表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

3つの、くりすますぷれぜんと。

 12がつ24か。そのひ、しょうがっこう6ねんせいの、せんと・くらいすとちゃんは、ごきげんななめでした。


 せんとちゃんにとって、まいとしのくりすますは、おとうさんおかあさん、そして、さんたさんからぷれぜんとをもらえる、すばらしいひなのでした。ですが、ことしは、ちがいます。


 おかあさんは、そのこのためにつきっきりですし、おとうさんだって、てんやわんやのおおさわぎです。


 そうです。くらいすとけには、あたらしいかぞくがやってきたのです。


 おかあさんのおなかのなかにいたこが、うまれいでたのが、10がつ。それまで、そしてそれから、おとうさんとまいにちびょういんにかよっていたころは、たのしかったせんとです。あかちゃん、というものがなにか、まだよくしりませんでした。いもうとだとは、きいていました。ですが、あかんぼうといういきものは、ちっともわかりません。せんとは、いもうとといっしょに、おにんぎょうあそびをしようとおもっていたのです。


 ですが、うまれてきたいもうとは、まだおにんぎょうであそべませんでした。それは、そうです。あかちゃんなのですから。でも、せんとには、つまりません。ただでさえ、おかあさんとあそぶじかんがすくなくなってしまったのです。おとうさんは、あいてをしてくれますが、おにんぎょうをうまくあやつってくれないので、やはりあいてにとって、ふそくです。


 しょうがっこうの、しゅうぎょうしきをおえ、ふだんならまっすぐいえにかえるせんと。でも、きょうは、すこしみちをかえます。どうせ、いえにかえったって、おもしろくないんですもの。


 じたくふきんにとうちゃくしたつうがくばすからおりると、いえのほうこうではなく、きんじょのこうえんにむかいました。ここらへんには、ちゅうがっこうのおにいさんおねえさんしか、いません。どうきゅうせいにみとがめられるしんぱいは、ありません。


 こうえんでは、きんじょのおばさんが、ちいさなこどもといっしょにあそんでいました。たしか、5さいだったはずです。このあいだ、そうききました。


 あれぐらい、おおきかったらな。もう、あのこはおにんぎょうであそべるのかな。せんとは、おばさんとすなあそびをしているこを、ちらりとながめて、ためいきをつきました。


 なんで、うちのいもうとは、ちいさいんだろう。あかちゃんって、なんて、ふべんなんだろう。


 そういうせんとじしん、かつては、あかちゃんでしたけれど。だれもが、じぶんのことはたなにあげてしまうものですね。


 そろそろ、かえらねばなりません。こどもけーたいが、ゆうがたをしらせてくれます。これは、4ねんせいになったとき、おかあさんといっしょにえらんだものです。かっこいいあおいろで、せんとはひとめぼれしたのでした。らいねんは、せんともちゅうがくせい。あたらしいのを、かってもらうよていです。そのときは、いもうともいっしょなのでしょうか。


 ちょっと、したをむきつつ。せんとは、わがやにかえりつきました。きっと、おかあさんは、あかちゃんにつきっきりです。おとうさんがかえってくるまでには、まだじかんがあります。しかたありません。へやで、べんきょうでもしましょう。かっこいいけーたいをかってもらうためにも、せいせきはあげておかなければならないのです。


「おかえり、せんと」


 やっぱりです。おかあさんのこえが、あかちゃんのへや、つまりりょうしんのへやからきこえてきました。あかちゃんは、べびーべっどで、ねむっているのでしょうか。


 てをあらって、らんどせるをおいて、べんきょうをはじめます。せっかくもらったじぶんのへやですが、いまはちょっと、さみしいものです。


「あらあら、おねえさんになったら、まえよりもがんばりやさんになっちゃって」


 おかあさんが、みにきました。せんとは、それなりによいせいせきですが、それもおかあさんがみてくれるからです。おかあさんのおしえかたは、とってもていねいなので、なんだかわからないうちに、わかるようになっています。


 ばんごはんまで、おかあさんといっしょでした。そうしているうち、おとうさんもかえってきて、みんなでばんごはん。あたたかいわがや、というものです。たった1てん。あかちゃんをのぞけば。


 こんなことをかんがえるのは、わるいことです。もしかしたら、さんたさんはきてくれないかもしれません。でも、いいんです。さんたさんがほんとうにきたって、きっと、このもやもやをかいけつしてくれません。だから、わるいこでも、いいんです。


 はみがきをして、べっどにはいります。まくらもとには、くつした。わるいこでも、もしかしたら、さんたさんがぷれぜんとをおっことしていくかもしれませんしね。なかなか、ちゃっかりしたせんとでした。


 あかちゃんは、なにがもらえるのでしょう。おにんぎょうでは、まだあそべないのです。


 そういえば。じぶんが、あかんぼうのころは、どうしてすごしていたのでしょうか。なんとなく、じぶんのことをかんがえました。もちろん、きおくはありません。いちばんまえのきおくでも、ほいくえんのころのものです。あんなにちいさなとき、なにをおもったかなんて、ちっともわかりません。


 いもうとも、そうなのでしょうか。あのこも、まだ、なにもわからないまま、ああやって、ないたりわらったりしているのでしょうか。


 なんだか、むずかしいかんがえになってしまいました。こんなことをおもっていると、きまってわるいゆめをみてしまうせんとです。こんなときには、すきなきゃらくたーをかんがえるにかぎります。


