3つの、くりすますぷれぜんと。
12がつ24か。そのひ、しょうがっこう6ねんせいの、せんと・くらいすとちゃんは、ごきげんななめでした。
せんとちゃんにとって、まいとしのくりすますは、おとうさんおかあさん、そして、さんたさんからぷれぜんとをもらえる、すばらしいひなのでした。ですが、ことしは、ちがいます。
おかあさんは、そのこのためにつきっきりですし、おとうさんだって、てんやわんやのおおさわぎです。
そうです。くらいすとけには、あたらしいかぞくがやってきたのです。
おかあさんのおなかのなかにいたこが、うまれいでたのが、10がつ。それまで、そしてそれから、おとうさんとまいにちびょういんにかよっていたころは、たのしかったせんとです。あかちゃん、というものがなにか、まだよくしりませんでした。いもうとだとは、きいていました。ですが、あかんぼうといういきものは、ちっともわかりません。せんとは、いもうとといっしょに、おにんぎょうあそびをしようとおもっていたのです。
ですが、うまれてきたいもうとは、まだおにんぎょうであそべませんでした。それは、そうです。あかちゃんなのですから。でも、せんとには、つまりません。ただでさえ、おかあさんとあそぶじかんがすくなくなってしまったのです。おとうさんは、あいてをしてくれますが、おにんぎょうをうまくあやつってくれないので、やはりあいてにとって、ふそくです。
しょうがっこうの、しゅうぎょうしきをおえ、ふだんならまっすぐいえにかえるせんと。でも、きょうは、すこしみちをかえます。どうせ、いえにかえったって、おもしろくないんですもの。
じたくふきんにとうちゃくしたつうがくばすからおりると、いえのほうこうではなく、きんじょのこうえんにむかいました。ここらへんには、ちゅうがっこうのおにいさんおねえさんしか、いません。どうきゅうせいにみとがめられるしんぱいは、ありません。
こうえんでは、きんじょのおばさんが、ちいさなこどもといっしょにあそんでいました。たしか、5さいだったはずです。このあいだ、そうききました。
あれぐらい、おおきかったらな。もう、あのこはおにんぎょうであそべるのかな。せんとは、おばさんとすなあそびをしているこを、ちらりとながめて、ためいきをつきました。
なんで、うちのいもうとは、ちいさいんだろう。あかちゃんって、なんて、ふべんなんだろう。
そういうせんとじしん、かつては、あかちゃんでしたけれど。だれもが、じぶんのことはたなにあげてしまうものですね。
そろそろ、かえらねばなりません。こどもけーたいが、ゆうがたをしらせてくれます。これは、4ねんせいになったとき、おかあさんといっしょにえらんだものです。かっこいいあおいろで、せんとはひとめぼれしたのでした。らいねんは、せんともちゅうがくせい。あたらしいのを、かってもらうよていです。そのときは、いもうともいっしょなのでしょうか。
ちょっと、したをむきつつ。せんとは、わがやにかえりつきました。きっと、おかあさんは、あかちゃんにつきっきりです。おとうさんがかえってくるまでには、まだじかんがあります。しかたありません。へやで、べんきょうでもしましょう。かっこいいけーたいをかってもらうためにも、せいせきはあげておかなければならないのです。
「おかえり、せんと」
やっぱりです。おかあさんのこえが、あかちゃんのへや、つまりりょうしんのへやからきこえてきました。あかちゃんは、べびーべっどで、ねむっているのでしょうか。
てをあらって、らんどせるをおいて、べんきょうをはじめます。せっかくもらったじぶんのへやですが、いまはちょっと、さみしいものです。
「あらあら、おねえさんになったら、まえよりもがんばりやさんになっちゃって」
おかあさんが、みにきました。せんとは、それなりによいせいせきですが、それもおかあさんがみてくれるからです。おかあさんのおしえかたは、とってもていねいなので、なんだかわからないうちに、わかるようになっています。
ばんごはんまで、おかあさんといっしょでした。そうしているうち、おとうさんもかえってきて、みんなでばんごはん。あたたかいわがや、というものです。たった1てん。あかちゃんをのぞけば。
こんなことをかんがえるのは、わるいことです。もしかしたら、さんたさんはきてくれないかもしれません。でも、いいんです。さんたさんがほんとうにきたって、きっと、このもやもやをかいけつしてくれません。だから、わるいこでも、いいんです。
はみがきをして、べっどにはいります。まくらもとには、くつした。わるいこでも、もしかしたら、さんたさんがぷれぜんとをおっことしていくかもしれませんしね。なかなか、ちゃっかりしたせんとでした。
あかちゃんは、なにがもらえるのでしょう。おにんぎょうでは、まだあそべないのです。
そういえば。じぶんが、あかんぼうのころは、どうしてすごしていたのでしょうか。なんとなく、じぶんのことをかんがえました。もちろん、きおくはありません。いちばんまえのきおくでも、ほいくえんのころのものです。あんなにちいさなとき、なにをおもったかなんて、ちっともわかりません。
いもうとも、そうなのでしょうか。あのこも、まだ、なにもわからないまま、ああやって、ないたりわらったりしているのでしょうか。
なんだか、むずかしいかんがえになってしまいました。こんなことをおもっていると、きまってわるいゆめをみてしまうせんとです。こんなときには、すきなきゃらくたーをかんがえるにかぎります。
