特別視点 新米刑事
俺は、弱い人々を守り、悪い奴を捕まえる。
強きを挫き弱きを助ける・・・。そんなものを夢見て刑事になった。
だが、俺は強きを挫くことができないかもしれない・・・と今日、しみじみと思ってしまった。
今、署内は大変な騒ぎである。
『おい、そっちのほうに記者集めろ!』
「ジャンジャンファックスが入ってるぞ!」
『抗議の電話も半端ないぞ!』
「落ち着け!俺だって驚いてるんだから!」
彼女・・・『連続通り魔殺人事件』の犯人、由佳ちゃん・・・。
本当にもう・・・彼女にはバカにされっぱなしな気がする。
取調べ中は『頭を使え』とバカにされ・・・その後も何度も何度もバカにされた。それも楽しそうに。
俺は彼女にとって、おもちゃのような扱いを受けた気がする。
それに、今回のコレ・・・。
取調べ中に自殺・・・。そのとき、俺はその場にいた。
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『ねぇ~、新米刑事さん~。
つまんないよ~。彰人君連れてきてよ~。』
「君は・・・、なんでそんなに彰人君が好きなの?」
『ん~?
だって、彰人君は優しくて・・・笑顔がステキで・・・涙もろくて・・・そのくせ、大切な人のためには命投げ出すぐらい頑張って・・・。
フフ・・・彼に勝る男は、この世にはいないでしょうね。』
壮絶なノロケだな・・・。
ストーカーしてたくせに・・・。
「おノロケごちそうさま・・・。」
『はぁ~い♪』
ホントに・・・この子は捕まったはずなのに、なんでこんなに楽しそうなんだか・・・。
全く・・・でも、こうしてみると・・・ただの女の子だよな・・・。
恋して、それを誰かに話して(まぁ、ノロケ)、照れながら嬉しそうにしたり・・・。
ストーカーとか殺人さえしなければ、普通の恋する女の子だったのに・・・。
「まぁ、ノロケぐらいならいつでも聞いてあげよう・・・。」
『あら、ありがと♪
でも・・・もうムリみたいよ。』
「え・・・?」
なんでだ?
もしかして、彼女は自分が精神病棟に入れられることを知っているのかな?
「でも、面会はできるはず。」
『ムリでしょう?
行ったら行ったきり・・・。帰って来ることなんかできないわ。
私は・・・それを望んだのだけれどね・・・。彰人君のためだし・・・。』
「・・・?一体なんのことだい?」
病院のことじゃない・・・?
行ったら行ったきり・・・?
彰人君のため・・・?
一体彼女は何のことを言っているんだ?
『フフ・・・。バイバイ、新米刑事さん♪
あなたも彰人君ほどじゃないけど、優しい・・・いい人だったわ。
ありがとう・・・。』
彼女はドサッと床に倒れた。
「ちょっ、君!君!!由佳ちゃん!!!!」
抱き起こしてユサユサと肩を揺さぶるけれど、彼女は返事をしなかった。
口からダラダラと血が出て、口の中から真っ赤な肉片が落ちてきた。舌を噛み切ったのか・・・!!!
「誰か・・・!!救急車・・・救急車お願いします!!!」
急いで医者を呼んだけれど・・・彼女は助からなかった。
彼女の死に顔は・・・優しく笑っていた。
「なんで・・・。なんで・・・!!」
由佳ちゃん・・・。
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『おい!新米!!
この書類を署長に届けに行くついでに、今回のことについて話に行くぞ!』
「あっ・・・はい!」
俺は、強きを挫くことはできないだろう。
だから・・・弱きを助ける・・・彼女のような犯罪者を出さないような・・・そんな刑事になろう!
「わっ!・・・イタッ!!!」
ドタッ・・・!
こっ、転んだ・・・。
『おいおい・・・。』
・・・程ほどに頑張ろう。
まずは、足元の注意から・・・。