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薬の魔物の解雇理由



それはそれは、美しい世界だった。




はらはらと雪が降り、しゃりんしゃりんと儚い囁きのような音を立てて咲いてゆく鉱石の花は、淡い虹色の煌めきを宿らせた白い宝石にも似て。



ふっと、艶やかに微笑む美貌の魔物を見ている。



その美しさはきっと人ならざる者にだけ許された領域で、はらりとこぼれた長い真珠色の髪までが酷薄なまでに鋭い。

内側に光を孕むような澄明な水紺色の瞳には、菫色や白銀、ミントグリーンにパライバブルーと、角度を変えて覗き込むたびに万華鏡のようなふくよかな色が揺れる。



緩やかなウェーブのかかった長い真珠色の髪を一本の三つ編みにして、その魔物は前に下ろした三つ編みに結んだラベンダー色のリボンを大切そうに指先で撫でた。



「君が、私に最初に贈ってくれたものだからね」



そう微笑む眼差しは、はっとする程に無垢にも見え、瞬き程の間に今度は長命老獪な魔物の眼差しにも見える。


すらりとした長身に、色味や質感を違えた白い服を纏い、夜霧を紡いだ糸で精緻に施された刺繍に縫い込む夜の結晶石や雪の祝福石が、ちかりと色味を添えていた。


大抵はジュストコールのような上着にクラヴァットを巻いたシャツ姿のことが多く、ネアのいた世界ではジュストコールと言えばのハーフパンツは穿かず、足首までの細身のパンツにブーツを履いている。


今日のブーツは、ネアとお揃いに作ったディノのお気に入りのものだ。



「なんて美しい夜なんでしょう。ウィームの雪は、やはり他の土地のものとは違うのでしょうか?」



そう尋ねたネアに、真珠色の髪を夜風に揺らした魔物がそうだねと微笑んだ。



「大陸のこちら側は豊かな土地が多いけれど、ヴェルクレアの中の四の領地の中でも、統一戦争の以前から大陸随一の魔術の潤沢な土地だ。そこに降る雪はやはり、祝福の気配が強いのだろう。……………ほら、人間の育んだ都市の中で、このように淡く輝く雪が降るのはリーエンベルクの周囲くらいなものだよ」




さくさくと雪を踏んで魔物に近付けば、美しい魔物は目元を染めて嬉しそうに微笑んだ。

降り積もったばかりの柔らかな雪の下には、ぺかりと光る森結晶の深緑色の煌めきが滲む。


こちらの世界では、土地の魔術の祝福を受けて真冬でもあちこちに見事な花が咲く。

ライラックそっくりの薄紫色の花を満開にした大きな木の下には、カップ咲きのころりとした薔薇を咲かせる茂みがあった。




今日の仕事で探していた花の色は、灰色がかった曇りの日の雪空に似た水色だ。


時折、蕾の中がぼうっと燃えるのは、土地の祝福を蓄えた花蜜の魔術が揮発するからだと言われている。

この雪雫の薔薇から紡ぐ糸は素晴らしい織物に、収穫される花蜜は高価な雪薔薇酒の原料になり、尚且つ新月の夜には甘く燃えて夜光灯にまでなる。



ただし、雪雫の薔薇の花蜜を、そのまま口に含んではいけない。



薔薇は本来愛情の祝福を持つ花だが、雪雫の薔薇は氷の系譜にあたり、尚且つ古く魔術の流れの豊かな森の奥深くにしか咲かないという高階位の植物として、静謐を司る資質までを持つ。