せんとのおきにいり、でぃあぼりかる・あるてぃめいと・いりーがるちゃん。にっくねーむは、あるちゃん。まほうのくにのおひめさまです。じつは、こっそりせんとも、あこがれていました。じゆうにまほうをつかえたなら、どんなにきもちがいいでしょうか。もちろん。もう、6ねんせいのせんとは、わかっています。まほうなんて、ありません。あったとして、それは、せんとのにちじょうには、おこったことがありません。
いいんです。ゆめのなかなら、じぶんはなんでもできるのですから。
そして、せんとはゆめをみます。このごろ、とんとみなかったような、ながいゆめを。
ああ。わかります。これは、ゆめ。ふわふわした、あしがちにつかない、あのかんかく。
そのしょうこに、せんとは、ぱじゃまではありません。ふだんぎ、でもない、これは。
たびしょうぞく。せんとは、そのよびなをしりません。ですが、まえになにかのあにめでみたことがあります。こんかいは、ふぁんたじーのゆめでしょうか。
まあ、なんでもいいです。さめるまで、たのしみましょう。
ところで。ここは、どこなのでしょうか。ゆめのなかで、せんとはいろんなところへいきました。がっこうだったり、べっどでねむったままだったり。ですが、このようなばしょは、みたことがありません。
なんとなく、おずのまほうつかいをおもいだしたせんとです。あのばんぐみは、よくしゅくじつなどに、てれびでながれているので、なんかいかみたことがあります。
なぜ、あれをおもいだしたのか。
ここが、みしらぬせかいだったからです。
ざあざあ。ざぶりざぶり。
おおあめです。それだけなら、せんとのすむちいきでも、にちじょうです。ですが、このてんのそこがぬけたようなあめは。しかも、まわりのちけいがまた、ちんみょうこのうえありません。
やしのき。いわゆる、なんごくでしょうか。なぜか、せんとはうみべをあるいています。かいがら、きれいないし、くじら。いろいろなものが、うちあげられたすなはま。ゆめなので、あしはぜんぜんいたくありません。それに、ものすごいどしゃぶりだというのに、じぶんがどこをあるいているのか、かんぺきにわかります。ふつう、このようなあめは、すうめーとるさきすらみえないものなのですが。まわりのけしきが、てにとるようにわかるのです。ここらへんは、やはりゆめなのでしょうね。ちっともげんじつてきではありません。
さて。ゆめだとわかったところで、なんですが。どうすれば、さめるのでしょう。これが、はれのひであれば、とこなつなんごくむーどで、かいすいよくとしゃれこんでもよいのですが。このあめでは、ちょっと。あらしのうみで、そうなんしてるみたいで、まるでえいがのようで、ちょっとたのしそうですが。いまは、そういうきぶんではありません。
おや。
さきほどいったとおり、せんとは、まわりがよくみえます。ふと、うみをながめてみると、ほんとうにあらしのなんぱせんがみえました。ものすごいかくどで、ういたり、しずんだり。あのなかのふなのりたちは、きっとうおうさおうしていることでしょう。えいがじゃない、ほんもののあれくるううみのふね。といっても、ゆめですが。
それはともかく。はくりょくまんてんのそのこうけいにみいっていると、せんいんが、おっこちたようにみえました。あらしのうみにおちたなら、たすかりません。ろびんそん・くるーそーがゆうめいなのは、いきのこれためずらしいひとだからです。おおぜいのたすからなかったひとたちは、ものがたりにすらならないのです。そして、あのひとも、そうなるのでしょう。
ここが、ゆめのなかでなければ。せんとは、とっさにせんいんがおちたばしょまで、はしりだしました。おもったとおり、あしはうみにしずむことなく、かいめんをはしることにせいこうしました。なぜって、すなはまをあるいているのに、あしにはちっとも、じゃりがからまりませんからね。これで、かいすいだけは、えいきょうがあるなんて、さぎってものです。
そして、せんとは、みごとおぼれているひとをたすけることにせいこうしました。といっても、ひっぱりあげるのは、かんたんでした。みずをすっておもくなったいふくをきこんだ、せいじんだんせいをきゅうじょしたのですが。やはり、ゆめって、すごいものです。
みずをのんでしまったようですが、こきゅうはしっかりしています。しょうじき、せんとのはいかつりょうでは、あるいはわんりょくでは、じんこうこきゅうも、きゅうめいそちも、おぼつかなかったでしょう。たとえ、ゆめであろうと、せんとじしんは、かわっていないようですからね。
それはともかく、たすけたおとこのひとが、おちついてきたようです。
「おお・・・・。おじょうさんが、たすけてくれたのかい。い、や。あんたは、てんしさまだね。まちがいなく、あんたは、とんでいた。あなたさまは、はねこそおもちでないが、きっといだいなかた。それがしょうこに、このあらしのなかで、ぬれてもいなさらない」
おとこのめは、どうけいで、いっぱいになっておりました。いのちをたすけられた、おんじん。それも、あらしのうみを、とんできた。なにか、いだいなものに、じぶんはすくっていただいたのだ。そう、おもえました。
けれど、せんとにとっては、たんなるきまぐれにすぎません。そもそも、ここはせんとのゆめのせかいです。なにをしてもいいし、なにもしなくたっていいんです。ですから、せんとは、こういいました。
