6.いつの間にか、パーティーが増えました。
外に出ると西の空が赤く染まっていた。
予定通り、知識をおぶって帰る事になり、住所を知っている蜂巣と共に歩いてゆく。
「にしても、こんな怪我をしていたとはな……」
「心配だよねー……」
背中の上でぐっすりと寝ている知識の様態を案じる。
どうして、頭を怪我してしまったのだろう。
どうして、ニット帽で怪我を隠していたのだろう。
どうして、俺達に何も話してくれなかったのだろう。
自分達の情けなさが頭をよぎると同時に、なんとも言えない憤りの情が浮かんできた。
「俺達、友達だと思われていなかったんだろうか」
「友達だとしても隠す事は山ほどあるでしょー? プライベートは誰だって知られたくないしー」
まー、一部の芸能人とかを除いてだけどねー、と蜂巣はおどけてみせる。
「良輔だってエロ本の在処とか知られたくないでしょー?」
「何故俺がエロ本を持っているか知っている」
「知るわけないよー、僕だってプライバシーくらいは守るよー」
「なら良かった」
流石に常識は弁えているようで、少し安心した。
「その反応でエロ本を所持しているのが判明したけどねー」
蜂巣の顔が徐々に黒くなってゆく。
そうか、俺は今自分で自分の秘密を暴露しちゃったのか……!! 蜂巣の誘導尋問にしてやられた……!! 墓穴を掘るってこういう事を言うのか……!!
「とりあえずー、エロ本は没収ねー?」
「止めろ、それには男のロマンが……」
「もし欲求を抑えられなくなったらー、僕にぶつけてくれれば良いからー」
「それをさせて俺を自分と結婚させる気だろ」
「あり、バレちったー」
バレるも何も、ストレートだったじゃん。
「どーせ、良輔は僕の物だからー、僕と結婚する未来しか無いけどねー」
「俺を所有物扱いするな!! てかお前はもう少し人生について考えたらどうだ!?」
「お嫁さんにー、妊婦さんにー、お母さんにー」
「徐々にグレードアップしている!?」
「妊婦さんからお嫁さんでも構わないよー?」
できちゃった結婚とか、本当にシャレにならないから。
「そーと決まれば、妊婦さんでも着れるウェディングドレスを探しに行くー?」
「待て、話を勝手に進めるな! 俺達の今の仕事は何だ!?」
「知識を家まで送り届ける、でしょー?」
何だ、覚えているじゃないか。ウェディングドレスだとか言い出すから、結婚式場とかに連れて行かれるかと思った。
「ウェディングドレスは2人っきりの時ねー」
「全然安心出来ない……!!」
そんなバカな会話を繰り広げ、時折周りから凝視され、辱めを受けること数回。
知識の家らしき場所に到着した。
蘇芳学園では、全国から優秀な人材が集まるので下宿する人は珍しくない。
知識もそのクチらしく、アパートの二階にその部屋はあった。
知識のバッグから鍵を取り出してドアを開けると、本の山が天井に届くような勢いでそこに君臨していた。
「家、っていうか、書斎だな」
「書斎、というか、ゴミ屋敷だねー」
ゴミ屋敷は酷すぎるだろ。
「僕ー、文字とかサッパリ駄目なんだよねー。だから本とかゴミにしか見えない」
「因みに最近読んだ本は?」
「桃太郎」
幼少時代から本を一冊も読んでいないだと!?
「読書感想文とかはどう書いてたんだよ!?」
「あらすじと前書きと後書きを読めば書けるけどー?」
全国の作家さんに謝れ!!
「まぁいい、知識はどうすれば良いんだ?」
「頭をケガしてるしー、タオルで体を拭いて寝かせるぐらいかなー」
「じゃあ頼む」
「何をー?」
「何を、って俺が女の子の裸とかを見るわけにはいけないだろ」
「僕の裸は何回も見たくせにー」
「昔の話だろ!!」
なぜお前は毎度毎度昔の出来事を蒸し返すんだ!!