 せんとのおきにいり、でぃあぼりかる・あるてぃめいと・いりーがるちゃん。にっくねーむは、あるちゃん。まほうのくにのおひめさまです。じつは、こっそりせんとも、あこがれていました。じゆうにまほうをつかえたなら、どんなにきもちがいいでしょうか。もちろん。もう、6ねんせいのせんとは、わかっています。まほうなんて、ありません。あったとして、それは、せんとのにちじょうには、おこったことがありません。


 いいんです。ゆめのなかなら、じぶんはなんでもできるのですから。


 そして、せんとはゆめをみます。このごろ、とんとみなかったような、ながいゆめを。




 ああ。わかります。これは、ゆめ。ふわふわした、あしがちにつかない、あのかんかく。


 そのしょうこに、せんとは、ぱじゃまではありません。ふだんぎ、でもない、これは。


 たびしょうぞく。せんとは、そのよびなをしりません。ですが、まえになにかのあにめでみたことがあります。こんかいは、ふぁんたじーのゆめでしょうか。


 まあ、なんでもいいです。さめるまで、たのしみましょう。


 ところで。ここは、どこなのでしょうか。ゆめのなかで、せんとはいろんなところへいきました。がっこうだったり、べっどでねむったままだったり。ですが、このようなばしょは、みたことがありません。


 なんとなく、おずのまほうつかいをおもいだしたせんとです。あのばんぐみは、よくしゅくじつなどに、てれびでながれているので、なんかいかみたことがあります。


 なぜ、あれをおもいだしたのか。


 ここが、みしらぬせかいだったからです。


 ざあざあ。ざぶりざぶり。


 おおあめです。それだけなら、せんとのすむちいきでも、にちじょうです。ですが、このてんのそこがぬけたようなあめは。しかも、まわりのちけいがまた、ちんみょうこのうえありません。


 やしのき。いわゆる、なんごくでしょうか。なぜか、せんとはうみべをあるいています。かいがら、きれいないし、くじら。いろいろなものが、うちあげられたすなはま。ゆめなので、あしはぜんぜんいたくありません。それに、ものすごいどしゃぶりだというのに、じぶんがどこをあるいているのか、かんぺきにわかります。ふつう、このようなあめは、すうめーとるさきすらみえないものなのですが。まわりのけしきが、てにとるようにわかるのです。ここらへんは、やはりゆめなのでしょうね。ちっともげんじつてきではありません。


 さて。ゆめだとわかったところで、なんですが。どうすれば、さめるのでしょう。これが、はれのひであれば、とこなつなんごくむーどで、かいすいよくとしゃれこんでもよいのですが。このあめでは、ちょっと。あらしのうみで、そうなんしてるみたいで、まるでえいがのようで、ちょっとたのしそうですが。いまは、そういうきぶんではありません。


 おや。


 さきほどいったとおり、せんとは、まわりがよくみえます。ふと、うみをながめてみると、ほんとうにあらしのなんぱせんがみえました。ものすごいかくどで、ういたり、しずんだり。あのなかのふなのりたちは、きっとうおうさおうしていることでしょう。えいがじゃない、ほんもののあれくるううみのふね。といっても、ゆめですが。


 それはともかく。はくりょくまんてんのそのこうけいにみいっていると、せんいんが、おっこちたようにみえました。あらしのうみにおちたなら、たすかりません。ろびんそん・くるーそーがゆうめいなのは、いきのこれためずらしいひとだからです。おおぜいのたすからなかったひとたちは、ものがたりにすらならないのです。そして、あのひとも、そうなるのでしょう。


 ここが、ゆめのなかでなければ。せんとは、とっさにせんいんがおちたばしょまで、はしりだしました。おもったとおり、あしはうみにしずむことなく、かいめんをはしることにせいこうしました。なぜって、すなはまをあるいているのに、あしにはちっとも、じゃりがからまりませんからね。これで、かいすいだけは、えいきょうがあるなんて、さぎってものです。


 そして、せんとは、みごとおぼれているひとをたすけることにせいこうしました。といっても、ひっぱりあげるのは、かんたんでした。みずをすっておもくなったいふくをきこんだ、せいじんだんせいをきゅうじょしたのですが。やはり、ゆめって、すごいものです。


 みずをのんでしまったようですが、こきゅうはしっかりしています。しょうじき、せんとのはいかつりょうでは、あるいはわんりょくでは、じんこうこきゅうも、きゅうめいそちも、おぼつかなかったでしょう。たとえ、ゆめであろうと、せんとじしんは、かわっていないようですからね。


 それはともかく、たすけたおとこのひとが、おちついてきたようです。


「おお・・・・。おじょうさんが、たすけてくれたのかい。い、や。あんたは、てんしさまだね。まちがいなく、あんたは、とんでいた。あなたさまは、はねこそおもちでないが、きっといだいなかた。それがしょうこに、このあらしのなかで、ぬれてもいなさらない」


 おとこのめは、どうけいで、いっぱいになっておりました。いのちをたすけられた、おんじん。それも、あらしのうみを、とんできた。なにか、いだいなものに、じぶんはすくっていただいたのだ。そう、おもえました。


 けれど、せんとにとっては、たんなるきまぐれにすぎません。そもそも、ここはせんとのゆめのせかいです。なにをしてもいいし、なにもしなくたっていいんです。ですから、せんとは、こういいました。


「こまったときは、おたがいさまです。それよりおじさんは、ふねにもどれるんですか」


 そうです。たすけたはいいものの、あのふねは、いまもがんばって、はしっているのです。おじさんは、さて、どうするのでしょうか。


「おれは、まちまでもどって、べつのふねにのりまさあ。これでも、ふなのりとしてのうでは、たしかなんで。しごとにこまりはしませんぜ」


 おじさんは、いたくかんしゃしつつ、おおあめのなかを、ひっしであるいていきました。


 さあ、またやることのなくなったせんとです。これから、どうしましょう。おじさんのいっていたみなとまちにいってもいいですし、あのなんぱせんをおいかけても、おもしろそうです。


