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木の実の住人と不法投棄





その日、ネアは禁足地の森で不思議なものを発見した。




(これだ……………)




昨晩の内にたっぷりと雪が降ったばかりの森の中で一緒にこのおかしなものを探してくれていた伴侶の三つ編みをくいくいっと引っ張り、足元のこんもりとした木の実の山を示せば、真珠色の美しい髪の魔物はどこか途方に暮れたような目をした。



「ご主人様…………」

「むぅ。最近出会うおかしなものは、なぜにこうも木の実続きなのだ。もしや、木の実の呪い的な………?」




仕上げた薬を納品した帰り道に、リーエンベルクの廊下の窓から見えたのは、奇妙な黒い砂山のようなものだった。


ディノと顔を見合わせ、良くないものだといけないからと念の為に確認に来てみたところ、この木の実の山を見付けてしまった。


違和感を覚えて目を留めたからにはこれまでにはなかったものに違いないのだが、いざ発見した後はどうすればいいものか。




「ディノ、これは木の実の不法投棄でしょうか」

「不法投棄なのかい?」

「ええ。こうして降り積もった雪の上に不自然に積まれていますし、近くの木の上の栗鼠さん達が、どうにかしてくれ給えというような動きをしているので、この森のものではない可能性が高いと思われます。森の方々にもさして歓迎されていないようなので、燃やします?」

「……………木の実は、動くのかな」

「……………むぅ。動いてますね。……………もしやこれも、雪花椿の実のように爆発するのでしょうか?」



そう聞いてびゃっとなったディノは、可動域が上品めな伴侶を爆発するかもしれない木の実に触れさせてはいけないと思ったらしい。

素早くネアを腕の中に収めてしまうと、きりりとした面持ちで前に出てくれた。



とは言え、この魔物にとっては苦手な領域に近しいものだ。

たいそう震えているではないか。



「まぁ、こんなに震えて。無理はしないで下さいね?」

「破裂するといけないから、近付いてはいけないよ。気になるなら、…………拾ってみるかい?」

「この世界には良く分からないお作法のものが沢山ありますから、迂闊に触れて、私の大事な魔物の指先がかぶれてしまうと怖いのです。まずは誰かにご相談してみましょうか」

「うん………」

「ディノ、これは……………木の実ですよね?」

「……………生きてはいるかな。ただ、木の実の中にいるのかな。種族はまだ良く分からないんだ」

「むむ。では、何かが内側に潜んでいるかもしれない事も含め、この木の実の詳細を伝えますね!」




(この場合は、騎士棟に判断を仰げばいいのかな……………)



普段のネア達が異変などの一報を入れるのは、おおよその場合が、エーダリアかヒルドである。



これは、歌乞いという役職が組織に於いて騎士達の下に紐付くものではないからでもあるし、ネア達が発見するものの多くが、エーダリアやヒルドに判断を仰がねばならないような案件が多かったからだ。




(目の前にあるのは、不審とは言え木の実の山なのだから、……………)



生きているものが中に入っているにせよ、現段階では、会議中の上司に確認をお願いする程の事案ではないと判断するべきだろう。


なのでネアは、まずはリーエンベルクの騎士棟に一報を入れてみた。


連絡を受けてくれたのはたまたま休憩中だったグラストで、森にあった謎の木の実の山について確認してみたところ、一緒にいるゼノーシュも含めて心当たりがないと言う。


新しく派生した生き物という想定もした上で、奥さんを同伴したゼベルがこちらに来てくれることになり、ネア達はそれまで木の実の山の見張りをする事になった。



静かな静かな雪の森で、ピラミッド型に積み上げられた櫟の実のようなものは、注意して見ていれば時折もぞもぞと動いている。


さすがにこちらの木の実も爆発することはないだろうと考え、ネアはきりりと背筋を伸ばした。

リーエンベルクに一報を入れて、対策を担ったからには、ここからはもう立派なお仕事なのである。



「まずは、ゼベルさんと夜狼な奥さんが、こちらに来てくれるそうです。あの夜狼さんであれば、森の住人の方々とお話が出来るので、木の実が現れた状況も判明するかもしれません」