「まー、僕が濡れ場を担当するからー、良輔は起きた時用のご飯でも作っておいてー」
濡れ場の意味が全く違うけどな。
「分かったよ」
俺は言われた通り、台所に立って何を作ろうか模索する。
って言っても、俺が作れるのはオムレツと野菜炒め程度だし、とりあえず冷蔵庫の中身を見てから考える事にしようと、冷蔵庫の扉を開く。
マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ、マヨネーズ。
なんとマヨネーズしか無かった。
せめてマヨネーズに付ける物も買っておけよバカ、と内心罵倒しつつ、食材が無ければ何も出来ないので、一旦家に帰って野菜と卵を持ってくる事にした。
♂×♂
喫茶『hornets' nest』のclosedと掲げられている玄関のドアを開けるとカランコロンと音が鳴った。
「ただいま~」
「お帰り、良輔くん。セイラは一緒じゃないの?」
今話しかけてきたのは蜂巣の母親で喫茶『hornets' nest』の副オーナー、蜂巣美智子さん。
俺が一番お世話になっている人で、俺のもう1人の親と言って差し支えない。俺の親とも交流があるが、成績などについては、俺が頼みに頼み込んで伝えない事にしてもらっている。
因みに、セイラというのは蜂巣の名前だ。
「ちょっと用事があって、遅くなるかもって。それで俺も手伝うから、野菜と卵を持って行くんだ」
説明はこれで良いだろう、変に事実を言って心配させるのもどうかと思うし。
「あらそう、冷蔵庫の中に入ってるから、持って行きなさいな」
ママさんは別に何かを詮索する事も無く、快く承諾してくれる。子供のやる事にとやかく文句を言わないのが、この人の良いところである。
冷蔵庫の中から卵6個と人参と玉ねぎ、さらにキャベツ、ピーマン、モヤシを取って痛めないようラップでくるんで買い物袋に入れる。
「じゃあ、帰りが遅くなるかもしれないから」
「晩ご飯は作らないで、でしょ?」
流石ママさん、分かってらっしゃる。何故アナタからあんな子が産まれたのか不思議でなりません。
「美味しい料理なのに、スイマセン」
「いつも喫茶店に出す物の余りだから気にする事は無いわ」
とか言いつつ、ちゃっかり下拵えから作ってるんだから格好いい。
「そろそろ夜になるし、また営業再開するから玄関の看板をopenにしといてね」
「分かった、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
ママさんの優しさを噛み締めながら、俺は知識の下宿先に向けて出発した。
♂×♂
出発したは良いものの、道に迷ってしまった。
そりゃ、一回行ったっちゃ行ったんだけど、行く道と帰り道って見え方違うじゃん? それで分かんなくなるんだよね。
……よくそんなので飛び出したと思うよ。
さてさて、とりあえず来た方向と思しき道をえっちらおっちら歩いていると。
「呪呪呪呪呪呪呪呪呪……」
地面を呪っている人がいました。
って、お前は……。
「犬のフンは『浄化』するべき」
「やっぱりお前か、度会」
呪いをかけようとするヤツなんて、度会以外いないもんな。
度会は俺の方を向くと、睨みつけるようにして、
「ついでに除け者にする奴らも『浄化』すべき」
「お前また根に持ってるのかよ!!」
ほっといてカラオケに行ったからか!? そうなのか!?
「部長と2人の空間はツラい」
「お前、律儀に部室で待ってたのかよ!!」
「お蔭でコックリさんし放題だったけど」
何故そこでコックリさんをチョイスした。絵面が危ないから止めておけ。
「それはそうと、何で買い物袋?」
度会は俺の腕に下げられた袋を指差す。
「あぁ、コレな。ちょっと飯を作らないといけなくなってな」
「自分で作れる?」
「……正直言って自信はないが」
だから失敗しても良いように多めに持ってきたんだからな。卵とか特に割れる気がしない。
「なら私が作る?」
それは願ったり叶ったりだ。俺が作るより、よっぽど良い料理が出来るだろう。
「じゃあ頼む」
「それで、どこで作ればいい?」
あ。俺は今、道に迷ってたんだった。
「知識の家の場所とか、知らないか?」
「分かる。一度行った経験がある」
それは心強い。
「それなら、案内してくれないか?」
「理解した」
俺は度会の案内の元、知識の家に急ぐのであった。
♂×♂
「なぁ、この道であってるのか?」
「多分」
「確証がないのかよ!!」
「忘れたし」
「結局覚えてないんかい!!」
えー、今の現状を一言で言うと、道に迷っている。