 ですが、そのどちらでもなく、せんとは、てんにのぼりました。せっかく、いろいろなぶつりをむしして、あるけるのです。ふだんなら、ぜったいにできないことをやりたいものです。


 そして、せんとは、くうちゅうをあるきはじめました。かいだんをのぼるように、そういしきしたなら、ほんとうにのぼれました。みえないだんを、とつとつとあるいてゆきます。あしのうらには、へんなかんしょくがのこります。


 ふしぎです。くうをあるいていながら、いまさらなおもいですが、ほんとうにふしぎなのですから、しかたありません。


 せんとは、いま、ななめになっています。そらのうえをめざして、ずんずんかいだんをのぼっているのですが、そのかくどが、ふかしぎです。からだが、ほぼまうえをむいているようなのです。これがゆめでなければ、あたまから、おちてしまっているでしょう。


 そして、ついにせんとは、まよこのたいせい、つまり、まうえにまっすぐあるきはじめました。なんとも、めずらしいこうけいです。まるで、じゃっくとまめのきのせかいですね。


 ほんらい、ちきゅうのそらのうえまで、とほでは、かなりのじかんがかかります。ふじさんのうえだって、3ぜんめーとるはあるんですからね。そこからさらにのぼるとなれば、なんじかんもたってしまいます。


 だから、せんとは、わーぷしました。いきなり、えすえふちっくですが、もんだいありません。そもそも、ゆめのなかで、じはつてきにこうどうしつづけているこのげんじょう、すでにじゅうぶん、ふぁんたじっくです。いまさら、ふぃくしょんのしゅるいがふえようと、なにももんだいありませんよね。


 そんなことより、とうちゃくです。おおあれのなかを、のぼったかいがありました。


 くものうえ、そらのせかいには、あらしはありません。ただ、じぇっときりゅうが、ごうごううなりをあげ、やばいぐらいのちょくしゃにっこうに、てらされます。


「こんにちわ、おじょうさん」


 そんなばしょで、はなしかけてくるものがおりました。まちがっても、にんげんではないでしょう。では、いったい、なにもの。


「こんにちわ、おじさん」


 それはそれとして、まずはあいさつです。


「おじさんはなぜ、つばさがはえているの」


 そうです。このひとには、とりのつばさがはえておりました。もしや、このひとこそが、ほんもののてんしなのでしょうか。


「おじさんはね、つばさがはえているんじゃ、ないんだよ。これは、がんばってつくったのさ」


 おじさんは、おにいさんとよんでほしかったな、そうおもいながらも、かんようなこころをもって、こころやさしくおじょうさんにせっしていました。


 つくった。まさか、いかろす。せんとも、がっこうでうたったことがあります。そういえば、なんだか、せいようっぽいかおだち。


「もしかして、おじさんは、いかろすさん」


 たんとうちょくにゅうに、きいてみました。


「なぜ、ぼくのなをしっているんだい」


 まさか、こんなしょうじょが、おって。いかろすは、ろうやからだっそうしたにんげんです。こんなてんくうで、よもやのてんかいです。だって、じぶんのなまえをしっている、まったくのむかんけいのにんげんなんて、ありえません。


「なぜって、あなたのなまえは、ものすごくゆうめいなんですもの。ぎりしゃの、いかろすさんよね」


「ゆうめい」


 いかろすも、とおくはなれたいこくで、じぶんのうたがうたわれているとは、ゆめにもおもっていません。しかし、じぶんにろーぷをまきつけたりしないこのおんなのこは、どうやら、おってではないようです。


 それはともかく。


 せんとは、いかろすの、このさきもしっています。このようこうにやかれて、おちる。それが、いかろすのさだめ。


 ここが、せんとのゆめのなかでなければ。


「いかろすさんは、これから、どこにいくんですか」


「うむ。とりあえず、どこか、すむところをさがしている」


「なら、あちらに、みなとまちがありますよ」


 あの、せんいんさんがむかったほうこうをゆびさします。しかし、げかいは、あらし。こんなつばさでは、ついらくしてしまうでしょう。ですから、せんとがつれていってあげることになりました。


 こんなこどもにたよるのは、ほんいではありませんが、さすがにあれもようのてんきは、こわいものです。それに、めのまえのしょうじょは、なぜか、つばさもないのに、とんでいます。なにものか、かんがえてはいけないあいてなのでは。いかろすは、なんとなく、そうおもいました。


 このかんがえは、おりるときに、よりふかまりました。


 せんとは、ただ、おちるいめーじをしたのです。あのみなとまちのまうえに、どこかのいえのやねに、ぴたりと。そして、せんとと、せんとにつかまれたいかろすは、はやぶさをこえるそくどで、きゅうこうかしていきました。


 いかろすのつばさが、ばらばらにちぎれとんでいくのが、なんだかうつくしくって、せんとは、さらなるすぴーどをおもいました。いかろすは、ないていたということです。


 そして、あらしのまちにとうちゃくしました。どのいえも、よろいどをしめ、いかろすをおいてくれるばしょは、なさそうです。ということで、ふなつきばにいきます。あのなんぱせんが、そろそろとうちゃくしているところでしょうか。そのふなのりたちにまぎれて、いかろすもやどやにありつこうというかんがえです。