「こまったときは、おたがいさまです。それよりおじさんは、ふねにもどれるんですか」
そうです。たすけたはいいものの、あのふねは、いまもがんばって、はしっているのです。おじさんは、さて、どうするのでしょうか。
「おれは、まちまでもどって、べつのふねにのりまさあ。これでも、ふなのりとしてのうでは、たしかなんで。しごとにこまりはしませんぜ」
おじさんは、いたくかんしゃしつつ、おおあめのなかを、ひっしであるいていきました。
さあ、またやることのなくなったせんとです。これから、どうしましょう。おじさんのいっていたみなとまちにいってもいいですし、あのなんぱせんをおいかけても、おもしろそうです。
ですが、そのどちらでもなく、せんとは、てんにのぼりました。せっかく、いろいろなぶつりをむしして、あるけるのです。ふだんなら、ぜったいにできないことをやりたいものです。
そして、せんとは、くうちゅうをあるきはじめました。かいだんをのぼるように、そういしきしたなら、ほんとうにのぼれました。みえないだんを、とつとつとあるいてゆきます。あしのうらには、へんなかんしょくがのこります。
ふしぎです。くうをあるいていながら、いまさらなおもいですが、ほんとうにふしぎなのですから、しかたありません。
せんとは、いま、ななめになっています。そらのうえをめざして、ずんずんかいだんをのぼっているのですが、そのかくどが、ふかしぎです。からだが、ほぼまうえをむいているようなのです。これがゆめでなければ、あたまから、おちてしまっているでしょう。
そして、ついにせんとは、まよこのたいせい、つまり、まうえにまっすぐあるきはじめました。なんとも、めずらしいこうけいです。まるで、じゃっくとまめのきのせかいですね。
ほんらい、ちきゅうのそらのうえまで、とほでは、かなりのじかんがかかります。ふじさんのうえだって、3ぜんめーとるはあるんですからね。そこからさらにのぼるとなれば、なんじかんもたってしまいます。
だから、せんとは、わーぷしました。いきなり、えすえふちっくですが、もんだいありません。そもそも、ゆめのなかで、じはつてきにこうどうしつづけているこのげんじょう、すでにじゅうぶん、ふぁんたじっくです。いまさら、ふぃくしょんのしゅるいがふえようと、なにももんだいありませんよね。
そんなことより、とうちゃくです。おおあれのなかを、のぼったかいがありました。
くものうえ、そらのせかいには、あらしはありません。ただ、じぇっときりゅうが、ごうごううなりをあげ、やばいぐらいのちょくしゃにっこうに、てらされます。
「こんにちわ、おじょうさん」
そんなばしょで、はなしかけてくるものがおりました。まちがっても、にんげんではないでしょう。では、いったい、なにもの。
「こんにちわ、おじさん」
それはそれとして、まずはあいさつです。
「おじさんはなぜ、つばさがはえているの」
そうです。このひとには、とりのつばさがはえておりました。もしや、このひとこそが、ほんもののてんしなのでしょうか。
「おじさんはね、つばさがはえているんじゃ、ないんだよ。これは、がんばってつくったのさ」
おじさんは、おにいさんとよんでほしかったな、そうおもいながらも、かんようなこころをもって、こころやさしくおじょうさんにせっしていました。
つくった。まさか、いかろす。せんとも、がっこうでうたったことがあります。そういえば、なんだか、せいようっぽいかおだち。
「もしかして、おじさんは、いかろすさん」
たんとうちょくにゅうに、きいてみました。
「なぜ、ぼくのなをしっているんだい」
まさか、こんなしょうじょが、おって。いかろすは、ろうやからだっそうしたにんげんです。こんなてんくうで、よもやのてんかいです。だって、じぶんのなまえをしっている、まったくのむかんけいのにんげんなんて、ありえません。
「なぜって、あなたのなまえは、ものすごくゆうめいなんですもの。ぎりしゃの、いかろすさんよね」
「ゆうめい」
いかろすも、とおくはなれたいこくで、じぶんのうたがうたわれているとは、ゆめにもおもっていません。しかし、じぶんにろーぷをまきつけたりしないこのおんなのこは、どうやら、おってではないようです。
それはともかく。
せんとは、いかろすの、このさきもしっています。このようこうにやかれて、おちる。それが、いかろすのさだめ。
ここが、せんとのゆめのなかでなければ。
「いかろすさんは、これから、どこにいくんですか」
「うむ。とりあえず、どこか、すむところをさがしている」
「なら、あちらに、みなとまちがありますよ」
あの、せんいんさんがむかったほうこうをゆびさします。しかし、げかいは、あらし。こんなつばさでは、ついらくしてしまうでしょう。ですから、せんとがつれていってあげることになりました。
こんなこどもにたよるのは、ほんいではありませんが、さすがにあれもようのてんきは、こわいものです。それに、めのまえのしょうじょは、なぜか、つばさもないのに、とんでいます。なにものか、かんがえてはいけないあいてなのでは。いかろすは、なんとなく、そうおもいました。
このかんがえは、おりるときに、よりふかまりました。
せんとは、ただ、おちるいめーじをしたのです。あのみなとまちのまうえに、どこかのいえのやねに、ぴたりと。そして、せんとと、せんとにつかまれたいかろすは、はやぶさをこえるそくどで、きゅうこうかしていきました。
