水辺の語らいと誘惑の味
「…………ああ、生き返るな」
休日の日の午後、リーエンベルクにあるプールで水面から顔を出しそう呟いたのは、相変わらずぴっちりとした水着姿のウィリアムだ。
魔物ではあるのだが、どこか竜種に近い長身のウィリアムには、やはりこの水着がよく似合う。
奥の木陰になるところでは、もう少しゆったりめな水着を着たアルテアも寝椅子に横になって本を読んでおり、ネアの隣には伴侶の魔物がいて、反対側には今朝がた可憐な乙女に刺されかけたばかりの義兄の魔物が虚無の眼差しでプールの水面を眺めていた。
「今回のお仕事は、かなり大変だったのですね…………」
「ああ。カルウィの王女と王子の領地争いだ。植民地の一つを巻き込んでかなり大きな戦になったからな」
「またしてもあの国めです……………」
「王族の多さも原因だが、そうして王都から離れた土地で血生臭い戦を起こさせることで、国内外に向けてカルウィの王族の残忍さを示す意味合いもあるんだろう」
「長引いた理由はそれだけか?聞いたところによると、カルウィの王女に求婚されたらしいな」
「まぁ!いいお話なのですか?」
どこか意地悪な微笑みを浮かべてそう指摘したアルテアに、ネアはぴょいっと長椅子から跳ね起きた。
ご主人様がいきなり動いたとくしゃくしゃになったディノに対し、泳いできたばかりのウィリアムは、水から上がりながらにっこり微笑んでこちらを見る。
「ああ、そんな事もあったな。死者の行進の妨げになって排除しておいたから、ネアは気にしなくていいぞ」
滴る水滴を指先で払い、ウィリアムはほんの一瞬だけ、ひやりとするような怜悧な眼差しを見せる。
「………ぎゃ、私の未来のお友達候補が、既にお亡くなりになってます!なぜ進行方向に立ってしまったのだ!」
「行進の邪魔をしてしまったのだね…………」
「いや、こいつの顔を見てみろよ。立ち位置の問題じゃないだろ」
「…………ウィリアムだってこの雑さなのに、どうして僕はいつも刺される側なのかなぁ…………」
「むむぅ。デートの約束を破ったのは事件に巻き込まれていたので仕方がないと思うべきか、同時に他の女性とのデートが発覚したのが一番の原因と見るべきか、今回は判定が難しいですね………」
カランと、泉水晶のグラスの中で氷が鳴る。
用意された飲み物は、ネアが作ったものと使い魔製との二種類あり、後者は主にネアだけの特権であった。
ネアが準備したのは、時折無性に作りたくなるコンフィチュールを何種類か用意し、それをぱちぱちと泡の弾ける炭酸に似た飲み物で割ったものだ。
ネアの感覚では炭酸に見える特別な氷河の水に立ち上る泡は、氷河の中に眠る深い森の記憶が微睡みながら吐き出される、氷河の溜め息なのだそうだ。
溜め息の泡とは言え優しい森の気配を味わえるので、心地よい祝福が入った水としてなかなか高価な値段で売られている。
そんなものを惜しみなく飲めているのは、リーエンベルクの騎士の一人にこの水の販売を行っている商家の女性と婚約した青年がおり、そちらの家から婚約者の職場へのご挨拶がてらリーエンベルクに沢山送られてきたからであった。
リーエンベルクでは、本来ならそのようなものはあまり受け取らないのだが、件の青年にはとある事情がある。
昨年の暮れに婚約者宅で暴れた祟りものを捕らえた際、青年は、ゆっくりと侵食されながらやがては視力を失う呪いをかけられてしまった。
勤務時間外の事であるし、退職はやむなしとしてウィーム領主とグラストに報告したところ、エーダリアは、目が見えなくても出来るウィームの封印庫の事務員の仕事を三日で探してきてくれた。
無理なく騎士の仕事が出来る程度の視力が残っている限りはリーエンベルクで騎士として働き、まだ目が見えている内から封印庫の仕事に移る予定なのだが、青年が転職する予定の封印庫の事務仕事は、リーエンベルクの騎士より高給取りになる。
