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赤の女王と無色の僕  作者: 猫田33
鈴蘭は静かに微笑む
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1

有知郎は、日が昇りきらない薄暗い時に目が覚めた。普段早くから起きて、庭に水を撒くのでいつもこれくらいに起きる。


だがここは、自宅ではなくミドルフィードのヘマタイト城。水をあげるべき花や木はない。だが目は、すっかり覚めている。


「朝の庭園を散歩するのもいいかもしれない」


有知郎は、準備されていた服を着て外にでた。張り詰めた空気が寝起きの温かい肌に心地よい。


「今日も綺麗ですね」


庭園を歩いていると、地面に植えられたクロッカスが目に入った。


「まるで熟練の踊り子のような色香と美しさ。雄しべは腕、花びらは翻る衣。あなたは、その魅力で数々の人物を虜にしてきたのでしょう」


風が吹いてクロッカスが揺れる。それは、恥ずかしく感じるほどの賛美で身をよじっているようだった。


「クスクス」


有知郎は、突然の笑い声に驚き辺りを見渡す。すると天使のような金髪ショートヘアにメイド服を着た美少女がいた。笑い声は、彼女からのようだ。


「佐伯様は、詩人のようですネ。日本では、モテでしたでしょウ?」


「いえ、まったく。他の兄弟はそうなんですけどね」


「そうなんですカ?」


少女は首を傾げた。有知郎の兄と弟は、バレンタインになるとダンボールが必要なほどチョコをもらってくる。有知郎は、もらっても2~3個。


「そういえばどうしたんですか?朝食にしては早いと思いますが」


「内密にお話したかったんです‥よろしいですカ」


有知郎は、少女がじっと目を見てくるので気があるのかと勘違いしそうになる。同時に婚約者がいるのにいけないとも思った。


「内密とはどういうことでしょうか」


「アンちゃん‥‥アンジェリケ様を絶対に幸せにして。私に出来ないけど有知郎様ならできるはず」


少女は、祈るように有知郎の前で手を組んだ。


「あなたは誰ですか。アンジェリケ女王と親しいように思うのですが‥。それに日本語を話せるなんて」


ミドルフィード国の母国語は、英語であるから日本語を話せるのは珍しい。


「私は、アンジェリケ様の身の回りの世話をしているマリアンといいます」


マリアンが丁寧に頭を下げると突然拍手が聞こえた。


「アンちゃん!」


アンジェリケがヴェールをつけずに近づいてくる。マリアンは、驚きも恐がりもせず笑顔で出迎えた。


【佐伯様、マリアンは侍女ですがかけがいのない友人でもあります】


「Oh!thank you so happy An!I'm love you」


マリアンは、早口に言うとアンジェリケに抱きついた。アンジェリケは、そんなマリアンに戸惑うことなく優しく頭を撫でる。見ていてとても微笑ましい。アンジェリケはホワイトボードにまた何か書き始めた。


【Mary.Your husband be jealous of me】


「えっ、夫?もしかしてマリアンさんは、結婚してるんですか」


「Oh!Kaoru」


マリアンの視線の先には西陣がいた。


「佐伯様、家内が何か粗相をしましたか」


「カオルヒドい。ワタシ毎回失敗してるわけじゃないヨ!」


「塩と砂糖を間違えたり、何もないところで転ぶあと‥‥」


「モウ!カオルのイヂワル。それ以上言わないデ!」


西陣とマリアンの口論しているが西陣の口元があがっている。目元は、サングラスに隠されてわからないが楽しんでいるようだった。


【結婚5年目なのに新婚みたいなの】


「5年経ってアレですか?すごいですね」


【私は二人が羨ましい。いくら喧嘩みたいな話をしていても誰も覗けないくらい深い所で繋がってる】


有知郎はアンジェリケの書いた文章を見て、マリアンが伝えたかったことはコレなのではないかと思った。マリアンには西陣がいたが、アンジェリケにはいない。しかし、いまは自分がいると有知郎は考えた。


