87. 真夜中の座で踊ります(本編)
ネアが振り返った先に立っていたのは、紫紺の長衣を羽織った美しい男性だった。
はっとする程に青い瞳は、深い深い夜の滲むような瑠璃色に、鮮やかなネオンブルーの虹彩模様があって不思議で美しい。
こっくりとした濃い葡萄酒色の髪は毛先が紫がかった水色になっていて、どの色も決して暗い色ではないのに、その艶やかさからはまるで秋の夜のように冴え冴えとした暗さを感じてしまう。
王であり神官でもあるような服裾はぼうっとけぶるように夜に溶けていて、翼を畳んだ黒鳥の翼のように複雑で精緻なデザインになっている。
よく見ればそれは、刺繍と羽飾りで細やかに装飾されており、けれども紫紺から黒に転じる色合いの上品さが夜の美貌を際立てていた。
夜と聞いて一般的に思い浮かべる色彩ではないのに、確かにこれは夜だと思うのはなぜだろう。
そうして見上げて視線が絡めば、ネアは、静かな眼差しのこの男性が誰なのかすぐに気付いた。
「ミカさんです…………!」
その名前を呼べば、ふっと揺れた瞳に真っ直ぐに覗き込まれる。
ネアが、やはりミカだと微笑めば、真夜中の座の精霊王はなぜか安堵を滲ませて頷くのだ。
「この姿でも、分かってしまうものなのだな……………」
「ふふ、ミカさんの優しい眼差しがそのままです。初めて拝見するお姿ですが、普段はこのようなお姿なのですか?」
「……………ああ。季節によって髪色が変わるので、今だけの色になるが」
どこか躊躇うようにそう言われ、ネアは小さく首を傾げる。
するとミカは、あまり好ましくない色彩だろうと言うではないか。
真夜中の座の精霊達がいっせいに悲しい目をするので、ネアもへなりとしてしまう。
「いつものミカさんも優しい雰囲気ですが、本来のお姿だと、はっとする程に綺麗なのですね。本日はこのような素敵な夜会にお招きいただき、有難うございます。実は、あまりにも素敵な夜会なので、ディノにまた連れてきて貰う約束をしたくらいなんですよ」
ファンデルツの夜会を主催しているのは、ここにいる真夜中の座の精霊達だ。
ネアは、先程の黎明の座の精霊の一件から心配そうにこちらを窺う視線を感じていたので、敢えてしっかりと言葉にして喜んでみせた。
(ディノやウィリアムさん、アルテアさんも一緒なのだから、こうして伝えておけば安心出来るだろうか…………)
黎明の座の精霊を警戒していた魔物達の手前もあり、狡猾な人間は、やはりファンデルツはこれきりにしておこうと言われないように、こうして手を打っておくのだ。
「……………そうか。それは良かった」
穏やかな眼差しで淡く微笑み、ミカは嬉しそうに頷く。
「演奏会の曲は、この子の好きなものだったんだ。ここで聴く音楽をとても気に入っていたよ」
「だが、せっかくの気分を、黎明の客人が害してしまったのではないだろうか。伴侶と離れている時にそのような不手際があった事は、私の手落ちだ」
「まぁ、それはあの方の理解力の欠如であって、ミカさんのせいではありませんから」
「だが、フェルトリーデが訪れるらしいと報告を受けていたのだ。せめてと、アイザックに同伴を頼んでおいたのだが、彼の気質も見極めるべきだったな」
「…………いや、黎明の座が現れるだろうと君は、私に予め伝えてくれていたからね。先程も、アルテアが共にいたので問題はなかったのではないかな」
ネアも少しだけはらはらしたが、ディノは魔物らしく狭量な事もあるが、きちんと話を通しておけば理不尽に荒ぶる事はない。
コロールでネアを守ってくれたミカに対しては、荒ぶるところは荒ぶるものの、比較的、好意的な対応である。
ディノの反応を気にしていたらしい真夜中の座の精霊達は、その会話を聞いて胸を撫で下ろしていたようだ。
王として振る舞い立つミカの背後に控えるのは、先程、会場まで案内してくれたリイカだ。
ひっそりと後方に控える姿は、まさに王と宰相といったところだろうか。
