調査開始②
昼休みになりいつものように圭吾が俺の席へやってきた。
ただし、いつもとは様子が違った。
「直哉!学食行こうず」
ニヤニヤと何やら企みを含んでいるような笑みを浮かべている。
ちなみに俺も圭吾もいつも弁当族なため学食には滅多に行かない。
「何企んでいやがるんだ?」
そう訝しげに見ながら尋ねてみると圭吾少し小声で言った。
「青井達なんだがな、いつも学食に行ってるんだよ」
なるほどそういう事か。
「それなら学食行ってみるか…まぁどうせ……」
学食に着くと案の定席がすごく混雑していた。
おいおいこれじゃあ教室よりうるさいから青井達の会話とか一切聞こえない。
観察はできるけれどもこれでは何も聞き取れない…
「こんな事だろうと思ったんだよな」
座れない事もないが当初の目的としてはわざわざ学食まで来て弁当を食べる意味は無い。
「まぁでもほら、青井達の周りはそこそこ余裕がありそうだぞ」
……えっ?うわっマジだ…
何故か青井達の周りは自然と人がいない異質空間が広がっている。
確かに青井を囲むようにして形成されているハーレム空間は近づいてはいけないような雰囲気がある。
…って俺らもあの辺居づらいんだけど。
「あんな所に座りたくないんだけど…」
俺は圭吾に物申した。
「俺もその点に関しては同意だ…しかし敵地へ赴かねば情報は得られないというものだ…行くぞ直哉!」
いやいや、敵地って別に敵視してる訳じゃないんだけどね!羨ましくなんかないんだからねっ!
それにリスクを侵す割には得られる情報とか少ない気がするし…
そんな俺の意思とは無関係に圭吾は青井達のいる方向へ意気揚々と歩き出した…が………
「何か……段々酸素が薄くなっているような気がする……」
いや山かよここは!?
突如として息が上がり始めた圭吾。
「くっ……これ以上は…精神が持たねぇ……」
酸素関係ないじゃん!!
…しかし精神が持たないという事に対しては共感が持てた。
青井を囲みキャッキャウフフしている4人の美少女達…
近くにつれ異質な物をただ見ていた感情から、嫉妬、憎悪のようなとても良からぬ感情が生まれてしまいそうな気持ちの変化がじわじわ俺の心を侵食していく…
「フフフ……へへッ…直哉ァ……俺はこの辺りが限界のようだぁ……」
「け、圭吾!?ダメだ!!ダークサイドに堕ちてはいけない!!」
圭吾の肩を揺さぶり正気に戻そうとした。
何このノリ……
「もうだいぶ近い所まで来たしこの辺でいんじゃね?」
「お、おう……」
かくして俺達はそこそこ青井達の近くに陣取った。
しかしやはり青井達の会話は聞き取れる程聞こえてくる訳ではなかった。
あいつらの周りは何か結界でも張ってあるのか?
その点に関してもう諦めたのか圭吾が話し掛けてくる。
「直哉はさぁ、ファミレスに入ろうと思ったらそこそこ客のいるファミレスと客が一人もいないファミレスどっちに入る?」
「え?は??……まぁそうだな、俺は静かな方が良いし誰もいない方かな」
正直今の学食ですら早く出たい気分だ。
「そうだな、直哉ならそう答えるだろうけどな…大体の人は誰一人利用していないファミレスとか入る気が起きないもんなんだよ。営業してるかも怪しいし、人が入ってないって事は何か理由があるんじゃないかとか考えるわけ」
それもそうかもしれんが…
「待て、何故今その質問を俺にした?」
圭吾はジト目がちにこう呟いた。
「ほら、だから女が周りにいる青井にはさらに女が群がる訳だよ。あれは人の心理に基づいて集まっているのさ。仕方の無い現象なんだよ」
圭吾はどうやら思考回路変える事によって現実逃避しているようだ…
現実逃避中の圭吾はほっといて少し観察してみる。
最初こそ全員青井を中心に戯れていたようだが、次第に一人だけ輪の中から外れていってる。
2時限目の休み時間に教室にいなかった皆川だ。
現在青井を含め5人のグループとなっているが一番外れの席にちょこんと座り青井の方をチラチラ見ながらギュッと口を結んでいる。
他の女子はといえば花開院お嬢様は何やら縦ロールをピンピン弄りながら、上から目線で喋るような姿勢で青井に話し掛けている。
なんだろう…あの動きだけでわかるテンプレお嬢様感は…
川原は無邪気な笑顔で他の女子にも話題を振っていたりするが、皆川はその振りにも相槌ぐらいしかできていない。
長宮は相変わらず腕を組み横柄な態度を取りつつその大きな胸を強調させ風紀を乱している。
たまに青井から何かを言われ頰を少し赤らめながらフンッという声を漏らしながら首を横に振り向くと同時に胸が揺れている。
何あれわざとやってんの?見せ付けてんの?
ともあれ皆川以外ではそれなりに楽しそうな時間を繰り広げているようだ。
次第に下向きがちになって来たなと思ったら、何かを他のメンバーに告げ皆川だけ立ち去っていった。
あらあら、しびれを切らしちゃったかぁ〜…何て観察しながら思っているとふとある事に気が付いた。
その立ち去った皆川の姿を名残惜しそうに青井が目で追っていたのだ。
ほぉ、なるほど。
青井の本命は皆川か。
そしてもう一つ。
川原も気が付いている。
名残惜しそうに目で追っている青井を何処か悲しげな笑みを浮かべながら見ていた。
その事に気付いてしまったら、確かに心境は複雑になるだろう。
しかし俺はただの傍観者である。
いや、なんて面白そうな事になっているんだとさらに好奇心が湧いた。
俺はこの思惑が交錯している事に気が付いた事を圭吾には敢えて言わなかった。
昼休みがこうして過ぎていく。
俺はこの人間関係図を見守る事にしようと思った。