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妖精の眼差しと青い宝石





「………………向こうで、何かあったかな」




そう呟いたノアベルトに、エーダリアはゆっくりと顔を上げた。



たった今この席でも、タジクーシャが砂蛇の魔物の脅威に晒されている可能性が高いという話がなされたばかりだ。


ノアベルトの魔物としての視点で、その不利益と障りをどうやって条約から削ぎ落とすかという議論をしていたところであった。



宝石食いの砂蛇の魔物は、高位の魔物と死の精霊の王族の崩壊に触れて、狂い壊れた精霊が魔物と化したものであるらしい。


数ある砂蛇種の中でも最も厄介な生き物で、常に狂気の一端を持つ悍ましい魔物であることから、自分より高位の魔物だけではなく、万象にすら膝を屈しない厄介な存在だ。


以前の白夜の魔物や、その他にも王の目をも欺き、それを害する事に抵抗のない魔物達も勿論いるという。



よりにもよって、そんなひと柱なのだ。




くらりと目眩がしたが、一度息を吐いて飲み込んた。


あれだけの者達なのだ。

勿論、彼が損なわれる筈などない。

だが、そう考えた思考とは違い、言葉からは冷静さが欠け落ちていた。



「っ、ヒルドとネアは………………」

「ネアとの魔術の繋ぎが、ぶつりと切れたんだ。……………大丈夫、厄介な状態だとは思うけれど、取り返しのつかないような事にはならないよ」

「ノアベルト、すぐに…」

「いや、向こうにはグレアムもいるからね。可愛い妹が凄く心配だけれど、僕はここにいよう。砂蛇は三体いるからさ」

「……………そうか、三体一対だったか」

「うん。こちらにも来るとまずいからね。……………侵食系統か。春だったらダナエがいたんだけれどなぁ」



ノアベルトがそう呟く傍らでは、彼の異変があったという一言の直後からどこかに連絡を取っているダリルに、向かいでは使節としてウィームを訪れている青玉の宝石妖精も、連れてきた伯爵家の従者達と共に、慌てた様子でどこかに魔術通信をかけている。



「ふざけるな、軟弱者め!王宮で異変があったのなら、なぜこちらに連絡しない!!王をお守り出来なければ、その腕を引き千切るぞ!!」



どうやら、美しい青玉の宝石妖精は、弟を叱りつけているようだ。


ぎりりと空を掻くように力を込めた美しい青い爪の手を見て、戻ったら本気で腕を引き千切るつもりだと察し、エーダリアは血の気が引いた。



その時、こつこつと扉がノックされる。

アメリアの声で、グレアム様をお通ししても宜しいでしょうかと尋ねられたものの、この会談の場の状況ではそんな入室にすら注意を払う必要がある。



(それに、彼はネア達とタジクーシャに向かったのではなかったのだろうか……………)


なぜここにその魔物がいるのだろうと、冷え込んだ思考が不穏な事ばかりを考える。


それでも、入室の確認に必要な術式を展開しようとしたが、そっと手に触れたノアベルトが首を振り、立ち上がって対応してくれた。



扉を開けば、そこに立っていたのはやはり本物の犠牲の魔物だったらしい。

グレアムを案内してきたアメリアは、一礼するとまた外の警備に戻って行った。



「………………ノアベルト、砂蛇だ」

「ありゃ、本物のグレアムかぁ。それなら、どうしてここにいるのさ」



ふうっと深く溜め息を吐いた犠牲の魔物を見れば、事態は更に悪化したようだ。

ネア達と共にタジクーシャに降りた筈の犠牲の魔物が戻ってきた理由など、不穏なものであるに違いないと想像に難くなく、ノアベルトもすっと瞳を細める。



「王宮前広場に魔物の介入の痕跡があったからと、デジレ王は王宮を閉じていたのだが、侵入を許した」

「……………へぇ、思っていたより大掛かりに仕掛けてきたね」

「もしかすると、人払いを兼ねて王宮を閉じさせる事も目的だったのかもしれないな。…………砂蛇は、宝石妖精の王族を食らって王宮での階位を上げたんだ。デジレ王より階位を上げた事で、閉じた王宮から余所者を退出させる権限を得て俺を弾き出した。デジレ王を廃することも目的だろう」