(多分、目が見えない事で困難になる日常生活を助ける為に、その騎士さんが出来る仕事の中でも、一番お給金が高いものを選んでくれたんだろうな……………)
まずは将来の生活への不安を取り除いてしまい、その上で、目の呪いを解く方法をぎりぎりまで共に探そうと約束してくれた領主に、エーダリアを盛り立てる会の会員である青年騎士本人と、その婚約者一家はすっかりめろめろになった。
よって、最近は少しエーダリアに何かを贈りたい欲が爆発しており、今回ばかりはやむなしとして特例で受け入れられている。
美味しい氷河の溜め息が飲み放題となり、ネアは、ざく切りにした果物やコンフィチュールを入れたり、お酒を割ったりしながら色々味を変えて楽しんでいるところだ。
けれど、しゅわりと美味しい爽やかな味を楽しめば、あの目を治してやりたいのだがと肩を落としていたエーダリアの横顔を思い出してしまう。
「この氷河の溜め息を美味しくいただくと、あの騎士さんの目が治るといいなと思ってしまいますね…………」
「彼が背負ったのは、呪いの中でも対価に分類されるものだから、私やノアベルトが安易にその呪いを引き剥がせないんだ。治癒の祝福の中でも、相性がいいものを選ばないと難しいだろうね………」
その騎士は、本来なら手に負えない力を持つ祟りものを、敢えて儀式詠唱で祀り上げることで、呪いをかけられた婚約者とその家族を自身の目と引き換えに守り抜いた。
一方的な呪いではなく、交換条件の魔術誓約で差し出したものなのだ。
となると、目に受けた呪いを排除するだけでは、彼が退けた祟りものの呪いが、愛する人とその家族を飲み込んでしまう可能性がある。
問題になった祟りものは、婚約者家族の仕事ぶりを妬んだ同業者が屋敷の屋根に仕込んだものだったそうで、全てが終わった後に駆け付けた同僚達や、エーダリアの依頼でその後に現場を訪れて調査をしたノアにも、呪いがその一族にどれだけ侵食していたのかはもはや分からないのだとか。
(けれど、屋根に隠された祟りものが顕現までしたからには、かなりの呪いを既に侵食させていたらしいというのが、皆の見解なのだわ…………)
騎士の視力を奪ってゆく呪いを剥がし、そこから彼の婚約者とその家族に降りかかった呪いを浄化しても間に合うものなのか。
それとも、彼が対価の支払いを放棄した途端、その一族はあっという間に命を奪われてしまうのか。
その答えが得られない以上、青年は対価の呪いを肩代わりするような祝福を見付けでもしない限りは、やがては視力を失うだろう。
リーエンベルクに暮らす魔物達が総力を上げて抜け道を探れば回避方法もあるかもしれないが、魔物達は自身の守護を受けない者の為に、そこまでの労力を割く事はない。
ましてや、彼が背負ったのは精霊の祟りものの呪いで、精霊の呪い程執念深いものはないという事は、ネアもよく知っている。
せめてもの救いは、彼がやがて移る封印庫の仕事が、視認型の呪いを避けられるからこそ重宝される職務になると言うことだ。
「…………その騎士のことが気になるのかい?」
ディノがそう尋ねると、ひたりとネアに集まる視線は伴侶の魔物のものだけではない。
こんな些細な話題であれ、魔物という生き物は自身の領域とした者の、過剰な同情心を喜ばない生き物である。
(でも、そんな同情心が自分の大切なものを奪うのかもしれないと知っていたら、余分を排除しようと思う身勝手さだって、間違ってはいないのだ…………)
かつて、事故で命を落とした両親に対して、ネアは、そんな憤りも抱えた事がある。
他者の窮地を救わんとして失われた人達は、ネアにとって最後のたった二人だったのに、と。
