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レカ




真夜中の座の系譜には、様々な生き物達がいる。



そして、その全てを治め、それだけでは飽き足らずに時間の座の頂点に立つのが真夜中の座の精霊王だ。


かつて精霊達が治めた世界があった時には、黎明の精霊の方が階位が高かったらしいが、今代では真夜中の座の精霊が最上位となる。


精霊族の第一席となる死の精霊達も、その資質は夜とは無縁ではない事も多い。



さらりと長い髪が揺れ、遥か高みの真夜中の橋を渡るかの人を見ている。

夜の畔から一礼されたことに気付いたのか、こちらを睥睨する静かな瞳は、季節によって色を変える特等の髪色によく映える青い青い瞳。



(何て美しいのだろう……………)



この時期は葡萄酒色の髪だが、僅かに毛先が紫がかった水色になりつつある髪を一本に結び、こぼれた髪がきらきらと風に光った。


ああ、夜の光の美貌だと見惚れてしまい、己の不躾な視線を恥じて頭を下げた。




真夜中の王のその美しさを認める度、レカの心はざぶざぶと波立つ。



触れたくて手を伸ばしたくなるが、触れるのも躊躇われるような美貌と温度のない微笑みは尊いばかりで、真夜中の座の臣下達は王の忠実な僕である。

そのお言葉をいただけるのは勿論のこと、あの方が存在するというだけでもう幸福なのだ。


他の時間の座にはない事だが、真夜中の座はその系譜のすべての者達が心から真夜中の座の精霊王を崇拝していた。


勿論、一族の中には様々な気質の者達がおり、真夜中の系譜も決して一枚岩ではないものの、ミカ様だけが唯一の別格だと言えば良いのだろうか。


例えば、真夜中の座の第二席と四席は折り合いが悪く死者が出るような派閥同士の争いも頻繁にあるが、ミカ様についてはこの世界とは理を別にしていると言ってもいい。



真夜中の座の精霊は、死の精霊のように上位の者たちが複数の資質を司る精霊なので、二席から九席までの王の直属の臣下達はまるで気質が違う。

それ故に争いも珍しくはなく、四席の息子を眉一つ動かさずに惨殺してみせた二席のリイカも、王が気に入っているという人間の菓子を半日近くかけて並んで買ってきたりする。


四席の侯爵は王にレース糸の紡ぎ方を嬉しそうに教えていたし、七席の伯爵夫人は、王が大切に保管しておきたいと話していた上着を飾る為に夜の光の結晶で作った展示型の衣装ケースを二ヶ月かかって作っていた。



他の系譜の者たちからはよく、真夜中の座の精霊たちは真夜中の精霊王の忠実な子供だと言われる。

そうではないとも言い難いのだが、そんな言葉を耳にした真夜中の座の精霊たちは皆、首を傾げるばかりだ。



(王は我々の最大の庇護者であり、理解者であり、そして永遠の理想なのだ。……………同時に仕えるべき主人であり、守るべき主君でもある…………)



一目見ればその美しさに胸が震え、唯一絶対の王を守る為ならば何でもするだろう。


時間の座の精霊達の中でも、真夜中は特に己の資質を愛する者達の集まりなので、その最央に位置する王はこの世界の全てと言ってもいい。



だからこそ、王の覚えがめでたい臣下が陥れられる事はないし、王の寵を競うような女達も諍いを起こす事はないのだ。



つまり、そのような騒ぎを起こすのはいつも、他の系譜の者達なのである。





「黎明の小娘一人、我々で引き裂いてしまえばいいのではないかという意見もあるだろう。正直なところ、感情的な部分に於いては私も同意見だ」



始まったばかりの会議の場で、そう意見を述べたのは、第二席のリイカ公爵だ。

その発言に頷いた者は多く、彼等はこの会議の冒頭からかなり過激な発言を繰り返しており、どれだけ今回の問題が不愉快なのかをありありと示している。



この会議が行われたのには理由があった。

黎明の座の精霊の王女の代理人から打診があり、今度のファンデルツの夜会にて、真夜中の座の精霊王とダンスを踊りたいと言うのだ。


黎明の王女が真夜中の座の精霊王に恋をしているのは時間の座の精霊達の中では有名な話だったが、今回は正式な申し入れだった事もあり、それを王に伝えなければならなかった。