「アンジェリケ様はタンポポの種と根を見たことがありますか」


【種は見たことがあります。根はありません】


「そうですかではタンポポの根がどれくらいの深さまで伸びるか知っていますか」


【NO】


「タンポポの根は、個体差もありますが1mくらい伸びます。1㎝もない種がそんな根を生やすんです。僕たちの今の関係は、タンポポの種です。でも深く深く繋がることもできると僕は思ってます」


アンジェリケは、しばらく首を傾げてペンをさまよわせる。だが何か思いついたらしくささっと書き出した。


【あなたが婚約者になってくれて私はとても幸せです。ありがとう】


「どういたしましてアンジェリケ様」


有知郎がそういうとアンジェリケは、もじもじしながらまたホワイトボードに書く。


【敬称はいりません。アンと呼んでください】


「なら僕も佐伯ではなく有知郎と呼んでください。アンさん」


【はい、有知郎さん】


のっぺらぼうな顔には、笑顔など浮かばないのに有知郎は、アンジェリケが笑顔のような気がした。


「うわ~、いい感じです」


「確かに」


二人は、口論が終わり主を見るとかなり雰囲気が良くなって驚いた。普通ならただボーっと立っているように見えるが、アンジェリケにずっと仕えているため違いがわかる。


【有知郎さんは、一度日本に帰られるのですか】


「はい、残してきた彼女たちが心配なんです。信頼している人に預けましたが」


「えっ!?」


西陣夫妻が声をあげる。アンジェリケは、持っていたホワイトボードを落とした。


「佐伯様、恋人もしくは内縁の奥様がいるのですか。いるなら早く縁を切ってください」


「僕にそういう人はいませんよ?どうしてですか」


「では彼女たちとは誰ですカ?」


「実家の庭で育てている花や木のことです。庭師に頼んできましたが、丹誠込めて育てているのでどうしても気になります。」


特にこれから梅が見どころだから手をかけていきたいところだ。などと有知郎が考えている横で安心している人物が約2名いたことを知らない。


【残念です。でも一週間後にある婚約披露パーティーには出席してください】


「婚約披露パーティー‥‥ですか?華々しいことは、苦手なんですが‥主役だから絶対出なくちゃ駄目ですよね」


【最初の挨拶と関係のある国との挨拶が終わったら下がっても大丈夫です。たぶん一時間もかからないです】


「それでは、アンジェリケ様の負担が増えてしまいます!」


西陣が声を荒げたで有知郎は驚いた。普段が無表情なだけに迫力が増す。


【私は慣れていますから大丈夫です。それと有知郎さんは、英語苦手でしょう?】


「でも日常会話くらいなら‥‥」


高校までは、英語を学んでいた。得意ではないが日常会話くらいはできる。


【日常会話だけでは、足りません。それに日本とは、文化も生活様式も違います。勉強不足で叩かれないくらいでなければ駄目です】


「役立たずということですか」


アンジェリケは、首を横に振った。


【だから知ってください。その為の先生と補佐を準備しました】


「先生と補佐?」


「誰ですかネ?私には、わかりません」


「私はわかるぞ。お前の知ってる人物だ」


西陣の言葉に有知郎とマリアンが驚いた。マリアンさんの知り合いってだれだろうか。


「アンジェリケ様、カオル兄さん!サエキ様がいませ‥‥あっ、いた」


絵画に現れたような金髪の美少年が走って来て有知郎を指差した。


「Oh!Bellis bad!」


「うわ!姉ちゃん」


確かにマリアンに似ていると有知郎は、一人納得した。


「ベリス君、人を指差すのはマナー違反だからやめなさい」


「はい!すみません!」


直立不動になって返事する様は、まるで教官と生徒だ。


「有知郎様、義弟が失礼をして申し訳ありません」


「すみませんでした!」


「いえいえ、お構いなく。もしかして僕の先生と補佐をするのは君なのかな?」


「はい!今日からサエキ様にお仕えする。ソルト・ベリスと申します。まだまだ日本語に慣れてなく、おかしなことをいうかもしれません。でも誠心誠意お仕えするのでよろしくお願いします!!」


