オシャレ・ライダー
この世界には、『オシャレ』という言葉が存在する。言葉の意味は、辞書で調べてみれば良いだろう。ちなみに、wikには載ってない。
あの人の服、オシャレだねー、とか。この部屋、オシャレー、この曲、オシャレー。あの人の拳法の構え、オシャレー。貴様の単車、オシャレやなー、ワレ!!など。世界は、オシャレに溢れている。
この物語は、そんな『オシャレ』に命を賭けた者たちの激しく切ない物語である。
西暦2007年、初夏のS玉県Kスカベ市。
桜が散り、緑の木々の間から、優しい陽気が漏れている。そんな柔らかな日差しの中を、ヴィトンのカバン(メイド・イン・チャイナ)を片手に一人の少女が歩く。彼女は天気が良いから、気分も良いのか、鼻歌を口ずさみながら、軽いスキップで地面を蹴って進む。
少女の名前は、越島ジェリ。19歳の浪人生のニート。アパート暮らしで、お金がないのに、食費削ってまで、オシャレに費やす、オシャレ好きの少女。今着ている服だって、夏物のどことなくオシャレな服装だ。
そんな彼女が狙っている大学は、『都立オシャレ大学』。就職率2%、オシャレ率100%の今さえ良ければ、それでいいという思春期な大学。そのオシャレ大学に行くと、ハイレベルなオシャレな勉強をし、オシャレさんになり、うまく行けば、芸能界入り出来る、まさにオシャレのためのオシャレな大学だ。
しかし、この大学に、入学するには、一つ条件があった。それは、試験の合否で入学させるのではなく、入学手続き金の100万円を払えば、誰でも入学出来るという、斬新な入学手続きをする大学なのだ。
そのため、越島ジェリは入学資金稼ぎのため、日々、宝くじ、競馬、パチンコをして、資金を稼いでる、たちの悪いニート少女だ。
そして、彼女は今、さすがにお金がなくなったので、親の仕送りが入っている口座から、お金を引き出しに、銀行へ向かっているのであった。
しかし、この後、銀行で彼女はとんでもない事件に巻き込まれる。
彼女が、街中の『ハッピー・ライフ・ジェネレーター銀行』の近くに着くと…。なんと、銀行の周りには、多くの人々、警官、パトカーの姿が。なにやら、深刻な状況のようだ。
「あらら…、なにがあったのかしら…」
と、彼女が近くまで寄り、近くにいた野次馬に話し掛けた。
「なにが、あったのですか?」
「ハッピー・ライフ・ジェネレーター銀行に、強盗が入ったんだよ」
と、野次馬のリーゼントの制服の少年が、そう言う。
「まぁ、ハッピー・ライフ・ジェネレーター銀行に、強盗が!」
「そうだよ、ハッピー・ライフ・ジェネレーター銀行に強盗が」
彼女は両手を顔に当て、驚く。
「しかも、犯人は集団ではなく、一人で卑怯にも、通りすがりの『東京喫茶・山田』さんを人質にしやがった」
と、リーゼントの彼は言う。
「(誰…?)それは大変ですねー」
と、彼女は自分の口座から、金が盗られてないかだけを心配して言う。
「しかも、強盗は、ただの強盗ではなく、『都立オシャレ大学』卒業生で、芸能界に行きたかったけど、行けなくて、やさぐれて、ニートになり、博打にハマり金が無くなって、強盗になった、『オシャレ強盗(別名、オシャレ泥棒)・ロボットダンス・勝彦』なんだ!」
何故か、強盗の事情に詳しい彼は頼んでもないのに、勝手にベラベラ喋り始めた。
「『オシャレ強盗』ですって!」
オシャレ好きの彼女は、その言葉に、かなり反応した。同時に、自分の現在の状況と、彼の事情が被っていて、耳が痛かった。
犯人は、彼女が憧れているオシャレ大学の卒業生。そして、わけのわからないアダ名を付けられている。これは、大変だ。
「ヘイ!ユー!!お金出しちゃいなよ!!」
と銀行から、大声が響いた。その声は、『オシャレ強盗・ロボットダンス・勝彦』だ。
その声を聞いたジェリは、リーゼント君から離れ、野次馬を掻き分け、犯人が見える位置まで行った。
銀行の前に、オシャレ強盗・ロボットダンス・勝彦(めんどくさいので、以下、『オロ勝』と略させてもらう)が、東京喫茶・山田さんの体を盾に、彼の頬に銃を向けていた。
「見てて痛々しい、本当に無駄な抵抗はやめて、おとなしく人質を解放しろ!」
刑事が、メガホンを片手に彼に呼び掛ける。
「ヘイ!ユー!!お黙りなさい!さっさと、お金持ってこないと、『東京喫茶・山田』の頬に、新たな1ページを刻むぜ!」
と、そんな呼び掛けを無視し、オロ勝は金を要求している。
「ひぃー、刻まないでー!!」
と、わざとらしいリアクションを、今年で30歳の公務員の男性、東京喫茶・山田はした。
そんな様子を見て、彼女は、これは大変な事態だと感じた。
そして、彼女は、この場から離れ、近くにあった、本当に適当な公衆トイレに入って行った。
ジェリは、公衆トイレに行き、持っていたカバンの中から、ある衣服を取り出した。それは、暴走族の特効服。
今、着ているオシャレな服を脱ぎ捨て、その特効服に、彼女が着替えた。
すると…。
バキン!