(正式な申し入れだ。それを受ければ、ミカ様が黎明の王女を正式な場に於いて受け入れたという事になる。それは是非にも避けていただきたかったが……………)



幸いにも王は、その申し入れを、今年のファンデルツには王自らもてなさなければならない客人が来るからと断った。


一度正式な申し入れをしたからにはどうせまた来年に申し入れがあるだろうが、その時にはまた違う辞退の仕方を考えておけばいいと、真夜中の座の精霊達は胸を撫で下ろしたものだ。


しかし黎明の王女は、なぜか、よりにもよって今年こそは決して諦めないのだと決めたようなのだ。

各方面から、王女が今年は真夜中の座の精霊王と踊るのだと話しているという話が聞こえてくると、真夜中の座の精霊達は愕然とした。



(相手は黎明の王女だ。そのように話しているとなるとなれば、見過ごせない状態であるのは間違いない…………)



黎明の資質と言えば、子供とも見紛う容姿に老成した精神、そして何よりもその気位の高さが有名だ。

率直に言えば、彼等は一度こうだと決めると、利用出来るものは何でも使って己の願いを叶えることに長けている。


黄昏の精霊達も狡猾で残忍だが、黎明の気質は自分達が優遇されて然るべきだと信じて疑わない王族のそれに近しい。


美しい夜を無作法に切り裂く黎明らしい無神経さであるが、真夜中の座以外の時間の座の精霊達は、なぜかそんな黎明に必要以上の敬意を払った。



(仕方のない事なのだ。黎明の精霊は、陽光が支配する時間の座の最上位。あの黄昏達ですら、生理的に苦手とすることから一定の距離を取る………)



そうなると、幼い外見を生かした無垢さを装い我が物顔で過ごす黎明達と、そんな黎明よりも唯一上位の時間の座として、黎明達の要求を撥ね付ける真夜中の座という構図が出来上がるのは致し方ない事と言えた。



「いつもなら、その要求を受け入れることもなく、またかと済ませられるものだろう。だが、今回ばかりはあの黎明達に好き勝手をされる訳にはいかない。…………今年のファンデルツは、王にとって非常に大切な夜会なのだ」



そんなリイカの言葉に頷きながら、レカは、漆黒のドレスの裾を持ち上げて足を組むと、夜の色を映したテーブルに置かれたグラスを手に取る。


今宵の会議で出されているのは、カルウィの葡萄酒だ。


レカはロクマリアのものが好ましいのだが、重みのある芳醇な味わいも悪くない。

毎回会議の度に新しい銘柄を探してくるのも大変だろうが、これを楽しみにしている者達も多い。


夜を豊かに楽しむのであれば、上質な酒は欠かせないものの一つだ。

会議の場でもその楽しみを忘れずに過ごす事も、芸術と美食を司る夜という資質が齎すものである。



「だが、波風を立てるのは得策ではないと思うぞ。今回のファンデルツの夜会を、王がどれだけ楽しみにしていることか。黎明達にその邪魔をさせるなど、決して許せる事ではない」

「…………僕は、黎明は特に嫌いだ。黄昏は気持ち悪いだけなのに、黎明は高慢で我が儘だから二つも良くないところがある」

「ハンカ、結局どちらも嫌いなのではないの」


小さく笑って幼馴染のハンカにそう言えば、漆黒の髪に瑠璃色の瞳の大切なひとは、困ったように眉を下げて指先を唇に当てる。

髪を伸ばして一本に結んでいるのは、王の真似をしているのだろう。


ハンカは、自分の王が大好きでならないのだ。



「でも、黎明の方が厄介だから、黎明は嫌いだ」

「ハンカの言う通りだ。儂は、黎明の子供達は好かん。高貴なる高慢さこそ資質とは言え、さも時間の座の最高位は自分たちだとでも言いたげではないか」

「あらあら、うふふ。黎明ちゃん達は、第一席が私達だと理解はしていますよ。ただ、自分達は愛らしいので特別に大事にして貰えると思っているみたいね。……………愚かで困った子達だこと」

