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第一章・第3話 内緒の関係

――週が明けた月曜日。




----------


昼休憩、打ち合わせいい?


修正が入ったっぽい。




Kaz


----------




四時限目の前、休憩時間がそろそろ終わる頃、和章から携帯にメールが届いた。




----------


うん、わかった




姫乃


----------




短く返事を返す姫乃。


すると、和章からまたメールが来た。




----------


そうだ!


ついでに弁当も一緒に食べよう。


学食に集合ね!




Kaz


----------




(う……、困ったな……)


姫乃はいつも昼食は晶と食べている。


和章と学食で食べるとなると晶に何て言おう?


そう考えていると……、




「姫」


晶に呼ばれた。




「あたし、今日お弁当ないからお昼は学食行こう」




「あ……うん」


(仕方ない……とりあえず三人で食べよう。後はなんとかなるっ)






――そして昼休憩。




「あ、あれ……?」


姫乃と共に現れた晶に和章は顔を引き攣らせた。


てっきり姫乃一人で来ると思っていたからだ。




「姫、新田君と約束してたの?」




「う、うん……」




「なぁんだ、それならそうと言っといてくれればよかったのにー。


 びっくりしちゃった」




「あの……ごめん、俺が急に呼び出したんだ」




「そうなんだ?」


晶は意外にも何も訊いてこなかった。




その事に姫乃はホッと胸を撫で下ろした――。






     ◆  ◆  ◆






昼食を食べ終わり、「先に戻るね」と晶が学食を出て行った後、姫乃と和章も打ち合わせをする為、


中庭に移動した。




「森島さんて春川さんが“一愛”だって事、知ってるの?」


一番端の目立たないベンチに座りながら和章が小声で言った。




「ううん」




「え、知らないのっ?」




「う、うん……」




「俺、知ってて気を遣ってくれたのかと思った」




「なんか、わざわざ自分から言うのもどうかと思って……」




「んー、それもそうか」


和章はそう言うと、持っていた大きな封筒から先日姫乃が描いたイラストのコピーを出した。




「これが今朝、沢村さんが持って来てくれたチェックバックね」


コピーには赤ペンでイラストをチェックした後の修正の指示が書いてあった。




「沢村さん、わざわざ学校まで持って来てくれたの? いつもはパソコンの方にメールをくれるのに」




「うん、今回の修正ちょっと急ぐんだってさ。だから先にチェックバックに


 目を通しておいて欲しかったんじゃないかな?」




「そっか」




「今日も帰りに迎えに来るって言ってた」




「じゃあ、お母さんに連絡しておこっと」




「お? 春川さんの待ち受けって自分のイラストじゃないんだ?」


姫乃が携帯を開くと、横から興味有り気に覗いていた和章が意外そうに言った。




「だって、自分のイラストなんて恥ずかしいじゃない」




「けど、逆に言えば自分のイラストにしておけばみんなに怪しまれないんじゃないか?」




「そ、そうかなぁ?」




「と、俺は思うけどなぁ~? ところで、この待ち受けって“清野四葉”(せいのしほ)って


 漫画家のイラストじゃん」




「うん、よくわかったね?」




「そりゃあ、今すんげぇ人気だもん、タッチでわかったよ。春川さん、この人のファンなんだ?」




「うん♪」


姫乃はにっこり笑って答えた。






     ◆  ◆  ◆






放課後――。




姫乃と和章が一緒に裏門へ向かうと既に沢村が待っていた。




「お疲れ様です」


そう言って後部座席のドアを沢村が開け、姫乃が乗り掛けた時、


和章が誰かに手を振っていた。




(あ……)


姫乃は和章の視線の先にいる相手にギクリとした。




それは、この間も仕事場近くのファミリーレストランで見掛けた星野偉世だった。


口元に柔らかい笑みを浮かべて和章に手を振り返している。


だが、和章の傍に姫乃がいる事に気が付くと偉世の顔から笑みが消えた。




(な、何……?)


姫乃は偉世の表情に不安を覚える。


あの時、自分があのファミレスにいた事に彼は気付いた様子はなかった。


しかし、それなら何故彼は今自分の顔を見て顔を強張らせたのか?




“もしかして……あの時、やはり見られていたのだろうか?”




(だとしたら、沢村さんの顔も見ているはず。それで何か不審に思っているのかな?)




「春川さん?」


不安な表情で突っ立っている姫乃に沢村が声を掛けた。




「……あ、ごめんなさいっ」


急いで後部座席に乗り込む姫乃。


沢村は姫乃が乗った事を確認すると静かにドアを閉めた。




沢村の運転で車が走り出すと、偉世はそれをただじっと見つめていたのだった。






「今の男子生徒、この間ファミレスで会った子ですよね?」


バックミラーに小さく映る偉世の姿を見て沢村が姫乃に訊ねた。




「はい……」




「ファミレスって?」


助手席の和章が姫乃に振り返る。




「この前、お仕事が早く終わって沢村さんと一緒にファミレスでお昼を食べてたら、


 星野君がそのお店に入って来たの」




「へぇ~、あいつン家ってあの辺だったんだ。じゃあ、乗せてあげればよかったな?」




「ななな、何言ってんのっ! そんな事したら……っ」




「わかってる。冗談♪」


和章は悪戯っぽく笑った。






     ◆  ◆  ◆






数日後――。




姫乃はこの日も昼休みに中庭のベンチで和章と会っていた。


もちろん、週末の仕事の打ち合わせの為だ。


今までは沢村とやり取りをしていた為、学校が終わった後、帰宅してからメールを確認、


それから電話などで打ち合わせをしていた。


しかし、和章とやり取りをするようになってからは同じ学校という事もあり、


次の仕事内容などを事前に打ち合わせする事や修正があった場合の指示などを早く聞いておく事が出来る。


そのおかげで仕事のペースもあがり、なんだかんだと毎日のように和章と会っていた。


だが、絶対に他人には聞かれたくない話だ。


だからいつも一番端のベンチでコソコソと話していた。






そして、五時限目が終わった休憩時間――、




「ねぇ、姫。今日も新田君と昼休みに会ってたけど、もしかして付き合ってるの?」


最近急接近し始めた姫乃と和章を不審に思ったのか、とうとう晶に訊かれてしまった。




「え……ううんっ」


咄嗟に否定したものの、焦る姫乃。




「でも、ここんとこほぼ毎日中庭のベンチで楽しそうに話してるよね?」




「た、楽しそう、かな?」




「うん、傍から見てるとまるで“彼氏と彼女”だよ?」




「中学も同じだったから、話が弾むだけだよ」




「てか、なんで新田君と会ってるの?」




「たまたま、ばったり……?」




「ふぅ~ん……?」


晶はなんとなく納得がいっていなかったが、あまり追求して欲しくなさそうな姫乃の様子に


それ以上訊く事はしなかった。




和章とは誰にも言えない“内緒の関係”。




そう、親友の晶にさえもだ――。

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