「……………シルとネアは?」

「二人はあちらだ。あの方がいれば問題ないだろうが………………」

「……………敢えて今日か。となると、ヒルドとネアも、目的がウィームであれ、個人であれ、標的にされたと見て間違いないね。シルは、君が施してくれた擬態のお陰で、魔物だとは思わずに残されたんだろう。今回はそれに救われた…………」

「ああ。勿論、このような事も想定はしていたが、俺が弾かれたのは想定外だ。……………前王の弟の固有魔術は何だ?」



いつもの穏やかな雰囲気から一転し、グレアムという名前の魔物の微笑みは刃物のような鋭さと冷たさであった。


そう問いかけられたサフィティートの表情も、一瞬麻痺したように強張り、ごくりと息を飲んでから唇を震わせた。



「あ、………あの方の固有魔術は、その魂の器である魔術書の装丁からなる、閉じることを旨とした固定術式だ」

「……………妙な気配を感じたが、やはりその種のものか。……………危ういな。あの方の擬態は、そこ迄の階位権限を付与していなかった」

「それでも問題はない範疇かい?それとも、結構まずい?」

「…………擬態を解けないとなると、傷は負うかもしれないが、ネアを傷付けさせる事はないだろう。……………ああ、ヒルド達の心配もしなくていい」



(ディノが、傷を負う程……………?!)



ぎょっとしてしまったのが伝わってしまったのか、犠牲の魔物はこちらを見て淡く微笑んだ。


怪我をしないとは言い切れないが、だとしても持っている傷薬で容易く治せる程度だと言って貰い、エーダリアは強張った息を吐く。


守護なども含め、そこで失われることはないと分かってはいても、やはりこのような話は胸を締め付ける。



「シルハーンが、あの場所の支配権を書き換えるまでに、長くとも百秒から百五十秒程度か。俺は道が開き次第にすぐに戻るが、こちらも用心しておいてくれ。……………残りの砂蛇の内、三男は心配ないが、次男の砂蛇は、タジクーシャに来た長兄と親しいからな」

「アルテアを連れてゆくかい?」

「いや、今はまだやめておこう。…………その代わりに、他の魔物に声をかけておいた。それと、リーエンベルク全体が標的とされると厄介だ。ウィリアムがこちらに来れるなら、呼んでおいた方がいいだろう」

「癪だけどそうするよ。それと、その次男は、どうであれひとまず殺しておこう」

「……………そうだな」



それだけを言い残し、犠牲の魔物はふわりと転移で姿を消した。




切迫した空気の重さに、手のひらにじわりと汗が滲む。


勿論、エーダリアなどが気を揉まずとも、人間などの及ばない叡智を持つ高位の魔物達が、その対処に当たってくれている。

けれども、その向こう側で危険に晒されているのは、皆、ここで共に暮らす大切な者達なのだ。



ぐっと目を閉じて奥歯を噛み締め、出かける際にヒルドが、あの愛剣を持っていた事を思い出す。

あの剣がどれだけの階位とヒルドの一族の歴史の中で蓄えられた魔術を宿すものか、それとなく本人から聞いたことがある。



(そうだ。あの剣を持ったヒルドが、砂蛇の魔物になど遅れを取るものか………)



サムフェルであの剣が再び主人と巡り会えた事を、こんなにも感謝する日がやってくるとは思わなかった。




「……………エーダリア殿。申し訳ないが、私は一度タジクーシャに帰らせていただこう」

「悪いが、そうはいかないよ。あんたも使節として選び出されたなら、惚れた男の危険くらいで動じてるんじゃないよ」



慌ただしく立ち上がった青玉の宝石妖精に対し、そう答えたのは通信を切ったばかりのダリルであった。


その眼差しを向けられるのが自分であれば、間違いなく今夜は眠れなくなっただろうなというサフィティートの激昂の眼差しをさらりと受け流し、ダリルは、青玉の宝石妖精の瞳よりも青く鮮やかな瞳を細めて笑った。



「万が一デジレ王が斃れるなら、その時こそ、この条約は必要だ。まさか、そちらの事情でウィームを損ない、更には、こちらからの使節団を砂蛇の魔物の脅威に晒した不手際をなかったことにするつもりかい?」



