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赤の女王と無色の僕  作者: 猫田33
紫陽花は彩りを増す
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2

「佐伯は、私の婚約者よ!横入りは、止めて頂戴」


黒目のつり目がちの瞳が印象的な美人が、鼓膜が破けそうな声で怒鳴りこんできた。執務中だったアンジェリケは、声もなく驚く。


「だからね。あなたには!」


「アンそれは嘘だから!ルリちゃんも何やってるの!?」


慌てた様子の有知郎が息切れしながら入ってきた。たぶんルリと呼んだ女性を追いかけてきたのだろうがルリはまったく息切れしていない。


「有知郎にしては、案外早かったわね」


「僕の婚約ご破算にしたいの!?兄ちゃんに怒られるよ」


「だってユウってば一人でさきに行っちゃたんだもん。未来の義妹を私も見たかったのよ。それに私嘘は、言ってないわ。ユウも佐伯だし」


ルリは、頬を膨らませ有知郎に抗議した。


「ルリちゃん、お願いだから国際問題になるからやめてね」


「有知郎さんその方は、どなたですの?」


「悠太郎兄ちゃんの婚約者で、僕の従妹の成瀬瑠璃華さんです」


「はじめましてクイーンアンジェリケ。お会い出来てうれしいわ。私のことは、瑠璃華でもルリでもいいわ。お姉さんも可!です」


瑠璃華は、最初こそ淑女らしく微笑み佇んでいた。しかし途中から満面の笑顔で親指をだす様は、成人女性の行動には見えない。


「私こそお会い出来て光栄です。アンジェリケではなく愛称のアンとお呼びください。ルリさん」


「うっかり屋の有知郎にぴったりの落ち着き具合だね」


「うっかり・・・ですか?私には、そうは見えなかったのですが」


「ははぁ~ん、有知郎め。アンに良いところをみせるために隠してるな」


ニヤニヤと訳知り顔で瑠璃華は、有知郎をみた。有知郎は、溜め息をつく。幼いころから一緒にいるので悪巧みしている間の顔は、反論は一切しないと決めていた。


「私は、覚えてるわよ。学校の宿題で料理作ったとき塩と砂糖を間違えて甘いミネストローネ作ったとか。庭いじりがしたくて急いで帰ったら下履きのまま帰ったとか」


「さすがに僕も恥ずかしいからやめて!」


「あら、アンは知りたいでしょ?ということでお茶しませんか」


「私お茶は、飲めないのですが・・・」


アンジェリケには、口どころか顔もない。そもそもどういう原理かわからなかったが食事も必要なかった。


「お茶が飲めなくても楽しむ方法は、いくらでもあるわ。マリアンさんもそう思うでしょ」


「わっ、私ですカ!?そもそもなぜ私の名前を知っているんですカ?」


部屋の隅に控えていたマリアンは、目を見開いて瑠璃華を見ている。


「悠太郎から金髪碧眼の天使みたいな見た目のマリアンって侍女がいるって聞いたのよ。あなたであってると思うけど違うかしら」


「私は、マリアンと申しますが天使だなんてお恥ずかしいでス」


マリアンは、顔を薔薇色に染めて慌てだした。その様子をうっとりとした顔で瑠璃華がみつめる。


「かわいいし。和むわぁ」


「はい、マリアンは、かわいいです」


「さて、畑の整備の続きやるかな」


状況的に今流行りの女子会が行われそうだと思い居心地が悪くなる前に部屋から出る。毎回自分が介入しなければ、休憩しないのでちょうどよい。さらにいえば瑠璃華が来るまで畑の整備をしていたのは本当である。このまえ正式に許可をもらい5ヘクタールほどの場所をもらった。土を調べると予想通り塩分や亜鉛が多い。大変だろうが、自分が出来るこの国の為になることが見つからない。

母方のお婆ちゃんがいっていた。


"働かざるもの食うべからず"


城に来てからの僕は、なにもしていない。英語やマナーを学んだ。しかしそれは、何も生み出していない。日本にいたときは、畑を耕し苗を植え水をあげた。時間があれば花もそだてる。出来た野菜は自宅の食卓に上がったり朝市に出したりしてお金を稼いだ。


「それにしてもまぁ、石がよくでる」


漬物石に使えそうなほどのものは、出てこないが拳以下の石がゴロゴロでる。小さくても数があればきつい。石を入れるために用意したバケツがすぐにいっぱいになる。しかたないから大学の友人に台車を送ってもらおう。


「なにしてるの」


「うわわっ!」


日傘をさしたフリージアがうしろに立っていた。叫んだ有知郎に無表情ではなく怪訝な顔をみせる。前は、無表情が多かったがソルトが好きだと言ってから表情がでるようになった。


