トマトの怒りとたった一つのもの
「……………グラフィーツ。すまないが、手助けをして貰えないだろうか?」
そう声をかけてきたのは、所属している会の会長だ。
今日明後日にかけ、その会の大々的な行事があり、グラフィーツもシュタルトに来ている。
いつからか、その男が犠牲の魔物であることは知っていた。
知ってはいたがさして気にしていなかったし、魔術の気配から目の前の男が旧代の犠牲の魔物なのは明らかで、人間の擬態は恐らく対価の範疇なのだろうと思うばかりであった。
(確かに、俺は名前を隠して入会した訳ではないし、会の中で共に仕事をするのは珍しくないが…………)
だが、こうして個人的に、直接手を貸してくれと頼まれる事はあまりない。
何しろ目の前の男は、対価としてその凡庸な人間を演じているのだ、身の上が明かされるような真似は避けたいところだろう。
それがどうしたことか、今は、まるでその塞いでおかねばならないかつてを思わせる口調でこうして向かい合っている。
湖畔を吹き抜ける風に雪が混じり、空を覆う雲間から青空が覗いた。
その白灰色と青の対比に、心の何処かが僅かに軋む。
誰かの名前を呼びたくなるような複雑で危うい空模様に淡く苦笑し、ゆっくりと立ち上がった。
コートの裾を払えば、細やかに光る魔術のかけらがこぼれ落ちる。
「…………さて、俺で役に立てればですがね。会長、どうされました?」
そう呼んだのは、白灰色の髪を持つ美しい男で、ザハで給仕をしている初老の人間ではない。
それでも今は、そう呼ぶしかないのだろう。
厄介な事に巻き込んでくれるなよと、心の中で小さく呟けば、僅かに顰めた眉に気付いたのだろう。
こちらを見ていたグレアムが、肩を竦めて苦笑する。
「…………君が、俺が誰なのかに気付いている事は知っている。だからこそ、その名前を呼べたのもあるし、元々この手の魔術の構築は君の得意分野だからな。…………実は、災厄の畑で少し困った事になっているので、手を貸して欲しい」
「はは、まさか自らその呪いの手の内を明かしてくるとは思わなかったな。で?どんな災いに手をかけられたんだ?」
成る程、気付いていることを知られていたかと得心し、グラフィーツは眉を持ち上げた。
別段、何かをしていた訳ではない。
与えられている役回りは、明日の夜、シュタルトのとある宿に泊まるだけのことだ。
ニエークが暴走した場合はそれを抑えなければなるまいが、あの男もそこまで愚かではないだろう。
それなのに会員達がなぜ前日からシュタルトに入っているかと言うと、この土地のアクスから借りた別荘に、送り火の魔物が滞在しているからだ。
ニエークから、今年はイブメリアを延ばした方が喜ばれると説得され、グレイシアはその屋敷に身を隠している。
だが、シュタルトを気に入っているらしいグレイシアが街を歩きたがるので、時折外に連れ出してやる必要もあり、何人かの会員が常にシュタルトに滞在していた。
「……………トマトだ」
「…………ん?」
「トマトの呪いなんだ。その種の植物には詳しそうなアルテアを頼りたかったんだが、今はまだこちらに来られないらしい」
「……………トマトか。俺がこれまでに聞いた中でも、格別にふざけた呪いだな」
「明日の宿の主人とメニューの打ち合わせをしていたのだが、シルハーンの好きな温かなトマトのスープを作ろうとしてくれたところ、それは立派な虐殺だと、トマトの癇に障ったらしい」
「………なぁ、その説明はもうやめないか。俺まで頭がおかしくなりそうだ」
「………正直なところ同感だが、呪いに至った経緯の説明が必要ではないのか?」
大真面目にそう言われ、深い溜息を吐いた。
言われてみれば確かにそうで、となれば、この経緯を最後まで聞かなければならないらしい。
(だいたい、それが虐殺なら、殆どのトマトは虐殺されてるだろう……………)
「因みに、俺は今、生のトマトを食べるとトマトの信奉者になる呪いがかけられている。かなり慎重にならざるを得ないな」
「いや、そりゃ寧ろ避けやすいだろ」