辛辣な言葉だが、それは事実以外の何物でもない。


彼らはまだウィームの友人ではなく、ここは、便宜上友人という立場を与えられたタジクーシャの使節による、謝罪と保障の場なのだから。


けれども、それを正確に理解出来る者達も、どれだけいるだろう。


王が斃れたなら、その国の未来は大きく変わってきてしまう。

そのような時に、例えその王がなくともと、国のこれからの事を定め議論する場を持つ事など、忠義の厚い臣下であればあるほどどれだけ無益な時間に思えることか。



だがしかし、サフィティートは小さく呻くと見事な程に自分を律してみせた。

慌てて声を上げようとした従者達を鋭く睨みつけて黙らせると、優雅に一礼してみせ、微笑んで座り直す。



「………………失礼した。そなたの言う通りだな。会談を続けよう」

「へぇ、確かにあの王の片腕と言われるだけはあるね。そう言ってやっても、喚き散らして出て行くと思ってたよ。ここで踏み止まるとは大したもんだ」

「あの我等の偉大な王の、片腕であるからこそだ。だが、もし王にもしもの事があれば、スフェンは私がこの手で殺す。もしそちらの通信が回復したのなら、そしてまだスフェンの拘束を解いていなければ、どうかそのままにしておいてくれと伝えていただけるだろうか」

「いいよ。そうしよう。…………頼めるかい?」

「勿論。僕も、あれを殺すのは賛成だ。何なら、手伝ってあげようか?」



テーブルに頬杖をついてそう微笑んだノアベルトは、髪色を青灰色に擬態していても魔物らしい甘やかで酷薄な美貌であったが、青玉の宝石妖精は、そんな美麗な塩の魔物を冷ややかに一瞥したきりであった。



「いらん」



けれど、そう短く吐き捨てたものの、指先をしっかりと握り込み、まるで悪夢の中で正気を保とうとする者のように奥歯を噛み締めている。


エーダリアは、高位の魔物というもののその微笑みや眼差しの残忍さを、初めて目の当たりにしたような気がした。


どうやらタジクーシャの王に想いを寄せているらしいこの青玉の宝石妖精が、どれだけ塩の魔物を嫌悪していても、恐れていても、その微笑みはこの女性の心を狂わせるのだ。


そしてノアベルト自身も、そうして軋む心を見透かした上で揺さぶりをかけている。


その姿は、よく恋人達に散々な目に遭わせられて落ち込んでいるノアベルトとは違う。

寧ろ、そんな彼がどれだけ紳士的に振る舞っているのかを教えられたくらいだ。



(逆らう事など出来ないこれが、魔物の籠絡というものなのか……………)



そうしてまた一つ、共に暮らす魔物の知らない一面を見る。

だが、そんなノアベルトに感じたのは、頼もしさばかりだった。


魔物らしい残忍さを見せつけられても不安が一欠片も揺れなかった事に、その刃や牙がこちら向きになる事はないのだと、自分がもう、意識下ですらノアベルトを信頼しきっているのだと知った。




(……………ヒルド)



その代わりに、大丈夫だと言われても尚、タジクーシャに送り出したヒルド達が心配でならなかった。


ディノは、ネアを守るのは勿論のこと、きっとヒルドの事も守ってはくれるだろう。

だが、その時の状況によっては、手が届き可能とする範囲は変わるものだ。



ディノが身に纏った擬態を解けない可能性があるのなら、尚更に。


そう考えかけてしまい心が震えたが、こちらをひたりと窺うダリルの視線を感じ、その思いは飲み込んだ。


会談の相手の宝石妖精が自らの不安を収めてみせたのだから、それを求めたこちらにも同じだけの自制心と冷静さが求められる。


ネア達がタジクーシャで交わしてくる条約の前文については、議論の余地もなく引き出すべき保障と不可侵の約定だが、こちらで取り交す後半のものは、未だ議論の最中にある。




「ところで、タジクーシャの外周区画で街の商館の掃除を始めた黒髪の男は、そなた達と関係者か?」

「掃除、だろうか……………?」


不意に、そんな事を尋ねられた。

サフィティートも背後に立った従者から渡された紙を見ながら尋ねているので、王宮への砂蛇の出現によってかけた通信から上がってきた情報なのだろう。


「クインタッセ伯爵家所有の商館だ。その意見を公にはしていなかったが、前王派として知られている者達でな。その商館が現在、長い黒髪に漆黒の装いの男の訪問を受け、下働きの者までを含めた全ての職員が粛清されたと聞いている」



