が可愛いという嗜好そのものがないのかもしれないわ…………)
ディノと伴侶になる際に、ネアには、魔物が子を成さないことが説明された。
司るものを持ち、同一要素に複数個体がいるものではない魔物達は、各自がその司るものの王として成り立つ。
よって、ぼろぼろとその資質を増やすのは世界の均衡に宜しくないと言うことと、仮にもその資質を司る者に未熟な時代があっては世界に不利益を与えるということから、魔物は子供を持たない種族なのである。
各々の性格的な未熟さなどの問題はさておき、派生した時から死ぬまで姿を変えない魔物だからこそ、概念などを司ることも出来るのだ。
だからと言って婚姻の拒否権がある訳でもなく、ネアとしても、だからと言ってディノを手放す理由にはならなかったが、種族的に子供を持たないということであれば、このようなところで価値観の差が出てきてもおかしくはない。
(そうなるとディノには、今回の事は恐ろしいばかりなのかもしれない……………)
水紺色の瞳をふるふるさせて悲しくこちらを見ている魔物が不憫になり、ネアは、短くなった足をばたばたさせてみる。
「この体ではディノのお膝から下りられないので、一人ではどこにも行けません!」
「……………ここから下りられないんだね」
「一人では扉も開けられませんし、高いところのものにも手が届きません。元に戻るまでは、ディノがいないと生きてゆけないのです……………」
「可愛い、私がいないと生きてゆけないのだね………………」
「………………自損事故ですが、ぞわりとしました」
とは言え、ディノは少しだけ落ち着いたようなので、ネアは、怖々と小さなネアの体に添えられた手の中から、人差し指を選び出してちびこい手でにぎにぎしてみた。
「ディノ、減ったものは時間になれば戻るようです。元気を出して下さいね?」
「………………ネアが虐待する」
「なぜなのだ。解せぬ」
するとそこに、足音が響いてノアを起こしに行っていたヒルドが戻ってくる。
ヒルドの後ろから会食堂に入ってきたノアが、こちらを見て青紫色の瞳を丸くするのが見えた。
起きたばかりなのか髪の毛はくしゃくしゃだが、魔物らしい美貌のお陰でそんな様子は目立たない。
「わーお、…………縮んだなぁ」
「……………むぐる」
「ありゃ。なんで唸ってるのさ?」
「……………魅惑的な大人の女性から、このちびころです。何という屈辱でしょう」
「あ、ネアはそう思うのか……………」
「むぐ。なぜにちょっぴり笑ったのだ!許すまじ!!」
「ネア、暴れてはいけないよ。ほら、君は一人ではどこにも行けないのだからね」
「……………過去の自分の軽率さを恥じています」
「その服って、シルが用意したの?」
「縮んでしまったから、元々着ていた服は大きくなってしまったんだよ」
「……………ふうん。シル、ちょっとネアを借りていいかな?」
「ネアをかい…………?」
にっこり微笑んだノアの姿に、ネアは危険を察知した。
この展開でこの発言がなされた場合、幼児化した者はまず間違いなく、ふりふりの幼児ドレスなどを着せられるのがお決まりの展開ではないか。
顔を強張らせて首をふるふると横に振っていると、ノアは眉を持ち上げてからまた微笑みを深くする。
「ネア、せっかくだから可愛くしよう!」
「遠慮させていただきます。私は仮にも既婚者ですので、浮ついたふりふりなど……ぎゃ?!離すのだ!!」
「ネアが……………」
「シル、人間の子供には、このくらいの大きさの子供にしか出来ない服装があるんだ。いつもとは違うネアが見たいよね?」
「いつもとは違うネアを…………」
塩の魔物からの邪悪な誘いを受け、ディノがあっさり陥落するのを、ネアは死んだ魚のような目で見ていた。
瞳をきらきらさせて期待の眼差しでこちらを見る魔物は、もはや説得の余地など微塵も残っていない。
「そうなると、エーダリア様に頼るしか…………ぎゃ!ヒルドさんに説得されている!!」
「ネア様、本来のその桃を使った祝祭では、集落の人々は子供らしい服装で着飾るそうですよ。せっかくですし、厄払いも兼ねて着替えましょうか?」
「むぐ?!」
「よーし、そうと決まれば着替えだね」
「むぐるるるる!」
ネアは精一杯威嚇したが、ひょいと持ち上げられただけでもう逃げられないのだ。
脱げてしまった戦闘靴のせいで戦闘力も落ちているし、体に合わせて大きさを変えた驚きの仕様の首飾りや指輪はあれど、その中に仕込んだ武器を取り出すより早く、狡猾な塩の魔物は、ネアをヒルドに預けてしまった。
「おや、良かれと思いましたが、お嫌でしょうか?」
「…………………ぎゅ」