なので、この薔薇の蜜をそのまま取り込んでしまった者は、心の中の愛情の区画が凍てついてしまうのだ。

厄介なことに、その症状を治せるのは、ガレンエーベルハントという、王都にある魔術師の塔に属する高位の魔術師にしか精製出来ない、特別な毒消しの薬だけ。



ガレンからも、甘い香りに惑わされぬようにと国民達には注意を促しているのだが、失恋を儚み、年頃の若者達が軽率に蜜を飲んでしまう事件が後を絶たないという。


中には、意中の相手と上手くお喋り出来なかったという些細な理由で雪雫の薔薇の蜜に手を出す思春期の乙女などもおり、魔術師達は頭を痛めている。




ここは、夜空からは星屑が燃え落ち、古い書庫には本で出来た巨大な鯨が泳ぐ世界。



竜や妖精、精霊に目の前にいる美しい魔物のような生き物までが人間の暮らしの傍らで隣人として存在していて、様々な祝福と恩寵、呪いや侵食が揺蕩い、魔術の可動域を持たなければ洗濯すらままならない理不尽な世界。



(けれどもそんな世界でも変わらずに、失恋した乙女が荒ぶるのだから、何だか不思議に思ってしまうけれど…………)




「さて、お仕事にしましょうか」

「この薔薇の花蜜を集めるのだね」

「はい。私達のあれこれがあり、土地が元気になったことで、禁足地の森に自生している雪雫の薔薇にたくさんの花蜜が蓄えられてしまったそうです。近付いてきた薔薇の祝祭では、告白に敗れた方々が荒れ狂いますからね。そんな方々が軽率に心を凍らせてしまわないように、今の内に採取してしまうのが本日のお仕事です」



ネアがそう説明すれば、真珠色の髪を持つ魔物、ネアがこの世界で出会い、じっくりと時間をかけて愛情を育み伴侶になったばかりの魔物は、なぜだか悲しげな目をこちらに向ける。



(もしかして、自分が花蜜を増やしてしまったと思っているのかしら…………?)



ネアとディノは、昨年末に伴侶になったばかりだ。


ディノは万象を司る魔物であるので、その喜びに応じて世界には甚大な影響が出る。

今回は出来るだけ影響が及ばぬように、外界から隔絶されたディノのお城で伴侶となったのだが、それでも戻ってきてからも魔物はうきうきしてしまい、季節のものではない花々が咲き乱れたり、森の木々の祝福結晶が育ち過ぎたり、空に虹がかかったり、オーロラが出たりした。


感情に反応してしまうので抑えようもないものであり、そもそも喜びを我慢なんてしなくていいと自分の魔物贔屓なネアは思うのだが、確かに昨年末のディノが世界に及ぼした影響は大きかった。

けれど、幸せなことであるのに、こうして叱られたような気持ちになってしまうのなら、なんだか可哀想だなとネアは眉を下げる。


屈ませて、頭を撫でてやろうかなと思案していたところ、なぜかそんな魔物はきりりとこちらを見た。



「私が集めるよ。君が、我慢出来なくて食べてしまうといけないから」

「……………ディノ、私は確かに美味しいものには目がありませんが、危険物を口に入れてしまう程に愚かでもありません。…………もしかして、まだ逃げてしまうかなと思ったりするのですか?もう怖がらなくても大丈夫ですよ?」

「…………本当かい?」

「…………まぁ。伴侶になるにあたり、ディノには、きちんと私の大好きな魔物だと伝えた筈なのですが、そんなに信用がないのでしょうか」




この世界で生まれた訳ではないネアを、この世界に呼び落としたのは、ディノだ。




有象無象の人外者が溢れているこの世界でも、異なる世界に住む者を呼び落とせるのは、万象であるこの魔物だけである。


なお、余談ではあるが、この世界は魔術の理というものの制限がたいそう厳しく、魔物という括りではあるものの、ネアの前の世界においては神様にも相当し万象を司るディノにすら、出来ないことは沢山ある。


だからこそ勿論、どんな大魔術師であれ、ディノ以外の規格外な高位の人外者達であれ、異世界召喚という魔術は、その錬成自体が世界の中で成り立たないものとして存在していないのだとか。


稀に迷い子とされる、“ここではないどこかからやって来た”という者達も存在するが、彼等は必ずこの世界のどこかから呼び落とされた者達だ。

まだ存在の確認されていないような僻地の集落だったり、何百年か前のどこかであったりはするものの、この世界の存在であることは間違いないという。



だから多分、ネアは幸運だったのだ。


この世界に来てから、生まれた場所とは言え馴染まない元の世界で、ちくちくするセーターを無理矢理着るようにと強要されていたに等しい不快感がなくなり、理由のない居心地の悪さがふわりとなくなった。