度会が『任せとけ!!』と言わんばかりに歩いていったので、付いてきたのだが、どう見ても来た事のない場所にたどり着いたのだ。
しかも猫の子一匹居ないので、道を尋ねる事も出来ない。
「なんで一回行った事あるのに迷うんだよ!!」
「一回行ったには行ったけど、行く道と帰り道って見え方違うから、分からなくなる」
何だろう、シンパシーを感じる。
「迷った事は迷ったって事で仕方ないし、とりあえず現在地が分かるような場所に出ないとな」
「確かに」
というわけで、はぐれないように周りにヒントとなる物が無いかを探すのだった。
「アッチに神社があるみたい。行ってみない?」
「神社な、確かにこの辺に詳しそうではあるわな」
知識の家は分からないだろうけど、現在地ぐらいは聞き出せるだろう。
度会と共に神社へ階段を登り、中に入ってゆく。
神社の中は荘厳な雰囲気で、空気が張り詰めていて緊張感が感じられた。
「誰か居ませんか~?」
俺の声がむなしく境内中に広がる。
どうやら、誰もいないようだ。
「神社なのに人がいないとはどういう事?」
「神主さんだって、留守にすることはあるさ。他を当たろう」
「それが生産的」
滞在時間20秒でそこを去る決断をした俺たちは、外に出て階段を降りようとしたその時、
「んー、脱ぎたいわー」
変態行為に及ぼうとしている女子生徒を発見した。
「って、柚木崎!? どうしてここに」
「どうして、と言われても、自分の家に帰ってきて何か問題でもあるのかしら?」
なるほど、柚木崎は神社の娘らしい。
今日は知り合いによく合う日だな、って同じ町に住んでいたらこんな偶然もあるか。
「それは済まんかった。で、親はどこで何をしてるんだ?」
「またあのバカ親は家に居ないのね。パチンコに競馬に競輪に……今日は何をしてるのかしら」
「よくそんなので暮らせてるな、お前の家庭!!」
ギャンブル三昧じゃねえか!!
「親が親の脛をかじってるし、神社の収入もあるから大丈夫よ」
「大丈夫じゃねえよ!!」
ただの駄目な親じゃねえか!!
神社の風格も台無しじゃん!!
「今度大当たりしたら、この神社をギャンブルに行く前の聖地にする予定らしいわ」
「そんな爛れた神社になんか誰が行くか!!」
柚木崎家の実態を知ってしまったショックは大きかった。
「それはともかく、ウチになんの用なの?」
「実はだな……」
とりあえず事の顛末を柚木崎に伝える。
「つまりはトモシキの家が分かれば万事解決というわけね」
「物分かりが良くて助かる」
「私は一回トモシキの家に行った事があるから大丈夫よ」
それで大丈夫じゃなかった人が2人も居るんですがね。
「本当に大丈夫か? 道に迷うような事があればそれこそ……」
「大丈夫よ。副部長たるもの、部員の住所ぐらい知ってて当然でしょ?」
この学校の副部長権限はどんだけあるんだ!?
「迷った時はコックリさん」
その隣でコックリさん一式を広げる度会。
「呪われそうだから遠慮するわ。仕舞いなさいよ」
「コックリさんは裏切らない」
「そもそも、これって力の入れ具合の問題でしょ?」
「コックリさんのお導き」
「コックリさんなんて存在しないんじゃなくて?」
「存在しない証拠は?」
「存在する証拠も無いのに何を言ってるのかしら」
いつの間にか口喧嘩になってしまった。しかも2人ともディベート部だけあって、両者引けを取らない。
そろそろ割って入らないと収拾が付かないようになりそうだ。
「止めろ止めろ、俺達の目的は何だ?」
「「コックリさんの存在有無の議論(よ)」」
息ピッタリじゃねぇか。答えは全く違うけど。
「俺達は知識の家に行かなければならない。そうだろ?」
「そうだった」
「柚木崎は俺達を知識の家に連れて行ってくれるんだろ?」
「言ったわね、確かに」
「じゃあコックリさんがどうとかは道中ででも良いじゃねえか」
「理解した」
「そうね、じゃあ案内するから付いて来て頂戴」
そうして柚木崎の先導の元、無事知識宅にたどり着く事が出来たのであった。
その間、『コックリさん』の議論をし続けていたのは言うまでもない。
根「第七話更新ダ」
葉「シリアスって言ってたのに全然シリアスじゃないー☆」
根「気にするナ、気にしたら負けダ」
葉「まぁ良いですけどー☆ この勢いで私達もあのパーティーに入れないもんですかねー☆」
根「ますます入りづらくなったしナ」
葉「本当に、次から次へとなんなんですかねパンパンパパンパン!!」
根「家宝は寝て待テ」
葉「分かりましたよ、待てば良いんでしょ待てば!!」
根「では次回ダ。投票もお願いするゾ」
葉「さよーならー☆」