「うん。ではそれ迄の間は逃げないようにしておこうか」

「………もしや、逃げ出そうとしているのですか?」

「少しずつ、移動しているようなんだ。下を見てご覧」

「むぅ。ずりずりっと動いた跡がありますね………」



きちんと見張っていた筈なのに、いつの間にか雪の上には木の実の山がずれ動いたような跡があった。

逃げるという意思を持つものとなると、少し厄介なのだろうか。


ネアが逃げられないように雪で埋めてしまおうかなと考えていると、ディノが排他結界で囲ってくれた。

目には見えない壁のようなものに阻まれて動けなくなった木の実の山は、困惑したようにぐりぐりと結界の表面を押していて、ぎしぎしと音を立てた。



この場所が禁足地の森に入ってすぐのところということもあり、待ち人はすぐにやって来てくれた。



「ネア様、ディノ様、お待たせしました」

「ゼベルさん、来ていただいて有難うございます。こちらが、問題の木の実なのですが……………」

「うわ、この森のものではなさそうですね。奥さんが嫌っていますし、エアリエル達が乾いた土の匂いがすると騒いでいますから」



ひらりと騎士服のケープを翻して駆け付けてくれたゼベルは、リーエンベルクの第二席の騎士だ。


ネアが出会った頃はもしゃもしゃの黒髪と少し項垂れるような姿勢が目立ち、騎士という言葉から想像されるような凛々しさよりも魔術師的な雰囲気だったものの、夜狼の奥さんを貰ってからは、すらりと背筋が伸びてなかなかに凛々しい騎士姿になった。


ネアがグレイシアと間違えたこともある篝火のような赤い瞳も、悲し気で疲弊した表情が抜け落ち、いつもきらきらしている。


そんな風にゼベルを変えた可愛らしい奥さんは、今日もゼベルの肩に乗ってキュンと鳴いていた。




「乾いた土…………」

「……………奥さんの聞き込みによると、昨晩の夜の内に魔術で現れたみたいですね。転移や渡りではなく、誰かに廃棄されたものかもしれないという事です」

「となると、その種の魔術が展開されたのかな?」

「恐らくそうでしょう。何がとは言えないようですが、確信はあるようです」

「まぁ。廃棄の為の魔術があるのですか?」

「うん。不用品や危険物の廃棄用の除外魔術があるからね。そのようなものを使って、ここに運んだのではないかな」



そう教えてくれたディノに、木の枝の上の栗鼠達が一生懸命頷いている。


彼女たちは三姉妹で、この木の実の居座っている近くに大事な団栗を隠した貯蔵庫があるので、どうにかして邪魔者を追い払って欲しいのだそうだ。


むちむちぶりんな冬の蓄えで丸くなった栗鼠妖精の姿に、ネアはふむふむと神妙な面持ちで頷きながらも、その心の中はふかふかのお腹やお尻への愛くるしさでいっぱいであった。


とは言え、ウィームの森がどれだけ豊かとは言え、冬の森での備蓄食料は大事なものなので、栗鼠妖精達にとっては死活問題になりかねない。

ゼベルの肩の上に乗った夜狼の奥さんも、森での暮らしを知る者として憤慨したように頷いている。



「ディノ、乾いた土という響きを聞くと心配になってしまうのですが、カルウィの方から来たものだったりするのでしょうか?」

「あの土地の魔術は感じないね。エアリエル達の話しぶりからすると、更に遠い土地から来たものではないかな。海の匂いと火食い鳥の匂いもすると話しているから、南方の島国などの魔術証跡に近いかもしれない」



どうやらディノは、エアリエル達の会話にも耳を傾けてくれていたようだ。


エアリエルは特殊な存在なので、どんなことを話しているのか分からない時もあるそうだが、今回はこちらに情報を伝えようとしてくれているので明瞭に聞き取れるのだそうだ。




つまりのところこの木の実の山は、随分と遠いどこだか分からない場所からこの森に廃棄されたということらしい。




「………うーん、そうなると、手に負えないものをこちらに廃棄された可能性がありますよね。場合によっては、封印庫にも声をかけた方がいいかもしれませんね。奥さん、絶対に肩から降りないようにね」

