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「うわぁ、原石を発見しちゃったヽ(≧▽≦)/!ネッネッ、そう思うでしょ( ´艸`)」
「ハイっ!サエキ様カッコいいです!!」
「そして私たちの才能が恐いわぁ~www」
今日は、ついに婚約発表とその祝賀会のパーティーが行われる日。有知郎は、用意されたスタイリストとメイクさんにより磨きあげられ現在絶賛べた褒めされ中である。実際婚約発表の後すぐにパーティーを行うので、いつもより華やかな格好をしていた。
ふわふわとした明るい茶髪の髪は、整えられて前髪でいつも隠れている顔が見えており。さらに白い学ランのような格好は、通常ならば着られているはずだが背が高く細いので似合っておりどこかの貴公子のようであった。
「最初ちょっと不安だったけどこれ私だったら惚れちゃうわ」
「あら姉さん、私はわかってたわ!でも、想像以上に似合うわね~♪」
有知郎は、スタイリストとメイクさんの言葉に苦笑いした。実は、この二人姉妹のオカマである。
「300年間ミドルフィードには、王子はいなかったですけどサエキ様なら充分いけます!」
「嫌だわベリーちゃん。ウッチーは、王様になるんでしょ?王子じゃ困るわよね~?」
「それより、そろそろ時間じゃない?」
時計を見ると確かに記者会見の時間が差し迫っている。有知郎は、いまさらながら緊張してきた。すると、ドアが開いて同じく着飾ったアンジェリケが入ってくる。薄いピンクの生地に白のレースをふんだんに使用した可愛らしいが上品なドレスだった。頭には、縁にドレスに付いているようなレースがついたヴェールをつけていた。
【ウチローその格好お似合いです】
「ありがとうございます。アンも可愛らしいですよ。まるで…アンジェリケみたいです。ひらひらしたピンクと白のドレスが彷彿させます」
【アンジェリケみたいとはなんですか?私の名前はアンジェリケです】
「アンジェリケという品種のチューリップがあるんです。チューリップの咲く姿は、まっすぐ伸びて綺麗だとも凛としているとも言えます。でも花びらは可憐でとても可愛らしい」
「きゃー、花好きの男性って超ス・テ・キ!\(^o^)/」
「アンジェリケ様いい人ゲットされてラッキーだわ。フリーならサエキ様彼氏にしたいもの」
【私にはもったいないほどいい方です】
アンジェリケは、顔を隠すようにホワイトボードを持っている。いつもは胸元辺りにホワイトボードを持っているので有知郎は不思議に思った。
「あらん、アンジェリケ様照れてる~( ´艸`)。可愛い~」
「えっ、そうなんですか」
「あれは、どうみても乙女の恥じらいかた!理由はヒ・ミ・ツ♪って類よ」
「はぁ‥‥?」
「皆さん盛り上がっているところ申し訳ありません。そろそろ移動しませんと記者会見の時間に遅れます」
西陣が手帳を片手に持って言う。時計を見ると記者会見まであと15分しかない。
【わかりました。ウチロー行きましょう】
「はい」
記者会見は、特に問題なく終了した。質問のほとんどをアンジェリケが答えたためである。有知郎は、そのことを申し訳なく思う。だが下手に何か話せば何が起こるかわからず黙って笑うことが一番最善だと思うことにした。
【お疲れ様です】
「僕は、たまに話して後は笑っているだけでしたから大丈夫です。それよりアンの方が疲れませんか。ずっと書きっぱなしだったでしょう」
アンジェリケは、話すことができないためホワイトボードに字を書く。あれだけ書いていて腱鞘炎にならないかと有知郎は、不安になった。そこで思いつく。
「アン右手を出して」
アンジェリケは、首を傾げながら右手をだした。アンジェリケの手は、白く細長くよく見るとペンだこがある。有知郎は、ずっと書いているのは大変だろうとも思った。アンジェリケの右手を両手で包みマッサージをする。だがアンジェリケは、サッと手を引き抜き隠してしまった。
「すみません、マッサージをしようと思ったんですが嫌でしたか?」
有知郎が尋ねるとアンジェリケは、ホワイトボードをすぐにとりサラサラと何かを書き出す。
【驚いてしまっただけです。親切をあだで返すような真似をしてしまいすみません】
「事前に言わなかった僕が悪いんです」