「程よく他人ですので、その方の為に危険を冒してまで祝福を探しに行こうとは思いませんが、私の大切なリーエンベルクを守って下さる方でもありますので、お気の毒にと思ってしまいますよね。もし、私がいつかそんな祝福を偶然にでも手にしたら、エーダリア様を介して差し上げてもいいですか?」
「おや、彼の為に祝福を探しに行こうとは思わないのだね?…………或いは、私にどうしても彼を助けたいのだと願うこともしないのかい?」
「…………ディノ、その方が氷河の溜め息を私に沢山飲ませてくれるとは言え、その為に私が私の魔物を磨耗すると思いますか?」
そう問いかけたネアに、ディノは水紺色の瞳にひどく無防備で、それでいて魔物らしい老獪さを覗かせる。
そう言えば、無料で美味しいものを沢山飲める恩恵を与えてくれた、他人だけどリーエンベルクを守ってくれる騎士の窮地についてのやり取りは初めてだったかなと、ネアは記憶を辿った。
似たような事が他の理由であったかもしれないが、得られる商品が違うだけでも、魔物達はそれをネアがどう捌くのか分からないのかもしれない。
「…………しないのかい?」
「まぁ!私を見くびらないで下さいね。私は私の大切なものが最優先の冷酷な人間なのですよ?氷河の溜め息をリーエンベルクに沢山差し入れして下さった騎士さんや、その婚約者のご家族よりも、ディノの方が遥かに大切です!」
「……………うん。その飲み物よりも、私が大切なのだね」
「なぜに一同にほっとした様子なのだ。解せぬ…………」
目をきらきらさせて頷いたディノだけではなく、なぜかアルテアやウィリアムまで密かにほっとしている風なので、不本意な認識を捨てて欲しいネアはじたばたした。
ディノに、どうしてそんな心配をしてしまったのかと尋ねてみれば、ネアはこの氷河の溜め息を木箱で貰って大はしゃぎし、氷河の溜め息の歌を歌っていたらしい。
瓶詰めの飲み物に求婚されたと思った魔物は、密かに戦々恐々としていたのだそうだ。
「……………ディノ、いいですか?どんなに美味しくても飲み物です。私とてディノの立派な伴侶なのですから、飲み物を優先したりはしませんよ。所詮、飲み物は食べ物には劣ります」
「おい、それだと食べ物の為ならそちらを優先するように聞こえるぞ」
「………む?」
「ご主人様……………」
「食べ物の場合、わざと取り上げられたら一週間くらい口を聞かなくなるかもしれませんが、それくらいでしょうか…………。悪質な場合には絶交します」
恐ろしい単語の出現に、ディノはびゃっとなると慌ててネアを抱き締め、悪意を持って伴侶の食べ物を取り上げたりはしないと誓ってくれた。
なぜかウィリアムとノアからも誓いを捧げられ、ネアは矮小な人間の食べ物を脅かさない良い魔物であると微笑んだ。
「お前な…………。そういうものは、態度を見極めて判断しろ。それと、剥離用の薬草茶も飲んでいるんだろうな?」
「まぁ、飲んでますよ!アルテアさんの作ってくれた、青いお茶もとっても美味しいです。これがまさかお薬だなんて、誰に想像出来るでしょう………。こうして、氷河の溜め息を使った果実の甘さの飲み物と、すっきり爽快な青いお茶を贅沢にも交互で飲んでいるので、取り上げたら許しませんよ」
現在、強欲な人間らしく両手に飲み物を持つネアが飲んでいるのは、アレクシスからたっぷり貰っている薔薇の根を使った、アルテア特製の精神的な侵食などの魔術を剥離させる為の薬草茶だ。
アルテアの特別レシピで、他の薬草もブレンドして爽やかなレモネード風の味にして貰い、心を穏やかにする祝福のあるピンク色の花も浮かべた青いお茶は、こんなプールの休息に相応しい爽やかさで目にも楽しい。
バランス良く飲んだ二つのグラスをサイドテーブルに置き、すっかり休暇気分でむふんと頬を緩めたネアは、隣で悲しく項垂れているノアの方を見た。
