【短編】新説 赤ずきんちゃん
2005年にミクシィで書いた赤ずきんのパロディーをちょっと変えて再掲。
性格の悪い赤ずきんちゃんの物語。
猟師は出てきませんが、概ね昔話通り。赤ずきんちゃんの中身以外は。
「かわいい赤ずきんちゃん、お婆様のところにお遣いに行ってくれるかしら」
とある昼下がり。赤ずきんちゃんはお母さんからお使いを頼まれました。
「ええ、わかったわ。お母さん。支度するから待っててね」
赤ずきんちゃんは自分の部屋に行って、支度を始めます。
「ったくもー、やってらんねぇよな。自分で行きゃあいいのに、ムカつくなぁ。大体、あのババァは私も苦手なんだよな。おまけに勘がいいときてやがる。うちのバカ親とは違って私のこと勘付きはじめてるしなぁ、やべぇなぁ」
森に行くからにはUVカットは必需品です。
お化粧も念入りに。コテも入念に。
でも、ばっちりフルメイクに巻き髪、なんて知れたら「何も知らない赤ずきんちゃん」のイメージが壊れてしまいますから、頭巾は目深にかぶります。
帰りにはデートが入るかもしれませんから、セクシーなベアトップとミニスカートの上からいつもの外出着を重ね着。
フラットシューズは最近可愛いものが多いので助かるわ、と赤ずきんちゃんは思います。
デートの時には外出着を脱いで、どこかに預ければ済む話。
グチを言いながらも慣れた手つきで支度をして、お母さんの前に行きます。
「はい、これよ。お婆様に届けてね」
渡されたカゴには、美味しそうなワイン、焼きたてのパン、チーズやハム、果物が入っていました。
お婆様は資産家でもあるのです。
遺産をがっちりもらおうともくろんでいるお母さんは、お見舞いの品に相当張り込んだみたいです。高級食材が山のようにありました。
思わず、その重みに「宅配便じゃだめ?」と聞きそうになりましたが、その言葉を飲み込んで
「わかったわ、お母さん」
と続けました。
そして、赤ずきんちゃんは家を出発したのです。
出る時にお母さんが言った言葉。
「決して狼には近づいてはいけません」
しかし、森を歩いていくうちに通る大きな花畑に狼がいました。
「おおーい、そこのイカしたお姉ちゃん、俺と遊ばない?」
狼が赤ずきんちゃんに声をかけます。
「貧乏人には興味ないから。てか、声のかけ方ふるっ。キモいから寄るなよ」
と口にでかかりましたが、そこはこらえて笑顔で話します。
「ごめんなさい、お母様に寄り道をしてはいけませんって言われてるの」
「へぇ、こんなにきれいな花がたくさん咲いているのに?」
全部雑草じゃねぇか。私はそんなに安い女じゃないんだよ、この畜生が。
あふれ出しそうになる言葉をとめて、赤ずきんちゃんは考えました。
まぁ・・・なぁ・・・急いでババァんとこ行ってもいる時間が長くなるだけだし・・・花でも摘んだって言ってだませばいいか。
何よりここに狼がいる。
こいつに脅されて、こわくなってかごを落としたとか言えば、まぁ面目はつくわね。ここで休憩して、飲み食いしたらいいか。
もっともそんな風に狼のことを言ったら、こいつは後で撃ち殺されるかもしれないけど、私になれなれしく話しかけてきたのに相手してやったんだから、十分な報酬よね。
「そうね、きれいなお花だもの、せっかくだから、お婆様にもお届けしたいわね」
「そうか、おばあちゃん、きっと喜ぶぜ。そうだ、心配するといけないから、俺が伝えておいてやるよ」
マジかよ、うぜぇよ、てめぇのせいにすんだから余計な気ぃまわすんじゃねぇよ、と言いかけたところをこらえて
「そうね、でも、お婆様、咳がひどいらしいから、あなたみたいに毛深い方が行くと、ちょっと大変だと思うの。だから、お気持ちだけいただきますね」
と返しておいた。
「そうか、それじゃぁ仕方ないな。じゃあ、がんばって花を摘むんだよ」
狼はそういってそこから立ち去っていった。
「さて・・・と」
ワインをあける。チーズとハムをほおばる。
「かーっ、うめぇ。こんなにいいのを隠し持ってたのかよ。どうせ病気なんだから、鼻詰まって味なんかわかんねぇっつーの。あいつなんかにやらずに私に出しゃあいいんだよなぁ」
ある程度、飲み食いしてお腹も満たされた頃。
赤ずきんちゃんはあることをひらめいた。