ベリスは、勢いよく頭を下げる。その態度は、甲子園で対戦相手に頭を下げる選手のようだ。初々しく、誠意が伝わってくる。


「僕こそソルト君にお世話になるんだから。よろしくお願いします」


有知郎は、ベリスに頭を下げた。


「佐伯様は、頭を下げなくてもいいんですよ!?これから大変なのは佐伯様の方なんですから」


「そうですヨ。伝えたい言葉を伝えるのは難しいでス。私も苦労しましタ」


「ありがとうございます」


すると有知郎の腹が鳴った。そういえばと懐中時計を見ると7時すぎになっていた。


「ここに来た用事を思いだしました!佐伯様、朝食が出来ましたので食堂に来てください」


「あっ、はい」


ベリスが歩きだしたが他の三人は、その場に留まっている。


「皆さん食堂に行かないんですか?」


【私は、この頭ですから食事はいりません】


「そうですか‥‥」


【私にかまわず行ってください。それに私は、いまから公務が入ってますので】


アンジェリケは、西陣夫婦を連れて城に戻った。


「アンさんは‥‥大変なんですね」



「はい、でもまずはしっかりご飯を食べることです!日本のことわざには、腹が減っては戦が出来ぬというのがあるんですよね?」


「はい、あります。それじゃあ食堂に案内してください」


「喜んで!」


「食堂は王族の方々とその(ユカリ)の人物しか入れませんので、俺は外に控えてます」


食堂に着くとソルトは、そう言って有知郎を食堂に押し込む。有知郎は、つんのめるような形で食堂に入り驚いた。王族の食堂というからには、大きく金箔が張ってあって立派なものを連想させる。しかし食堂は、質素な内装で有知郎が通った市立の中学校の教室くらいの大きさだった。


「Say!Who are you!」


テーブルに座っている30代くらいのおばさんが金切り声を上げて言う。


「Don't come in a servant!This room can enter king of relatives and king be nearly related to only!!」


同じくテーブルに座っている40代のおじさんが怒鳴りあげた。有知郎は、自分が歓迎されていないことは理解した。だがなぜ歓迎されないのかがわからない。


「あの‥」


おばさんがさらに何かいうが早すぎて何も理解出来ない。ただこれが罵倒だということは、口調からよくわかった。


「papa.mam.He's Japanes」


白髪の少女が話すと二人は黙った。おじさんとおばさんの間にいるから、もしかしたら彼らの娘なのかもしれない。などと考えていると少女が、有知郎の方を向いた。


「日本語ならわかるよ…ね?」


「日本語話せるの?」


有知郎が尋ねると少女は、頭を小さく縦に振った。それから少女は、じっと有知郎を見る。同じように有知郎も少女を見た。最初白髪かと思った髪は、どうやらプラチナブロンドらしい。それに新緑のような綺麗な緑の瞳をしていた。たぶん色素が薄いのだろうと有知郎は一人納得する。


