由佳視点 オヒル
「・・・さっ、お昼食べましょ~♪」
さっきの彼女達は言った通りに、お昼休みになったら私のそばへと寄って来た。
いつもは、1人で食べていた食事。1人で使っていた机。そこに2人が寄ってくる。
2人は手際良く近くの机を引きずって、私の机にぴたっと付けた。
人と机を付けるなんて、小学校以来かもしれない。
「わっ!由佳ちゃんのお弁当おいしそうっ!」
名前で呼ばれた。
でも、イヤな感じはしない。なんだろう・・・。不思議な感じがする。ポカポカ・・・する感じ・・・?
今までうるさい邪魔以外の感情で彼女達を見たことがないのに、なぜだか彼女達が「かわいい」と思えてしまう。
なんだろう・・・?
「ホントだぁ!自分でつくってるの?」
もう1人のほうも私のお弁当を見てそう言う。
「えぇ。料理好きだから・・・。」
2人の反応は同じもの。「そうなんだぁ~!すご~い」
料理が出来るのがそんなにすごいのだろうか?
私は、中学のときから朝ごはん・昼ごはん・晩御飯は自分でつくっていた。それが、当たり前だと思っていたから。
・・・それに、つくってくれる人が居なかったから・・・。だから、自分でつくる以外の選択肢がなかった。『あの人』が私のお弁当など作ってくれるはずがなかったから・・・。
だから昔は、みんなのお弁当が羨ましかった・・・。
・・・母親が作ったお弁当がある皆が・・・。
なのに、みんなは母親が作ったお弁当を不満そうに食べている。つくってる側の気持ちなどまったく考えたことなどないのだろう。
まったく・・・いい身分なものだ・・・。
・・・自分でつくったこともないくせに、口だけは一丁前に「おかあさんって料理が下手だからぁ~。」「ご飯超不味い~!」「マジあのババァ手抜きだぜ~!」なんて言っていた。
じゃぁ、自分でつくればいいのに・・・。
しかも、文句をタラタラと言っている割には、ご飯粒1つ残さず完食して・・・。
だから人なんて嫌いなんだ・・・。
「私のなんてヒドイよぉ~(笑)」
「いやいや。私のほうがひどいって(笑)」
・・・あなたたちも中学の特のバカ共と同じことを言うの?
あなたたちのことは可愛いと思い始めたのに・・・。
「見てよ~。何度つくっても上手くならないんだよぉ~。」
「いや、かわいいじゃん。私のを見なさいよ(笑)朝早くつくってるにも関わらず、この下手さ加減(笑)」
まるで、自分でつくっているような口ぶり・・・。どうせ、そのお弁当もあなたたちの母親がつくっているんでしょ?
・・・それを、偉そうに・・・ッ!
・・・お弁当、別な場所で食べようかな・・・。
「おかあさんから料理習っておけばよかったなぁ~。」
「私のおかあさんは料理教えてくれる余裕ないしなぁ~。」
・・・え?
「・・・2人とも、自分で・・・つくってるの・・・?」
今まで黙って話を聞いていた私が割り込む。
だって、今の話し方だと・・・まるで・・・。
「そうだよ♪私はさぁ~、おかあさんが小6のときに死んじゃってさぁ~・・・。それからは、自分でつくってるんだ♪」
「・・・で、私のほうは両親が離婚しちゃってさっ。おかあさんが働き始めて忙しいんだよねぇ~・・・。これでも私たち、家事全部やってるんだよ(笑)」
・・・知らなかった。
クラスにそんな人たちがいたなんて・・・。
似た境遇・・・。
「・・・そうだったんだ・・・。」
それしかコメントできなかった。
なんか、それ以上言うと泣く気がして・・・。
彼女達・・・それに私も・・・。
「うん♪でも、もう慣れたよ(笑)人間はじゅっ、じょんッ・・・じゅお・・・」
「・・・順応力・・・?」
「そう!それが高くていいよねぇ~(笑)」
「あっ・・・お弁当食べようか(笑)」
「スルーかい・・・(笑)」
「・・・フフ。」
笑った。
なんだか、おかしかったし・・・。
なんだろう・・・この人たちとは仲良くなれる気がする・・・。
生い立ち云々の前に、私はこの子達の性格が好きだと思ったから。
暗い過去があるにも関わらず、人を嫌うこともせず、そのくらい過去を笑い飛ばしてる。
それが、とてもすごいことだと思った。
だから、仲良くなれる・・・というか、仲良くなってみたいと思った・・・の方が正しい。
興味が湧いたんだ・・・。
この子達に・・・。