何とも壮絶な話ではないか。

けれども、サフィティートの語った身体的特徴から、そこにいる黒髪の男とやらの正体が何となく分かったような気がした。



(ダリルから、黙ってはいるまいと聞いていたが、……………ここで動いたか)



恐らく、偶然などではあるまい。

敢えて会談の日に重ねてきたのだろう。



「いや、そのような身体的な特徴を持つ者は、ここにはいない。こちらとは無関係の者だろう。……………ダリル、思い当たる者はいるか?」

「まぁ、細身の煙草に眼鏡もとなると、想像はつくかもしれないね。そちらの前王派とやらは、私達以外にも厄介なものを怒らせた筈だよ。どうやら彼等は、私達の条約締結に噛むことはせず、わざわざ前王派の権威を大きく下げるこの日に、自ら損失を与えた者への報復に向ったようだね」

「…………っ、アクス商会か」



青玉の宝石妖精はぞっとしたように小さく呻いたが、とは言え前王派なので、粛清されようとも関わるまいと判断したようで、それ以上はこの問題を掘り下げようとはしなかった。

そちらには決して手を出してはならないと、従者達にタジクーシャに連絡を入れさせている。



アクス商会という組織は、中立と言えば聞こえは良いものの、望まれそれに相応しい顧客と判断すれば、どのような悍ましい取引にも応じる者達だ。


眉を顰める者達も多いが、得てして人外者主導の商売にはそのような側面がある。

ガレンの長として、もっと粗悪な商品と粗暴な商いをするもの達とも取り引きをせざるを得なかった事もあるエーダリアからしてみれば、その存在は悪しき隣人という範囲のものではない。


ウィームに本社を置くアクス商会もまた、自分達が腰を据えた土地の管理という名目ではあれ、様々な街の催しに貢献してきてくれた。

そうして良い関係を続けてきているともなれば、アクス商会は、国を崩す品すら売り捌く恐ろしい商人達というよりは、ウィーム領内に居を構える老獪な有力商人という存在とも言えよう。



(だが、かつて、アクス商会に表立って不利益を与え、滅びた国は一つや二つではない……………。異国には、その支店を訪れることすら出来ないまま、アクス商会の扉を生涯彷徨い探し続けて命を落とした魔術師もいると聞く…………)



これは即ち、条約における使節として選ばれたサフィティートですら、顔色を悪くして知らなかった事にしようと判断するくらいのものなのだ。



(……………そう思えば、今更だが、とんでもない商会なのだな……………)



彼等は商人だからこそ、その商いを損なった者達を許しはしないだろう。

その残忍さと苛烈さはまた、タジクーシャが世界中から集まる商人達の町であり、アクス商会だからこそ必要な見せしめの意味を持つ措置でもあるのだ。



小さく深呼吸をし、領内の商会がタジクーシャで虐殺を行っているということは、エーダリアも聞かなかった事にした。

魔物と妖精との問題にもなるので、そうなればますますエーダリアが手を出すものではない。



今、ダリルとサフィティートは、先程までの折り合いの悪さが嘘のように事務的に鮮やかに会談を進めている。


条約の後半にあたる、ウィームとタジクーシャの間に結ばれて双方の利益と理解の下に流れゆくものには、どれだけの政治的な狡猾さが窺えるものか。

エーダリアはその全てを聞き収め、けれどもたじろいではならない。


時としてその強欲さや身勝手さは、この美しいウィームを守る為の糧となる。

ダリルからは、その醜さを飲み込めずに滅びたウィームの轍を、二度と踏むなと再三言われてきた。



(きっと、ヒルドやネア達も、皆無事に笑顔で帰ってきてくれるだろう。……………そうしたら、皆でゆっくりと晩餐として、今日の出来事を語り合うのだ……………)



ダリルは常々、寄りかかるものが出来て、甘くなったのではないかと口煩く言うが、それは違うとエーダリアは考えている。


確かに生活中で曝け出してしまう弱さや甘えは増えてしまったが、それはこのリーエンベルクが、漸くエーダリアにとっての家になったからだ。

家の中だからこそ寛ぎ、そして伸びやかに息をするようになった。



(だからこそ私は、この家を守り抜く為に、ウィームの領主であろう。かつての、母やその家族達が出来なかったことをし、もう二度とこの手から私の祖国と家族が失われないように………………)




