由佳視点 アキト
彼の名前は彰人と書いて、アキトと読むらしい。
その次の授業では、教科書を見るたびに笑ってしまいそうで…授業に集中できなかった。
まぁ、授業なんか聞かなくても大体分かるんだけどね。
次の休み時間…。
彼が私の教科書を返しに来た。
「助かったよ、ありがとう。…さん」
教室のザワザワで最後のとこがよく聞こえなかったけど、たしかに私の名前を呼んでいた。名字だったけど…。だから…
「…由佳でいいよ。名字でさん付けはやめて?」
彼は笑顔で
「うん、分かった。由佳ちゃん。」
クラクラし過ぎて倒れてしまいそう…。
彼は自分の名前を告げ、
「俺のことも、彰人って呼んでね。」
彰人君…か…。
いい人だな。人にもこんないい人がいたんだ。
・・・なんだろ。不思議な感じがするなぁ・・・。
「分かったわ。彰人君。」
私は…多分笑っていた…。
人に笑顔を向けたのって…何年ぶりだろう…。
私って…笑えるんだぁ…。
フフ…私を笑わせるなんて…すごい人だ…。
「ーねぇ、由佳ちゃん。」
彼が私の名前を呼ぶ。
「なぁに?」
「これって何でこうなるか分かる?」
話しかけてきた内容は数学の事だった。
前の授業で分からない事があったらしく、私に聞いてきた。
それはこの間やったときの内容だったので私は普通に答えた。
彼は納得したらしく、「あー!なるほど!」と言っていた。
ふふ…かわいい…。
「由佳ちゃんって人に教えるの上手だね。分かりやすくてすぐ分かるよ。先生とか向いてるかもね。」
そんなことを言われたのは初めてだった。
私が…先生…?
人嫌いの私が・・・?
・・・・・・・・。
「先生なら・・・彰人君の方が向いてるんじゃない?」
彼はすごくビックリした様子で「お、俺!?」と言っていた。
そして、こう言葉を続けていた。
「俺は・・・夢があるから、先生はムリだなぁ」
「夢?」ときくと「うん」というだけでそれ以上は何も言わなかった。
多分、言ってくれないんだろう。
彼の夢・・・何なんだろう・・・。
でも 訊かない・・・。
彼が・・・言ってくれるまで・・・。