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災厄の夜明けと優しいテーブル




濃密な血臭の中で、ばたばたと風に白いケープがはためく。



夜明けの光の中で、最初の制圧で壊された王宮の防壁は、ガラガラと音を立てて崩れ始めていた。


薔薇の花びらを敷き詰め壮麗な婚儀が行われていたこの場所は、美しい王宮を見通せる大階段の上にある。

儀式の日になどは儀式会場になり、王がここから演説したりもする謂わば王宮前広場だ。


そして今は、凄惨な死者の行列に埋め尽くされている。


どこか遠くで、悲痛な慟哭が聞こえた。


ゆっくりとこの大階段を登ってくる終焉の系譜の行列の中から、下位の死の精霊が手を伸ばして逃げようとした一人の男を死者の国に引き摺り込んでいる。

もがき悲鳴を上げながら連れ去られてゆく男に、その伴侶と思われる女が取り縋って咽び泣いていた。



「残念だがここは残せないな。王都の中に限り、一人残らず殲滅する」

「久し振りに手間のかかる仕事だな。いつもは、大半の人間は死んだ後なのだが」



短く指示を出したウィリアムに、そう答えて眉を顰めたのは死の精霊の王族であるナインだ。


殺すことにかけては長けている男なので、粛清の意味合いの強い場所にはその姿を現す事が多い。



昨晩の王族の婚儀の喜びから一転、この小さな国の王都は許されざる罪と共に滅びかけていた。


死者の日に地上に戻った死者達を拘束し、夜だけ奴隷として働かせていたのだ。

終焉を管理する王としてその行為を許す訳にはいかず、また、例えその罪に加担していなかった者達であれ前例を作る訳にもいかず、ウィリアムはこの王都に暮らす全ての人間の殲滅を決めた。



いい国だと、そう話す者達も多かった国だ。


薔薇の香油を好み、太陽の系譜の酒を造る美しい国だったが、王都だけの不自然な生活水準の高さは、他国の死者達を無償で酷使してきたからこそ成り立つものであった。



「この行為に手を染めていたのが、王都だけだったことがせめてもの幸いだな。だが、生活が安定していたからか、女子供が多いか……………」

「あなたらしくない感傷だな。家で安穏と暮らす女子供だからこそ、そこでも働いている死者達がどのようにして集められたのかを、誰よりも知っていた筈だ。無実の顔で悲鳴を上げてみせるより醜悪な咎人に同情が必要だとでも?」

「君は、相変わらず人間が嫌いだな」

「かもしれないが、才能のある者については評価している」

「……………それについては、あまりネアに負担をかけないでくれ」



そう窘めると、なぜか肩を竦めるばかりで肯定の返事はなかった。


他の終焉の系譜の者から、独特な歌声の持ち主を集めていたが、どれも気に入らずに壊してしまっていたと聞き及んだので、彼なりに視線を他所に向ける努力はしたのかもしれない。


だが、思うようにはいかなかったのだろう。


ナインの階位になると、ウィリアムでも一概に命じきることは出来ないが、目につくような事があればある程度しっかり話し合い理解を求めた方が良さそうだ。



(シルハーンからも話をしたようだが、それでもまだ、執着が残っているのか……………)



そう考えると苦々しさが残り、大鎌を持った同僚の横顔に僅かばかりの思案をした。


ナインの場合は、個人としての執着というよりは、その才に対する執着だ。

とは言えそれならばと気にならないかと言えば、そうでもない。


歌声を強請る行為については、魔物にとっては無視し難い意味を持つ。

だからこの不快感も当然のものだろう。



ざざんと、花をつけた灌木の生垣が揺れた。


手を繋いで飛び出してきたのは、まだ手足も細い幼い子供達で、その表情は恐怖に引き攣り体は震えている。


そして、その内の一人の少年の青い瞳がウィリアムの姿を捉え、子供らしい無垢さを嫌悪に歪めた。


悍ましい怪物めと、そう叫んだ気がする。

その言葉の全てが耳に届く前に、小さな体はナインの大鎌に両断されていた。




(いつものことだ……………)