「立たなくていいの」


有知郎は、少女に言われて自分が床に座り込んだままなのに気がついた。立ち上がって軽くはらう。


「食事中にすみません」


「‥‥いい。それよりあなた誰?」


「僕は‥‥」


有知郎が答えようとすると後ろの扉が開く。そこには、昨日会った料理長がいた。


「Oh?Mr.Saeki.Do you eat breakfast?」


「I want to eat breakfast.美味しそうだね」


魚のムニエルと何かのスープとパンがワゴンにのっていた。どれも出来たてで湯気が上がっている。


「佐伯‥‥おばさまのお見合い相手?」


「Good morning Ms.freesia.Mr.Saenai is The fiance of Master」


料理長の言葉にフリージアの両親らしき人物は、慌てだした。フリージアは、大きな瞳を見開いて有知郎を見ている。


「婚‥約者なの‥‥?」


「あっ、はい。昨日からなんですけど。あの、君はだれ‥‥?それに君の隣にいる人も」


有知郎が尋ねるとフリージアは、姿勢を正した。思わず有知郎は、床に正座する。


(ワタクシ)はサウスフィード・フリージア、次期ミドルフィード王国女王候補です。 私の隣に座っているのは、両親です。父はローレンス、母はフルティアと申します」


サウスフィード夫妻は、険悪な視線を隠しもせず有知郎を見る。さすがの有知郎も居心地が悪くなってきた。


「papa and mam.I study politics.Becose I want to go out room」

『パパとママ。私は政治を勉強します。だから部屋から出たい』


フリージアがそういうとサウスフィード夫妻は、フリージアを連れ部屋から出て行った。英語がいまいちわからない有知郎は、何が起きたのかわからず呆然とする。


料理長が椅子を引いたので有知郎は、慌てて座り食べ始めたのだった。




「サウスフィード夫妻様が出てきた時は、大丈夫かと思いましたよ。何もされませんでしたか」


「うーん‥‥、自己紹介しただけだよ。どうしたの?」


有知郎が食堂から出てきたときのソルトのあわて具合は凄まじかった。


「サウスフィード夫妻は、娘のフリージア様を使って国を好き勝手に操るつもりなんです。その証拠に王族ではないのに食堂で食事をしますし、質素なアンジェリケ様と対照的に派手な格好や行動をしています!」


確かにサウスフィード夫妻は、煌びやかで傲慢で偉そうだった。たぶん見た目だけでは、アンジェリケよりサウスフィード夫妻の方がそれらしい。


「まぁ、アンジェリケ様と佐伯様の間にお子が出来れば関係ないんですけどね」


「いっ!?いきなり何を言うんだいソルト君!」


有知郎の顔と首が赤に染まっている。恋愛というものに縁がなかった有知郎にとって、ソルトの発言は衝撃的だった。


「だってそうですよ?フリージア様は、アンジェリケ様が亡くなった時のための女王候補。

アンジェリケ様は、ご自分が結婚できなければ血筋に関係なく国のトップを任せるつもりでした。ダイトーリョー?制にするつもりだったんです」


「それがなんでフリージア様に?」


有知郎がそう尋ねるとソルトは、小脇に持っていた資料を見せる。英語かと思い有知郎は、身構えたが日本語で書かれていた。そこには名前と名前が線で繋がれている。どうやら家系図らしい。


「サウスフィード家は、王族の血筋を持つ侯爵です。ノースフィード家、イースフィード家、ワットフィード家もありますが傍流すぎて話にならなかったんです」


資料をみるとサウスフィード家は四代前に王家から降家させられた姫がいる。しかし他の家は、五代以上前しかいない。


「サウスフィード家の未婚の者は、フリージア様だけ。フリージア様は、まだまだお若いですからあの両親が摂政として立つでしょう。だから一部貴族は、甘い蜜を吸おうとフリージア様を擁立してるんです!」


ソルトは、拳を握り締めて力説した。有知郎は、その様子を何も言わず見ていたが一段落ついたとき言う。


「そのいいかただとソルト君は、フリージア様が女王になることに反対なのかな」


「いいえ、フリージア様が女王になること自体は反対ではないです。問題は、フリージア様のご両親ですから」


「なるほど‥‥」


「あっ、これは義兄には内緒にしてください。絶対に怒られますから」


確かに西陣が怒ったら怖そうだと有知郎は思った。簡単に怒るような人物の怒りは、慣れてしまう。だが積もり積もった怒りは、噴火した山のように激しく簡単に収まるものではない。