「レカはどのように考えている?」



そう問いかけたのは、リイカだった。

目の前に置かれたグラスを手にして赤葡萄酒を一口飲み、レカはそうですねと呟く。



「無垢に強請り、高慢に押し進めるのが黎明の子供達のやり口です。ファンデルツの夜は我々の王の満願成就の夜。黎明などに邪魔をさせてなるものですか。いっそもう、黎明の王女など消してしまいましょう」

「……………レカ」

「し、しかし、ミカ様の最近の密やかなうきうきぶりをリイカもご存知でしょう?!それを、ミカ様に懸想する黎明などのせいで台無しにされては堪りません!」


堪らず夜鉱石のテーブルをばぁんと叩いて立ち上がれば、リイカは苦々しく顔を歪めた。

銀髪に青い瞳の美丈夫なのだが、美女より執務が好きだともっぱらの噂である。


「それは皆の思いでもある。とうとう、王の大切なお客人が、ファンデルツの夜会に来るのだ。何としても今年の夜会は成功させ、出来れば王にその方との時間を作ってさしあげなければなるまい」

「であれば、私がその小娘を夜の淵にでも沈めてきましょう。それで王の憂いを払えるのですから安いものです」

「三席のお前が、そのような事を言ってどうする。ファンデルツまでの間、一切の揉め事を起こしてはならない。当日に問題が起こるのは勿論だが、王の想い人のファンデルツへの参加そのものを危うくするつもりか!」



その言葉は尤もであったので、レカはぐっと奥歯を噛み締めて項垂れた。



(確かに王は素晴らしく美しく、抗うのも愚かな程に魅力的な方だが、……………そんなミカ様に恋をしたという愚かな小娘のせいで折角の機会を台無しにされてなるものか!!)



ふしゅりと噛み締めた奥歯の間から息を吐いたレカに、ハンカがそっと手を当てて宥めてくれる。

だが、レカは悔しくてならなかった。



「……………ええと、少しだけ気になったのだけど、そのお嬢さんは魔物の伴侶なのよね?」

「ええ。ですが、王の大事なご主人様なのです!」

「レカちゃん、……………ミカ様の為にも、それを大きな声で言わないで差し上げてね。ミカ様は多分、気付かれていないと思っていらっしゃるから」


少し慌てたようにそう言われ、レカは首を傾げた。

王の大切な女性が、恋人候補や伴侶候補ではなく、王にとっての偉大なご主人様であることなど、皆が知っている事だ。


承知の上で皆が応援しているのだから、音の遮蔽もしたこの場で言葉を偽る必要などあるまい。

首を傾げたレカに対して何人かが頭を抱えたが、ハンカはこくりと頷いてくれた。



「僕は男だけれど、それでもミカ様と踊れたら嬉しいと思うから、王もご主人様と踊れたら嬉しいと思う」

「うーん、あなたのそれはちょっと心配だけど、確かに王は、そのお嬢さんと踊れたら嬉しいでしょうね。でも、ご主人様って言うのは控えてあげて欲しいの」

「ご主人様なのに?」

「……………リイカ、助けてちょうだい。私には、この二人の説得は無理かもしれないわ」

「……………私を巻き込まないでくれ」



そう呻いたものの、リイカはこちらを見た。

その青い瞳に対し、肩までの黒髪を持つレカの瞳は淡い水色だ。



「あの少女をそのように崇拝している事は、王の秘密なのだ。あの方の大切な秘密を、お前が気安く口にしてどうする」

「王が秘密を持たれているのは、秘めたる思いを本人に気付かれないようにとの配慮だろう。ここは夜の深淵なのだから、その問題は関係ないのではないだろうか」

「…………私は王の嗜好を支持するが、決して一般的な執着ではない。秘めさせて差し上げろ」

「なんら恥じる事などあるものか!一人の脆弱な人間の少女をご主人様と呼ぶミカ様が、私はとても好きだ。夜を愛しながらも夜の最央で孤独であられたあの方が、とても大切なものを見付けたのだから」