「一緒にいた宿の主人はトマトにされた。俺とミカとで、イーザに擬態をかけて誤魔化してはいるが、………収穫されたトマトなんだ。誰かに食べられてしまわないように保護してあるものの、鮮度が落ちたりはしないのだろうか」
「………っ、限界だ!砂糖を食わせろ!」
荒唐無稽な説明を聞き続ける事に耐えられなくなり、魔術金庫から、今は亡き歌乞いがその歌声で咲かせた白薔薇から作った皿に、手持ちの聖女の砂糖を盛り付けた。
首から下げているこれまた愛用のスプーンで掬い口に入れ、ざりざりと噛み締める。
じわりと染み込む甘さに動揺を鎮め、冷静なようでひどく遠くを見ているグレアムの様子を窺った。
(……………実は、かなり動揺しているな)
表情だけは穏やかに微笑んでいるが、よく光を集める灰色の瞳はどこか虚ろだ。
そのトマトにされたという宿の主人を案じているのかもしれないが、トマトに呪われたという事自体が受け止めきれてないのだろう。
「そもそも、犠牲の魔物を呪えるトマトがあるのか?」
「………それは俺も驚いた。俺自身の見立てでは、ある程度の時間経過で呪いが剥離しそうな気はするが、なぜか今は、トマトについて冷静に考えられないらしい。思考侵食の呪いでもあるんだろう」
「いや、それより呪ったトマトの正体を突き止めたらどうなんだ。俺は怪しげなものには触れんぞ」
「はは、……………さっぱり分からないな。ミカがどうにかしようとしてくれたが、なぜか相性のいい食用植物の系譜なのに、制御が出来なかったらしい」
「無理だろ。他の農作物とは違い、シュタルトの野菜は夜摘みが多い。つまり、夜の系譜への耐性があるってことだ」
「……………それでだったのか。グラフィーツ、少し見てくれないか」
そう言われ、嫌々なのを隠しもせずにグレアムにかけられた呪いを紐解く。
しかし、浮かび上がってきた魔術の証跡が示した言葉に、その作業は二度もやらなければいけなくなった。
自分の見た魔術記号が、俄かに信じ難いものだったのだ。
「………グラフィーツ?」
「……………あんたを呪ったのは、トマトの偉大なる覇王だったらしいな」
「……………覇王」
「偉大なるという文言も含めて、その個体の正式呼称だ。魔術に繋がるから勝手に略するなよ。そして、俺は二度と呼びたくない」
「……………あ、ああ。略さないようにしよう」
そう呟いた犠牲の魔物は、片手を頭に当てて途方に暮れたように言葉を切る。
くしゃりとなった髪と、未だ虚ろなままの眼差しに、やはりかなり動揺しているらしいと判断したが、だからといってどうにかしてやる事もない。
その後、込み入った話になるのでと場所を移し、トマトの呪いとやらへの対処方法と特性について、グレアムと話をした。
場所を借りたカフェの店員達は、こちらが人外者である事には気付いているだろう。
だがまさか、爵位を持つ魔物達がトマトに呪われその対処法を考えているとは思うまい。
雪木漏れ日の落ちる店の一画で、男二人が向かい合ってトマトの話をするというのも、背筋が寒くなるような光景である。
「…………俺は、三日間トマトを食べないだけで済むんだな」
「慎重を期するのなら、四日は開けておくといい。トマトになったという人間については、呪ったトマトの鎮魂の儀式が必要だな。その間、呪いにかけられたことは身内以外には公にしない方がいい。この呪いは、殆ど初めて聞いた現象であるが、同時に想像し易い。知られる事で呪いの階位を上げるからな」
「こちらの要望に応えてくれていての事故だ。早急に手配しよう。……それにしても、まさかトマトか………」
そう呟きまた遠くを見たグレアムに、小さな溜め息を吐いた。
この犠牲の魔物は、魔術の調整や錬成を得意とする手先の器用な魔物だ。
だからこそ今回の失態は堪えたのだろう。
ましてや、相手はどんな階位であれトマトはトマトなのだ。
彼にしか出来ないことも多い反面、決して器用とは言えない万象や、終焉に纏わることであれば誰にも編み込めない鳥籠などという複雑怪奇な魔術ですら可能とするウィリアムとは違い、全般的な魔術に於いての器用さを誇る魔物は、実は少ない。