鮮やかな深紅が流れ落ちる砂岩の階段を登り、死の無常さを彩る婚礼の残骸の薔薇の花びらを踏む。


そこかしこで命を奪われてゆく人々の悲鳴や怒号が聞こえ、その響きが薄いナイフのように心の隅を削り落としてゆく。



この国の王都で死者達を拘束しているという噂を聞き、旅人を装って街を訪れたのは先週のことだ。


人々は朗らかで陽気で、旅人だと告げたウィリアムに屈託のない笑顔を向けて酒を奢ってくれた。

あの時に、もうすぐ子供が生まれるのだと話していた酒屋の主人も、今はこのどこかで物言わぬ躯になっているだろう。



戦よりよほど手早い。

これは、死者の行列による一方的な虐殺である。




「ああいやだ、あの人は容赦がありませんね」

「……………アンセルム」



そこに現れたのは、もう一人の死の精霊の王族だった。


簡素な神父服はここでも変わらず、となるとこの街の死者の行列には、ナインを含め聖職者の服装をした者が二人もいることになる。

死者の行列は教会勢力に属するものだという噂が一向に消えないのは、主にこの二人の姿を見た者達の言葉だろう。



死の静謐を司る彼にとっては、必ずしも来なければならない場所ではないような気がする。

そんな、来ていたのかという表情が伝わったものか、眼鏡をかけたガーウィンの教区の隠者はどこか悲し気に淡く微笑んだ。



「今回は、僕達死の精霊は総動員ですよ。何しろ疫病の系譜が出てこない仕事ですからね。…………それにしても、この悪癖が王都だけに留まってくれたお陰で、この国は滅びずにすみますね」

「……………ああ。王都を失ったとしても、北方の自治がしっかりしているからな。国土の形状が南北に細長いお陰で、両端の統治が違う王家だったのが幸いした」

「昨晩の婚礼にも、北の王家の者達は呼ばれていませんでしたしね」

「………王族の婚礼は人手が必要だ。死者の奴隷達を使うところを、北方の王族達に見せたくなかったんだろう」

「明日からは、中央から隔絶され続けてきた北の王家が、この国を治めることになる。彼等は異端信仰ではありますが、死者に対しての畏敬の念は持ち合わせていますからね。…………まぁ、その価値観の相違があるからこそ、死者の運用は王都だけで秘されてきたのもまた幸運というところでしょうか」



そんな風に話していながらも、この精霊とて人々を殺してゆくことに躊躇はない。


かつて、死の中でもその柔らかな部分を司ったルグリューとは違い、ここに立つのは殺戮を厭わない気質のものばかりだ。




その時、行列の中の誰かが封鎖されていた寺院の扉を破った。


そんな事をせずとも建物ごと崩壊させてしまう事も出来るのだが、ウィリアムは今回、人間の戦のような蹂躙を心掛け、あまり大きな力を使わずに建物や王宮、水路や井戸などは損なわないようにと指示を徹底させている。


ここは小国とは言え、国の中枢だ。


隣町の人々や、五十年前に権力闘争に敗れた北の王族たちが王都の復興を願った時に、出来るだけ使える形で残してやりたい。


今回の行列に疫病の系譜の者達を一人も参加させなかったのは、これだけの殺戮の中で疫病が落とされると、都市としての機能が取り返しのつかない状態に陥ってしまうからだ。



(人間の文明は、出来うる限り人間の手で維持させておきたい…………)



連なり合う一つの国が倒れると、近隣諸国への影響はやはり避けようがない。

今回のような大規模な粛清で、国として残せる幸運は滅多にないのだ。



どおんと大きな音がして、見事な細工の扉が砕け散り、その扉を内側から押さえていた人々の悲鳴が聞こえてくる。


破られた扉から魔除けの香炉の煙がたなびき、その中にも奴隷として鎖に繋がれた死者達の姿が見えた。



あの死者達を解放するという名目でもあれば、もう少し心は軽かっただろう。



だが、非道な魔術刻印を焼き付けられた魂はひどく壊れており、彼等はもう、この王都に暮らす人々の言う事しか聞かない家畜のようになってしまっている。

魂の最奥に留まった心が悲鳴を上げるその哀れな死者達は、壊してやることでしか解放する術はないのだった。



(次の死者の日には、そうして失われた家族の訪れを待ち続ける者達が、どこかにいるのだろう…………)