「それじゃ、黙っておくよ」


「ありがとうございます。話がずれましたが英語の勉強を始めます」


「わかってはいたけど‥やっぱり嫌だな。英語のテストとか赤点ギリギリばっかりだったし」


「でも話せないと困りますよ?俺も頑張って教えますので」


ソルトは意気込むが有知郎は、ため息をつきたくなったのだった。




「アンジェリケおばさま」


アンジェリケは、仕事をしていた手を止める。目線を上げるとアンジェリケの親戚関係にあるフリージアが立っていたった。


【どうしましたか】


「婚約‥した?」


フリージアが首を傾げてアンジェリケに尋ねる。アンジェリケは、近くに置いてあるホワイトボードにさらさらと書き出した。


【はい、そうです。あなたは、ウチローには会いましたか】


「会った」


【いい人だったでしょう。それに彼はとても優しい】


フリージアは、頭を縦に振った。


「‥‥頼りない」


【そうね。でもどんな人もいいところと悪いところがある。完璧な人なんてそうそういない。それでも一緒にいたい人っていると思うわ】


「おばさまはウチロー好き?」


【はい、だから私とこの国を好きになって欲しい】


フリージアは顔を曇らせる。だがアンジェリケは、フリージアのその表情を見逃した。


「ありがとうございました」


フリージアはそういうと軽く頭を下げてから部屋を出て行った。お茶とお菓子を出すつもりだったアンジェリケは、なぜフリージアが部屋から出て行ったのか不思議に思うのだった。




有知郎は、サウスフィード夫妻の冷たい視線を受けながらもソルトと勉強していた。おかげで簡単な英語なら違和感なく話せるようにはなっている。いまは、勉強として料理長から今日の夕飯の内容を聞いていた。


「ウチロー様、その発音では米ではなくシラミになってしまいます」


黙って聞いていたソルトが口を開いていう。有知郎は、自分ではあっているつもりだったので驚いた。


「RとLの発音難しいな。学校で習ったのと発音の方法も違うし。舌巻かないんだよね」


「はい、日本ではそういう教え方をすると聞いて驚きました。やはり日本という国は、興味深い国です」


ソルトが腕を組んで頷く。日本では普通のことでも違うことが多いのかもしれない。


「私も日本について教わりたいですね。日本食は、最近人気ですから。とくに寿司の調理法は、うちの国の食材を上手くつかえそうです」


「ミドルフィードは、島だから肉より魚が穫れるんですよね」


「豚や牛、鳥も飼っていますが水が必要不可欠です。雨の降る量も限られるのであまり育てすぎると私達が飲む水が不足します」


水の心配も日本では、したことがない。それは、有知郎でなくとも言えるだろう。


「日本だとあまり水の心配をしたことがないです。逆に水が溢れて洪水になるというのがあります」


「そうらしいですね。羨ましい」


「羨ましいといえばサエキ様は、最近フリージア様と仲がよろしいですよね。何かあったのですか」


「さぁ、わかりません。ときどき遊びにきてお茶とお菓子を出すだけですね。とくに話もしませんし」


だから有知郎自身も最近不思議に思っていた。だが嫌われるよりはましなので深く考えていなかった。


「もともと不思議な方でしたがさらにわからなくなりましたな?」


「歳が近いので兄が出来たみたいで嬉しいのではないですかね。一人っ子ですし」


「そういえば西陣さんとマリアンが、結婚するっていったときの喜びようが凄まじかったな。本人たちより嬉しそうだった気がします」


その光景が目に浮かぶようだと有知郎は思った。この何日間かで、ソルトがとても西陣を尊敬しているか理解したつもりだ。


「そんなことないです!確かに嬉しかったですけど、本人たち以上では‥!」


「隠さなくていいよ。家族が増えるって嬉しいことだよ。僕も弟が生まれたとき嬉しかった」


生まれたばかりの弟を抱っこしたとき、重さと暖かさで生きているのだと涙したことは覚えている。


「私も倅が生まれた時は、号泣しましたな。その倅も今年で10歳でやんちゃに育ってます‥‥っと、もうこんな時間。そろそろ」


「こんなに時間をとってしまってすみません」


「サエキ様は、腰が低いですね。もっと堂々としていて構わないのに。それでは失礼いたします」


料理長は、頭を深々と下げると部屋から出て行った。その様子を見て有知郎は眉間にシワを寄せ呟く。


「僕は‥‥アンと婚約していいのかな」


「サエキ様何か仰いましたか?」


「いや、何も


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