「じゃ、ありがとう」


 かなり、かんそなあいさつでしたが、いかろすは、いっこくもはやくこのしょうじょと、おわかれしたかったのです。それだけ、さきほどのだいぶが、こわかったのです。


 てをふりふり、せんとは、いかろすをみおくります。そして、せんとは、このゆめのせかいを、なんとなくはあくできてきました。


 ここは、おとぎばなしのせかいのようです。きいたなまえ、いかろす。あのひとがいるということは、ももたろうや、きんたろうがいたって、なんのふしぎもありません。もしかして、あのなんぱせんも、なにかのどうわのかんけいしゃだったのでしょうか。


 しかし。


 このゆめは、いつさめるのでしょう。たいかんじかんで、もう1じかんはすごしています。このまま、ゆめのせかいでくらすことになったら。


 せんとは、ちょっぴりなみだぐみました。ここには、おとうさんもおかあさんも、いないのです。いもうとは、まあ、ともかく。


 このままもどれなかったら。どうしよう。


 たしか、こんなときは、ほっぺたをつねるのが、じょうどうというものです。


 つねり。


 いたく、ありません。それは、そうです。ゆめですもの。では、いったいどうすれば、このゆめは、さめるのでしょうか。


 こんなとき。おとぎばなしのせかいであれば、おうじさまのきっすでめざめるのが、じょうどうでしょうか。


 ですが、みしらぬだんせいとせっぷんをするなど、せんとには、いみふめいです。そういうことは、こいびととするものです。


 では、なにをめざめのぎしきとすれば・・・。


 いえ。ここは、はっそうのてんかんといきましょう。めがさめないなら、ねむってしまえばよいのです。


 ここは、ゆめのせかいです。ならば、おきようおきようとしても、けっきょくは、ゆめのなかでのこうどうに、しゅうししてしまうのです。


 なら、ゆめのなかでねむれば、そのさきは、げんじつせかいなのではないでしょうか。


 そして、せんとには、こころあたりがありました。


 ねむりのぷろふぇっしょなる。すいみんますたー、さんねんねたろう。かれにあえば、すこやかなねむりにいざなってくれることでしょう。


 もんだいは、せんとは、ねたろうのおはなしのぶたいをしらない、ということです。どこにいるやら、さっぱりわかりません。たとえ、せんとにわーぷがじゆうにできたとして、いばしょがわからねば、たからのもちぐされでしかないのです。


 さあ、こまりましたよ。


 ちゅんちゅん。


 おや。こんなあらしのさなかに、とりのなきごえ。すずめです。すずめのなきごえが、ちじょうから。すを、ふきとばされでもしたのでしょうか。すずめじしんも、きのねもとからこえをあげていますが、どうやら、このかぜでは、とべないようです。


 せんとは、まよいました。このゆめのせかいにえいじゅうするわけではないじぶんが、はたして、てをだしてよいものでしょうか。


 ええい。ゆめのなかなら、このとりも、みらいえいごうはっぴーになるはずです。だって、ゆめなんですもの。


 せんとは、そうおもいきめると、すずめをてにとり、そこらのいえの、のきさきにおきました。そして、やはりそこらのつちをほりかえし、みみずなどのむしをごそっとてにとり、すずめのもとへはこびました。せんとは、かなりわいるどなじょしでした。


 いまのせんとなら、なんでもできます。そのじじつが、せんとを、ふだんより、せっきょくてきにさせていたのも、まちがいのないことです。


 さて。ねたろうさんは、どうせ、にほんのどこかでしょう。


 ふっきれたせんとは、とりあえず、ねたろうをいめーじしながら、わーぷしました。もう、きぞんのぶつりほうそくにしたがうのは、あきました。じょうしきにしばられるのも、おしまいです。


 いま。ねたろうさんちに、いきます。


 ぴょん、と、きがつけば、どこかのおうちのまえです。せんとは、まよわず、おじゃましました。


「すいませーん。ねたろうさーん」


・・・ぐおおおおおおん・・・


 やった。あたりです。いびきが、かえってきました。まちがいなく、さんねんねたろうさんのおうちです。


 こうなれば、あとは、ねたろうさんをおこして、いえ、ねごとでもいいのです。ねむりかたを、おしえてもらえれば、それでかえれます。おきられるのです。


 かってに、いえにあがりこみ、いびきのぬしのもとへゆきます。ほんとは、いけないことですが、ひじょうじたいです。みのがしてもらいましょう。


「ねたろうさん。ねたろうさん。わたしは、せんと・くらいすと。このゆめのせかいに、まよいこんでしまったおんなのこです。このせかいから、もとのせかいにもどりたいんです。そのために、ゆめのなかで、ねむりたいんです。どうか、わたしに、ねむりかたをおしえてください」


・・・ぐおおおお・・・・そうか。たいへんだったね。では、これから、ぼくのいうことを、よくききなさい・・・・


 ねたろうさんのことばは、すべて、ねごとによるしじです。さすがは、ねたろうさん。


・・・・まずきみは、だいどころにいって、おりょうりをするんだ。ざいりょうはあるはずだから、たんとつくっておくれ。それから、にたきしているあいだに、このいえのそうじ、せんたく。おりょうりができあがったなら、ぼくのたべているあいだ、つかったたきぎをほじゅうするんだ。これだけやれば、きっとねむれるはずさ・・・・


 だまってきいていたせんとですが、さすがに、きつそうです。まず、ここには、しすてむきっちんなど、ありません。さらに、みずも、おけにはいっているぶんしか、ないのです。いどがあれば、かなりたすかりますが。