ネア達に向けていたものとは違う鋭い眼差しを仲間に向け、状況の報告をさせているので、真夜中の座の中でもかなり上位の精霊だったのだろう。
「それで、どのような経緯だったんだ?」
「フェルトリーデが騒ぎを起こしかけておりましたが、こちらのご………お客人が、見事な手腕で追い払って下さったのです」
レカという女性がそう説明すれば、リイカは、対策を取ったにもかかわらず騒ぎを起こしたのかと、うんざりしたように溜め息を吐いている。
しかしすぐにこちらに視線を向けると、優雅な仕草で頭を下げた。
「会場の管理が徹底出来ておらず、ご迷惑をおかけしました。お怪我などはありませんでしたか?」
「いえ、私は、黎明のお嬢さんに近付かないようにアルテアさんに拘束されていただけでして、こちらにいらっしゃる方達が対応して下さったのです。なお、知り合いの方のお名前を出されたので、そちらの方は仲良しであると伝えたところ、あのお嬢さんは、もの凄い勢いで帰っていってしまいました……………」
「おや、あの黎明にも不得手なものがあったのだね」
ディノが不思議そうにするくらいなのだから、黎明の精霊の座はよほど怖いもの知らずなのだろうか。
そんなディノと顔を見合わせ、ウィリアムも眉を寄せている。
「驚いたな。あの黎明に、その反応をさせる者がいるのか………」
「実はアレクシスさんなのですよ。どうも、何かを煮込む為の加熱の際に、薪代わりにあの精霊さんの髪の毛を丸刈りにしてしまい、燃やしたことがあるようです」
「……………髪を燃やされてしまったのだね」
「……………黎明の座の王族の髪を、燃料代わりにしたのか。魔術階位としては黎明の座の方が上だ。刈り取るだけでも、どうやったのかすら分からないな」
ネアの説明により、ディノとウィリアムは少ししょんぼりしてしまった。
アルテアは呆れ顔で、ミカは、少し考え込むような表情を見せて彼ならやりそうだなと苦笑しているので、顔見知りなのだろう。
ミカはウィーム贔屓であるイーザの友人であるし、アレクシスも、なかなかに顔の広い御仁なのだ。
ここでネアは、やれやれと小さく肩を竦めたナインの姿に、とても大切なことを思い出した。
奥のダンスの輪では、まだ多くの者達が踊っている。
仄暗い夜の光と祝福の煌めきの中で、漆黒のドレスがひらりひらりと揺れていた。
(そう言えば、私がリシャードさんと踊るのは、黎明の座の精霊さん対策だったのでは…………)
その為の備えであるのなら、もうリシャードと踊る必要はないような気がする。
その可能性に気付いたネアがにやりと笑った事に気付いたのか、ナインは僅かに顔を顰めた。
言動や仕草が似ているという事はないものの、こんな表情の作り方は、どこかアルテアに似ている。
時折ふっと似ていると感じるので、思考の癖などが似ているのかもしれない。
「ところで、私はまだリシャードさんと踊る必要があるのでしょうか?」
好機を逃さない人間が、控えめな様子を装ってそろりと尋ねてみると、ディノは、水紺色の瞳を瞠ってふわりと微笑む。
「そうだね。黎明が去ったのだから、もう必要ないのではないかな」
「それは残念ですね!」
ネアは思わず拳を握って勝利の微笑みを浮かべてしまい、アルテアが呆れた顔をする。
「おい、その仕草で台無しだぞ」
「まぁ、これは本日限定の、とても残念ですねの表現なのですよ?」
「ご主人様……………」
あからさまに喜ぶネアにディノは少し困惑しているようだが、ナインは、虐めて遊ぶ獲物を取り逃したような表情をするではないか。
これはもう、逃げおおせた事を感謝するしかない。
踊ってしまっていたら、何を言われたことかとネアは重々しく頷いた。
(そう言えば、……………)
「……………ネア?」
「ディノ、真夜中の座の精霊さんとも、踊っていた方がいいのですよね?」