既に死者の日に家に戻らないことを訝しんでいるかもしれず、今日を区切りとして、その真実を知る機会は永劫に失われる。


完全な夜明けまでにはここを殲滅しきるつもりであるし、この王都が死者達を攫い奴隷にしていたことで粛清された事も公表はするものの、どんな死者がここで働かされていたかまでの記録はもはや誰にも残せない。


死者を奪われた者達は、この街を訪れては、そこに繋がれていたのがかつて自分が愛した誰かだったのだろうかと僅かな証跡を辿るのだろうか。



どっと、積み重ねていた書架が崩れると、その後方から、まだ生き残っていたらしい王宮の騎士達が武器を手に飛び出してくる。


純白の軍服姿を見定め、こちらに真っ直ぐに向かってくる眼差しには、先程の少年と同じ嫌悪がありありと滲んでいた。



この国の王都では、死に纏わる全てを醜悪で脆弱なものだとする教えが根付いている。



その思想の興りがいつなのかは定かではないが、敗戦国の兵士達が死者の日に地上に戻ってきていることに激高した王族の一人が、その死者達を捕らえて奴隷にしたのが始まりであるらしい。


その王族の行いを正当化する為か、王都では、自国の民に対しても死者が地上に戻るのは悍ましい行いであると教えられているのだそうだ。



(そこにあるのが恐怖や忌避ではなく、嫌悪と蔑みなのがせめてもか……………)



彼らにとってのこの憎悪は、穢れた祟りものを討伐するような感覚なのだろう。



悍ましさと吐き気を堪えて斬りかかってくる兵士達の怒号に、小さく微笑んだウィリアムは、手にした長剣で水平に虚空を薙いだ。



白銀の淡い魔術の炎の軌跡が残り、それを見た死者の行列の者達がそそくさとウィリアムの周囲から離れてゆく。



勇猛な騎士達なのだろう。


臆さずにそこに踏み込んだのは、剣を振りかぶった王宮の騎士達だ。

そして、剣の軌跡が描かれた円の内側に一歩踏み込んだ最初の騎士が、ざあっと灰になって崩れた。


騎士達の双眸に恐怖が滲んだのは、その時が初めてだったかもしれない。

がしゃんと音を立てて地面に落ちた甲冑も、肉体に遅れてもろもろと崩れてゆく。

ほんの瞬き程の間で、そこにあるのは風に崩れてゆくばかりの灰の山となった。



凍えるような沈黙が落ち、どこにも行けない事を理解した人間達の絶望が砕ける音がした。


その沈黙を経た後、うわぁぁっと獣じみた声にならない声を上げて、他の騎士達も斬りかかってくる。

その浅はかさを哀れに思いながら、剣先を届かせる者もいないまま崩れてゆく騎士達を静かに見ていた。



こうして終焉の領域で罪を犯し粛清された者達は、もう二度と地上に戻ることはない。

死者として回収された後は、全てを漂白して魂を循環させてゆくまでは、あの死者の国で過ごすことになる。


だが、ウィリアムに剣を向けた者達は、一段階余計に罪の度合いを上げてしまう。

既に粛清の対象であったこの王都の人間であれば、その魂はばらばらに壊れて塵となるばかりだ。


刹那の殺意が消え失せれば、細工の美しい壮麗な甲冑を着込んだ騎士だった灰の山と、婚礼の儀式の名残の薔薇の花びらしか残っていなかった。


胸の中を寂寥の色が染めたが、同じような光景は三日前にもあったし、月に何度あるかと言われればすぐには数え上げられない程。

だからこそナインやアンセルム達は、そんな人々を森の木立を擦り抜けるようにして後ろに流してゆく。



だがウィリアムはいつも、正面からその表情を見ていた。




「…………っ、醜い怪物め!」



でも、そう背後からぶつかってこようとした幼い声は、最後まで姿を見ることは叶わなかった。

一度殲滅術式を敷いてしまえば、殺意を伴う接触は一律で排除してしまうのだ。



振り返って、ざあっと崩れてゆく小さな人型の灰を一瞥し、そのあまりの小ささに胸が軋む。



地面に転がった短剣を構えたのであろう子供に今更の贖罪などを感じる程に短い生ではなかったが、どんな教育を受けたどんな国の者であれ、小さく無垢である生き物にとってはこの身は悍ましいばかりなのだろうと考えると、身勝手な落胆に胸が痛んだのだ。



