5話:優しいあなたが好き
レイシスと組むことにした俺たちは、冒険者ギルドでパーティー用の仕事を請け負うことになった。
「あ、フランさんとレイシスさんが組まれるんですか」
「一時的に、だがな」
冒険者ギルドのカウンター越しに、ドーラがびっくりしたように目を丸くするので、俺ははにかんで答える。
「へえー、いいですね。最強のタッグだと思います」
「ドーラもそう思うよな? 俺も前からフランと組みたかったんだよ」
こういうところをサラッと言えるのが、この男の長所でもある。
「じゃあ、パーティー用の仕事を斡旋できますね。
商隊の護衛なんですけど、本当は『5人以上の護衛が望ましい』って話なんですが、まぁうちが誇るエース冒険者2人のパーティーですので、実績を楯に2人でもなんとかゴリ推します。
それに、ローレライさんもいますしね」
いいのか、それ。
思わず俺とレイシスは顔を見合わせて、苦笑する。
「で、仕事の詳細は?」
俺が尋ねる。
「はい。王都の西にあるテレジア街道を通って、衛星都市を経由して商隊が王都へたどり着きます。
フランさんたちは、その衛星都市の冒険者ギルドにて商隊の護衛を引き継ぎ、王都までの護衛してくること、ですね」
「なぜ護衛を引き継ぐか、伺ってもいいか?」
俺の疑問に、受付嬢のドーラは「はい」と答えた。
「なんでも、王都までの護衛を担当していたパーティーが、途中で足を痛めてしまったようです。それで、その衛星都市で足止めを食らっているとか」
「分かった。どの都市で引き継げばいいんだ」
「スタイン城塞都市です。王都からおよそ、120キロ西にある都市です」
「ふむ……」
俺とレイシスは顔を見合わせて、日程を計算する。
「フラン、1日でお前どれぐらい足で稼げる?」
「ローレライの力を全力で使って走って、80キロというところか。無理なく街道を踏破するなら、1日40キロ程度だな」
俺の言葉に、レイシスはもっともだ、と頷く。
「無理なく行けば、俺も40キロぐらいだろう。およそ3日だな。それぐらいの距離だと、だいたい徒歩の旅人や行商人が泊まる道の宿もある間隔だし、3日で行って、1日城塞都市で休み、もう3日で王都に帰ってくる。護衛の計画は、こんなところか」
Aランクパーティーのリーダーらしく、レイシスは瞬時に精緻な計画を立ててみせた。
「ドーラ、護衛の引き継ぎはいつ行えばいいんだ?」
「できれば早いほうが」
俺とレイシスは揃って首肯する。
「了解した。ならフラン、ローレライ。早速準備を整えて出発しよう」
「分かった。ローレライ、旅程に必要なものを買い出しに行くか」
「あいよー」
そうして俺たちは、商隊の護衛引き継ぎを行うために、王都を出発することになった。
◇
旅に必要な物を揃え、背嚢に詰め込み、いざ王都を出発。
俺とローレライとレイシスの3人は、スタイン城塞都市を目指し、テレジア街道を並んで歩いて行く。
ぽかぽかとした太陽の日差しが心地よかった。
「ねー、フラン」
「ん?」
俺の隣を歩くローレライが、甘えたような声音をとった。
「スタイン城塞都市って、なにか美味しいものあるかな?」
「王都の重要な衛星都市だからあることはあるだろうが、観光に行くわけじゃないから食う時間があるかは謎だな……」
「えー、残念」
「もし何か目ぼしいものがあれば、今度俺が一人で旅行に行った時に買っておいてやるよ」
「えっ、なんで一人で行くの!? 私も連れてってよ!」
「いや。一人のほうが気楽かなと思って。ローレライいると、色んな寄り道するし」
「ぶー! フランって、たまに意地悪だよね」
「違いない」
俺は苦笑する。
「おまけにお金もあんまり持ってないし、甲斐性もないから女の子にモテないし、ボロい家に借りてるし」
「そんな俺のことが嫌いになったか?」
「大嫌いだよ。だって、私がフランの事をどれだけ大事に思ってるか、フランはまったく分かってないもん。
だから、大嫌い。…………でも、なんだかんだで優しいから、やっぱり大好き」
そう言って、ローレライはえへへと笑った。
「照れるな」
「私も、言ってて恥ずかしかった」
俺たちは顔を見つめ合って、恥ずかしそうにはにかむ。
「あー……お2人さん? イチャイチャしてる最中悪いんだが、このパーティーには俺もいることを、忘れないでくれな?」
と、今まで俺たちに放置されていた、レイシスが言った。
「あぁ、悪い。ローレライと話が弾んでた」
「いや、いいんだけどよ……なんつーか、お前らって、本当にお互いがいればそれで良いって感じだよな」
レイシスの言葉に、ローレライはふふんと鼻を高くする。
「それはそうだよ。私が人間で信頼しているのは、フランだけだもん」
「まぁ、あんな事件が起これば、それも無理はないか……」
10年前に起こった事件を思い返すように、レイシスは言った。
「ま、とにかく先を急ごう。駄弁りながらでも、足は動かさないとまずい」
「はーい」
「分かってるよ、フラン」
俺が言うと、2人とも明快に返事をした。