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第一章・第2話 急接近 -1-

「はわわゎっ」


翌日、日曜日の昼。


仕事が予定より早く終わった姫乃が原稿を取りに来た沢村と一緒に


ホテルの近くにあるファミリーレストランで食事をしていると、


突然妙な声を出して慌て始めた。




「春川さん、どうしたんですか?」


コソコソと店の入口とは逆方向に顔を向け、誰がどう見ても挙動不審な姫乃に


沢村は首を捻った。




「しーっ」


姫乃は人差し指を口に当てて、小さく首を左右に振った。




「?」




「同じ学校の男の子がお店に入って来たんです」


姫乃は店の入口の方をつんつんと指差した。




沢村がその方向に視線をやると確かに青いシャツを着た高校生くらいの男の子と、


二十代の男性二人と女性一人、それに三十代前半と思われる女性が店の入口に立っていた。




「青いシャツを着てる人ですか?」




「は、はい」


それは姫乃と同級生で違うクラスの男子・星野偉世だった。




「お友達なら別に隠れる事ないじゃないですか」




「クラスと名前を知ってるだけだから友達じゃないですよー。ほとんど喋った事もないですしー」




「じゃあ、尚更隠れる事なくないですか? 僕と一緒に居ても別に『あの人誰なの?』とは


 訊かれないんでしょう?」




「……あ、それもそうですね」


姫乃はそう言うとアハハっと笑った。






     ◆  ◆  ◆






――三日後。


姫乃は週末ではないにも拘らず急遽放課後に入った打ち合わせの為、


沢村と共に出版社のミーティングルームに来ていた。




「すいません、春川さん、急に打ち合わせを入れてしまって」




「いいえ」




「今から打ち合わせするクライアントは今回うちと仕事するのも初めてで、


 どうも急ぎの仕事みたいなんですけど……」


そして、そんな話を沢村としているとミーティングルームのドアを軽くノックする音が聞こえた。




……コツ、コツ……、




姫乃と沢村はミーティングルームの入口に視線を移した。


すると、少し遠慮がちにミーティングルームに入ってきたのは姫乃と同じ高校の制服を着た人物だった。




(……っ!?)


姫乃は驚き、咄嗟に顔を背けた。




(なんで、こんな所にうちの学校の生徒が……?)


そう思っていると、


「あれ? 春川さん?」


ミーティングルームに入ってきた人物が姫乃に気が付き、声を掛けてきた。




「……」


気付かれたからには仕方がない。


姫乃はゆっくりと顔を上げて振り返り、その人物の顔を確認した。




「に、新田君……?」




「あは♪ やっぱ春川さんだ。何してんの? こんなトコで」


そう言って姫乃の目の前にやって来たのは先日、偶然ファミリーレストランで見かけた


星野偉世と同じクラスの新田和章だった。


姫乃とは同じ中学の出身で三年間一緒のクラスだった所為もあり、


男子の中ではわりと話す方だ。




「あ、の……え、えーと……」


姫乃はどう答えていいのかわからず、口篭った。




「もしかして、春川さんもここでバイト?」




「え?」




「俺も今日からここでバイトする事になってさー、それでちょうど今から“一愛”っていう


 イラストレーターの先生とクライアントの打ち合わせがあるから、まずはいろいろと慣れる為に


 一緒に横に座って聞いてろって言われたんだ。という訳でよろしくね♪」


和章はニカッと笑い、姫乃に握手を求めてきた。




「よ、よろしく……」


姫乃は仕方なく差し出された手を取り、握手を交わした。




そして、和章が姫乃の隣に座ろうとした時、「君はこっち」と沢村が制した。


「いくら新田部長のご子息でも“先生”の隣なんて百年早い」




「?」


沢村にそう言われ、和章は不思議そうな顔をしながら沢村の隣に座った。




「新田部長のご子息って……?」


姫乃は和章と沢村の顔を交互に見た。




「あー、春川さんにはまだ言ってませんでしたけど、和章君は新田部長のご子息で


 将来自分も同じ業界に入りたいからって、今日から勉強の為にうちの会社に


 バイトとして入ったんですよ」




「そ、そうなんですか」


新田部長とは、沢村の上司で姫乃もよく知っている人物だ。




「ところで、“一愛先生”はまだなのかなぁ? もうすぐクライアントの人達もくるのに」


何も知らない和章は頬杖をつきながら呟いた。




「一愛先生ならもう来てるよ」


それに対し、沢村が苦笑いしながら言った。




「えっ!? どこですか?」




「こちらだよ」


沢村は右手の指をビシッと揃えて姫乃に向けた。




和章は沢村の右手の先へ視線を辿って行くと小さく声を発した。


「……え?」




姫乃はただただ顔を引き攣らせるばかりだった――。

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