「キュン!」

「むぅ。では、私からエーダリア様に連絡をしてみますね。街の騎士団の方達との打ち合わせは半刻もかからないと仰っていたので、そろそろ終わる頃かもしれません」

「では、お願いしても宜しいですか?その間に、エアリエル達に他にもこのようなものがないかどうか、森を調べて貰います」

「はい!」




ネアがピンブローチの通信端末から連絡をすると、エーダリアは、丁度予定を終えて執務棟に戻る道中であった。



事情を説明したところ、封印庫は呪いの木桶を受け入れるのにてんやわんやらしく、魔術師を派遣するのは難しいだろうということで、ヒルドとノアがこちらに来てくれることになる。

もしこれが襲撃の陽動などだったら危ないので、その間、エーダリアにはグラスト達が付き添ってくれるらしい。



「ふぅ。ヒルドさんやノアが、こやつらの正体を突き止められればいいのですが……………」

「そうだね。ヒルドは、独自の文化や生態系のあった土地の出身だ。私が知らない事も、彼なら知っているかもしれないね」



ディノとそう話していると、森の調査を終えたゼベルがこちらに戻ってきた。



「……………森に、似たようなものはなさそうですね。ただし、個別にどこかに転がっているような状態ですと、エアリエルでも捜索は難しそうです」

「ゼベルさん、有難うございました」

「その場合は、魔術でこちらのものに紐付けて、同じ要素を持つものを集めてしまおう。階位としてはさして高くないものだから可能だと思うよ」




(……………あ、)




その時だった。



ネアは、木の実の山の中から誰かにじっと見られているような気がして目を瞬く。

しかし、はっとそちらを見れば、直前まで感じていた視線が感じ取れなくなってしまう。



「ネア?」

「誰かに見られているような気がしました。この、木の実の山の中からです」

「……………どこかに顔があるのかな」



それはちょっと苦手な感じなのか、魔物は少しだけ傾いてしまい、それでも健気に伴侶を守ろうとしている。


犯人を突き止めようとネアが凝視したからか、木の実はすっかり動かなくなってしまい、睨み合いのようなじりじりとした緊張感に心が張り詰める。



ピチチと、どこかで鳥の鳴き声が聞こえた。



雪の禁足地の森は清涼な美しさで、すぐ近くには、枝の一部が結晶化している古く立派な木があった。

その木の下の茂みは、木苺だろうか。

森水仙の花も咲いており、本来なら花の妖精達の姿も見える筈なのだが、今日は、見慣れない木の実の山の出現を警戒し身を隠しているのか見当たらないようだ。



さくっと音が聞こえ、ネアははっと息を飲んだ。

一瞬、この木の実の山が動いたのかなと思ったが、背後に誰かが立った音であったらしい。



「ネア様、ディノ様お待たせいたしました」

「ヒルドさん!」

「どれどれ、わーお、これが問題の木の実かぁ。……………え、なにこれ」

「むぅ。ノアは心当たりがないようです…………」



張り詰めた空気を和らげるように、そこにやって来たのはノアとヒルドで、不確かなものがあるからと転移は踏まずに歩いて来てくれたようだ。


合流するなり、困惑の表情になってしまった塩の魔物は、どうやらこの生き物には見覚えがないらしい。

寧ろ苦手な形態なのか、こそこそとネアの背後に隠れようとしている。



すっと前に出たのは、ヒルドだ。

雪に反射した薄曇りの日の陽光が僅かに開いた羽を透かし、その美しさにネアはこっそり息を飲む。



「…………ハハカリの巣に似ていますね。触れたりはされていませんか?」

「ええ。まだ私達は触れていません。視線を感じたような気がして凝視したのですが、生き物なのですか?」



そう尋ねたネアに、ヒルドは小さく頷いた。

厳しい眼差しでゼベルに他にもこの生き物がいなかったかを確認しているので、良くないものなのだろうか。



(そして、ヒルドさんが確認した事を予めちゃんと調べておいたゼベルさんは、やはり立派な騎士さんなのだわ………)



「ええ、妖精の一種でしょう。であればやはり、ハハカリの種のものだと思いますが、………結論を出すのは、本体を確認してからにいたしましょう」

「わーお。かなり警戒しているって事は、駆除対象だね」

「ええ。ハハカリだとすれば、ネア様達が触れずにいてくれて良かったと言わざるを得ません。………一度、この巣から少し離れていただいても宜しいですか?」




(……………巣かもしれないのだわ)