 しかし。なにはともあれ、やるしかありません。ねたろうさんは、あれだけどうどうとおしえてくれたのです。きっと、まちがいなく、かえれるはずです。


 とりあえず、せんとは、だいどころにむかいました。ざいりょうは、おだいこん、にんじん、しいたけ、ぴーまん、ちんげんさい、みずな、しらたき、ぎゅうにく、ぶたにく、とりにく。


 ふむ。


 せんとは、なべをあらいはじめました。これだけのざいりょうがあって、やることは、1つです。ちゃんこなべでも、つくりましょう。


 もちろん、せんとに、ひをつけるぎのうはありません。がすこんろならまだしも、たきぎでのひおこしは、ちょっと。ですので、またもゆめのちからをつかいます。


 ぼうっ。


 1ど、りんかんがっこうでやったことのある、きゃんぷふぁいやーをいめーじしました。そして、たきぎには、みごとにひがつき、みずのはいったなべをあたためはじめました。かわをむき、ひとくちだいにきったざいりょうを、つぎつぎとうにゅうします。さすがに、ほうちょうはつかえるせんとです。かわむきは、たいへんでしたけどね。あじつけは、やはりおなべのもとを、しょうかんしました。


 おいしいおなべができあがるまで、おそうじのかいしです。さいど、いめーじ。このいえをぴかぴかにするための、おそうじどうぐを、いえでおかあさんがつかっているどうぐを、よびだします。いまこそ、せんとのおてつだいのせいかをみせるときです。だてで、しょうがっこう6ねんせいは、やっていません。


 ほうきとちりとり、ではなく、じゅうでんしきそうじきをくしし、そのあとはもっぷがけです。そんなことをしていたら、いいにおいがただよってきました。よわびにしておいたおなべが、ほどよくにえてきたのでしょうか。まだ、おせんたくをしていませんが、それはしょくじのあとにしましょう。


 ねたろうさんをおこし、おなべをつくえのうえにはこびます。そして、せんとじしんは、おせんたくにうつります。このせかいでは、せんとはおなかもすきません。ゆめのせかいは、べんりなせかいですが、いろいろ、つまんないせかいでもありますね。


 ぜんじどうせんたくきと、おじいちゃんのもっていた、はつでんきをつかいます。はつでんきの、せいかくなつかいかたはわからないので、かんたんに、すいっちのおんおふのみであつかえるよう、つくりかえました。


 さあ、せんたくがすすんでいるあいだに、たきぎをとってきましょう。おじいちゃんちが、のうぎょうをやっているので、せんとも、みたことだけはあります。やまできったきを、こまかくちぇーんそーなどでさいだんするのです。


 むろん、せんとにはできません。ですので。


 おかあさんが、ごみだしのときにつかう、しゅれっだーをいめーじします。それを、きをばらばらにできるぐらい、おおきいやつにへんかんして。それに、きりたおしたきを、どんどんほうりこんでいき、たきぎのやまをせいぞうします。


 できあがったなら、とろっこと、れーるをせっち。やはり、どんどんはこびます。いよいよ、ばんじ、かんりょうです。


 さあ、これで、ねむれるはずです。


・・・・よく、がんばったね。ありがとう。おやすみ・・・・


 さて。


 せんとは、やるだけやりました。ねたろうさんは、いつのまにか、じぶんのへやにもどり、ねています。


 ですが、せんとだけ、ぽつりとたったままです。


 これは、いったい。


 せんとは、こんどこそ、あてどもなくあるきはじめました。もはや、ばんさくつきたのです。


 ねむれない。それが、こんなにも、つらいものだとは。いままで、おもいもよらなかったことです。


 よくうごいたことで、ますます、めがさえてきたようなきさえしてきました。


 なにもかんがえたくなくなったせんとは、ふわふわと、うかんでいきました。もじどおり、ちにあしのついていないじょうたいです。


 そして、かぜにのったせんとは、ふらふら、ふうせんのようにとんでいきました。


 いかろすさんとであったときにも、でくわした、じぇっときりゅうにのり、せんとは、とおくはなれた、ゆきぐににまでたどりつきました。


 これで、もし、さんたくろーすにでもあえたなら、こころもすくわれたかもしれませんが。


 あえたのは、ふつうのおんなのこでした。ゆきぐにですので、かっこうはもこもこのあつぎです。ふだんのせんとなら、かわいいとおもえるかっこうでしたが、いまはもう、そんなよゆうもありません。ただ、ぼうっとみるだけです。


 おんなのこのほうも、そらからふってきたせんとをみて、おどろいているようです。ことばをはっさず、せんとをじってみています。


 みつめあうふたりですが、じかんは、まちがいなくすぎています。おんなのこは、じぶんが、なぜおもてにでてきたのか、おもいだしました。


 すけーとのじかんだったのです。やっと、おもてにでてもよいくらい、ゆきがおさまりましたから。そらからひとがふってきたぐらいのことで、おどろいているひまはありません。


 つったったままのせんとをおいて、おんなのこは、すけーとぐつをふりふり、ゆきみちをかけてゆきます。


 あ。ころびました。でも、すぐにおきあがって、またはしりはじめます。


 せんとも、ゆきがふれば、てんしょんがあがって、おもむろにゆきだるまをつくりはじめます。けれど、こけたあとのぜんりょくだっしゅはすごいなあとおもいました。


 なにもすることのないせんとは、なんとなく、おんなのこをおいかけてみました。ゆきみちを、およぎます。ゆきをてでかきわけ、ばたあしでゆきをおしだします。せんとのとおったあとには、みちがつくりあげられてゆきますが、ふりかえらないせんとには、どうでもよいことでした。