【ウチローは、悪くないです。マッサージお願いできますか?】
「はい」
有知郎は、アンジェリケの手を再度包みゆっくりと揉む。アンジェリケの手は、ひんやりとしてちょっとカサついていた。だがマッサージしているうちにちょっと手の血色がよくなった気がする。
「こんなものでいいですかね‥‥。調子はどうですか?」
有知郎がマッサージを終えてアンジェリケに尋ねる。だがアンジェリケは、まったく動かない。
「アン‥‥寝てるの?」
有知郎がアンジェリケを覗き込むと、アンジェリケが椅子を倒しながら立ち上がった。近くにあったホワイトボードに手を伸ばすとものすごい勢いで書いて出す。
【ありがとうございました。そろそろ時間のはずなので行きましょう】
「はい」
*******
アンジェリケは、内心とても焦っていた。有知郎が自分のためにマッサージをしてくれたのは嬉しい。
そもそもマッサージなど初めての経験である。家族は疎遠だったうえに、呪いがかかって醜い自分による人物はいなかった。しかし、有知郎に手を握られた瞬間背中がムズムズしはじめる。まるで虫が背中を這っているように気になった。同時にゴツゴツとしている手が、相手が男性ということを意識させる。初めての感覚にアンジェリケは、どうしようかと迷った。だからマッサージが終わったことにも気がつかない。
「アン寝てるの?」
有知郎の問いかけでマッサージが終わったことに気がついた。さらにいつもは前髪に隠れている有知郎の顔が近く逃げるように立ち上がる。彼が目を見開いて見るのでまた自分が微妙な態度をしたことに気がついた。取り繕うためにホワイトボードに急いで書き込む。
【ありがとうございました。そろそろ時間のはずなので行きましょう】
有知郎が肯定の返事をしたので一緒に部屋を出たのだった。
*******
パーティー会場となっている広間は、昔話にでてきそうな場所になっていた。シャンデリアが飾られ暗闇がないと思うほど明るい。さらに豪華としか形容しがたい料理が次々ならんでいる。
「うわぁ~、すごいな」
有知郎は、アンジェリケと違う時間に会場いりすることになった。アンジェリケでなければならない緊急の書類がきてしまい執務室に戻ったためである。だがこれには、もう一つ理由があった。アンジェリケの家臣が有知郎をテストするためである。有知郎の語学力、作法、人柄、外交力がどれくらいあるのかわからないからだ。原因として有知郎が政治にまったく関わらなかったからということがあげられる。アンジェリケが広間に到着する本当に短い時間であるが"有知郎一人だけ"を会場にいれたのだった。
『こんばんは』
『こんばんは』
青い色のドレスをきた女性が優雅に笑って有知郎に近づいてきた。有知郎は、なるべく笑みを浮かべ女性に返事を返す。すると女性の両脇にピンクのドレスと白のドレスを着た二人の女性が近づいてきた。
『ティナ狡いわ。私が先に話しかけようと思ってたのに』
『そうよ。いきなり、いなくなったと思ったら別の場所行っちゃうなんて!』
『早い者勝ちでしてよ。すみませんが名前を教えていただけません?』
若い女性らしい高い声で話すため非常に聞き取りずらい。しかも女が3人集まったので姦しい。
『僕の名前ですか?有知郎です』
『私は、ワットフィード・グラティナですわ』
グラティナが答えると何かいいかけたがピンクのドレスの女性が押しのけた。
『私は、ノースフィード・リナリア。どちらからいらしたの?』
『二人ともはしたないですよ。私は、イースフィード・クリスティーナと申します』
『ワットフィード、ノースフィード、イースフィードということは、あなた方は公爵令嬢の皆さまですか?』
有知郎は、ソルトの説明を思い出して言った。だいたいフィードと名のつく家名の人物は、公爵だと聞いている。
『はい、そうですわ。あの、よろしかったら…その…』
『クリス、ウチロー様をダンスに誘うつもりでしょう!?私が誘うつもりだったのに~!』
あからさまにリナリアが頬を膨らませる。まるでフグかタコのようだ。三人娘は、互いに口喧嘩をはじめる。有知郎についてのことなのに本人は、別のことが気になっていた。テーブルに飾られた花の種類や名前が、わからないものがあったからだった。ぼーっと花を見ていると突然大きな声が響く。