こちらは泳がないつもりなのか、白いシャツにいつものものより休暇仕様の麻素材の黒いパンツ姿で寛ぐ塩の魔物だ。
そして、のんびりとプールサイドで寝転ぶどころか、膝を抱えて虚ろな目をしている。
「……………ノア、まだ怖いままですか?」
「うん。…………ナイフや剣や、槍くらいまではあったけどさ、鋸は僕も初めてだよね。あの儚げな容貌でそれを持ち出されると、流石に戦慄するって初めて知ったよ…………」
「…………よほど腹に据えかねる思いだったのでしょうね」
「あの子との約束を反故にしたのって、まだ二回目だったんだけどなぁ……………」
「まさか、初回のお詫びの今回ではないですよね?」
「そう、それそれ」
「ふむ。おおよそ鋸でいいと思います」
「ネア?!」
悲しげな声を上げ、青紫色の瞳でこちらを見る塩の魔物に、ネアはやれやれと溜め息を吐いた。
「………ノアは家族ですから、刺されてしまうのは嫌なのですが、報復の形としては鋸基準に相当しますよという事ですからね?…………また襲われてしまわないように、それくらいお相手の女性は傷付いたのだと、どうか覚えておいて下さい」
「…………僕の頭蓋骨で、葡萄酒を飲むって言われたんだ………」
「儚げな容姿以前に、人格破綻者の疑いがあります。なぜそんなお嬢さんに手を出したのだ…………」
柔らかな風が吹き、プールの外に広がる森の木々の葉が音を立てる。
ざわざわと鳴るその音に耳を澄まし、湖に落ちた花びらが描く波紋に心を緩ませた。
森に囲まれた湖とプールの水面が繋がっているような作りにしてあるので、このプールは水辺でのんびりと座っているだけでも心が柔らかくなる。
また、ウィリアムのようにしっかり泳ぐ派にも気待ちのいい造りになっていた。
「……………ふと思ったのですが、以前、ウィリアムさんはとても人気者で沢山のお嬢さんが集まると聞きました」
突然ネアがそんな事を言い出したからか、飲み物を飲んでいたウィリアムが、ぎょっとしたように振り返る。
「ネア…………?いや、俺は…」
「そうだな。毎回とんでもない騒ぎだぞ」
「うーん、俺の場合は公の場での挨拶で混み合うだけなんだが、それなりに特定の女性達とは関係を深めているアルテアからは、全てそう見えるのかもな」
「むむ、アルテアさんは新しい恋人さんが出来たのですね!付き合いたてはお二人の時間を大切にして欲しいのですが、落ち着いてきたら紹介して下さいね」
であればこちらは大丈夫かなと微笑んだネアに、アルテアは凍えるような瞳を向ける。
「…………ほお、紹介されてどうするつもりだ」
「ご主人様としてのご挨拶と、お友達になって下さいとお願いします」
「いい加減にそれは諦めろ。それと、今は特定の女なんぞ作ってないぞ」
「…………と言う事は、まだうきうきの恋人未満の関係を………ぎゅむ?!わざわざこちらに歩いて来てまでこの可憐な鼻を摘むなど許しません!!」
「踏み込むなと言った筈だ。余程、俺の事が気になるらしいな?」
正面に立ったアルテアから低い声でそう尋ねられ、ネアはこくりと頷いた。
「何となくですが、あまり一般的ではないにせよ、そちらの事故り方はそう多くないウィリアムさんやアルテアさんのお知り合いの女性を紹介して貰えば、ノアも、刺されたりしないのかなと思いまして」
「え、やめて?!」
「しかし、あまりにもよく刺されてしまうのは、若干趣味が……………」
「言っておくが、ウィリアムの周囲の女は陰湿で執念深いぞ…………」
「はい。勿論、一般的なご婦人ではないのでしょう。ですが、激情型の刺したりするような気質の女性とも違うのではありませんか?アルテアさんからもご紹介があれば分類がばらけて尚良いかなと思いましたが、今は他の女性との接触で誤解させる事なく、目の前の方に全力投球して下さいね!……ぐるる!頬っぺたを解放するのだ!!」