 こうほうから、ゆきをおよぐじょししょうがくせいがせまりくる、とはおもいもよらないしょうじょは、こんどはころばず、ちゃんとみずうみにたどりつきました。


 みずうみには、いちめんにあついこおりがはられ、にんげんがのっても、びくともしません。もっとも、ひょんなことから、うすいかしょをわっておちてしまうと、もうたすかりません。せんだっての、なんぱせんのひょうりゅうしゃのように、じりきではどうにもならなくなります。


 ですから、おんなのこは、まずこおりのあつさをみきわめます。いまのきせつならだいじょうぶとわかっていますが、いちおうね。


 どうやら、だいじょうぶのようです。ひょうじょうでは、しかがあそびまわっています。あのこたちが、へいきでうごきまわれるなら、しょうじょのたいじゅうぐらい、どうってことありません。


 しかにまじって、おんなのこもすけーとをはじめます。


 ぺんぎんのように、すべりすべりここまできたせんとも、おんなのこのすがたをじっとみます。とても、たのしそうです。しかのむれは、ぺんぎんのようなせんとにきょうみをしめしていますが、せんとがちっともうごかないので、しかたちはあっちにいってしまいました。


 おひさまのてらすなか、おんなのこがすべったあとは、きらきらかがやいて、まるでほうせきがとびちっているようです。


 その、すけーとのおんなのこも、せんとがおいかけてきて、それでいてすべるでもなく、みているだけなのには、きづいていました。こっちにくれば、いっしょにあそべるのに、とおもいながら。


 あいかわらず、ねそべったままのせんと。さむくないので、うごくどうきをめばえさせられないのですね。


 しかし。


 りょうて、りょうあしをうごかすまでには、きりょくもふっかつしています。やはり、せんとは、およぐように、こおりのうえをすべりはじめました。そのさま、まさにしょうがくせいぺんぎん。


 おかしな、いや、ほんとうにありえないうごきをみせるせんとに、おんなのこも、またおどろきました。そらからふってくるにんげんは、やはりちがう。つよく、そうかんじました。


 かわいいふたりのだんすは、こ1じかんほどもつづいたでしょうか。しょうしょう、くもゆきがあやしくなってきたところで、おひらきです。


「あなた、おうちはどこ?いまからで、かえれる?」


 はじめて、おんなのこが、はなしかけてくれます。


「わたしは、とおくからきたの。でも、ひとりでかえれるわ」


 そうです。きっと、かえれるのです。せんとは、じぶんにいいきかせるように、つぶやきます。


「そう。みかけないから、よそのひとだろうなとはおもったけど。じゃあ、はやくかえったほうがいいわ。また、きょうも、つもりそうね」


「そうね。はやく、かえるわ」


 おはなしがおわると、おんなのこは、すっときびすをかえし、すたすたあるいていきます。かたでゆれるすけーとぐつが、かぜをきって、りりしさにはなをそえています。


 おんなのこが、さって、どれくらいのときがすぎたのでしょうか。


 とうとう、ふりはじめました。


 ゆきふるせかいに、ひとり。せんとは、ねころがったまま。


 このままねてても、けっしてしなないし、めざめもしないでしょう。


 だから、でもないけれど。


 ただ、せんとは、めをとじて、なみだをひとつぶ、こぼしました。


「やっぱり。このあたりに、りょこうしゃだって、だれもきてないって、かあさんがいってたわ」


 あのおんなのこです。こんどは、すけーとぐつをいえにおいてきたようです。


 おんなのこは、いったんいえにかえったとき、きょうあったことをかぞくにはなしてきかせました。ですが、このふきんで、そんなちいさなこが、いるはずがないというのです。では、あのこは、いえでなのでしょうか。きになったおんなのこは、おやをよぶまえに、じぶんでたしかめにきたのでした。まだ、よるというわけではありませんからね。


「あなた、しぬきなの?ここは、わたしのあそびば。だから、あなたをしなせるわけにはいかないわね」


 おんなのこは、せんとをせおって、ふたたび、いえじにつきました。


 あるきながら、おんなのこは、せんとのあまりのかるさに、おどろいていました。ゆきが、ふくにしみこんでいるだろうに、ほしくさのようなかるさです。


 せんとはというと。まじかでみた、おんなのこのこうとうぶに、つむじをみていました。かわいい。


「ぼうし、おねがい」


「はい」


 おんなのこのあたまに、ぼうしをかぶせてあげるせんと。


 せんとをせおうとき、ひっかかってじゃまになってしまったぼうしを、せんとにもたせていたのです。


 せんとは、おんなのこのぼうしと、ふくを、じっくりとみました。つかいこんで、ところどころ、つぎはぎしていて、あてぬのをしたあとがわかります。ですけれど、それも、とてもきれいにつくろってあります。いとと、ぬので、ゆきのけっしょうになっていますね。


 せんとは、このおんなのこを、こっそり、ゆきんことなづけました。


「あなた、おなまえは?わたしは、せんと」


 せんとは、ゆきんこになまえをきいてみました。


「わたしは、すのー。せんとなんて、へんななまえね」


 すのーには、いわれたくないなあ。そうおもったせんとですが、すのーのなまえは、じぶんのかんがえた、ゆきんこという、あだなと、にていたので、ちょっとにっこりしてしまいました。


「ゆき・・すのーは、わたしをつれかえって、へいきなの?」


 そうです。ここが、どこのちいきなのかしりませんが、こんなときは、けいさつに、ほごしてもらうのがいいはずです。


 ただ、せんとはしるよしもないことです。ここから、もよりのけいさつしょまで、80きろめーとるのきょりだとは。すのーのはんだんは、いっさいまちがっていないわけですね。


