旅立ちと母との別れ。
「お母様、それでは行ってきます!」
新雪が降り終わった大地に可愛らしい少女の声が響きます。
「もう行っちゃうの? もうちょっと一緒にいたかったのに……」
「お母様……。でも私、世界を見てみたいの。おじさんがした話だけじゃない、もっと素敵なものや、綺麗なものが見られると思うと、居ても立っても居られないの!」
少女は積もった雪を巻き込むようにとび跳ねながら話します。
「それに――この世界のどこかにいるお父様にも会いたいし!」
「――っ。…………、…………。……うん、行ってらっしゃい。お母さんは、ここでずっとあなたの帰りを待てるから……っ!」
母親は何度目か分からない長い葛藤の後、少女を見送ります。
「うん! じゃあ、リンネ、行ってまいります!」
そう言って駆け出す少女に。
「リンネ! 困った時はおじさんの仲間たちに力を貸してもらうのよ!」
と言う母の声が響いて、消えて行きました。
さて、その数時間後。
一台の馬車の中に少女の姿がありました。馬車は揺れが酷く、座っているだけでも気分が悪くなるようなものでしたが、少女はその中ですやすやと眠っていました。
……別に拉致されて眠らされたわけではないですよ? 知り合いの馬車に乗せてもらって次の町まで運ばせてもらうという算段です。少女の住む町は、隣町までかなりの距離があります。しかも今は寒季、準備もなしに道を歩いていると下手すれば凍死してしまうのです。
「しっかし、お嬢さんまで旅に出て行ってしまうとはな……。これでますます私たちの町はさびしくなってしまうわい」
そんな知り合いのおじいさんの呟きを残し、馬車はゆっくりと進んでいくのです。