そうして、ウィリアムが振り返ったまま立ち止まったからだろうか。


或いは、小さな子供が灰になったことで、残された人々の心が引き裂かれたからだろうか。



寺院の中に残っていた年老いた男や、女や子供達が、それぞれに剣や槍、厨房で使うような包丁やナイフなどを手に、いっせいにウィリアムに襲い掛かってくる。



(ああ、またか……………)



それはまるで、死者の王を殺せばここから生きて帰れると言わんばかりであったが、勿論そんな事はないのだ。



愚かで、哀れで、そして悲しい。




悲鳴にも似た声を上げて周囲を取り囲んだ人間達の表情は、どれもが絶望にひび割れていた。

突き刺し、切りつけ、そこには何度も深い願いが落ちる。



死んでくれ、いなくなってくれと。




だがその全てが、やはりぼろぼろと灰になって崩れてゆくのもあっという間であった。




雲間から鋭く差し込んできたのは、鮮やかな黎明の光の一筋。



昨晩の華やかな婚礼の名残もなく、美しい王都は、血臭に満ちてがらんどうになっていた。



「そう言えば、昨晩は夏至祭だったのか」


どこからか戻って来てそう呟いたナインに、ウィリアムは眉を顰める。

教会の枢機卿である彼が、夏至祭程の祝祭を失念していたことが意外だったのだ。


「教会でも、何か行うんじゃないのか?」

「毎年、リシャード枢機卿は欠席だ。私も彼も、夏至祭は忙しいからな。審問局の局長として表舞台を好まないのだと伝えてあるが、妖精の血を引いているらしいと噂を立てられ始めている」

「では、来年は出ればいいさ」

「夏至祭の夜は、いつもこのような有様だがな」

「はは、確かにそうだ」



強い風が吹き抜ければ、立ちこめていた血臭が綺麗に洗い流されていった。

灰の山も全て風に散ってしまい、残るのはそれを執り行う人々を失った婚礼の残骸ばかり。




(……………帰って、少しだけ眠ろうか)




今年は、ギードはいないのだ。

それを良かったと思いながらも、本音では、彼がここにいてくれたらとも少しだけ思う。



手に持った剣を鞘に収め、曇天の隙間から覗いた青空を見上げて目を細めた。




「…………夏至祭明けだからかな、皆帰りが早いですね」

「アンセルム……………。何だ、お前もいたのか」

「…………うーん、始まる前に目が合って挨拶しましたよね。記憶力の老化ですか?」

「次の審問官の任務は、最適のものを用意する。帰ったら資料に目を通しておくといい」

「やめた方がいいですよ。その手のやり方はもう古いらしいですから。………あれ、」



ふと、アンセルムが言葉を切り、目を丸くした。

その視線を辿り、ウィリアムは目を丸くする。





「………………ネア」




そこには、しっかりとシルハーンに抱えられていたものの、夏至祭を思わせる淡い水色のドレスを着たネアがいて、こちらに手を振っているではないか。



一瞬声もなく立ち尽くしてから、ウィリアムは慌ててそちらに歩み寄った。




「ネア、どうしてここに。…………っ、」



そう声をかけてから、ぎくりとして周囲を見回したが、粛清された人々の亡骸は既に残っていないようだ。

けれども、隠しようのない惨劇の翳りは残っていて、ネアの目であればここで何が行われたかは一目瞭然だろう。




「…………シルハーン、どうして………」

「着替えられずに眠ってしまったから、このドレスのまま君にケーキを届けたかったようだよ」

「お仕事終わりに間に合って良かったです!昨晩は……………昨晩は、己の肉体を呪い、狸精霊を呪いながら過ごすという悲惨な目に遭いましたので、せめて着替えずに寝てしまった悲劇をこうして生かしてみせようとしたのです」