「だいじょうぶよ。みしらぬにんげんでも、あなたみたいなおんなのこなら。せんとが、いかついおとこのひとなら、こわかったかもしれないけれど」


 たとえば、ぐりずりーのような。それなら、こえなどかけず、いちもくさんに、にげたでしょうね。


 でも、せんとは、みょうなかっこうの、ただのおんなのこ。ほうっておけば、はるになるまで、ひょうぞうになってすごすはめになります。


 ですから、ゆきんここと、すのーは、いえまでせおってかえるのです。


「ただいまー」


 すのーは、ぶーつのまま、いえにあがります。すりっぱにかえたりは、しないようです。なので、せんともそれにならい、くつをはいたままです。


「おじゃまします」


 せんとは、ちょっと、きおくれしはじめました。なんのいんがか、じぶんじしんは、とくにこまってもいないのに、ひとのいえにあがりこんでしまいました。いえ、まあ、だれにもかいけつできないいみでは、こまっていますが。


 まあ、なんでもいいです。どうせ、ゆめなんですから。


 すのーは、どうやら、おとうさんとおかあさんとくらしているようです。てーぶるのうえのこっぷが、3つ。そして、せきについているのは、おとうさんとおかあさんのふたり。もちろん、へやにいるのかもしれませんけどね。


「おお。だいじょうぶなのかい?さあ、はやく、だんろのそばに」


 おとうさんが、あいているいすを、だんろわきにもってきてくれます。すのーは、せんとをそこにおろしました。せんとは、ほんとうにかるくて、すのーでも、かんたんにうごかせるのです。


 せんとも、いまさら、じぶんにはいっさい、もんだいないとはいえません。ですから、おとなしくなされるがまま、だんろのひに、あたっておりました。


 そうして、いふくもたしかめられ、まるでぬれていないのを、ふしぎがられたりしているうちに、おかあさんが、みるくをもってきてくれました。


 ずずず。


 せんとは、とりあえずありがたくいただきました。ひょっとしたら、ぎゅうにゅうのさようで、ねむくなることも、ありえますし。


 おとうさんとおかあさんは、しきりにぎもんをしょうじさせていました。くちには、しませんでしたが。


 なぜ、ゆきにねころがっていたせんとのふくが、ぬれていないのか。それに、このこは、まったくふるえていない。さらに、かおいろも、まるでふつう。くちびるがあおくなっていたり、とりはだがたっていたりしない。どころか、とてもきれいなはだ。


 ふしぎなことも、あるものだ。おとうさんとおかあさんは、そうけつろんづけました。なにか、へんてつがあるにせよ、こんなちいさなこどもをけいかいするひつようはありません。それに、もしかしたら、まったくあたらしいけがわだったりするのでしょう。


 せんとが、あたたかなみるくを、ゆっくりゆっくりのみほすと、それをまっていたおかあさんは、しちゅーをよういしてくれました。


「ありがとうございます」


「どういたしまして」


 やっぱり。なにか、へんなこだと、おかあさんはおもいました。せんとのたいどは、とてもへいぜんとしたものです。ついさっき、そうなんしようとしていたにんげんのようすには、おもえません。


 ほんとうに、ふしぎなこ。


 そんなふうにおもわれているとは、しらないせんとです。


 さて、しちゅーをたべおえたら、どうすれば。このじょうきょうで、それじゃおじゃましましたー、とおわかれするのは、さすがにへんです。そとにいれば、ふりつもるゆきにつつまれ、ゆきだるまになってしまうのですから。


 こうなれば、かくごをきめて、ひとばんおじゃましましょうか。そうすれば、あすには、ふつうにこのいえをでられます。


 せんとは、このいえのひとたちにおせわになって、すのーたちをすきになってしまったので、へんにしんぱいをかけさせたくなかったのです。


 せんとは、かぜをひくといけないので、おふろにもはいらず、そのままねることに。よぶんなべっどはないので、すのーのべっどにおじゃまします。


「あなた、ほんとうにおかしなこね」


「そう?」


 すのーは、せんとがまったくねつをださないので、なんてがんじょうなこなんだろう、とおもっていました。


 このまま、すのーの、ねいるのをまつしかないか。せんとは、ぬくぬくのもうふのなかで、そうおもいました。


 そして、ねました。




 ぱちり。


 せんとは、まばたきをしました。せんとにみえたのは、いつものじぶんのおふとん。おきにいりの、あるちゃんのかばーのかかった、おふとんです。なら、ここは、せんとのべっどのうえ。


 かえってきたのです!


 ばっ!


 せんとは、とびおき、ぜんそくりょくで、りょうしんのへやにいきました。


 いました。おとうさん、おかあさん、いもうと。ちゃんと、いました。


「はああああ・・・・・」


 せんとは、ながい、ながあい、ためいきをつきました。そして、ぶるるっとふるえました。おきて、すぐにとびだしたので、ねまきのうえに、なにもはおってなかったのです。


 そっととびらをしめて、せんとはりびんぐにいきました。すとーぶをつけて、こーひーをいれます。せんとは、5ねんせいになったころから、あまいこーひーなら、のめるようになっていました。ぶらっくは、まだにがてですけどね。