いかろすのつばさが、ばらばらにちぎれとんでいくのが、なんだかうつくしくって、せんとは、さらなるすぴーどをおもいました。いかろすは、ないていたということです。
そして、あらしのまちにとうちゃくしました。どのいえも、よろいどをしめ、いかろすをおいてくれるばしょは、なさそうです。ということで、ふなつきばにいきます。あのなんぱせんが、そろそろとうちゃくしているところでしょうか。そのふなのりたちにまぎれて、いかろすもやどやにありつこうというかんがえです。
「じゃ、ありがとう」
かなり、かんそなあいさつでしたが、いかろすは、いっこくもはやくこのしょうじょと、おわかれしたかったのです。それだけ、さきほどのだいぶが、こわかったのです。
てをふりふり、せんとは、いかろすをみおくります。そして、せんとは、このゆめのせかいを、なんとなくはあくできてきました。
ここは、おとぎばなしのせかいのようです。きいたなまえ、いかろす。あのひとがいるということは、ももたろうや、きんたろうがいたって、なんのふしぎもありません。もしかして、あのなんぱせんも、なにかのどうわのかんけいしゃだったのでしょうか。
しかし。
このゆめは、いつさめるのでしょう。たいかんじかんで、もう1じかんはすごしています。このまま、ゆめのせかいでくらすことになったら。
せんとは、ちょっぴりなみだぐみました。ここには、おとうさんもおかあさんも、いないのです。いもうとは、まあ、ともかく。
このままもどれなかったら。どうしよう。
たしか、こんなときは、ほっぺたをつねるのが、じょうどうというものです。
つねり。
いたく、ありません。それは、そうです。ゆめですもの。では、いったいどうすれば、このゆめは、さめるのでしょうか。
こんなとき。おとぎばなしのせかいであれば、おうじさまのきっすでめざめるのが、じょうどうでしょうか。
ですが、みしらぬだんせいとせっぷんをするなど、せんとには、いみふめいです。そういうことは、こいびととするものです。
では、なにをめざめのぎしきとすれば・・・。
いえ。ここは、はっそうのてんかんといきましょう。めがさめないなら、ねむってしまえばよいのです。
ここは、ゆめのせかいです。ならば、おきようおきようとしても、けっきょくは、ゆめのなかでのこうどうに、しゅうししてしまうのです。
なら、ゆめのなかでねむれば、そのさきは、げんじつせかいなのではないでしょうか。
そして、せんとには、こころあたりがありました。
ねむりのぷろふぇっしょなる。すいみんますたー、さんねんねたろう。かれにあえば、すこやかなねむりにいざなってくれることでしょう。
もんだいは、せんとは、ねたろうのおはなしのぶたいをしらない、ということです。どこにいるやら、さっぱりわかりません。たとえ、せんとにわーぷがじゆうにできたとして、いばしょがわからねば、たからのもちぐされでしかないのです。
さあ、こまりましたよ。
ちゅんちゅん。
おや。こんなあらしのさなかに、とりのなきごえ。すずめです。すずめのなきごえが、ちじょうから。すを、ふきとばされでもしたのでしょうか。すずめじしんも、きのねもとからこえをあげていますが、どうやら、このかぜでは、とべないようです。
せんとは、まよいました。このゆめのせかいにえいじゅうするわけではないじぶんが、はたして、てをだしてよいものでしょうか。
ええい。ゆめのなかなら、このとりも、みらいえいごうはっぴーになるはずです。だって、ゆめなんですもの。
せんとは、そうおもいきめると、すずめをてにとり、そこらのいえの、のきさきにおきました。そして、やはりそこらのつちをほりかえし、みみずなどのむしをごそっとてにとり、すずめのもとへはこびました。せんとは、かなりわいるどなじょしでした。
いまのせんとなら、なんでもできます。そのじじつが、せんとを、ふだんより、せっきょくてきにさせていたのも、まちがいのないことです。
さて。ねたろうさんは、どうせ、にほんのどこかでしょう。
ふっきれたせんとは、とりあえず、ねたろうをいめーじしながら、わーぷしました。もう、きぞんのぶつりほうそくにしたがうのは、あきました。じょうしきにしばられるのも、おしまいです。
いま。ねたろうさんちに、いきます。
ぴょん、と、きがつけば、どこかのおうちのまえです。せんとは、まよわず、おじゃましました。
「すいませーん。ねたろうさーん」
・・・ぐおおおおおおん・・・
やった。あたりです。いびきが、かえってきました。まちがいなく、さんねんねたろうさんのおうちです。
こうなれば、あとは、ねたろうさんをおこして、いえ、ねごとでもいいのです。ねむりかたを、おしえてもらえれば、それでかえれます。おきられるのです。
かってに、いえにあがりこみ、いびきのぬしのもとへゆきます。ほんとは、いけないことですが、ひじょうじたいです。みのがしてもらいましょう。
「ねたろうさん。ねたろうさん。わたしは、せんと・くらいすと。このゆめのせかいに、まよいこんでしまったおんなのこです。このせかいから、もとのせかいにもどりたいんです。そのために、ゆめのなかで、ねむりたいんです。どうか、わたしに、ねむりかたをおしえてください」
・・・ぐおおおお・・・・そうか。たいへんだったね。では、これから、ぼくのいうことを、よくききなさい・・・・
ねたろうさんのことばは、すべて、ねごとによるしじです。さすがは、ねたろうさん。
