その8
○登場人物
城前あかり・しろまえあかり(トップアイドル、過去に大きな傷を持つ)
水科幸太郎・みずしなこうたろう(あかりの育ての親、過去に大きな傷を持つ)
城前修吾・しろまえしゅうご(あかりの父親、酒とギャンブルにおぼれる暴君)
城前和子・しろまえかずこ(あかりの母親、修吾におびえながら毎日を過ごす)
あかりのファーストアルバムを引っさげての全国ツアーの初日、会場はファンの熱気
につつまれていた。あかりのパフォーマンスにファンは心おどらせ、ファンの声にあか
りも喜びにみちていく。一体感のある良いライブだった。
ステージで歌うあかりはスポットライトをあびるのにふさわしい輝きをはなっていた。
あの華やかな舞台に立つだけの魅力をもったアイドルだ。ここにいるみんながそれをみ
とめている。
あかりはライブ中に一度も僕を見ることはなかった。あかりの意識は完全にファンの
みんなに向いている。いつも愛をとどけてくれる人たちへ一生懸命に愛をとどけようと
している。
愛を受けずにそだってきたあかりは愛を知らなかった。実感することがなかった。
そんなあかりに僕はできるかぎりの愛をおくってきた。愛を実感したあかりは愛のす
ばらしさを知った。
そして、今ではこんなに多くの人たちから愛をおくられるようになった。いや、これ
よりももっともっとたくさんの人たちがあかりを愛してくれてる。
あかりはきっと今とても幸せだろう。あかりが幸せなことは僕の幸せだ。十年前にし
た「幸せにしてあげるから」という約束が守れた。そう思うと、感情がたかぶって涙が
ながれた。
あかりは僕の涙になんか気づかずにみんなへ歌いつづけている。それでいい。
みんなはあかりの真実を知らない。今もこの先も誰一人も知ることはないだろう。教
えられるものじゃないし、あかりの笑顔を守るためにはつらぬかないといけない秘密だ。
僕はあかりの笑顔が好きだ。あかりにはいつまでも笑っていてほしい。だから、あか
りの真実は光にさらさせやしない。ずっと闇の中にほうむっておく。みんなは華やかな
今の姿だけを知っていればいい。
それが僕らの幸せだから。