公衆トイレのドアを蹴り壊し、どこかから持ってきた木刀を片手にトイレから出た。
さっきまで、可愛げなショートカットだった髪の毛をオールバックにし、さっきまで、大きく見開いていた目は細長い凶悪なメツキになっている。さっきのオシャレな彼女とは、まったくの別人だ。
説明しよう!越島ジェリは、多重人格者(辞書か、仮面ライダー電王、参照)である。着ている服で、自分の人格、性格を変わる斬新な多重人格の切り替え能力を持っている。
普段の彼女は、オシャレな服を着ていたため、キュートな性格であるが、特効服に着替えたことにより、彼女の人格は凶悪な暴走族のレディース番長になったのだ。
木刀を片手に、何故か、トイレの前にあった愛車、カワサキ・Z400FXにまたがり、彼女は銀行へ、再び戻った。
どうやら、この凶悪な性格で、人質を取っているオロ勝と戦おうとしているのだ。
「ヘイ!ユー!お金持ってきなよ!早く持ってこないと、豪華お笑い芸人たちがレギュラーの『リンカーン』の再放送が始まるぜ!!」
と彼女は、バイクで銀行に戻っても、状況は固定されたままであった。
キキィ!とバイクを、その場に停め、彼女は木刀を片手にバイク降りた。
「なんだね、君は!」
一人の警官が、彼女に近寄る。
「邪魔だ!!」
と、前振りなしに、レディース・ジェリは警官を蹴り飛ばす。蹴られた警官は、数メートルくらい吹っ飛んだ。
そして、野次馬たちを払い避けながら、銀行の前、オロ勝の目の前に現れた。
「ヘイ!ユー!なんだね、チミは!?」
と、ジェリの登場にオロ勝は驚く。
「人質を解放しやがれ!!ドサピンが!!」
と、犯人に向かい、彼女は啖呵を切る。
「嫌だね!」
直ぐ様、断られた。
これには、短気な人格の今の彼女はキレた。
「なんだと!ボケナス!!」
木刀を片手に、ジェリはオロ勝を殴りかかろうとしていたが、警官達に体を抑えられ止められた。
どうやら、この人格では無理だとジェリは思った。
彼女は、警官の手を振りほどき、どこからか、またカバンを取出し、特効服を、その場で脱いだ。人目も気にせず。
そして、彼女は、今度はキャリアウーマンぽいリクルート姿に着替えた。オールバックから、髪の毛を、後ろ髪をまとめた落ち着いた髪型になり、眼鏡を掛け、倫とした出来る女性に変身した。
「ヘイ!ユー!なんの真似だね!」
と、いきなり着替えた彼女に向かいオロ勝は叫ぶ。
すると…、ジェリは…。
「おやめなさい!」
と、冷静で静かに怒鳴る。
これには、オロ勝は怯んだ。
「こんなことをして、なんになると言うのですか?馬鹿な真似は、おやめなさい!大体、人質を盾にした強盗が成功する確立は…」
と、リクルート服を着たことにより、冷静になった彼女は、ベラベラとウンチクみたいな知的なことを話し始めた。
そのウンチクをベラベラ喋りは、なかなか止まらない。これには、オロ勝は呆然とした。
すると…。
カシャン!!
ウンチク語り中のジェリの両手に、警官が手錠を掛けた。
「えっ?」
彼女は、驚いた。
一人の警部が、ジェリの目の前に現れ…。
「公務執行妨害、バイクを無免許運転、目の保養になったけど、猥褻罪などで、逮捕する…」
と、彼女に言った。
そして、ジェリは強制的にパトカーに乗せられた。
こうして、多重人格オシャレ少女、越島ジェリは逮捕された。
このあと、オロ勝の持っていた銃が玩具だとバレ、そのまま、逮捕されました。