「それで宜しいのですか、エーダリア殿?」




とある一文で顔を顰め、サフィティートは美しい女の顔でこちらを窺う。

その瞳は深く艶やかで見惚れてしまう程に美しい妖精だが、残念ながら、青い瞳であればヒルドやダリルのものの方が美しいし、ディノの瞳やノアベルトの瞳に比べると圧倒的にその深さも鮮やかさも足りない。



(…………そうか、私はそのようなところでも、守られているのだな)



くすりと微笑んでそう考えると、なぜこの人間は微笑んだのだろうと目を瞠ったサフィティートがいる。



「私もこれで良いと思う。ウィームらしからぬ主張だと思われるだろうが、私は、残念ながら慈悲深くはないらしい」



人ならざる者達のその美貌と微笑みは、魔術そのものだ。

微笑んだままそう告げると、美しい宝石妖精は、なぜか小さく微笑みを返してくれた。




やがて、条約締結までの全てを、それまでにかかった半分の時間で纏め上げ、サフィティートと握手を交わして儀礼的なものの全てを終える。



しかしここで、少しだけ分からない事が起こった。



ばたんと力強く閉められた扉を見て、エーダリアは首を傾げる。

なぜか、部屋の壁際に立っていたゼベルとリーナは、項垂れてしまったようだ。

最後には親し気に微笑みかけてくれるようになった、タジクーシャの使節は、どうやら怒って帰っていったらしい。



「なぜ、彼女は怒ったのだ?」

「…………わーお、無自覚だぞ」

「まぁ、あの高慢そうな女にはいい薬だろうね………………」

「私は、何か失礼な事を言ってしまったのだろうか……………」

「私の微笑みに屈しないなんて、愉快な人ね、どんな魔術を使ったのかしらって言われて、エーダリアがさ、正直にヒルドやダリル、おまけに僕やシルの瞳の方が綺麗だからで、決して魔術的なものではないって答えたからだと思うよ…………」

「そ、そうか、正直に言わない方が良かったのだな………………」

「ほら、一応女の子だからね。それに、青玉の妖精だからさ、青ではない瞳だったら分からなかったって生真面目に言われても、悲しいだけだよね」

「………………魔術的な問答だと思ったのだ」



エーダリアとて、女性との会話でそこまで無神経な事は言うまい。


あくまでと魔術的な技量を問われたのだと思い、それは自分の力ではないと答えただけのつもりだったのだが、サフィティートにとっては、そこから先は社交上での気軽な会話のつもりだったようだ。




「でも、僕はちょっとほっとしたかな。弟の腕を引き千切る女の子が、エーダリアの恋人になったら怖いからね」

「……………そのような意味でも、私はあの女性は苦手だ」



力なくそう呟けば、小さく微笑んだノアベルトに背中をばしりと叩かれた。



「さて、僕達は僕達の家族の話に戻ろうか。グレアムがタジクーシャに戻ったから、どうやら、シルの書き換えでその場は事なきを得たみたいだけれど、どうなったかな」

「そう言えば、アルテアではない魔物を連れて行ったと話していたな」

「うーん誰だろうね。それから、リーエンベルクには砂蛇本人は来なかったみたいだけれど、その代わりに砂百足が来たみたいだね。ウィリアムが駆除したみたいだよ」

「……………来てくれていたのか」



頼もしい終焉の魔物の訪問に、ほっと胸を撫で下ろした。

だが、そのような襲撃があったこと自体、あまり良い事ではないのは確かだ。



送り出した者達が戻るまでは、気を抜けないだろう。



(…………早く、無事に帰って来てくれ)



そう願い、けれどもそれが叶えられると信じ、エーダリアは頼もしい協力者達が待っていてくれている部屋に向かい、会談の行われた部屋を出た。




なお、アルテアはその時に声をかけられなかった事をとても根に持っていたようだが、グレアムの人選は正しかった事が後に分かるのである。















明日7/19の更新はお休みになります。

TwitterでSSを上げさせていただきますので、もし宜しければそちらをご覧下さい。

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