この世界は美しいだけではなく、危険で残忍な側面も過分にある場所だが、ネアにはこちら側の空気が合っているらしい。

森の生き物が海の底で生まれてしまったような息苦しさが消え、今はとても幸福で安らかだ。



(だとしても、突然見知らぬ世界に呼び落とされたのだから、こちらに来たばかりの頃は、私も警戒してしまったのだけれど…………)



この魔物も出会った当初はあまり心の動かし方が上手ではなかったし、同じくらいにその種のやり取りが不得手だったネアは、一刻も早く、この身に余る魔物をどこかに捨ててこようと考えてばかりいた。


まだ魔物らしい酷薄さが顕著であったディノから、人間らしい尊厳や身の安全を守る為に、このようなことをすれば契約解除だと交渉してきたし、それがなくても他の庶民的な魔物に乗り換えられないかと暗躍していたので、ディノはさぞかし困惑しただろう。



あの頃のディノを思うと、何も言わずに一日姿を消したかと思ったら、よれよれのくしゃくしゃになって、南瓜の魔物を捕まえて帰って来た日のことを思い出す。



ネアがハロウィンの話をしたことが嬉しかったそうで、喜ぶだろうかと苦労して南瓜の魔物を狩ってきたのだが、ネアは、その魔物が苦手ですぐさま捨てさせてしまった。

足の沢山ある南瓜の魔物の姿に震え上がったネアの反応を見たディノは、捨てられた子犬のような悲しげな目をしていて、その無防備な困惑の眼差しがどれだけ胸を締め付けたか。



ディノは、目隠しで夜道を歩くような、何とも不自由で稚い、孤独な魔物だった。

魔物の王であるからこそ望まれ、捧げられる体で摩耗され続けていたのがこの魔物だ。


誰かを愛したくて堪らないのに上手くいかず、自分の心を持て余して一人ぼっちでがらんどうのお城に取り残されていたという美しい魔物を見ている内に、ネアは、この魔物が堪らなく愛おしくなった。




(たくさんの事があったと思う…………)



違う心を持つ者同士というだけではなく、そもそも、違う種族の魔物と人間である。

すれ違ったり、ぶつかり合ったことも何度もあった。


今でもお互いの欲求が重ならず、話し合って折り合いをつけることも多い。

そうして昨年末、やっと伴侶になった大事な魔物なのだ。



とは言えやはり、かつてはこの大事な魔物を隙あらばぽいっと手放してしまおうと考えて、公言していた時期があったという事実は消えない。


だから魔物は今でもとても警戒するし、ネアは怯えて荒ぶる魔物に丁寧に説明する。

今回も、汲み取れない寂しさを溜め込ませないようにと、流してしまわずに尋ねてみると、魔物はぽそりと呟いた。




「ずるい……………」

「む。…………またしてもディノの、ずるいが始まりましたね……………」

「ネアがずるい。…………かわいい」

「まぁ、私は今、ずるいことを言いました?」

「だ、…………大好きだと言ってくれただろう?」

「大好きな魔物なので、大好きだと言わざるを得ませんね」

「ずるい………………」



これまでの弊害なのか元々の資質か、この魔物は愛情に纏わる問題にとても儚い。

今はもう伴侶にまでなったのに、それでもまだ、手を繋いだり頬に口付けをしただけで、呆気なくぱたりと倒れてしまう。


ネアは、まったくもうと微笑んで、目元を染めて恥じらう魔物に問いかけた。



「ディノの、ずるいの正式な使用方法は、ずっと行方不明のままなのですね…………?」

「…………ご主人様」



そう呟く声はうっとりする程に美しいが、その言葉の内容にネアは微笑んだまま遠い目をする。

もそもそと差し出されたのは、宝石を紡いだような美しい三つ編みで、こちらにおわす魔物は、この三つ編みをご主人様にリード代わりに引っ張って貰うのが大好きだ。



出会った頃にはこの運用に恐れ慄くばかりであったが、何とか最近は慣れてきたところだ。

多少特殊な趣味があったとしても、この魔物はネアの大事な伴侶である。

これしきの事で手放す訳にはいかないし、まずは、必要な返答が貰えなかった会話のやり直しを図ろう。



(ただ恥じらっているだけならいいのだけれど、意図的に不安を誤魔化していると拗れてしまうもの………)