・・・・まずきみは、だいどころにいって、おりょうりをするんだ。ざいりょうはあるはずだから、たんとつくっておくれ。それから、にたきしているあいだに、このいえのそうじ、せんたく。おりょうりができあがったなら、ぼくのたべているあいだ、つかったたきぎをほじゅうするんだ。これだけやれば、きっとねむれるはずさ・・・・
だまってきいていたせんとですが、さすがに、きつそうです。まず、ここには、しすてむきっちんなど、ありません。さらに、みずも、おけにはいっているぶんしか、ないのです。いどがあれば、かなりたすかりますが。
しかし。なにはともあれ、やるしかありません。ねたろうさんは、あれだけどうどうとおしえてくれたのです。きっと、まちがいなく、かえれるはずです。
とりあえず、せんとは、だいどころにむかいました。ざいりょうは、おだいこん、にんじん、しいたけ、ぴーまん、ちんげんさい、みずな、しらたき、ぎゅうにく、ぶたにく、とりにく。
ふむ。
せんとは、なべをあらいはじめました。これだけのざいりょうがあって、やることは、1つです。ちゃんこなべでも、つくりましょう。
もちろん、せんとに、ひをつけるぎのうはありません。がすこんろならまだしも、たきぎでのひおこしは、ちょっと。ですので、またもゆめのちからをつかいます。
ぼうっ。
1ど、りんかんがっこうでやったことのある、きゃんぷふぁいやーをいめーじしました。そして、たきぎには、みごとにひがつき、みずのはいったなべをあたためはじめました。かわをむき、ひとくちだいにきったざいりょうを、つぎつぎとうにゅうします。さすがに、ほうちょうはつかえるせんとです。かわむきは、たいへんでしたけどね。あじつけは、やはりおなべのもとを、しょうかんしました。
おいしいおなべができあがるまで、おそうじのかいしです。さいど、いめーじ。このいえをぴかぴかにするための、おそうじどうぐを、いえでおかあさんがつかっているどうぐを、よびだします。いまこそ、せんとのおてつだいのせいかをみせるときです。だてで、しょうがっこう6ねんせいは、やっていません。
ほうきとちりとり、ではなく、じゅうでんしきそうじきをくしし、そのあとはもっぷがけです。そんなことをしていたら、いいにおいがただよってきました。よわびにしておいたおなべが、ほどよくにえてきたのでしょうか。まだ、おせんたくをしていませんが、それはしょくじのあとにしましょう。
ねたろうさんをおこし、おなべをつくえのうえにはこびます。そして、せんとじしんは、おせんたくにうつります。このせかいでは、せんとはおなかもすきません。ゆめのせかいは、べんりなせかいですが、いろいろ、つまんないせかいでもありますね。
ぜんじどうせんたくきと、おじいちゃんのもっていた、はつでんきをつかいます。はつでんきの、せいかくなつかいかたはわからないので、かんたんに、すいっちのおんおふのみであつかえるよう、つくりかえました。
さあ、せんたくがすすんでいるあいだに、たきぎをとってきましょう。おじいちゃんちが、のうぎょうをやっているので、せんとも、みたことだけはあります。やまできったきを、こまかくちぇーんそーなどでさいだんするのです。
むろん、せんとにはできません。ですので。
おかあさんが、ごみだしのときにつかう、しゅれっだーをいめーじします。それを、きをばらばらにできるぐらい、おおきいやつにへんかんして。それに、きりたおしたきを、どんどんほうりこんでいき、たきぎのやまをせいぞうします。
できあがったなら、とろっこと、れーるをせっち。やはり、どんどんはこびます。いよいよ、ばんじ、かんりょうです。
さあ、これで、ねむれるはずです。
・・・・よく、がんばったね。ありがとう。おやすみ・・・・
さて。
せんとは、やるだけやりました。ねたろうさんは、いつのまにか、じぶんのへやにもどり、ねています。
ですが、せんとだけ、ぽつりとたったままです。
これは、いったい。
せんとは、こんどこそ、あてどもなくあるきはじめました。もはや、ばんさくつきたのです。
ねむれない。それが、こんなにも、つらいものだとは。いままで、おもいもよらなかったことです。
よくうごいたことで、ますます、めがさえてきたようなきさえしてきました。
なにもかんがえたくなくなったせんとは、ふわふわと、うかんでいきました。もじどおり、ちにあしのついていないじょうたいです。
そして、かぜにのったせんとは、ふらふら、ふうせんのようにとんでいきました。
いかろすさんとであったときにも、でくわした、じぇっときりゅうにのり、せんとは、とおくはなれた、ゆきぐににまでたどりつきました。
これで、もし、さんたくろーすにでもあえたなら、こころもすくわれたかもしれませんが。
あえたのは、ふつうのおんなのこでした。ゆきぐにですので、かっこうはもこもこのあつぎです。ふだんのせんとなら、かわいいとおもえるかっこうでしたが、いまはもう、そんなよゆうもありません。ただ、ぼうっとみるだけです。
おんなのこのほうも、そらからふってきたせんとをみて、おどろいているようです。ことばをはっさず、せんとをじってみています。
みつめあうふたりですが、じかんは、まちがいなくすぎています。おんなのこは、じぶんが、なぜおもてにでてきたのか、おもいだしました。
すけーとのじかんだったのです。やっと、おもてにでてもよいくらい、ゆきがおさまりましたから。そらからひとがふってきたぐらいのことで、おどろいているひまはありません。