グレアムは、そんなことを可能とする稀少な一人であった。
(いや、終焉の場合はあの死者の国もそうだな。……………万象ですら、この世界と両立するもう一つの世界の層を作ることは出来ない。そういう意味では、最も異形なのはウィリアムの方か……………)
ウィリアムの場合はそれを二層も作りつけているのだから、その異様さが際立つというものだ。
とは言えそのお陰で、グラフィーツは得難い者を得た。
砂糖の魔物の今生のただ一人の歌乞いは、死者の国で見付けたのだから。
「…………あんまり聞きたかないが、その鎮魂の儀式は、明日までに間に合うのか?」
「こちらは、ある程度会員達の間でも周知されているので知っていると思うが、アイザックもいるからな。間に合わせるのは可能だと思うが、一度、彼の家族にもいつ儀式に参加出来るか確認してみよう。このような場合の鎮魂の儀式は、被害者の家族がいた方がいいだろう」
「それは間違いないが、そうなると、恐らく明後日まではトマトのままになる。明日はそれで問題ないのか?」
そう考えたのは、今夜からあの宿には、高位の人外者達が宿泊するようになるからだった。
会の中でもネアと個人的な交流のある竜達のように、同日の宿泊は出来ずとも、せめて前日にはあの宿に泊まっておきたいと考える者は多い。
こちらの感覚では身内だが、宿目線では上得意を得られるかどうかともなる機会だ。
まず、時間のかかる鎮魂の儀式などをしている余裕はないだろう。
「ご夫君の方は、客室への案内やスープ以外のメニューにはかかわっていないからな。最悪、イーザにそのまま対応して貰うしかない。奥方や、それ以外の料理を作る料理人との打ち合わせ中ではなくて良かった……」
「その場合は、出資者に影で対処させればいいだろうさ。アルテアなら、一泊程度の宿の切り盛りは簡単に出来るんじゃないか。…………くそ、トマトの魔術が目につく。もう少し砂糖がいるな………」
「料理については、頻繁にその料理を食べているシルハーンやネアならば、アルテアのものだと即座に気付くだろう。出来れば、あの宿本来の良さを体験して欲しいんだが…………」
それは何とも過保護な事だと思ったが、そのような心の動きを知らない訳でもない。
であれば、この男にとってのシルハーンとネアは、自分にとってのあの二人のようなものなのだろうか。
それともそれは、やはり喪った伴侶のままなのだろうか。
結局、呪いをかけたトマトの鎮魂の儀式は、ネア達がシュタルトを去ってから行われることになった。
儀式としてはすぐに行えると分かったのだが、伴侶である精霊が夫のトマト姿を気に入ってしまい、暫しそのままにしたいという申し出があったのだ。
これだから精霊はと思わないでもなかったが、家の管理や食事の準備などを好む屋敷精霊の一種であるので、トマト姿を良いと思うのも仕方ないのかもしれない。
ネア達の滞在中は、イーザが擬態をかけて宿の主人を演じることになったが、そこで霧雨のシーは、思いがけない才能を見せた。
一度見た人物の再現の巧みさに、本当にあの宿の主人にしか見えないと多くの賛辞を集めたのだ。
特定の形を持たないものを司る者達や、変化を特性とする者達は、擬態を得意とする者が多いという。
これまであまり機会を得ずにいたものの、イーザもその一人であったのだろう。
最後までその正体に気付かせないことを徹底し、霧雨の妖精は無事にその役目を終えた。
今回の行事の発案者の一人でもある以上、当初の計画を最後まで全うしたかったらしく、ご主人様がリーエンベルクに帰ってゆく姿を見送りながら、本人も満足そうにしている。
「おい、あの砂糖はやめろ」
「ご主人様を見ながら食う砂糖程に、この世で美味いものはないんだ。せっかくの機会を逃せるものか。それより、トマトの鎮魂の儀式はいいのか?」
「言っておくが、俺はやらんぞ。アクスにでも依頼すればいいだろうが。そもそも、お前の領域のものに近いんじゃないのか?」