『アンジェリケ女王陛下のおなりです!』
騒がしかった広間が一瞬で静寂に包まれた。すると観音開きの扉が開かれゆっくりと、アンジェリケ女王が広間の台になっている場所に歩いていく。粛々という言葉がまさにあう光景で有知郎は、黙ってアンジェリケが台に向かうのを見ていた。アンジェリケは、台に上がると背筋を伸ばす。
『アンジェリケ様はに変わり私宰相のチェシレが代弁させていただきます。
まず、お忙しいところ婚約披露パーティーにお集まりいただきありがとうございます。今日は、婚約発表とその祝いを兼ねています。ささやかながら料理や音楽を準備しております。皆さんに楽しんでいただだけたら幸いです』
会場から割れんばかりの拍手が送られ、アンジェリケは手を振って答えた。
『では、本日の二人目の主役の佐伯有知郎様に登場いただきましょう!』
アンジェリケがいる台を除き会場が一瞬で暗くなる。驚きの声が聞こえた後に有知郎のところだけが明るくなった。周りがざわついたが気にせず台を目指す。有知郎は、台に近づくとマイクを手渡されたが何を話すべきか迷った。農業や園芸ならいくらでも話せるが…。だがそこで有知郎は、閃きアンジェリケの近くに必ずいるはずの人物を探す。予想通り近くにいた。
「西陣さんすみませんが今からいうことを英訳してください」
西陣がジロリと有知郎を見たがマイクを受け取ったので話してくれると判断し始めた。
「はじめまして僕の名前は、佐伯有知郎ともうします。挨拶がわりに一つ話があります。
皆さん、僕がいた日本の国花をご存知でしょうか。日本の国花は、サクラといいます。春に薄いピンク色の花が咲き短い期間で散る樹木です。そのサクラには、ソメイヨシノという品種があります。ソメイヨシノは、皆さんが知っているような種をつける植物ではありません。純粋なソメイヨシノは、接ぎ木でしか育ちません。それは、成長することに人の手が必要ということになります。僕は、国とソメイヨシノは同じだと思います。人の手を借り成長し花を咲かせる。僕は、アンジェリケ女王陛下と一緒にこのミドルフィードを育て花咲かせたいと思っています。ただ大樹を育てることはとても、大変なことなのでお手伝いいただけたらとも思っています」
西陣が翻訳し終えると会場からいっせいに拍手がおこる。途中から有知郎は、冷や汗かいていたが内容は大丈夫だったかと心配だった。有知郎の隣では、アンジェリケが拍手をしている。嬉しくて有知郎は、満面の笑みでアンジェリケに笑いかけた。
『佐伯様ありがとうございました。それではパーティーを始めたいと思います』
宰相が宣言すると楽団が音楽を奏で始めた。会場にいる人々は、料理を食べたり空いている中央で踊っている。有知郎は、それを眺めていると服の袖が引っ張られた。だいたいこういうことをする人は、わかっている。
「アン」
【お疲れ様です。素晴らしいお話でした】
「ありがとうございます」
誉められて自然と顔が綻ぶ。日本にいたとき有知郎は、誉められたことがほとんどなかった。唯一誉められたのは、教授ですら気がつかなかった発育不良の原因を発見し改善できたときだけだ。
【お礼なんていいです。私は、とても嬉しいと思いました】
「なぜ?」
【あなたは優しいからずいぶん無理をさせていると私は思っていました】
「優しいかは、わからないけど無理はしてないよ」
『ご婚約おめでとうございます。アンジェリケ女王陛下』
台の下に中年男性がいた。笑顔だがそれに似合わず目がギラギラしている。まるで父親のとりまき達と同じような顔をしていると有知郎は思った。
【ワットフィード公爵久しぶりですね。奥方の調子はいかかですか】
『えぇ、最近調子がよいと言っておりました。陛下のおかげです。つきましてはあとでお礼の品を受け取っていただきたいのですが』
【再三申し上げておりますが私は受け取らないと申しました。私に送るものがあるなら領民の生活に還元していただきたいですわ】
『さすがアンジェリケ女王陛下、王の鏡たる発言ですな』
感嘆の表情を浮かべているが目は、相変わらずギラギラしてちょっとこわい。いつもこんな人物を相手にしているのかと有知郎は、哀れみと尊敬の混じった表情でアンジェリケを見ていた。それからしばらくしてワットフィード公爵は離れていった。心なしかアンジェリケが疲れているように見える。ただ姿勢正しいのであからさまではない。
