少年から見る少女についてのあれこれ。
今回は逆に地の文だけになってしまいました。スート君視点でお送りします。
俺の名前はスート、小さな宿屋の一人息子で、料理人を目指している。
今日は目の前で俺の作った料理を食べている少女、リンネについて色々語ろうと思っている。
リンネは俺の幼馴染だ。そもそも、俺のお袋とリンネの母の仲が良く、町に訪れる度にこの宿屋を贔屓にしていたことで自然と仲良くなった。
リンネの母は不思議な人だ。お袋に聞いた話だと俺が生まれる前、店の食料の買い込みから帰る途中に、傷だらけで倒れているところを発見してそのまま連れ帰ったのが出会いなのだとか。行き倒れていた割にはしっかりと宿の代金を払っていたことから、お袋は元傭兵か、従軍していた人だと見当をつけたらしい。
彼女は行き倒れていた前のことを決して話そうとしなかったが、お袋もまた聞き出すことはしなかった。そして、傷が完全に治ったころ、リンネの母は隣の村に小さな家を買ってそこに暮らし始め、頻繁にここを訪れるようになったという。
そして数年の時が過ぎたころ、宿にリンネの母が真剣な表情をしてやってきた。その腕にはまだ赤子のリンネがいたという。
どうしたのかとお袋が言うと、彼女はこれから王国が魔王領に進軍するから、私は仲間の元へ行かないといけないと、少しの間だけリンネを預かってほしいとそう答えたという。無論、お袋は止めようとした。だが、彼女は全く聞く耳を持たなかったそうだ。私が行って誰かが助かるのだったら行かなければならないと、お袋の制止を振り切って行ってしまったのだそうだ。
結果的に、彼女は帰って来た。彼女はリンネを見つけると抱きしめては涙を流したという……。
さて本題に戻ろう。最近のリンネは、朝飯を食べた後、昼間は日雇いの力仕事に精を出し、お風呂や夕飯の時間になると帰ってくるというサイクルを繰り返している。
運搬の仕事のまとめ役の人とリンネは顔見知りだ。ここ数年こちらに来るたびに親子で運搬系の仕事を片っ端から受けてたからだろう。……ぶっちゃけ、リンネが来てくれると三重の意味で仕事がはかどってくれるから大歓迎なのだそうだ。
そして、帰ってくるとすぐさま俺に夕飯を作ってくれとねだってくる。リンネ曰く、スートの作る御飯がここに来る楽しみの一つ、だと。嬉しい限りだ、今回も腕によりをかけて作らせてもらう。確か、俺が料理人を目指すきっかけになったのは、リンネが俺の料理をほめてくれたからなんだよな……。そう思うと少し複雑な気もする。
ここらでいったん終わりにしよう。それにしても、リンネ親子には、俺たちに話してないことがたくさんある気がする。言ってくれてもいいんだけどな、これでも腹割って話せる友達なんだから。