つったったままのせんとをおいて、おんなのこは、すけーとぐつをふりふり、ゆきみちをかけてゆきます。
あ。ころびました。でも、すぐにおきあがって、またはしりはじめます。
せんとも、ゆきがふれば、てんしょんがあがって、おもむろにゆきだるまをつくりはじめます。けれど、こけたあとのぜんりょくだっしゅはすごいなあとおもいました。
なにもすることのないせんとは、なんとなく、おんなのこをおいかけてみました。ゆきみちを、およぎます。ゆきをてでかきわけ、ばたあしでゆきをおしだします。せんとのとおったあとには、みちがつくりあげられてゆきますが、ふりかえらないせんとには、どうでもよいことでした。
こうほうから、ゆきをおよぐじょししょうがくせいがせまりくる、とはおもいもよらないしょうじょは、こんどはころばず、ちゃんとみずうみにたどりつきました。
みずうみには、いちめんにあついこおりがはられ、にんげんがのっても、びくともしません。もっとも、ひょんなことから、うすいかしょをわっておちてしまうと、もうたすかりません。せんだっての、なんぱせんのひょうりゅうしゃのように、じりきではどうにもならなくなります。
ですから、おんなのこは、まずこおりのあつさをみきわめます。いまのきせつならだいじょうぶとわかっていますが、いちおうね。
どうやら、だいじょうぶのようです。ひょうじょうでは、しかがあそびまわっています。あのこたちが、へいきでうごきまわれるなら、しょうじょのたいじゅうぐらい、どうってことありません。
しかにまじって、おんなのこもすけーとをはじめます。
ぺんぎんのように、すべりすべりここまできたせんとも、おんなのこのすがたをじっとみます。とても、たのしそうです。しかのむれは、ぺんぎんのようなせんとにきょうみをしめしていますが、せんとがちっともうごかないので、しかたちはあっちにいってしまいました。
おひさまのてらすなか、おんなのこがすべったあとは、きらきらかがやいて、まるでほうせきがとびちっているようです。
その、すけーとのおんなのこも、せんとがおいかけてきて、それでいてすべるでもなく、みているだけなのには、きづいていました。こっちにくれば、いっしょにあそべるのに、とおもいながら。
あいかわらず、ねそべったままのせんと。さむくないので、うごくどうきをめばえさせられないのですね。
しかし。
りょうて、りょうあしをうごかすまでには、きりょくもふっかつしています。やはり、せんとは、およぐように、こおりのうえをすべりはじめました。そのさま、まさにしょうがくせいぺんぎん。
おかしな、いや、ほんとうにありえないうごきをみせるせんとに、おんなのこも、またおどろきました。そらからふってくるにんげんは、やはりちがう。つよく、そうかんじました。
かわいいふたりのだんすは、こ1じかんほどもつづいたでしょうか。しょうしょう、くもゆきがあやしくなってきたところで、おひらきです。
「あなた、おうちはどこ?いまからで、かえれる?」
はじめて、おんなのこが、はなしかけてくれます。
「わたしは、とおくからきたの。でも、ひとりでかえれるわ」
そうです。きっと、かえれるのです。せんとは、じぶんにいいきかせるように、つぶやきます。
「そう。みかけないから、よそのひとだろうなとはおもったけど。じゃあ、はやくかえったほうがいいわ。また、きょうも、つもりそうね」
「そうね。はやく、かえるわ」
おはなしがおわると、おんなのこは、すっときびすをかえし、すたすたあるいていきます。かたでゆれるすけーとぐつが、かぜをきって、りりしさにはなをそえています。
おんなのこが、さって、どれくらいのときがすぎたのでしょうか。
とうとう、ふりはじめました。
ゆきふるせかいに、ひとり。せんとは、ねころがったまま。
このままねてても、けっしてしなないし、めざめもしないでしょう。
だから、でもないけれど。
ただ、せんとは、めをとじて、なみだをひとつぶ、こぼしました。
「やっぱり。このあたりに、りょこうしゃだって、だれもきてないって、かあさんがいってたわ」
あのおんなのこです。こんどは、すけーとぐつをいえにおいてきたようです。
おんなのこは、いったんいえにかえったとき、きょうあったことをかぞくにはなしてきかせました。ですが、このふきんで、そんなちいさなこが、いるはずがないというのです。では、あのこは、いえでなのでしょうか。きになったおんなのこは、おやをよぶまえに、じぶんでたしかめにきたのでした。まだ、よるというわけではありませんからね。
「あなた、しぬきなの?ここは、わたしのあそびば。だから、あなたをしなせるわけにはいかないわね」
おんなのこは、せんとをせおって、ふたたび、いえじにつきました。
あるきながら、おんなのこは、せんとのあまりのかるさに、おどろいていました。ゆきが、ふくにしみこんでいるだろうに、ほしくさのようなかるさです。
せんとはというと。まじかでみた、おんなのこのこうとうぶに、つむじをみていました。かわいい。
「ぼうし、おねがい」
「はい」
おんなのこのあたまに、ぼうしをかぶせてあげるせんと。
せんとをせおうとき、ひっかかってじゃまになってしまったぼうしを、せんとにもたせていたのです。
せんとは、おんなのこのぼうしと、ふくを、じっくりとみました。つかいこんで、ところどころ、つぎはぎしていて、あてぬのをしたあとがわかります。ですけれど、それも、とてもきれいにつくろってあります。いとと、ぬので、ゆきのけっしょうになっていますね。