「ファンデルツに来たのであれば、そうした方がいいだろう。その行為で得られる祝福は、魂の維持と管理に有効なものだからね。夜の愛し子の祝福とはまた違うものなんだ」
「であれば、どなたと踊ればいいのかなと皆さんを見ていました。どうせなら、ミカさんのいる時にどなたかにお願いした方がいいのかなと思うのですが、ここでお願いしてしまいませんか?」
ネアがそう言うと、真夜中の座の精霊達はまたしても驚愕の面持ちになった。
ぶんぶんと首を横に振られて、拒絶されているのだろうかと悲しく眉を下げたネアだったが、リイカがとんでもない事を言い出すではないか。
「であれば是非、王と踊っていただきたい」
「……………まぁ。………実は、私も存じ上げている方が良いので、ミカさんと踊れたらなと思っていたのですが、流石に王様をお借りする訳にはいかないのではありませんか?」
「そんな事はありません!」
「む、…………むぅ。王様は一度しか踊らないと、先程の黎明の精霊さんが話しておられました。その、…………政治的な問題もあるでしょうし、或いはミカさんにも、踊りたい女性の方がおられるのではないでしょうか?せっかくこんな素敵な夜会なのですから、その機会を私が潰してしまっては……………」
「ご安心下さい。王にそのような相手はおりません!!」
「なぬ…………」
ネアは、部下にこんなにもきっぱりと、色めいた相手はいないと言われてしまったミカが心配になり、そろりとそちらを窺った。
すると狼狽したように目を瞬いたミカと目が合ってしまい、僅かに目元を染めた真夜中の座の精霊王は、咎めるような目でリイカを振り返っている。
「もし宜しければ、王と踊って差し上げて下さい。ミカ様は、……………その…………ひ、人見知りで!!知り合いの方がいればその方が良いのです。それに、ダンスのお相手になるような女性は、残念ながらあなた様を除いて一人もおりません!一人もです!!」
「レカ!」
あんまりな言いようだが、真夜中の座の精霊達はきっと、ミカが大好きなのだろう。
レカの言葉にミカはすっかり慌ててしまったが、ネアはこてんと首を傾げて伴侶な魔物の方を見る。
(確かに、他に目ぼしい相手がいないのなら、ディノの伴侶で身元がしっかりとしている私のような相手の方がいいのだろうか……………)
万象の魔物の伴侶であれば、招待客を立てて踊ったのだと説明も立つだろう。
おまけに不本意ながら可動域も低く、二人でいてもミカを損なえないお相手というのも珍しいのかもしれない。
「君はどうしたいんだい?」
「むむ、……………ご本人やディノがそれで構わないのであれば、やはりお知り合いの方と踊れるのが、一番安心なのですが、無作法なお誘いになっては申し訳ないのです。きっと私には分からない事もあるので、ディノに判断を任せても良いですか?」
ネアがそう言えば、ディノはそうだねと微笑んで頷いてくれた。
髪を下ろしたディノと真夜中の座の精霊王としての姿のままのミカが向かい合う姿は、思わず見惚れてしまいそうな美しさだ。
「……………ミカ。問題がなければ、この子を任せても構わないかい?ただ、他の相手がいるのであれば、無理に引き受けなくても構わないよ。その場合はリイカを借りよう」
「……………私で良ければ、お相手をさせていただこう。その間、彼女のことは私の責任で守る事を約束する」
すうっと大きく息を吸い込み、ミカは慎重にそう答えた。
ネアは、無理強いをしてしまっていないだろうかとはらはらしたが、レカが良かったですねと涙ぐんでいるので、本当に相手がいなかったのかもしれない。
どうやらもうミカとのダンスで決まりかなと魔物達を見ると、ウィリアムとアルテアが何やら深刻そうな面持ちで話している。
「……………真夜中の座そのものと踊る方が、確かに守護の面では間違いがないな。真夜中の座が相手なら、事故も起こさないだろう」
「むぅ。なぜ事故基準なのだ……………」