「アン」
【なんですか】
「花は好きですか?」
【はい。幼い頃よく花の絵を描いていました】
「なら、このパーティーが終わったら花を贈ります。アンが頑張ったご褒美に」
有知郎は、花を贈るくらいなら今の自分にもできると思った。大きな花束でなくていい、可愛らしくてホッとするような花を一輪でも贈ればよい。
【そんな、もらうようなことをしているわけじゃ‥】
「したいからするんです。あとになりますが受け取ってください」
【ありがとうございます】
「じゃあ、もうちょっとがんばろう」
「ウチロー様」
ソルトが手に料理を載せた皿を持ってやってきた。小皿いっぱいにさまざまな料理が積みあがっている。
「ソルトどうしたの?」
「ウチロー様パーティーが始まってから何も食べてませんよね。何種類か持ってきたので食べてください」
「ホストが食べてていいの?」
パーティーが終わるまで食べては、いけないものだと思っていた。
「食べながら談笑する程度なら逆によろしいくらいです。場が和みます。出来ればいろいろな招待客と話していただけたらと」
「やってみるよ。アン、一緒に…きますか」
疲れているかもしれないが聞いてみた。
【私は座っています。後で何を話したか教えてください】
「わかった。行ってくるよ」
それからしばらくしてアンがパーティーをお開きにした。ソルトと練習した拙い英語で応対して有知郎はクタクタになっている。
「有知郎坊ちゃま」
「黒木あった?」
「えぇ、ありました。パーティーのために輸入していたらしいです」
「助かるよ」
有知郎は、黒木から花を受け取った。
「アンジェリケ女王様は、お喜びになると思いますよ。しかし、私の目が黒いうちに坊ちゃまがご結婚なさるとは‥‥」
「クスクス、まだ結婚しないよ。僕は、アンのお荷物にはなりたくない。アンは優しいから何も文句を言わないだろうけどけじめは必要だよ」
「それでこそ男です坊ちゃま!立派に育たれて私も嬉しいの一言につきます」
有知郎は、号泣寸前の黒木の背中をさする。自分より大きく竹のような人物だったのに小さく涙脆くなったと思った。
「黒木そろそろ僕行くよ」
「行ってらっしゃいませ」
まだ目尻に涙があるがあまりアンジェリケを待たせるわけにはいかないとその場を後にした。
アンジェリケが書斎にいると聞き有知郎は、書斎を訪れていた。案の定アンジェリケは、いくつかの仕事の決済している。呪いの副作用で疲れ知らずなのはわかるがやりすぎを否めない。
「アン」
有知郎が呼ぶとアンジェリケは顔を向けてきた。実際はヴェールを被っているのでそんな気がするといったところなのだが。
「約束通り花をプレゼントしにきました」
有知郎は、アンジェリケに薄いピンクと白ほんのり黄色が混ざったチューリップを渡した。ふんわりとしていてアンジェリケがパーティーの最中着ていたドレスを連想させる。
【このチューリップを私にですか。醜くてこんなおばあちゃんの私にはもったいない】
アンジェリケは、手を振って受け取らない。
「アンは、品種というのを知っていますか」
【はい】
「では、このチューリップはなんという品種なのかご存知ありませんか」
【いいえ】
「このチューリップは、アンジェリケという品種なんです。アンと同じ名前でしょう?」
有知郎は、動きが固まっているアンジェリケからボードをとり代わりにチューリップを手渡す。どんな顔をしているかわからないが大事そうに抱きしめたので気に入ってくれたと解釈した。なんて思っているとアンジェリケが有知郎においでと手を招く。意味がわからないがアンジェリケに近づいた。するとアンジェリケに力いっぱい抱きしめる。女性の腕力なので苦しくはないが驚いた。
「アン!?」
有知郎がそう叫ぶとアンジェリケは、有知郎から離れボードを手にとる。
【感謝の言葉を書きたいのになんてかけばいいかわからなくて。抱きしめたら伝わるかなと】
有知郎は、その場に座り込んだ。アンジェリケは、何を思ったのか有知郎の頭を撫でる。くすぐったいので有知郎は、逃げようかと思ったが亡くなった母がよく頭を撫でてくれたのを思い出しそのまま動かなかった。