ここでリイカはまた少し呻いたが、何かをぶつぶつと呟くと短く首を振って顔を上げる。

銀髪はやや乱れているようだが、なぜか、隣に座った六席が労わるように肩を叩けば覚悟を決めたように頷いていた。



「レカ、かの少女のことをご主人様と呼んでもいいのは、ミカ様だけだ。我々がそこに立ち入り、王ですら触れていないその響きに触れるなど、言語道断ではないか。ミカ様に対して不敬だとは思わないのか?」

「…………っ、そうか……………そう言うことを伝えてくれていたのだな。私はなんて愚かなのだ。王の宝物に勝手に触れるところであった」

「……………分かってくれたか。ハンカも理解したな?」

「ミカ様の、大切なものに勝手に触れてしまった。死にたい……………」

「……………レカ、落ち着かせてやってくれ」



ここでハンカが真っ青になって涙目でいたので、会議は一時中断した。

暫くの後に会議が再開すると、今度こそ、当初の議題であった黎明の王女をどうするかが集中的に話し合われる。




「黎明の思慕など、一過性のものだろう。他の高位の者に目移りさせればいいのでは?幸い、その夜はミカ様よりも階位の高い方も来られるのだから………」

「その一人である万象の魔物は、王のご主人様の伴侶だぞ。黎明がそちらに動いても、厄介な事になる。万象の魔物が気分を害して帰ってしまうかもしれないし、その怒りに触れれば我等とて無事では済むまい」

「確かに、魔物は狭量だ。伴侶の目の前で色目など使われたら怒り狂うだろうな」

「いっそもう、ミカ様に婉曲的にお伝えして、自衛いただくしかないのではないか?」

「それこそ本末転倒と言わざるを得ない。あの方のうきうきを粉々にしたいのか!」

「くっ、……………それは出来ないな」

「嬉しそうに、レース糸を紡いでいた王の顔を見たか?儂はあのような王を見たのは初めてじゃ。是非に、ファンデルツの夜会を楽しんでいただきたい」




何度でも言うが、真夜中の座の精霊達は王が大好きだ。

些細なことに思えるかもしれないが、これは由々しき事態なのである。


王が見守る会の会合に出ているこの日にしか全員で集まって議論は出来ない事もあり、議論は紛糾した。




そしてその結果、とある部外者に白羽の矢が立ったのだ。




「何しろその者は商人だ。支払いと引き換えであれば、どのような仕事も請け負うだろう」

「しかし、完全なる部外者だからこそ、知られてはまずい事も多い。依頼の内容は慎重に吟味しなければならないな」

「……………王が持て成そうとしているのは、万象の魔物とその伴侶、そして万象のご友人と聞いている二人の魔物達だ。万が一にでも万象の不興を買わないよう、夜会の間、出来るだけ王からあの黎明を遠ざけておいてくれと言えばいいのではないか?」

「ふむ。それで良いような気がするな。あの人物であれば、黎明の小娘より階位が高い。王女も礼を欠くような振る舞いは出来ないだろう」

「商談であるからこそ秘密は守られ、尚且つ黎明もそれが我々の差し金とは思うまい」



幾つかの計画を不安視する者達の意見も取り入れられ、ファンデルツの夜会の間、何とかして王を守る作戦はしっかりと組み上げられた。


元より、この王宮の者達は全員、あの人の話を聞かないしたたかな黎明の王女が、王の大切な時間を削らぬように死力を尽くすつもりでいる。




「さて、そろそろ王がご帰還なされる。我々も、真夜中の座に戻ろう」

「今宵も、ファンデルツを控えて輝くようなお美しさの王のお側で働けるのだ。なんと素晴らしいことか」

「いやいや、ミカ様はどのような時にも素晴らしい。あの方の夜は、深く艶やかで静謐なのだ」



婚約者であるハンカに手を振り、レカも会議室を出ると真夜中の回廊を、持ち場に向けてゆっくりと歩いた。



真夜中の座の住む夜は、どのようなものにも勝り、例えようもなく美しい。


夜は夜であるからこそ夜を賛美し夜に仕え、そこに酩酊し、夢中になり、執着する。

真夜中の座だけが持つそんな資質を、他の時間の座の精霊達は持たないのだから、何とも憐れな事だった。




(ああ、……………王だ)