「無理だ。俺もあんなものには手を出したくないし、もう二度とトマトの術式を見るのもご免だ。トマトにかけられた呪いを、災厄とは言わんだろう。……………ふむ。なかなか食ったな」
「カルウィで西の谷の聖女が消えたと噂になっているが、お前の仕業か…………」
「はは、砂地の聖女の味はイマイチだが、第二王子の袖も少し削っておかないとだからなぁ」
そう呟けば、アルテアが静かにこちらを見た。
リーエンベルクの歌乞いはもうシュタルトを離れ、送り火の魔物を連れてウィーム中央に戻った頃だろう。
昨晩の大雪は、ニエークがネアと同じ宿に泊まれる喜びで降らせたものだが、今夜はこの土地の魔術基盤が潤沢になったことで雪が強く降ると聞いている。
「……………お前の動機も、時々不可解なものが多い」
「はは、放っておいてくれ。砂糖を美味く食べる為には、愛用の食卓の手入れが必要なだけだ」
片手を振ってそう答えればもう、アルテアは何も言わなかった。
会の仲間達の元を離れ、シュタルトを去る前に湖畔沿いの遊歩道を一人で歩いた。
土地の魔術師達の予報通り、シュタルトは夕暮れからしっかりとした雪が降り始め、昨晩の大雪を警戒してか周囲には人影はない。
その雪の中で暗い空を見上げ、スープの湯気が立ち上る。
手に持ったカップから、ウィームらしいコンソメのスープを一口飲めば、湖畔にある店で持ち帰りのものを買ったのだが、期待していた以上に味がいい。
ずっと昔。
この、ウィームに昔からあるレシピの牛コンソメのスープに目を丸くしてから微笑みを浮かべていた人間と共に、雪のウィームを歩いた事があった。
たった一日だけの猶予だったが、あの一日は永遠のように記憶の中で繰り返される。
残念ながら共に地上に出られたのは収穫祭だった為、雪の国と呼ばれるウィームこそを見たかったその人間の為に、イブメリアのウィームの影絵を一つ用意しておいてやったのだ。
あちこちを見るのに忙しいその口に雪菓子を放り込んでやり、季節限定の焼き菓子なども望むだけ買い与えた。
それは、ほんの一刻程に過ぎなかったが、それでもたった一度の。
そして最後の時間なのだから、一秒たりとて無駄にはさせたくなかったのだ。
(けれど、あれで足りなかったかと言えば、そうではなかった。……………いつだって、それで充分だと言えるくらいに、比べるまでもない潤沢なのだ…………)
だからグラフィーツは、とても幸福な魔物だ。
愛する男の手に戻してやった為に、たった一人の歌乞いの最期を見届ける事は出来なかったが、その歌乞いは、グラフィーツだけが手に取るよりは余程長く生きたのだろう。
この記憶の中には、彼女が笑い、飾り木に目を輝かせ、カップで売られているコンソメスープを飲んで幸せそうに頬を緩める一瞬が、小さな切れ端になって分厚い辞書のように収められている。
その頁を捲りながら過ごす静かな時間と、今のリーエンベルクの歌乞いを見ながら砂糖を食べる時間以上に幸福なことはない。
(ああ、これは俺だけのものだ……………)
自身の歌乞いには望むだけの全てを与えたが、二人で歩いたイブメリアの記憶だけは、彼女から手を離す夜に奪い、こちら側に持ち帰ってきた。
(一つくらい、俺とだけのものがあってもいいだろう…………)
誰とも共有させず、二人しか知らないままの時間があっても。
だからこれは、誰とも共有させない、この身が滅ぶまでの二人きりのものだ。
はらはらと雪が風に舞い散り、あの夜の歌劇場の光景が蘇る。
愛する男を救う為に、砂糖の魔物を屈服させようとした歌姫は、その歌声に願いを乗せ、魔術を持たない脆弱な人間の身で特等の白を練り上げ、彼女は雪と氷とどこまでもの白薔薇を生み出してみせた。
我が身の命運を握る魔物を屈服させる為に、ありったけの命と魂に寄り添わせていた特等の呪いを反転させた祝福も使い、どこまでも、どこまでも。
目を閉じる度に鮮明に思い起こせる、あの青い瞳。
安心しきって眠る横顔に、弾むようにウィームを歩いていた後ろ姿。
“ねぇ、……………せんせい。もう見えなくなってしまったけれど、そこにいるのね?来てくれたのでしょう……………?”