その響きに少しだけぞわりとしてしまい、ネアはじりじりと木の実の山から離れる。

ヒルドは、ディノに結界の上の部分を開けて欲しいと頼んでいて、四方を囲む結界自体も、少し広めに取り直すようだ。



ヒルドの指示に従い全員がその場から少し離れると、美しい羽を僅かに広げた森と湖のシーは、どこからか取り出した小さなチーズの塊のようなものを、木の実の山目掛けて放り投げた。



「ぎゃ!」



投げ込まれたチーズが、木の実の一つに触れるか触れないかのところで、積み上げられた全ての木の実がぱかっと開くと、中から小さなけばけばの毛玉のようなものが飛び出してチーズに飛び掛かかった。


整然と積み上げられていた木の実の殻が崩れ落ち、その周囲は俄かに阿鼻叫喚の様相を帯びた。


がつがつとチーズを貪るもの、何とかしておこぼれに与ろうと仲間の毛玉にへばりつくもの、チーズに手が届かなくて泣き叫ぶものと様々だが、あまりの荒ぶりようにネア達は呆然とするしかない。



途方に暮れてヒルドの方を見たネア達に、ヒルドは相変わらず厳しい面持ちのまま、小さく頷いた。



「やはり、ハハカリの一種のようですね。木の実に擬態する猪の妖精の一種で、木の実を手に入れようと近付いたものに集団で襲いかかります。かなり獰猛なので、不用意に手を出さない方がいい生き物ですね」

「おや、階位は低いようだがそれでもなのかい?」

「ええ。個別の階位は低いのですが、妖精らしく侵食魔術に長けていて、これくらいの数が集まると、集合魔術で獲物の体を侵食融解しながら食べられるようになります」

「わーお。集合魔術かぁ。そりゃえげつないなぁ………」

「……………ヒルドさん、こやつらは猪なのですか?」

「ええ。私の知るハハカリであれば、実際に小さな猪の姿をしておりましたよ。見た目は酷似しているので、こちらのものも毛を刈ってみれば猪らしくなるかもしれません」

「という事は、毛玉にしか見えないくらいに毛が伸びているだけなのですね…………」




ハハカリ種はたいへんに獰猛で、大きな森牛なども丸ごと食べてしまうのだそうだ。


ヒルドの住んでいた森では、生息域の環境変化があったりすると渡りでやって来る害獣で、見付け次第に排除しなければならないと言われてきたそうだ。


人間の子供も襲うと聞けば排除するしかないのだが、ヴェルクレアではほぼお目にかかれない生き物だと判明すると、エーダリア主導でガレンの魔術師が一部の個体を引き取ることになった。


どこの土地でも、見付け次第滅ぼす害獣であるハハカリは、生息域でもなければ滅多に捕獲出来るものではなく、希少生物担当の魔術師は大喜びで研究に入るらしい。




「かけられた廃棄魔術は、魔物のものじゃないかな。添付されている魔術には明確な行き先がないようだったし、どこかの誰かが、自分の土地を荒らすハハカリを廃棄魔術で無差別に排除したと考えるのが妥当かな」



そう話しながら、ノアはフォークで大海老のスープ煮をつついている。

エンダイブの風味の美味しいスープで、上に回しかけたクリームを均等にしようとしているようだ。


これを硬めのブロートパンでいただくのだが、いつもの料理とは少し違う雰囲気でとても楽しい。


王都のヴェンツェルから、先日の伯爵令嬢の問題もあり、お見舞いとして沢山の海老がリーエンベルクに届けられたのだ。

明日のお昼には小海老のサンドイッチを作ってくれるそうで、ネアはそちらも今から楽しみにしている。



「なんと迷惑な事件でしょう。森の生き物さんが、木の実を見付けたと思って手を出してしまわなくて良かったです」

「場所が良かったのだろうな。水仙の妖精達は目がいい。ハハカリを嫌がってあの場から逃げ出した水仙の乙女達の様子を見て、周囲のもの達も近付かなかったようだ」



エーダリアが食べているのは、焼きトマトの温かなサラダだ。


甘く熟れた冬息トマトを半分に切り、薔薇塩と粉チーズ、そして少しのオリーブ油をかけて軽く焼いただけのなんともシンプルな料理だが、これがとても美味しいのだ。



「あの妖精は、蓄えた木の実の中が悪くなっていたらどうしようという、森の生き物達の警戒心から派生したものだと聞いています。生息域に開発の手が入ったものか、本来の生息域以外の土地に移動して、そこから駆除されたのかのどちらかでしょうが………」