ここは、ネアが長年暮らした世界ではない。

同じ人間同士でも文化や環境の違いから生まれる認識の摺り合わせが難しくなるのだから、人間ではない生き物の“当たり前”に気付くのは案外難しいものだ。


何しろ、可愛らしいキリンの絵一つで、多くの生き物が滅びてしまう世界である。



「ディノ、私はもう、この蜜を飲んでしまうようなことはしません。大事な魔物がここにいるのに、その魔物への思いを忘れてしまうようなことをするなんて」

「………………雪雫の薔薇の蜜でもかい?」

「………………その言い方はまさか、…………も、もしや、この花蜜はものすごく美味しいのですか………………?」



ここで、愚かな人間は我慢出来ずにそう尋ねてしまい、魔物はびゃっと飛び上がると、食い意地のあまりに危険な蜜をお口にいれかねない伴侶を慌てて抱き上げてしまった。

仕事中にご主人様を持ち上げてはならないと厳しく言い含めるネアに、ディノは艶麗な美貌を曇らせて、頑固な様子で首を横に振る。



「いけないよ。君は我慢出来ないかもしれないだろう?蜜の回収が終わるまでは、こうしておいで」

「……………むぐぐ。ついつい、そんなに素敵な蜜なら、パンケーキにかけてみたいという憧れを押し殺せず、迂闊な質問をしてしまいました……………」

「雪雫の薔薇は、この先も必要なものなのかな…………」

「こらっ、個人の感情で種を絶やしてはなりませんよ!」

「こんな薔薇なんて………………」



魔物は、めそめそしながらも大急ぎで雪雫の薔薇の蜜を集めてしまい、万象を司る魔物が真剣に取り組んだ作業は、あっという間に終わってしまった。

澄んだ水色の雪靄を錬成して作った硝子の瓶の中には、ひたひたと蜜の影が揺れる。

この仕事の依頼時に、上司であるウィーム領主のエーダリアから渡された瓶は、測ったように花蜜の量にぴったりだ。


未だ荒ぶる魔物は、その瓶を魔術でぽいっと依頼主の手元に送りつけてしまい、ネアを嘆息させた。

手元に置いておくと、食いしん坊の伴侶が危険を冒して食べてしまうに違いないと、信じ切っているのである。



「…………ディノ、いきなり執務室にあの瓶が届いてしまったら、エーダリア様もびっくりしてしまうでしょう?」

「あんな薔薇なんて………………」

「では、こうするのはどうでしょう?ディノが今度、以前訪れたお花畑の国のみつみつアイスを食べに連れていってくれるなら、決して雪雫の薔薇の蜜を食べないと約束します」

「本当かい…………?」



交換条件などしなくてもいいのだが、魔物はこうした方が安心する傾向にある。

対価を支払うことで願い事を叶える世界なのだから、このような価値観も世界の流れの一つなのだろう。



「雪雫の花蜜がどれだけ素敵でも、私の人生の中で最高峰のアイスに認定された、あのアイスには及ばない筈です。果物の味わいがとても爽やかで、花蜜がぷちぷちたくさん入っていてお口の中で蕩けるので、堪らない美味しさでしたよね。…………じゅるり」

「それなら、今日でも構わないよ。…………ネア、行きたいところがあるのなら、言えばいつでも連れて行ってあげるのに……………」



少し困ったようにそう言う魔物にとっては、魔術で転移を踏めるので、遠く離れた国のアイス屋さんに行くことくらいは容易いことなのだろう。

けれども、そんな風に魔物をタクシー代わりにしてしまわなくても、ネアは、今暮らしているウィームが世界のどこよりも大好きなのだ。



「一番大好きなウィームに、大事な魔物と暮らしているので、お出かけは時々でいいんです。特別なお出かけも素敵ですが、こうしてディノと一緒に森を歩くのもとても素敵ですからね」

