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第一章・第7話 ダンスパーティ -1-

――三週間後。


姫乃の右手の捻挫もすっかり治り、仕事にも復帰したそんなある日の昼休憩、


いつものように姫乃と中庭で仕事の話をした後、和章がとんでもない事を言い始めた。




「ねぇ、来週のダンスパーティのパートナーってもう決まった?」




「ううん、まだだよ」


姫乃達の高校では毎年学校行事でダンスパーティがある。


……と言っても、ダンス自体は自由参加で、要するに男子から女子に声を掛けてパートナーを組み、


生徒同士の交流を深める事を目的としたものだ。




「おっ、なら俺と組まない? てか、組んで?」




「え……で、でも……私、ダンスなんて出来ないし……」




「大丈夫、大丈夫。別に俺もダンスがしたくて言ってる訳じゃないし♪」




「じゃあ、なんで……?」




「だってー、パートナーが誰もいないのってなんか恥ずかしいじゃん」




「……私、去年はパートナーいなかったけど」




「それって、きっともう誰かに誘われてると思って誰も声を掛けなかったんじゃないの?


 実際、昨日も俺のクラスの奴等も何人か春川さんを誘いたいって言ってたし。


 けど、みんな春川さんの相手はもう決まってるんじゃないかって諦めたっぽい」




「どうしてそう思うの?」




「春川さん、男子の中で人気があるからだよ」




「わ、私がっ?」


姫乃は和章の口から出た言葉に驚いた。




「どうしてーっ?」




「そりゃ可愛いし、愛想も良いし、他の女子みたいにガサツじゃないからだよ」




「そんな事ないよ?」




「あるある♪」




しかし、次の瞬間……




「という訳で今年は俺とパートナー組んでね? 断ったら“例の秘密”、みんなにバラすから♪」


和章の笑顔がとても意地悪そうな表情に変わった。




(ひ、酷い……)


姫乃は心の中で呟きながら涙目で頷くしかなかった――。






     ◆  ◆  ◆






――翌朝。




「春川さん」


姫乃が駅の改札を出ると誰かに呼ばれた。




「ほ、星野君」


姫乃に声を掛けたのは一愛の熱烈ファン・偉世だった。


姫乃は偉世が自分のファンだと和章から聞いてからというもの、廊下ですれ違う時や和章の教室へ行った時等、


なんとなく照れ臭くて目を合わせる事が出来なかった。




「……」




「……」




ギクシャクした空気が流れる中、偉世がぎこちなく口を開いた。


「……あ、あのさ……」




「う、うん……」


そして、姫乃もまたぎこちなく返事をした。




「ダンスパーティ……もし、よかったら……パートナーに……なってくれない、かな……?」




(え……っ)


姫乃は声も出さずに驚く。




「……駄目、かな?」




(ファンだってわかってると、ちょっと……なんか、照れ臭いけど……)


悪い気はしていない姫乃。


しかし、和章の言葉が脳裏を過ぎる。




“断ったら例の秘密、みんなにバラすから”




(みんなにバレるのは嫌……っ!)


姫乃はぎゅっと目を閉じた。




「ご、ごめんなさいっ」


そしてペコリと偉世に頭を下げた。




「星野君が誘ってくれたのはすごく嬉しいんだけど……実は昨日、新田君に誘われちゃって……」




「……そか、やっぱりな」


偉世は残念そうに、でも姫乃の答えをまるで予測していたかのように俯いた。




「本当に、ごめんなさいっ!」


そう言ってもう一度頭を下げた姫乃に偉世は「気にしないで」とだけ言った。




「……」


姫乃は本当に申し訳無いという気持ちと正体がパレずに済みそうだという感情が入り混じっていた。


しかし、偉世の誘いを断った事で生まれてしまったこの気まずさに姫乃はとても居心地の悪さを感じていた。




「おはようっ」


すると、そこへ和章が後ろから二人に声を掛けた。




「お、おはよう」


ホッとする姫乃。


偉世は姫乃のその表情を横目で見ていた。




「星野、もう松葉杖いらないのか?」


つい昨日まで松葉杖をついていた偉世だが、今日は使っていなかった。




「あぁ、昨日病院で診てもらったら今まで松葉杖を使ってたおかげで


 患部に負担が掛からなかったから、順調に治ってるって言われたから」




「そか、やっぱ若いから治りが早いのかな?」




「どうだろ?」


とは言っても、偉世はまだいつも通りスタスタと歩く事が出来ず、


姫乃の歩く速度と同じくらいゆっくり歩いていた。




「春川さんはもう捻挫治った?」


偉世は少し心配そうな顔を向けた。




「うん、全治二週間だったし、私も右手は使わないようにしてたから、もうすっかり」


姫乃はそんな彼に少しだけ柔らかい笑みで答えた。




「そっか」


偉世は姫乃の笑顔に嬉しそうに言った。

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