今度はネアの頬っぺたを摘んだアルテアは、立ち上がったウィリアムがしれっと足を引っ掛けてプールに落としてくれた。
ばしゃんとプールに落ちたアルテアにディノはおろおろしているが、頬っぺたを押さえたネアは、人型のアルテアは泳げる筈なので相応の報いだと教えてやる。
「……………むむ、浮かんで来ませんが、泳げた筈です。………多分」
「浮かんでこないのかな…………」
「ああ、一度落としてから足を払ったので、少し時間がかかるかもしれないですね」
「わーお、腹黒いぞ……………」
ネアは、大事な使い魔がプールの藻屑になってしまったらどうしようと、プールの縁にしゃがみ込んでアルテアの浮上を待ってみた。
すると、思っていたよりは何拍か遅れたものの、すぐに水面に顔を出してくれる。
「良かったです。アルテアさんは生きていましたよ、ディノ」
「やはり、今も泳げたのだね…………」
「あら、それはそれでしょんぼりなのですね?」
「アルテアなんて………」
そんなアルテアは、水から上がった途端に目の前で覗き込むネアがいた事に驚いたのか、なぜか無言ですいっと離れるように泳いでゆき、反対側から上がったようだ。
心配されて照れたのかなと考えていると、すたすたとこちらに歩いて来たアルテアから、プールサイドに水着でしゃがみ込むなという、何とも無茶な叱られ方をする。
「プールとは…………」
「いいか、お前はそろそろ情緒をどうにかしろ」
「でもさ、僕からすると、ネアはこのくらいの方が安心だなぁ。宝石妖精の件もあるしさ」
「…………宝石妖精さんに、情緒…………?」
ネアは、宝石妖精に淑女の魅力を見せつける必要はあっただろうかと首を傾げたが、宝飾品生まれの妖精だったりすると、美しく身につけてくれそうな人間に弱かったりするのかもしれない。
「そう言えば、私がディノの伴侶でなければ、妖精の粉で籠絡しても良かったと話していましたものね」
「そうそう。そんな揺さぶりもあるから、お兄ちゃんは今のままの妹がいいと思うよ」
「宝石妖精なんて…………」
「……………実はあの時、少しだけ考え込んでしまいました。宝石妖精さんはいまいちそうですよね」
ネアがそう言えば、なぜか魔物達はぴたりと押し黙る。
おやっと思って視線を巡らせると、白金色の瞳を無防備に瞠ったウィリアムと目が合った。
「……………ネアも、そう考えたりするんだな」
「……………むぅ。確かにそのような目で見るのは失礼かもしれませんが、宝石妖精さんにはあまり心惹かれません。試してみたいような妖精さんはあまりいないので……む?」
ここでネアは、歩いて来たウィリアムにがっしりと両肩を掴まれる。
とても真剣な目をして、妖精の侵食はとても危険なので、奔放な気持ちになっても決して安易に手を出してはならないと叱られてしまった。
「ぎゅ。美味しいこなこな………じゅるり」
「ネアがまた妖精の羽を食べようとする……………」
「……………っ、やっぱりそっちか。紛らわしい答え方をするな!」
「…………ん?妖精の粉を食べたいのか?それなら確かに、見ず知らずの妖精から貰うより、市販のものの方がいいだろうな。だが、味というよりは祝福としての効果しかなかった筈だが……………」
困惑した様子のウィリアムからそう言われ、ネアは、ヒルドからとびきり美味しい天然物を貰っているとは言えずにこくりと頷いた。
(こっそり試してみるにしても、ほこり達が美味しくなかったと味見済みの葡萄のシーさん以外で、美味しそうな果物の妖精さんがいいかな…………)
からりと、また少し溶けた氷がグラスの中で鳴る。
(でも今は……………)
こんなに美味しい飲み物を二つも占有してるのだから、それで充分だとネアは微笑んだ。
夕方にはアクスに獲物を売りに行くので、帰りには美味しいケーキでも買って帰ろう。