優しく微笑んだその眼差しには有無を言わせない不思議な力があり、ネアは悲しい目のまま、抗い難い大きな力の前にこくりと頷くしかなかったのだ。
その結果、隣室でヒルドとノアにあれこれお着替えさせられてしまい、結果として水色と白のふりふり子供ドレスを着る羽目となる。
髪の毛もツインテールにされて白いリボンを結ばれ、こんな格好は、もっと目がくりくりとした可愛いお子さんでやるべきだという悲しい訴えは棄却された。
「………………なぬ。なぜ増えているのだ」
そして、ヒルドに抱っこされて会食堂に戻ってきたネアは、なぜか魔物が増えていることに慄いた。
そこには、守護などに不具合があるといけないというヒルドの言葉と真摯に向き合い、アルテアだけではなく、ウィリアムまで呼んでしまった伴侶が待っていたのだ。
良かれと思っての大惨事と言える。
「……………っ」
吹き出しそうになったものか、口元を片手で押さえ、明らかな笑いの表情で肩を震わせたアルテアをぎろりと睨んだネアは、目を瞠ったままこちらを凝視している終焉の魔物に、ぞくりとする。
その視線に気付いたのか、いつもは察しのいいヒルドが、孫自慢のお爺ちゃんのような気安さで、自慢の孫ですが抱っこしてみますか的な安易な受け渡しをしてしまったのは、最早呪いなのかもしれない。
かくして、今度は終焉の魔物に抱っこされることになったネアは、屈辱のあまりの涙目でふるふるしながら、ウィリアムの白金色の瞳を見上げた。
するとなぜか、ウィリアムは微かに目元を染め、はっとする程に嬉しそうな微笑みを浮かべるではないか。
「…………小さな子供を抱き上げる機会は、滅多にないんだ。擬態をしていても、うっかり弱らせてしまうことが多いからだが…………」
「……………ちびころは屈辱なのです」
「そうなのか?こんなに可愛いのに、勿体無い」
「……………むぐぅ」
あまりにも嬉しそうにされると、荒ぶることも出来ず、ネアはその後、散々ウィリアムに抱っこされてしまい、ディノの膝の上に戻された。
皆、本日の仕事や用事はどこに行ってしまったものか、わいわいと囲まれてあれこれされてゆく内に、ネアは親族の多い一族に生まれた初孫的な気苦労を嫌という程に知ることになる。
「むぐる!この苦労に見合っただけの、おやつを寄越すのだ!!」
「おや、ではケーキでも用意させましょうか」
「ヒルド……………」
「ケーキがあるなら、少しばかり大人しくするのも吝かではありません………」
「可愛い、弾んでる…………」
「僕さ、何となく分かってきた。このネアの最大の可愛さって、ちょっと涙目で不機嫌そうなところだよね」
「はは、小さな手だなぁ…………」
ネアはケーキが来るまでの時間の中で、決して幼児姿に惑わされることなく、けれどもにやにやしながら意地悪くこちらを観察している使い魔をじっとりと見つめる。
「せいぜい、今だけは私を笑うといいのです。元に戻ったら、すぐさまちびふわにしてしまい、お腹を撫でてくたくたにしてやるのだ……………」
「ほお?この状況でそんなことを言っていいのか?」
「……………ふぐ?!」
ここでネアは、今度はアルテアにひょいっと持ち上げられてしまい、わざとらしい高い高いをされて怒り狂った。
荒れ狂うネアの姿に、なぜか伴侶の魔物は久し振りにこんなに暴れているところを見たと頬を染めており、ちっとも助けてくれる様子はない。
それどころか、顔色を悪くして目が合うとさっと顔を背けるエーダリア以外、みんなとても楽しそうだ。
「おのれ、この恨み……………」
暗い復讐の念に眼差しを険しくしながら、出されたケーキを子供用のフォークでむぐむぐ食べていたネアは、元の姿に戻ってから戦っていたのが自分一人ではなかったことを知る事になる。
ネアの幼児化の第一報を受けたゼノーシュも、絶対にその情報をグラストに伝えないようにするべく、騎士棟の厳しい情報統制を行い、尚且つネアが騎士達の目に触れるところに出てこないよう、こちらの様子にも鋭く目を光らせていたのだそうだ。
散々弄ばれてしまったネアは、最後の半刻は疲れ果てて眠ってしまい、眠ってしまったネアも可愛かったと満足げな微笑みで教えてくれたノアの顔を見ているだけで、その間にまたどんな事をされたのかは怖くて聞けなかった。
幼児がどれだけの危険に日々晒されているのかを理解したので、今後大人の精神を持ちながらも幼児姿でいるという、黎明の時間の座の精霊たちには敬意を払おうと考えている。
なお、件の集落では幼児化した住人たちは楽しく人形遊びをし、その間の集落の警備を引き受けている近隣の妖精達と、賑やかに追いかけっこなどをして童心に返って祝祭の日を過ごすそうだ。




