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第一章・第2話 急接近 -2-

「しっかし、まさか春川さんが“一愛先生”だったとはねー」


クライアントとの打ち合わせが終わった後、和章がニヤニヤしながら言った。


どうも何か企んでいそうな顔だ。




「……あ、のー、新田君……」




「ん?」




「私が“一愛”だっていう事は、その……周りには内緒にしてて貰いたいんだけど……」




「えー、なんで? 俺、明日みんなに自慢してやろうかと思ってたんだけど」




「な……っ!?」


姫乃は思わず絶句した。




「だって今大人気の“一愛”と仕事が出来るなんて超自慢できるじゃん!」




「お、お願いだからやめてっ」




「だから、なんでー?」




「だ、だって……いろいろと騒がれるかもしれないし……あんまり目立ちたくないし……」


段々と声が小さくなっていき、俯く姫乃。


その様子に和章は「ふーん」とだけ返した。




「だから、そのー……」




「……わかった、春川さんがそんなに嫌ならみんなには言わない。黙ってるよ」




「ホ、ホント?」


姫乃は少しだけ顔を上げて上目遣いで和章を見つめた。




「うん」


優しい笑みを返す和章。




しかし、次の瞬間……




「そのかわり、俺の言う事何でも聞いてね?」


和章は沢村の目を盗んで姫乃の耳に囁いた。




「え……」


悪魔のような笑みに変わった和章に姫乃は後退りした。




「大丈夫、大丈夫っ! 別にそんな無茶苦茶な事を言うつもりはないからさ♪」




姫乃は思いっきり顔を引き攣らせながら肩を落とした。


(絶対、嘘だぁー……)






     ◆  ◆  ◆






――翌日。




「春川さ~んっ!」


姫乃が和章の教室の前を通ると、中から大声で自分を呼ぶ声がした。




「っ」


思わずギクリとする姫乃。


(この声は……)




「ちょっと、ちょっと♪」


席に座ったまま手招きをしている和章。


怪しい笑みを浮かべている。




(やっぱり……新田君だ)




“何か良からぬ事だ……”




そう直感した姫乃は一緒に歩いていた親友の森島晶もりしま あきら


「ショウちゃん、先に戻ってて」と告げた。




晶とは高校に入ってからの付き合いで、男っぽい名前の通り勝気な性格の子だ。


しかし、姫乃だけは晶の事を音読みで“ショウちゃん”と呼んでいる。




晶が少しだけ怪訝な顔をしながら去った後、姫乃は怖ず怖ずと和章に近づいた。


「な、何……?」




「そんなに警戒しなくても」




「し、してない……」




「そぉ? なら、いいんだけど。ところでさ、携帯の番号とメアド教えてよ。


 昨日訊き忘れたから」


姫乃と出版社とのやり取りは今までずっと沢村が担当していた。


だが、昨日の打ち合わせ以降、“業界修行”の為にバイトとして入った和章が担当する事になったのだ。


もちろん、週末の仕事場までの送り迎えや和章への指示は沢村が行う事になっている。




「ハイ、赤外線通信♪」


和章はニコニコしながらズボンのポケットから携帯を出して姫乃に向けた。




「……」


姫乃も制服のポケットから携帯を出し、和章に向ける。




その時、和章の後ろには偉世がいて二人の様子を見ていたのを姫乃は気付いていなかった――。






     ◆  ◆  ◆






そして週末の土曜日――、




裏門にはいつものように沢村が迎えに来ていた。


姫乃が小走りに近づくと、裏門の陰から和章がひょっこり顔を出した。




「あ、あれ……? なんで新田君がいるの?」




「もちろん、俺も一緒に行くからに決まってんじゃん♪」




「……な、なんで?」


顔を引き攣らせる姫乃。




「春川さん、そんなに警戒しなくても大丈夫ですよ?」


沢村は苦笑いしながら後部座席のドアを開けた。




「“先生”の仕事場を知らないと原稿とか取りに行けないだろ~?」


そう言いながら姫乃よりも先に後部座席に乗ろうとする和章。


沢村はその首根っこを掴み、「先生より先に乗る奴があるかっ。それに君はこっち」と、


助手席を指差した。




「……はぁ~い」


和章はばつが悪そうに返事をすると自分で助手席のドアを開けて乗り込んだ。

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