 ほんとうは、こーんすーぷもおいしいのですけど。また、ねむくなってもこまりますもの。こーひーで、しっかりとめをさますのです。


 あたたまってきたへやのなか、てれびをつけます。あさのにゅーすをやっていました。いま、あさの6じだそうです。まだ、みんなおきてないわけです。


「きょうは、ぜっこうのくりすますびよりです。おでかけのみなさま、さむさにはしっかりとおきをつけください」


 てれびのおねえさんが、ゆきのよほうをおしえてくれました。


 どうやら、ほわいとくりすますです。


 かーてんをあけてみると、たしかにべらんだには、ゆきがつもっていました。


 とはいえ、ゆめのなかで、すのーとであったところとは、くらべものになりません。これぐらいなら、ぜんぜんだいじょうぶそうです。


 せんとは、あさごはんをつくりはじめました。といっても、てのこんだものではなく、ごはんにふりかけです。それだけをおなかにいれて、はをみがき、みじたくをしました。


 せんとは、ふゆのよそおいにみをつつみ、ちゃんとてぶくろをはめ、そとにでます。


 いえのそとは、うっすらとゆきげしょうされていて、まちじしんが、しろいいきをついているようです。


 せんとは、まちにでるのではなく、いえのげんかんさき、にわさきにて、ゆきをあつめはじめました。ゆきをつかんで、げんかんに。ゆきをあつめて、げんかんに。そうしてげんかんにかきあつめたゆきは、それなりのりょうになりました。


 そして、さらにゆきを2つのかたまりにわけ、おおきいのと、ちいさいのに、かこうします。そして、まるくかたちづくったおおきいののうえに、おなじかたちのちいさいのをかさね。


 ゆきだるま、かんせいです。


 せんとは、ひかげをえらんでつくったつもりですが、もしひざしがむいたなら、とけてしまいます。


 はやく、おきないかな。


 これは、せんとから、いもうとへの、くりすますぷれぜんとです。


 ゆめのせかいでは、せんとは、なにもできない、なにをしてもいみがない、そんなじょうたいでした。なにをしても、だいじょうぶなかわりに、じゆうにねむれもしないせかい。


 ぬれることも、さむくかんじることもない、かみがかったせんとの、つらくないのに、つらかったばしょ。


 いま、せんとは、とてもあついです。さむいそとにでるため、ちゃんとあつぎをして、そうして、ゆきだるまをつくっていたのですから。あせをかいて、きもちわるいです。ては、ゆきをつついていて、てぶくろのうえから、さむさがつたわってきます。はやく、おふろにはいって、きもちよくあたたまりたいものです。


 あさぶろとしゃれこんだせんとは、やっぱり、こっちのせかいがいいなとおもいました。ぬれたてぶくろをかわかし、ぬれたしゃつをせんたくきにほうりこまなければならない、めんどうなせかい。


 ですが、こんなにおふろをきもちよくかんじるのは、このからだが、あせをかきもするし、さむさにふるえもするし、そして、おゆのあたたかさをかんじもするから、ですよね。


 いもうとも、きっとこれから、さむくてかぜをひいたり、あつくて、おなかをだしてねて、かぜをひいたりするのです。


 そんなとき、なんでもできるせかいなら、どんなにか、いいだろうと、おもうこともあるかもしれません。ですが、そのせかいは、いもうとにとって、しあわせなだけのせかいとは、かぎりません。


 きょう、せんとは、それをしりました。


 いつか、おおきくなったいもうとに、おしえてあげるため、いまは、せんとは、いっしょにあそぶことにしました。


 あんなに、きにいらなかったはずのいもうと。でも、まだ、いもうととは、はなしてもいないのです。


 ゆめのせかいのひとたちは、あかのたにんのせんとのいうことを、ちゃんときいてくれました。やさしくしてくれました。


 せんとと、いもうとは、けんかをしているわけでも、おたがいきらいあっているわけでもないのです。


 もちろん、いつか、しまいげんかもするのでしょうけど。


 そのとき、せんとは。


 いいえ。


 いつだって、せんとは、いもうとと、いっしょにいるつもりです。


 あのとき、すのーが、せんとをおぶってくれたように。


 すのーが、じぶんのいえにつれかえってくれなければ、せんとは、いまもゆきだるまになって、ずっとあそこにいたかもしれません。


 せんとは、このげんじつのせかいでは、ただのおんなのこです。ゆめのなかのように、なんでもできたりしません。


 でも。


 ゆきだるまは、つくれました。


 これなら、いもうとといっしょにあそべるはずです。いもうとに、みせてあげられたなら、あのこをえがおにできる、かも。


 せんとは、おおいそぎで、そとにでました。だから、じぶんのへやに、りょうしんがおいてくれたぷれぜんとをしりません。ですが、いもうとにあげるぷれぜんとは、よういできました。


 せんとちゃんは、しんじんさんたくろーすには、なれましたね。


 このあと。せんとといもうとのものがたりは、ずっと、ずううっとつづきます。だって、ふたりは、これからもいっしょなんですから。




 それから。


 あのふなのりさんは、ぶじにあたらしいふねにのれたようですよ。


 いかろすさんも、すまいとおしごとをみつけられました。


 ねたろうさんは、あいかわらず、ねていますね。



 そして、すのーは。


 いつかであった、いつのまにかきえたしょうじょのことをわすれることなく、おとなになって。とおい、にほんというくにで、としのはなれたしまいにであったということです。




 もし、あれが、ゆめでなかったなら。あのふしぎなたいけんは、なんだったのでしょう。とても、ふしぎです。


 でも、せかいじゅうにぷれぜんとをおくりとどけられるような、すごいひとなら、もしかしたら、ね。




 おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 人形を上手く操れないお父さんの事を「あいてにとって、ふそく」と思うせんとが可愛い! あと嵐の海に落ちた船員を冷めた目で見ているところが面白かったです! 砂浜を歩いていて、足に砂利が絡まない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