「……………可愛いドレスだな。夏至祭のものか?」

「ふふ、ディノが用意してくれたのですよ。ディノ、ウィリアムさんに褒めて貰いました!そして、未練がましく夏至祭気分で林檎のケーキをお持ちしたので、一緒に食べませんか?」

「……………一緒に、」

「はい!夜明けからケーキなんて、ちょっぴり罪深いのですが、ウィリアムさんがお嫌でなければ」



首を傾げて微笑んでみせたネアの眼差しには、先ほどの人間達の憎悪と拒絶の色はない。

だが、ここで何が起きて、ウィリアムがどのような時間を過ごしたのかを全て知っているような気がした。




「…………いや、朝からケーキを食べるのも悪くない。俺は幸せ者だな」

「ふむ。では、テーブルを出しますね!」

「おっと、ここでか………?」

「ディノから、疫病の気配はないと聞いていますし、お掃除の後なのでいっそ清浄な程なのですよね。しかも、何やら薔薇の花びらが敷き詰められていて素敵な風情です!」

「ネア……………」



途方に暮れてその名前を呼べば、鳩羽色の瞳を揺らしたネアは、ふっと排他的な目で微笑む。



「悪いことをした困った人達も、もういないのでしょう?」

「………………ネアは、気にならないんだな」

「まぁ。私はとても身勝手なので、ウィリアムさんと見ず知らずの誰かを、同じ天秤になんて乗せません。そして、ウィリアムさんの事はとても大事にします」

「そうか……………」

「ディノもいるので、二人分ですからね」



そう胸を張ってみせたネアに、そしてこちらを見て、ここで行われた事を承知の上でネアを連れて来てくれたシルハーンに、ウィリアムは、自分がすっかり安らかな気持ちになっていることに気付いた。



「少しの間、ここに排他結界を敷いても構わないかい?」

「では、是非」

「ところで、昨日は何があったんだ?」

「むむ、邪悪な狸の罠にかかり、踊り明かしかけました。ふぁるごはとても良いダンスです」

「…………成る程、そのファルゴは誰と踊ったのかが気になるんだが、教えてくれるか?」

「アルテアさんと、ヒルドさんです。ディノにも寝椅子になって欲しかったのですが、儚くなってしまうので諦めるしかなく…………」

「そうか。…………アルテアとは、後で話をしておこう。それと、こう見えてファルゴは得意なんだ。今度付き合ってくれ」

「むむ!正気だと少し気恥ずかしいですが、そろそろ大人の魅力を学んでもいい頃ですね。なお、ふぁるごの音楽は大好きです!」



ここでネアは、まだ帰っていなかったらしい二人の精霊を唸って威嚇していた。

シルハーンがどんな視線を向けたものか、ナインとアンセルムは賢明にも退出する事にしたようだが、やはり精霊は少しばかり執着が過ぎるらしい。



「唸り声の音程も取れないのに、お前にファルゴが踊れるのか?」

「ぐるるる!立ち去り給え!」

「久し振りですね、レイノ。また今度、あちらに来ることがあればグラタンをご馳走しますよ」

「ぐる……………ぐらたん」

「ネア、グラタンはアルテアが作ってくれるのだろう?」

「………は!そうでした」




ふわりと姿を消した精霊達の後ろ姿に、必要であればそちらの対処は、アルテアと共有しておいてもいいかもしれないと考え、陶器のポットからカップに注がれた紅茶の香りに心が和らいだ。



先ほどまで怨嗟と絶望に満ちていたこの街でと思えば不思議な思いだったが、どこからか取り出された優美なテーブルに、クリームを乗せた林檎のケーキが並ぶ。



椅子を引いて席に着けば、穏やかな朝が始まろうとしていた。






明日の更新はお休みとなります。

TwitterにてSSを上がさせていただきますので、もし宜しければそちらをご覧下さい。

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