「うしろめたいこと…してた?」


「うしろから声をかけられたら誰でもびっくりするよ」


「父や母とおなじ反応するから。二人とも不倫してるの知ってた。だから脅えなくていいのに」


「親心じゃないかな。可愛がってる一人娘に知られたい内容じゃないと思うよ」


そして問題の二人は、王位の簒奪と不敬、傷害の罪で獄中である。他にも罪があるらしいが詳しい法律は、わからない。二人が捕まったことでフリージアの女王候補の件は、流れると思ったら違うらしい。アンジェリケは、どうやって臣下を説得したのだろうか。


「私今年で11歳になるからあの程度のことわからないはずないのに。お父様とお母様は、夢を見すぎです」


「・・・辛辣だね」


「私は、女王候補です。相手の思考がわからなければなりません。味方だけでなく敵の利を踏まえなければ行動が起こせない。・・・アンジェリケおば様がそう言ってました」


「アンが?お父さんと同じこと言うんだね」


佐伯家で昔話がわりに聴かされるのは、政策や人心掌握の方法。およそ子どもに聴かせる内容のものではない。


「あなたの父は、ニホンのシュショーでしたね。ニホンの政治はとくにそうでしょう。沢山の組織の意向を汲まなければ政策が通らない」


「うん、だからいつも忙しそうだったよ。アンもずっと忙しそうだよね。たまには、休憩させないと」


「それに関しては、同感です。私が言ってもこれだけはなかなかしてくれない。でも有知郎ならできるんじゃない?」


有知郎は、フリージアがなにを言いたいのかわからない。有知郎ができることとはなんだろうか。


「デートすればいいんです。大好きな有知郎の頼みなら聞くはずです」


「えっ、デート!それだと誘うの僕だよね・・・?できるかなぁ」


「優柔不断な上にヘタレですか」


「フリージアちゃんの言葉がひどい。そもそもそんなことばどこで覚えたの?」


「Twitter」


フリージアは、スマホをポシェットから取り出した。


「うわースマホだー。すごいなぁ」


有知郎は、目をキラキラさせてスマホをみる。それは、どこか尊敬の眼差しと言ってもいいかもしれない。



「あなたもこれくらい持ってるでしょう。シュショーの子息なら身の安全を確保する必要があるでしょうからGPS付きのとかを」


「GPSはついてるけど僕のは携帯だよ。なんだか壊れちゃうから、らくらくフォンっていうの使ってる」


フリージアは、内心絶句した。確かそれは、携帯を使いにくいご老人のために開発されたものではなかったか。


「そういえばなんでフリージアさんは、どうして畑に来たんですか。いつも城の外にでるときは馬車に乗ってるよね?」


「国民の4分の1が農業従事者。なので見学を通して国民生活を知ろうと」


「あっ、フリージアさまいらしてたんですか」


藁を持ったソルトがフリージアに笑いかける。途端にフリージアは、顔を真っ赤にさせた。有知郎は、ソルトがここにいるからフリージアが来たに違いないと思った。小さな努力も積み重なればとても大きな努力になる。


「ごっごきげんようソルト。なにをしているの?」


「有知郎さまが畑に敷く藁がほしいとおっしゃったので近くの酪農家から藁をいただいてきたんです。有知郎さま量は、これくらいでよろしいですか?」


「うん、充分だよ。置いといて」


「なぜ藁を敷くのですか?土に種を蒔けば育つでしょう」


「雑草が生えるのを抑えたり、作物に泥がつくのを少なくするためですかね。あと使い終わった藁は、土に混ぜて肥料になるから便利なんだ」


などと説明している有知郎の脇には、黒い物が入った大きな袋が置いてあった。フリージアは、何かわからずじっと袋をみる。


「それは炭だよ。日本の古い農業は、薬じゃなくて日常にあるものを使ってたんだ。日本は、あまり物がある国じゃなかったからね」


「日本に物がないとはどういうことですの。綺麗な真水があれば火山からできる温泉、など様々なものがありますわ」


「うん、でもね。いまの日本の暮らしは輸入にずいぶん頼ってるんだ。食べ物も金属も石油も人もすべて。輸入が悪いってわけじゃない。でも輸入先の国が輸出出来なくなったら?とくに食べ物に関して。そうなれば何人が餓死するのかな」