せんとは、このおんなのこを、こっそり、ゆきんことなづけました。
「あなた、おなまえは?わたしは、せんと」
せんとは、ゆきんこになまえをきいてみました。
「わたしは、すのー。せんとなんて、へんななまえね」
すのーには、いわれたくないなあ。そうおもったせんとですが、すのーのなまえは、じぶんのかんがえた、ゆきんこという、あだなと、にていたので、ちょっとにっこりしてしまいました。
「ゆき・・すのーは、わたしをつれかえって、へいきなの?」
そうです。ここが、どこのちいきなのかしりませんが、こんなときは、けいさつに、ほごしてもらうのがいいはずです。
ただ、せんとはしるよしもないことです。ここから、もよりのけいさつしょまで、80きろめーとるのきょりだとは。すのーのはんだんは、いっさいまちがっていないわけですね。
「だいじょうぶよ。みしらぬにんげんでも、あなたみたいなおんなのこなら。せんとが、いかついおとこのひとなら、こわかったかもしれないけれど」
たとえば、ぐりずりーのような。それなら、こえなどかけず、いちもくさんに、にげたでしょうね。
でも、せんとは、みょうなかっこうの、ただのおんなのこ。ほうっておけば、はるになるまで、ひょうぞうになってすごすはめになります。
ですから、ゆきんここと、すのーは、いえまでせおってかえるのです。
「ただいまー」
すのーは、ぶーつのまま、いえにあがります。すりっぱにかえたりは、しないようです。なので、せんともそれにならい、くつをはいたままです。
「おじゃまします」
せんとは、ちょっと、きおくれしはじめました。なんのいんがか、じぶんじしんは、とくにこまってもいないのに、ひとのいえにあがりこんでしまいました。いえ、まあ、だれにもかいけつできないいみでは、こまっていますが。
まあ、なんでもいいです。どうせ、ゆめなんですから。
すのーは、どうやら、おとうさんとおかあさんとくらしているようです。てーぶるのうえのこっぷが、3つ。そして、せきについているのは、おとうさんとおかあさんのふたり。もちろん、へやにいるのかもしれませんけどね。
「おお。だいじょうぶなのかい?さあ、はやく、だんろのそばに」
おとうさんが、あいているいすを、だんろわきにもってきてくれます。すのーは、せんとをそこにおろしました。せんとは、ほんとうにかるくて、すのーでも、かんたんにうごかせるのです。
せんとも、いまさら、じぶんにはいっさい、もんだいないとはいえません。ですから、おとなしくなされるがまま、だんろのひに、あたっておりました。
そうして、いふくもたしかめられ、まるでぬれていないのを、ふしぎがられたりしているうちに、おかあさんが、みるくをもってきてくれました。
ずずず。
せんとは、とりあえずありがたくいただきました。ひょっとしたら、ぎゅうにゅうのさようで、ねむくなることも、ありえますし。
おとうさんとおかあさんは、しきりにぎもんをしょうじさせていました。くちには、しませんでしたが。
なぜ、ゆきにねころがっていたせんとのふくが、ぬれていないのか。それに、このこは、まったくふるえていない。さらに、かおいろも、まるでふつう。くちびるがあおくなっていたり、とりはだがたっていたりしない。どころか、とてもきれいなはだ。
ふしぎなことも、あるものだ。おとうさんとおかあさんは、そうけつろんづけました。なにか、へんてつがあるにせよ、こんなちいさなこどもをけいかいするひつようはありません。それに、もしかしたら、まったくあたらしいけがわだったりするのでしょう。
せんとが、あたたかなみるくを、ゆっくりゆっくりのみほすと、それをまっていたおかあさんは、しちゅーをよういしてくれました。
「ありがとうございます」
「どういたしまして」
やっぱり。なにか、へんなこだと、おかあさんはおもいました。せんとのたいどは、とてもへいぜんとしたものです。ついさっき、そうなんしようとしていたにんげんのようすには、おもえません。
ほんとうに、ふしぎなこ。
そんなふうにおもわれているとは、しらないせんとです。
さて、しちゅーをたべおえたら、どうすれば。このじょうきょうで、それじゃおじゃましましたー、とおわかれするのは、さすがにへんです。そとにいれば、ふりつもるゆきにつつまれ、ゆきだるまになってしまうのですから。
こうなれば、かくごをきめて、ひとばんおじゃましましょうか。そうすれば、あすには、ふつうにこのいえをでられます。
せんとは、このいえのひとたちにおせわになって、すのーたちをすきになってしまったので、へんにしんぱいをかけさせたくなかったのです。
せんとは、かぜをひくといけないので、おふろにもはいらず、そのままねることに。よぶんなべっどはないので、すのーのべっどにおじゃまします。
「あなた、ほんとうにおかしなこね」
「そう?」
すのーは、せんとがまったくねつをださないので、なんてがんじょうなこなんだろう、とおもっていました。
このまま、すのーの、ねいるのをまつしかないか。せんとは、ぬくぬくのもうふのなかで、そうおもいました。
そして、ねました。
ぱちり。
せんとは、まばたきをしました。せんとにみえたのは、いつものじぶんのおふとん。おきにいりの、あるちゃんのかばーのかかった、おふとんです。なら、ここは、せんとのべっどのうえ。
かえってきたのです!
ばっ!