「ハハカリ種を見たのは初めてだ。このような事もあるのだな…………」



ここでネアは、ハハカリの出現の理由を考察するヒルドと、初めてハハカリの本物を見たことに密かに興奮しているエーダリアの会話が噛み合っていない事に気付いていたが、美味しい大海老を頬張っていたので指摘する余裕はなかった。




「リーエンベルクの敷地内と違い、あの森への訪れは守護や排他魔術で防げるものではないからね。暫くの間は、二度目があるかもしれないと考えておいた方がいいね」

「ゼベルからアメリアに指示を出し、森に暮らしている雨降らしにも情報を共有しております。それで防げるといいのですが………」



もぐもぐごくんと海老を飲み込み、ネアはむむむと眉を寄せた。



「あの様に不自然に積み上がっていたので警戒出来ましたが、一個だけ落ちていたら、うっかり拾ってしまいそうですね」



ネアがそう言えば、こちらを見たヒルドが微笑んだ。



「その心配はありませんよ。ハハカリ種は、あのように積み上がって群れを成さないと生きてゆけない妖精なので、単体での行動はあり得ません。どうしてそのような生態なのかは分かりませんが、一定数以上が集まると発する独特な魔術香の届く範囲でしか生きられないのだそうです」

「……………まぁ、死んでしまうのですか?」

「呆気ない程に。なぜそのような生態なのかは、良く分かりませんが」



生まれ育った森にハハカリが現れた際に、ヒルドは、それが本当かどうかを調べてみたのだそうだ。

一族には小さな子供たちもいるので、万が一単独のハハカリも獲物を狩るとなると大問題になる。


駆除残しがあって被害が出てからでは遅いのでと、一匹だけ引き離してみたところ、あっという間に死んでしまったらしい。



「うーん。集合魔術がないと獲物を狩れないから、仲間を集める為にそうなったのかなぁ…………」

「はぐれると死んでしまうのだね………」

「むぅ。何だか最近、謎めいたものによく出会いますねぇ」



ネアがそう言えば、ノアはくすりと笑った。

僕にもよく分からないものが沢山あるよと前置きをして、その理由を教えてくれる。



「僕達にも良く分からないような生き物が多く暮らしている土地は、幾つかあるんだ。ランシーンもそうだけど、旧世界の魔術が残る土地にその傾向がある。あの、人面魚とかいう悍しい魚がいい例だよね」

「…………取り敢えずもう、木の実的なものはお腹いっぱいです」



ネアがそう言えば、今回のハハカリは苦手だったディノもこくりと頷いている。

なぜかノアも頷いた。



「でも、そのようなものがまだまだあるとなると、少し心配もありますね………」

「この国で言えば、オフェトリウスなどはそちら側の魔物に近しい。白夜などもそうだね」

「まぁ、オフェトリウスさんは剣の魔物さんなのに、そちら側なのですか?」



ネアは、道具を司る魔物が旧世界の魔術に近しい事に驚いてしまったが、オフェトリウスを含めた剣の魔物達は、始まりの地が旧世界の魔術の凝る土地なので、嫌でもその魔術に近しくなるのだそうだ。



「扱いに困る事があれば、君は、あのテントに住んでいた人間に知恵を借りるといいだろう。彼等のような、土地の魔術に長く触れてきた者達の持つ知識はとても貴重だから」

「ふふ、ディノがそんな風に教えてくれたので、いっそうにあのご家族が好きになってしまいそうです」

「……………浮気」

「なぜなのだ」




今回のハハカリ事件は、ヒルドが総指揮を取り、街中や近隣の森なども含めて大規模な捜索が行われ、他の巣がない事が確認されると、領民達に注意喚起もなされた。



ハハカリは、沢山食べるとよく増えると聞き震え上がったネアは、時々窓から森の方を確認するようにしている。





だが後日、このハハカリの廃棄事件が思わぬ影響を及ぼし、厄介な誘拐事件が起こるのであった。












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