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第一章・第6話 意外な一面

「「「あれっ?」」」


沢村と和章に付き添われ、学校に一番近い総合病院の整形外科の受付に行くと、


先程別れたばかりの偉世と彼の姉もいた。


姫乃と偉世と和章は思わず声を発した。




「春川さんも来たんだ?」


偉世は何故沢村や和章が一緒にいるのか訊ねて来ない。




「う、うん」


姫乃は不思議に思いながら返事をした――。






「次の方ー、春川さん、どうぞ」


診察室から偉世が出て来ると、姫乃の名前が呼ばれた。




「大丈夫か?」


和章は松葉杖をついている偉世に声を掛けた。




「あぁ、捻挫自体は保健室の先生に診てもらった通り全治三週間なんだけど


 松葉杖を使った方が患部への負担も軽いし、移動の度に人の手を借りてちゃ迷惑になるからな」


偉世はそう言うと和章に手を振り、姉と共に帰って行った。






     ◆  ◆  ◆






――翌朝。




「おはよう、春川さんの捻挫の具合、どうだったんだ?」


登校してきた和章が自分の席に座ると偉世が松葉杖をつきながら近づいて来た。




「おぅ、おはよ。春川さんも保健の先生の見立て通りだったよ。全治二週間だって。


 だけど春川さん、右利きだからいろいろ大変みたい」




「文字書くのも、メシ食うのも左手?」


偉世の言う通り、治るまで左手を使わなくてはならない。


しかし、仕事だけはそうはいかなかった。


慣れない左手では当然どうしても右手と同じ様に描けない。


それで昨日、沢村と話し合った結果、完治するまで仕事はやらない事になったのだ。




「大変だな」




「まぁ、文字を書くのはなんとかなるみたいだけど、箸が使えないから当分食事は


 フォークかスプーンで済ませられる物にしてもらうって言ってたよ」




「やっぱり利き手を怪我すると大変だなぁ……俺、足でよかったかも」




「足は足で大変じゃないか?」


和章は松葉杖までついているくせにと言わんばかりの顔で苦笑した。






     ◆  ◆  ◆






――数日後、とある週刊誌の発売日。




「お? 星野、その雑誌……」


和章が偉世の席の横を通り掛ると彼が読んでいる雑誌が目に留まった。




「珍しい物を読んでるんだな?」


偉世が読んでいる雑誌は女子の間でよく読まれている物だった。




「あぁ、これ一愛の四コマ漫画が載ってるから毎週買ってるんだ」




「えっ、星野も一愛のファンだったんだ?」


ちょっとドキリとする和章。




「うん、絵のタッチが好きなんだ」




「へぇ~っ」




「でも……今週、載ってないんだ……」




(だよなー、だってあの捻挫じゃ描けないもん)


和章はもちろんこの雑誌の連載を休載した事も知っていた。




「体調不良って書いてあったけど……もしかして、体壊して締め切りに間に合わなかったとか?


 あの人、今すごい人気だし……」




「……」


事情を知っているけれど何も言えない。


和章はいろいろと考えを巡らせている偉世の顔を眺めた。


(本当にファンなんだなー)






     ◆  ◆  ◆






その翌日――、




----------


今日って時間ある?




Kaz


----------




休憩時間、和章からそんなメールが来た。




----------


今日は病院へ行く日だけど、


その後は空いてるよ?




姫乃


----------




----------


じゃあ、沢村さんが社の方で


打ち合わせと見て貰いたい物が


あるから迎えに来るって。




Kaz


----------




----------


うん、わかった




姫乃


----------




(見て貰いたい物……? 何だろう?)






     ◆  ◆  ◆






そして放課後なり、沢村は姫乃を出版社のミーティングルームに連れて来ると、


「こちらです」


彼女の目の前にコピー用紙の束を置いた。




「これ、何ですか?」




「つい先程までに届いた今週号の『いちごみるく』に対するご意見メールをプリントアウトした物です」


『いちごみるく』とは昨日、偉世が読んでいた雑誌で姫乃が四コマ漫画を連載しているあの雑誌だ。




「こ、こんなにっ?」


姫乃はいつも月末に自分のイラストに対する読者からの意見や感想のメールなどを沢村から見せてもらっていた。


しかし、今日はその月末ではない。


しかも今、目の前に積み上げられたメールは今月分の姫乃の仕事に対する物ではなく、


今週号の『いちごみるく』だけに対してだ。




「中には厳しいご意見もありましたけれど、ほとんどは早く体を治してまた連載を


 再開して下さいと言うものでした。ですから、元気出してくださいね」


沢村は姫乃が怪我をして仕事を休まざるを得なくなり、元気がなかった事を心配していたのだ。




「はい、ありがとうございます」


姫乃は沢村の心遣いをとても嬉しく温かく感じていた。




「そういえば、俺のクラスにも熱烈な“一愛”ファンの男子がいるよ」


姫乃が嬉しそうにメールを読み始めると沢村の隣に座っていた和章がニッと笑いながら口を開いた。




「え、男子っ?」


驚いて顔を上げる姫乃。


一愛のファンは八割が十代の女の子。


後の二割も小学生の女の子や二十代の女性がほとんどで男性のファンはいないのだと思っていたのだ。


実際、ファンレターも十代の男の子からは一度も来た事はない。


それは一愛のイラストが若い女の子受けをする可愛らしいタッチだからだ。




「意外や意外、星野がそうだったんだ」




「ほ、星野君っ!?」




「一愛の四コマ漫画が好きで『いちごみるく』を買ってるんだって。


 けど、今週は休載したからものすごく残念がってた」




「そ、そうなんだ……」


(びっくり……てか、星野君てああいうタッチの絵、好きなんだ?)




それは姫乃にとって偉世の意外な一面だった――。

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