「確かに、ネアを預けるのは不本意な面もありますが、誰かと言う事であれば、ミカであれば問題はないでしょうね」
「ナインであれば、余計なものを増やしかねない懸念はなかったんだがな」
「それはどうだろうな。歌わせるだけなら、籠絡の仕方はあるかもしれんぞ。恐らく、音程を取れないのならダンスにも無様な歪みが…」
「憂いしかないお相手を避けられ、ミカさんと踊れるのでとても嬉しいです!」
「ご主人様…………」
ネアは意地悪な精霊はぺっと捨ててしまい、優しくて綺麗な精霊と踊れることへの喜びを素直に表現した。
するとミカは、お相手が得られなかった事が気恥ずかしいのかまた少しだけ目元を染めてしまい、宜しく頼むと優しく言ってくれる。
「では、次の曲で踊って貰えるだろうか」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします」
ネアは、ディノの手を一度ぎゅっと握ってきゃっとさせてしまい、それから差し出されたミカの手を取った。
葡萄酒色の長い髪がさらりと揺れ、深く鮮やかな青い瞳がこちらを見る。
「君と踊るのは初めてだな」
「ふふ、こんなに素敵な夜会で真夜中の座の王様なミカさんと踊れるだなんて、私は今夜一番の贅沢者ですね」
「…………いや、私には及ばないだろう」
ネアの言葉にミカが何かを小さく呟いたが、その声はネアの耳には届かなかった。
代わりに、二人がダンスの輪に加わったことで、人々がわっと声を上げるのが聞こえる。
真夜中の座の精霊王が、いよいよ踊るのだ。
お相手となるネアについては、これは誰だろうという誰何の囁きも聞こえるが、周囲にいる人々は思っていたよりも好意的なようで、ネアは内心ほっとした。
「……………む、リドワーンさんとワイアートさんがいました」
「今年はウィームの者達も多く訪れている。見知った者も多いかもしれないな」
「お見かけすると、やはりほっとしますね。…………ふふ、ヨシュアさんとイーザさんもいます」
「この近くにはいないようだが、エイミンハーヌとバンルも来ている筈だ」
「まぁ、あのお二人も来ているのですね。…………そう言えば、どこかでタジクーシャの青玉の妖精さんをお見かけしていませんか?今夜の夜会に参加するとお聞きしていたのですが、まだお会い出来ていないのです」
「私は見かけていないが、系譜の者が見かけているかもしれない。戻ったら聞いてみよう」
「有り難うございます。ご迷惑でなければ、お願いしてもいいですか?」
「ああ、勿論構わない」
そっと背中に当てられた手は、どれだけ繊細な美貌であっても人外者らしくしっかりとしている。
こうしてダンスの為にその手を取れば、やはりその肢体には男性らしい力強さもあって、ネアはミカの青い瞳を見上げた。
ふうっと息を吐き、ミカは青い瞳を潤ませるようなもの艶やかな微笑みを浮かべた。
静かな冬の夜にこぼれるような、柔らかで美しい音楽の最初の音が煌めく。
夜の光をきらりと映して、夜水晶のバイオリンの弓がどこかで光った。
(ああ、ワルツだわ…………)
少しだけ物悲しく、心を震わせるような旋律が流れ始めると、ネアは、その美しさにうっとりとして唇の端を持ち上げた。
背筋を伸ばしてしっかりとミカの手を掴むと、背筋を伸ばす。
一歩目のステップは、そのミカの方へと踏み込むように。
そうして、真夜中の座の精霊王とのダンスが始まった。
「……………ほわ」
軽やかで優雅なステップは、流麗に滑るようだ。
紫紺から夜闇色へのミカの長衣が揺れ、ネアの黒菫色のドレスの裾がくるりと回って円を描く。
ミカとのダンスは、魔物たちとのダンスとは違った。
誰かと言えばディノとのダンスが一番近いが、それよりも滑らかで、床の上を魔術で浮かぶような足運びになる。
ミカだけではなくネアもそのステップを踏めているのだが、これはどんな不思議なのだろうか。