夜の回廊を渡り、ゆっくりと真夜中の座にその王が座る。


ぎしりと音を立てて大きな時計盤が針を進め、ボーンボーンと鐘の音が響いた。




夜が始まった。



真夜中の座を治める者とは言え、ミカ様が必ずその王座に座っている訳ではない。


例えば、流星雨の夜や満月の夜も、他の系譜の者達が夜を彩るのでと、王が不在にしている事もある。

そのような時は、席次の高い他の真夜中の座の精霊がいれば問題はないのだが、ほんの僅かにとは言え、夜は色褪せる。


だが、その褪せた夜をやり過ごすのだとしても、今度の見守る会の懇親旅行には行かせて差し上げなくては。



(会に所属している夜霞の精霊の情報によると、一泊二日の行程で、ご主人様の思い出の地を回るのだとか……………)



レカは、かつての王の姿を覚えている。

夜そのもののように美しく静謐で艶やかで、けれどもその瞳はいつもどこか疲弊していた。


それが今はどうだろう。

同じ会に所属する仲間達と楽しく過ごしているようだし、ご主人様の訪れのあるファンデルツの夜会を心待ちにしている。



だから、その旅行には絶対に行って貰わなければならないし、ファンデルツの夜会では王が一度だけ踊るダンスをご主人様と踊らせて差し上げたい。




「夜の歪みがあるようだ」



そんな事を考えていたら、低く甘い声が耳朶を打った。



王座に腰掛け、僅かに首を傾げて微笑む真夜中の座の王に、夜を流し込む為の盃を持った侍女達が怯えたように体を揺らす。



「……………いや、お前達ではない。僅かにだが、私の領域に爪をかけた者がいるのだろう。……………あわいの翳りがあるから、黄昏かもしれないね」



ふつりと歪んだ美しい唇の描く冷ややかな表情に魅せられ、また心が震える。

レカ達には見当もつかないどこかを見据え、青い瞳を細めて王が微笑んだような気がした。



ごとんと、湿ったものが石床に落ちるような音がする。



視線をそちらに向けたレカは、王座の下にある夜の祝福石の祭壇の前に、首のない誰かの体が落ちていることに気付きぎくりとした。



「……………王」



そう呟き、膝を折って臣下の礼をすると、真夜中に歪みを齎した罪人を片付けに馳せ参じたのはリイカだ。

王が断罪しその命を絶ったのは、黄昏の精霊の上位貴族に見える。



「お手を煩わせてしまい、誠に申し訳ありません。すぐに誰かを夜の修復に向かわせましょう」

「ああ。……………ハンカ、頼んでもいいかな」

「は!すぐに修復して参ります」



夜の充溢を司るハンカは、その任を与えられ嬉しそうに目元を染める。


退出して任務に当たる婚約者を羨ましく思いながら、夜の見回りを申し出たレカもまた、今夜はもう、誰も夜に爪を立てぬようにと口を引き結び、王に退出の挨拶をして王座の間から退出した。



ゆっくりと、ひたひたと、夜が満ちて深まる美しさと心地良さに溜め息が溢れる。

快楽にも酩酊にも似た美しい夜は、レカの大事な王そのものだ。



だからいつも、真夜中の座の精霊達は何よりもと、王を慕い畏れ、そして信奉する。



大きな扉を閉めながら、ほんの一瞬だけレカはその姿に不躾に見惚れてしまい、心を震わせた。




(ああ、私はとても幸せだ……………)



真夜中に真夜中の座の精霊王がいる限り、その幸福は続くだろう。



だからこそ王の幸福を守らねばならぬと、決意を新たにすると、レカは長いドレスの裾を持ち上げ、ふくよかな夜の中に飛び込んでいった。







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