せんとは、とびおき、ぜんそくりょくで、りょうしんのへやにいきました。
いました。おとうさん、おかあさん、いもうと。ちゃんと、いました。
「はああああ・・・・・」
せんとは、ながい、ながあい、ためいきをつきました。そして、ぶるるっとふるえました。おきて、すぐにとびだしたので、ねまきのうえに、なにもはおってなかったのです。
そっととびらをしめて、せんとはりびんぐにいきました。すとーぶをつけて、こーひーをいれます。せんとは、5ねんせいになったころから、あまいこーひーなら、のめるようになっていました。ぶらっくは、まだにがてですけどね。
ほんとうは、こーんすーぷもおいしいのですけど。また、ねむくなってもこまりますもの。こーひーで、しっかりとめをさますのです。
あたたまってきたへやのなか、てれびをつけます。あさのにゅーすをやっていました。いま、あさの6じだそうです。まだ、みんなおきてないわけです。
「きょうは、ぜっこうのくりすますびよりです。おでかけのみなさま、さむさにはしっかりとおきをつけください」
てれびのおねえさんが、ゆきのよほうをおしえてくれました。
どうやら、ほわいとくりすますです。
かーてんをあけてみると、たしかにべらんだには、ゆきがつもっていました。
とはいえ、ゆめのなかで、すのーとであったところとは、くらべものになりません。これぐらいなら、ぜんぜんだいじょうぶそうです。
せんとは、あさごはんをつくりはじめました。といっても、てのこんだものではなく、ごはんにふりかけです。それだけをおなかにいれて、はをみがき、みじたくをしました。
せんとは、ふゆのよそおいにみをつつみ、ちゃんとてぶくろをはめ、そとにでます。
いえのそとは、うっすらとゆきげしょうされていて、まちじしんが、しろいいきをついているようです。
せんとは、まちにでるのではなく、いえのげんかんさき、にわさきにて、ゆきをあつめはじめました。ゆきをつかんで、げんかんに。ゆきをあつめて、げんかんに。そうしてげんかんにかきあつめたゆきは、それなりのりょうになりました。
そして、さらにゆきを2つのかたまりにわけ、おおきいのと、ちいさいのに、かこうします。そして、まるくかたちづくったおおきいののうえに、おなじかたちのちいさいのをかさね。
ゆきだるま、かんせいです。
せんとは、ひかげをえらんでつくったつもりですが、もしひざしがむいたなら、とけてしまいます。
はやく、おきないかな。
これは、せんとから、いもうとへの、くりすますぷれぜんとです。
ゆめのせかいでは、せんとは、なにもできない、なにをしてもいみがない、そんなじょうたいでした。なにをしても、だいじょうぶなかわりに、じゆうにねむれもしないせかい。
ぬれることも、さむくかんじることもない、かみがかったせんとの、つらくないのに、つらかったばしょ。
いま、せんとは、とてもあついです。さむいそとにでるため、ちゃんとあつぎをして、そうして、ゆきだるまをつくっていたのですから。あせをかいて、きもちわるいです。ては、ゆきをつついていて、てぶくろのうえから、さむさがつたわってきます。はやく、おふろにはいって、きもちよくあたたまりたいものです。
あさぶろとしゃれこんだせんとは、やっぱり、こっちのせかいがいいなとおもいました。ぬれたてぶくろをかわかし、ぬれたしゃつをせんたくきにほうりこまなければならない、めんどうなせかい。
ですが、こんなにおふろをきもちよくかんじるのは、このからだが、あせをかきもするし、さむさにふるえもするし、そして、おゆのあたたかさをかんじもするから、ですよね。
いもうとも、きっとこれから、さむくてかぜをひいたり、あつくて、おなかをだしてねて、かぜをひいたりするのです。
そんなとき、なんでもできるせかいなら、どんなにか、いいだろうと、おもうこともあるかもしれません。ですが、そのせかいは、いもうとにとって、しあわせなだけのせかいとは、かぎりません。
きょう、せんとは、それをしりました。
いつか、おおきくなったいもうとに、おしえてあげるため、いまは、せんとは、いっしょにあそぶことにしました。
あんなに、きにいらなかったはずのいもうと。でも、まだ、いもうととは、はなしてもいないのです。
ゆめのせかいのひとたちは、あかのたにんのせんとのいうことを、ちゃんときいてくれました。やさしくしてくれました。
せんとと、いもうとは、けんかをしているわけでも、おたがいきらいあっているわけでもないのです。
もちろん、いつか、しまいげんかもするのでしょうけど。
そのとき、せんとは。
いいえ。
いつだって、せんとは、いもうとと、いっしょにいるつもりです。
あのとき、すのーが、せんとをおぶってくれたように。
すのーが、じぶんのいえにつれかえってくれなければ、せんとは、いまもゆきだるまになって、ずっとあそこにいたかもしれません。
せんとは、このげんじつのせかいでは、ただのおんなのこです。ゆめのなかのように、なんでもできたりしません。
でも。
ゆきだるまは、つくれました。
これなら、いもうとといっしょにあそべるはずです。いもうとに、みせてあげられたなら、あのこをえがおにできる、かも。
せんとは、おおいそぎで、そとにでました。だから、じぶんのへやに、りょうしんがおいてくれたぷれぜんとをしりません。ですが、いもうとにあげるぷれぜんとは、よういできました。
せんとちゃんは、しんじんさんたくろーすには、なれましたね。
このあと。せんとといもうとのものがたりは、ずっと、ずううっとつづきます。だって、ふたりは、これからもいっしょなんですから。
それから。
あのふなのりさんは、ぶじにあたらしいふねにのれたようですよ。
いかろすさんも、すまいとおしごとをみつけられました。
ねたろうさんは、あいかわらず、ねていますね。
そして、すのーは。
いつかであった、いつのまにかきえたしょうじょのことをわすれることなく、おとなになって。とおい、にほんというくにで、としのはなれたしまいにであったということです。
もし、あれが、ゆめでなかったなら。あのふしぎなたいけんは、なんだったのでしょう。とても、ふしぎです。
でも、せかいじゅうにぷれぜんとをおくりとどけられるような、すごいひとなら、もしかしたら、ね。
おしまい。