「ど、どうしてこんな風に素敵に踊れるのですか?」
「ファンデルツの祝福もあるのだろう。魔物達とのダンスはまた違うのだろうか?」
「ええ。ディノとのダンスが一番滑らかですが、それでもコツコツすたんと、床を踏むステップという感じがします。ミカさんとのダンスは、まるで浮かんでいるようです!」
見知らぬ感覚にすっかり楽しくなったネアが、ミカを見上げて微笑めば、真夜中の座の精霊王ははっとする程に優しい目をして微笑みを浮かべた。
しゃわしゃわとした青銀色の祝福の煌めきが星屑のように生まれ、ネア達の周囲を星屑の雪のようにはらりと舞う。
「……………君と踊れて良かった。ダンスは、あまり好きではなかったのだが、……………このように楽しめるものなのだな」
「私をこんな風に踊らせてくれる程にお上手なのに、好きではなかったのですか?」
「ああ。…………私は、ご……友人達を得るまでは真夜中の座をあまり離れる事がなかった。系譜の者達としか踊らなかったのだが、………そうするとやはり、私は王でしかないのだ」
「……………真夜中の座の精霊さん達は、皆さんミカさんが大好きでならないという感じですが、それでもやはり少しだけ寂しい事もあるかもしれませんね」
くるりとターンをし、預けた手を入れ替える。
天井から美貌の夜が降ってくるような深い夜の色の中をくぐり、足元に落ちた天窓のステンドグラスの影を踏んだ。
胸に吸い込む夜の空気はひやりと澄んでいて、ネアは静謐な夜の香りにうっとりとする。
「…………私は、そこまで系譜の者達に好かれているように見えるか?」
「あら、ご本人には伝わらないものなのですね。少し驚いてしまって、何て素敵なのだろうと思うくらいには、皆さんはミカさんが大好きなのだと思いますよ」
「……………そうか。私は、そのような事すら知らずにいたらしい」
目元を染めて嬉しそうに呟いたミカの向こうに、大好きな王様のダンスを見守る真夜中の座の精霊達の姿が見えた。
泣いている者達もいるので少しだけ慄いてしまうが、こんな素敵な夜を教えてくれた人達の喜びに、ネアも嬉しくなる。
「ミカさん、今夜は有難うございました。まだまだ楽しんでしまうつもりですが、こうしてお話し出来ている間に、あらためてお礼を言わせて下さい」
「私こそ、君に感謝を伝えたい。私にこの夜を与えてくれたのは君なのだ。…………万象と共に、またファンデルツの夜会に来てくれるだろうか?」
「はい!ディノから、続けて訪れるのは良くないと聞いているのですが、再来年は是非お伺いしたいです」
そう伝えたネアに、ミカは静かに頷いた。
充足の微笑みには、この夜を司る者らしい人ならざるものの力強さもあって、ネアはそんな美しい夜の真ん中でダンスを彩ったワルツが消えてゆく余韻に耳を傾けていた。
ミカとのダンスが終わると、もう一度、招待客達がわあっと歓声を上げる。
その輪の中にはグレアムやベージがいて、ヨシュアとイーザや、沢山の真夜中の座の精霊達がいた。
ダンスを終えて、ミカと向かい合いお辞儀をすると、ネアはずっとダンスを見ていてくれたディノの元に戻る。
「お帰り、ネア。良い祝福を貰ったね」
「私には見えないのですが、とても素敵な気分です!」
ネアの手をきちんとディノに渡すまでを隣にいてくれたミカが、ゆっくりと離れて行く。
その温度が離れると、見えていた夜の深さが少しだけ変わったような気がした。
(この後はまた、美味しいお料理をいただいて、サフィールさんとも会えるといな。ディノとは、もう一度踊れるかしら……………)
きっとこの夜の事は、何度でも思い出すだろう。
ネアは目を閉じて唇の端をもう一度引き上げ、そっと胸に手を当てて優しい夜のダンスを大切な記憶の棚にしまったのだった。
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