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第一章・第1話 Prologue

爽やかな春風で桜の花びらが舞い踊る四月――、




「先生! 先生、早くっ!」


裏門に横付けされた黒塗りの車の前で大声を出している男在り。




「だ、だからぁ~っ、その“先生”っていう呼び方は止めて下さい~っ」


その男に“先生”と呼ばれた高校二年生の春川姫乃は全力疾走しながら小声で走って来た。




「ハァ、ハァ……お、お願いですから、“先生”って言うのだけは……」


……と言うより、息が上がって声が出ないでいる。




「そんな事より、早く乗って下さいっ」


後部座席のドアを大きく開けて待っていた出版社の社員・沢村は


姫乃が息も絶え絶えで目の前まで来ると後部座席に押し込めた。






「先生、今日は随分遅かったですね? 掃除当番かなんかですか?」




「……いえ……日直でした」


姫乃はようやく落ち着いてきた息を整えながら答えた。




「あー、日直ですかー、懐かしいですねー」




「あの、ところで沢村さん」




「はい?」




「その“先生”っていう呼び方……人前では……、と言うか、


 止めてもらえませんか?」




「どうしてですか?」




「だ、だって、他の人に聞かれたら……」




「別に先生がイラストレーターの“一愛ひめ”だってバレてもいいじゃないですか?


 悪い事をしている訳じゃないんですし」




「で、でもぉー……」


姫乃は高校に入ってからイラストレーターとしてデビューし、すぐに人気が出た。


素性こそ知られていないものの、今ではその“一愛”の名も全国に知れ渡っている。


その為、姫乃は周りには内緒で仕事をしているのだ。




「じゃあ、“先生”が嫌ならなんてお呼びすればいいんですか?」




「普通に名前でお願いします」




「わかりました。なら、“春川さん”とお呼びします」


沢村の苦笑いしている顔がバックミラーに映る。




「はい」


姫乃は笑みを返した。




「では、春川さん、今日のスケジュールですが、まず最初にうちの社で取材があります。


 その後、いつものホテルでお仕事をして頂きます」


姫乃は毎週末、ホテルに籠って仕事をしている。


別に仕事自体は自宅でも出来る。


実際、デビューしたばかりの頃はそうだった。


しかし、姫乃の人気が出るにつれて仕事場を別に構える方が都合が良くなったのだ。


毎週土曜日の放課後、沢村が姫乃を学校まで迎えに来ているのはホテルまで連れて行く為だ。

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