「狼ってのは人間を襲う。私がさっき見たのは狼。ババァの家に狼が行って、狼があのババァを殺したとしても何の不思議もない。周りには誰もいない・・・勘付きかけてるババァを消しちまえば、私の猫かぶり人生も安泰だ・・・遺産もがっちり入ってくるし・・・いっそ、殺っちまえばいいんだよな、あのババァ」
むくり、と起きると花を申し訳程度に摘み始めた。
「手向けの花くらい必要だよな」
そして、おばあさんの家に向かって歩き始めた。
ところかわって、おばあさんの家。
おばあさんはどうも朝から胸騒ぎがしていた。
何かとてつもない恐怖が忍び寄っているような気がしていた。
眠っていてはいけない。
そんな恐怖にかりたてられるように家を出て、近くに身を潜めていました。
あまりの不安に、家の鍵を閉めることさえ忘れてしまったのです。
狼はおばあさんの家を訪ねてきました。
「ち、留守か・・・しかし、こいつぁ都合がいい。あの赤ずきんちゃんを中で待たせてもらうとするか。ベッドもあるな、ひひひ。近づいたところを襲ってやるぜ」
そういうと狼はおばあさんの服を着込み、布団をかぶってしまいました。
しばらくして、赤ずきんちゃんがおばあさんの家に着きました。
「お婆様。お婆様」
「ああ。赤ずきんや、お前、大丈夫かい?」
「はい、お婆様・・・随分とひどいお声ですのね」
「ああ・・・咳でね・・・ちょっと起き上がれないんだよ」
「少し待っていてください。温かいものを作りますから」
赤ずきんちゃんは、大きな鍋で湯を沸かし始めました。
大きな大きな鍋。
おばあさんの家のかまどはたいそう立派で、割と速く、湯がぐらぐらと煮え立ちました。
「ねえ、お婆様?」
「なんだい、赤ずきん」
「そのままお聞きになって。体を起こすのは大変だから、そちらまでお持ちするわ。鍋ごと。ちょっと、まっててくださいね」
ベッドの高さと同じくらいの高さのワゴンに鍋を乗せて運ぶ赤ずきん。ぐらぐらと煮え立った湯をベッドまで移動させました。
「ああ、赤ずきん・・・大丈夫かい?」
「大丈夫よ、お婆様」
狼は、赤ずきんちゃんが安心しきってベッドに来るのを待っていた。
それが命取りだった。
「お婆様」
「なんだい、赤ずきん?」
「たっぷり、召し上がってね」
ぐらぐらと煮立った湯が狼の顔面を襲った。
ぎぃやぁああぁああぁああああぁあああああぁあああああ
身も世もない叫び声が、咆哮があたりを揺るがした。
「ババァじゃ、ない!?」
食べるために狼がおばあさんを煮たことにしようと、熱湯でおばあさんを殺害した後、同じ鍋で煮込む「かちかち山作戦」をとった赤ずきん。しかしそこにいたのは狼。
のた打ち回る狼を目にした赤ずきんは、とっさに近くにあった鉈をとりに走った。
そして、息も絶え絶えな狼に薄笑いを浮かべながらこう言った。
「運が悪かったな。さよなら」
大きく鉈を振りかぶって、めった斬りにする。
抵抗できない哀れな狼は、そのまま息絶えた。
「さて、と」
赤ずきんは、恐怖に押しつぶされそう、という演技をしながらおばあさんの家から出ました。
「お婆様!お婆様!!お婆様!!!」
大声で赤ずきんはおばあさんを呼んだのです。
おばあさんはさきほどの悲鳴で、何事かと思っていたところに赤ずきんが出てきたので、動揺して赤ずきんに駆け寄りました。
「い・・・いったい何があったんだい?」
「狼が・・・狼が・・・私を殺そうとしたんですけど、何とか防いで・・・逆に退治して・・・でも・・・私・・・お婆様に何かあったらって思うと・・・っ」
そう言って、泣きながらおばあさんに抱きついた。
「お婆様が無事で本当に良かった!」
もちろん、嘘泣きですが、残念なことにおばあさんは勘は良かったが目は悪かったのです。
「赤ずきんや・・・お前・・・本当に優しくて、勇気のある・・・ああ、私はお前のような孫を持って幸せだよ!」
おばあさんは感極まって赤ずきんを抱きしめました。
赤ずきんちゃんはそれを笑顔で受け入れました。
しかし、その笑顔が本当に意味するところはおばあさんには一生解けない、そして解かない方がいい謎として残ることになったのです。
小説書くには筆力が足りないので、当時書いていたのはこれくらいかなぁ。