高熱に短く呼吸を弾ませてそう呟いた彼女には、あの魔術の希薄な土地に残った最後の魔術が摩耗されたあの時もまだ、グラフィーツの存在が感じ取れたのだろう。
指輪を与え、名前を与えておいたからこそ、あの時まではぎりぎり繋がった。
彼女が、グラフィーツも良く知る人間の伴侶となり、身に与えた守護が薄まってゆけばそれに比例するように、伴侶となった男の一族が背負う呪いの影がその命を少しずつ削ってゆく。
いつか自分はその呪いに食われるだろうと困ったように笑い、己の顛末を知っていた少女が、最後にこちらに向かって話した夜のことだった。
あの日にかけられた言葉に、返事をするのなら。
「……………それはもうお前ではないのだとしても、…………やっとこちら側に帰って来たか」
昨年、一つの古い呪いが壊れた。
もしどこかでその呪いの蓋が開けば分かるよう、しっかりと印を付けておいたものだ。
呪いの腹の中からこぼれ落ちた残骸は、死者の国に向かうにはあまりにも曖昧な残響のようなものばかりであったが、グラフィーツは、その全てを手のひらで掬い上げて丁寧に選別すると、人間の魂の欠片だけを死者の国に送り届けた。
呪いから解放され昇華してゆくその欠片には、もう輪郭も記憶も残ってはいない。
けれども、呪いがしっかりと蓋をしていたからこそ、選別出来る状態を残していたとも言えた。
そんな残骸を死者の国に持ち込んだグラフィーツに、珍しいこともあるのだなと驚いたウィリアムから、死者の国にある一軒の屋敷を買い取れたのは、僥倖と言えよう。
あの時は、幸運にもウィリアムの機嫌もかなり良かったようだ。
愛したものが燃え尽き、残った灰の欠片のようなものだが、それでもまたいつか。
不揃いな魂を丸くし、あるべき道筋に戻す為に造られた死者の国だからこそ、その欠片が地上で芽吹くこともあるかもしれない。
例えそれが欠け残りの魂だとしても、魔物は、一度成り立ちを変えたものをかつてと同じものだと認識はしない。
そうして戻るものがあったとしても、グラフィーツはその新しい命には見向きもしないだろうし、だからこそ、たった一つを思い出させこの心を屈服させる、リーエンベルクの歌乞いを見ながら食べる砂糖は他のものとは比べようもない。
あの魂の欠片を、次に繋げるかもしれない死者の国に送り届けるまでが、彼と彼の歌乞いの物語で、それはもう幕を閉じたのだった。
「さて……………」
ポケットから引っ張り出したカードを開けば、バーンディアから幾つかのメッセージが入っていた。
またあの正妃が何かをしでかしたものか、白樺から何か法外な要求をされたのか。
行くかどうかを少し考え、とは言え今夜は、目を付けておいた聖女の手入れに行こうと考える。
リーエンベルクの歌乞いを見ながら食べる砂糖の備蓄は、少しでも多いに越した事はない。
そして、何物にも代えがたい思い出の残る屋敷に帰るのだ。
なお、なろうのメンテナンスを見込み、明日の更新はお休みとなります。
もし時間の余裕があれば、TwitterでSSを書かせていただきますね。