有知郎の口調は、穏やかだがなぜか威圧感を感じさせる。フリージアとソルトは、なぜそう思うのかわからなかった。


「他の国から輸入すればよろしいのではないですか」


「他の国でもそれが足りなかったら輸出しない可能もある。もしくは、高い金額をふっかけられたら?困るのは、毎日ギリギリの生活を強いられている国民ですよ」


「有知郎様は、なにを言いたいのですか」


「人間最後は三大欲求に戻るのではないかなということですかね?国民が食べる分は、なるべく国民で作るべきかと。確か、地産地消といいます」


「有知郎さまは、チサンチショーをなさりたいのですか」


「近いことはする。ところでフリージアさんは、いま暇があるかな。ソルトと一緒にトマトの苗を持ってきて欲しいんだけど」


「有知郎さま!そういう力仕事は、俺だけで充分です。それに重いものをフリージアさまに持たせるなどできません」


ソルトが全力で有知郎に懇願する。だが本人はやる気があるようで。


「ベルン私にも手伝わせてください。妖精達も手伝いたいと言ってます」


などと言っている。最終的にソルトが折れてフリージアは、表情に出さずとも歩みが軽いので嬉しそうなのがわかる。


「よしよし、まんざらでもなさそうだな。でも妖精ってどういうことだろ」


「フリージア姫は、妖精を見て会話できるんですよ。王家に入る人間としては、良い能力です」


「オリバーさん」


アンジェリケの第三秘書のオリバーがたっていた。全くだらけた様子のないスーツ姿は、緑豊かな景色と対極にありひどく違和感がある。


「王家に近い人間は、なにかしら人ならざる能力を持っていることが多いんですよ。陛下は、魔力を持っているので魔術。先先代は、植物の育成強化の能力。などなどありますよ」


「そうなんですか。すごいですね~・・・」


「他人事では、ないですよ。もし有知郎様と陛下との間に御子が生まれればそういった能力を持っていておかしくないのですから」


「その言い方は、僕が気味悪がって子育てを放棄するとでもいいたいのかな。でもそれくらいで僕は、見捨てやしないよ。ただ子育てが大変そうだなとは思うけどね」


有知郎は、苦笑するが過去にそういう事例があったからこそ聞かれた話題である。父と子の中が悪いというのは、理由が理由なだけに外聞が悪い。


「余計な心配だったようです。失礼いたしました。これからが本題ですが祭りについてききたいのです」


「祭り・・・ですか。なぜ僕に?」


「日本人は、祭りが好きだと聞いています。半年後に建国祭がありますが地味でして。なにか工夫があれば観光客が増えるかと」


「半年後ってことは、8月?」


「そうなりますね」


「日本でもいろいろ祭りがある時期だけど理由が違うし気性も違うからなぁ。堅実で強かな人がこの国の人多いよね」


小国ゆえになんども戦争に巻き込まれてきたからこその気性だ。日本人も似た感じがあるが祭となるとたがを外す人物が多い。この国は、どうなのだろうと思う。


「いつもの建国祭は、どんな感じ?パレードをしたりする?」


「陛下は、事情が事情ですから人前にあまりでません。建国祭の時は、国民に酒や料理を振る舞うといった感じですね 」


「それだけ?なにか芸をやったり劇を披露したりしないの」


「しますけどそれはどこでもしていて賑わいに欠けるといいますか」


他の国でもしているから集客効果がないということだろう。


「ようするについ来たくなる独創性がほしいということだね。・・・・そういえばこの国の国民って武芸が得意な人が多いんだよね」


「はい、現在兵役はないですが自衛のために各個人が鍛えますから」


「なら闘技場と演武をしたらいいんじゃないかな。三位までには、商品なり賞金をだして」


「人集まりますかね?」


「集まるよ。問題は、ルールと宣伝、地域の安全だと思うよ。ルールは、1からつくらなきゃいけないし。国民だけなら宣伝は楽だけど出来るなら国外の人間にも入って欲しいし。でもこれ以上は、僕じゃなくてオリバーさんや官吏の人に頑張ってほしいな」


有知郎は、いまはアンジェリケの婚約者であり客人である。だから深く口をだすわけにはいかない。相談されたから答えだけでよい。


「そうですね。詳しいことは、我々がするべきでしょう。ただ質問があったら答えていただきたいです」


「それくらいならいくらでもどうぞ」


「な~にやってんの!」


「あ、ルリちゃん」


「相変わらず土いじり好きね~。私は、同じ体を動かすといってもこっちのがいいわ」


瑠璃華は、そういうなり棒を振り回す真似をした。正しくは薙刀らしいのだが現物を見たことがないので棒を振り回しているようにみえる。


「そういえばルリちゃんのそれって武術の一つだよね。いま。オリバーさんと話してた武術大会にでてみたら?」


「この国は、武術大会があるんですか?」


「有知郎様が原案をだしてくれたのですよ。もし、原案が通ればぜひ日本の方にも出場いただきたいですね」


「へー、それは面白そう。もし、決まったら知り合いに宣伝しときます」


瑠璃華の知り合いとの言葉にいささか不安がよぎったが、いろいろな人物がいたほうが盛り上がるだろう。



「ご協力ありがとうございました」



オリバーがにこやかに答えその場は、お開きになった。



その半年後 ミドルフィードで武術大会が行われた。そのときに起きた騒動によりミドルフィードの知名度が上がりアンジェリケの評価が大きく変わることを有知郎は、まだ知らないのだった。

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