「ネア……………」



澄明な瞳をふるりと揺らして、ディノは、はっとする程に幸せそうな微笑を浮かべた。

そうすると、老獪な魔物らしい凄艶な眼差しはさらりと払拭されてしまい、目をきらきらさせて尻尾をぶんぶんと振っている大型犬のような、無垢な生き物が出来上がる。


仕事を終えたので、さてお家であるウィームの領主館、リーエンベルクに帰ろうということになり、ネアは魔物と手を繋ごうとして手を差し出し、伴侶の手の代わりに三つ編みを押し付けられた。



「解せぬ……………」

「手を繋ぐのは、大胆過ぎるからね…………」

「ディノ、もう私達は伴侶になったのではないでしょうか?」

「それに君は三つ編みが好きだからね」

「解せぬ……………」



悲しい思いで伴侶の三つ編みを引っ張って歩くことになったネアは、ふと、思い出した伝達事項をディノに伝えておくことにした。



「ディノ。…………ディノがもう薬の魔物ではなくなったので、エーダリア様が、本職の薬の魔物さんを採用し、リーエンベルクの権限で動かせる機関を立ち上げようかなと仰っているのですが……」

「…………………虐待」



ネアの伴侶は、当初、異世界で寄る辺ないネアが万象の魔物を召喚してしまったとも言えず、歌乞いが契約する魔物の中では、階位は低いものの汎用性の高い、薬の魔物として申請してあった。


けれども、ネア達が伴侶になるにあたり、かつて不幸な顛末を迎えた別の歌乞いの“薬の魔物”と魔術的な結びが出来てしまい、過去の事例と同じ運命を繰り返すことが懸念され、薬の魔物運用は撤廃される運びになった。


その結果、やはり万象だと明記する不都合を避け、あらためて“無銘の魔物”としてディノを再雇用し、同時に“薬の魔物”としては解雇するという魔術的な手続きを行ったのだが、ディノは、薬の魔物という肩書に、未だになみなみならぬ執着があるらしい。



ネアが虐待すると呟きへなへなと蹲ってしまった伴侶に、無力な人間は大きな試練に直面することになった。



現在の時刻は、おおよそ午後の二時半を過ぎたくらいだろうか。

ここからリーエンベルクまでは転移なら一瞬だが、くしゃくしゃになった魔物は転移が出来ないかも知れず、雪深い森の中を歩いてゆくとなると充分に半刻はかかるに違いない。



(ど、どうしよう……………)



三時半までにリーエンベルクに帰らなければ、焼きたてのふかふかパンケーキという至高のおやつが失われてしまう。

勿論、魔術保存で温かいまま残しておいてはくれるだろうが、強欲な人間は、焼き立てでみんなに一斉にふるまわれるあの歓喜の瞬間に立ち会いたいのだ。




「か、帰ってから話しましょう!」

「…………………パンケーキなんて……………」

「むぐ、パンケーキを優先している訳ではありませんよ?悩ましい問題なので、帰ってゆっくり話せば、エーダリア様も知恵を貸してくれるかもしれませんからね」

「ネアが虐待する……………」

「ささ、まずはお家に帰りましょうね!それに、ディノには新しい肩書きがあるではありませんか!」



美しい冬の森を歩きながら帰る筈が、俄かに、力作業が発生してしまった。

とはいえほかほかパンケーキの為であれば、死闘も吝かではない。

ネアは、めそめそする魔物をなんとか宥めつつ、たいへんな苦労の上でリーエンベルクに戻ったのだった。













皆さんに応援いただき、薬の魔物の解雇理由の後継のお話を開始させていただきました。

更新は不定期になってしまいますが、これからも、どうぞ宜しくお願いいたします。

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