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彰人視点 守ッテヤル

PiPiPiPi・・・♪


夜、風呂から上がってくつろいでいた時、携帯電話が机の上でけたたましく鳴った。こんな時間に誰だ?と画面を見てみると、『葉月』と表示されていた。


「・・・葉月?」


こんな時間に電話してくるなんてめずらしいな、と思い急いで電話に出た。


「もしもし。」


『あっ!もしもし、ごめん寝てた?』


「いや、別に起きてたよ。」


葉月の声は沈みこんだように元気というか、覇気がなかった。


「どうした?・・・何かあったか?」


『・・・実はさ、さっきなんか・・・変な人に襲われてさ・・・。』


「・・・え?」


恐れていたことが起きた…。このタイミングで不審者に襲われたって事は、ほぼ間違いなく無言電話の奴だろう。


「お前は・・・っ!なんでこんな時間に外に出たんだっ!」


俺はついつい怒鳴ってしまった。こんな時間に外に出るなんてと確かに思うけれど、何も怒鳴ることはないだろうと自分でも思った。

これはただの八つ当たりだ。葉月を守れてない俺へのイラつきを葉月にぶつけてしまった。

俺にはそんなことより言うことがあるだろう。夜道で知らない誰かに襲われて、葉月は怯えているはずだ。そこでさらに俺に怒鳴られたら・・・。


「ごめん・・・。怖かったよな。大丈夫だった?」


少し鼻をすする様な声が電話の向こうから聴こえた。やっぱり不安だったんだよなぁ・・・。


『大丈夫・・・。』


あきらかに大丈夫ではなさそうな声で返事がきた。俺は、なんて声をかければいいんだろう・・・。


「・・・はい、はい。あっ、いや大丈夫です。はい・・・。」


次にかける言葉を悩んでいると、葉月が1人で話始めた。たぶん後ろにいる人に話しかけているのだろう。

後ろにいる人?そういえば、葉月は今どこにいるんだ?


「葉月。今どこにいるの?」


「ん?交番だよ。襲われそうになったときに、交番に逃げ込んだから助かったんだ。」


交番か。というと、うんと少し元気になった声が帰ってきた。


「どこの交番?迎えにいくよ。」


いいよと言い張る葉月を、少し強引になだめて迎えに行くことになった。

警察官には、迎えがくるまでもう少し居させてくださいと言うと、快くOKしてくれた。

俺は、最低限のものだけ持ってすぐに交番へと向かった。頭がまだ濡れていたけど、そんなことに構っている余裕もなかった。


交番につくと、葉月がイスに座ってお茶を飲んでいた。


「あっ、彰人くん!」


もう少し怯えている感じかなと思っていたけど、さすが葉月。

警察官にお茶とお菓子を出してもらい、ルンルン気分だったみたいだ。

俺が来ても、幸せそうにお茶を啜っていた。まぁ、よかったんだけど・・・なんか釈然としない。

お茶も飲み終わった葉月を連れ、お巡りさんにしっかりとお礼を言って交番を後にした。


「おばさんには連絡したの?」


さすがに少し気まずくて、無言でしばらく歩いていたけど耐えられなくて葉月に声をかけた。


「うん。彰人君が迎えに来てくれるって言ったら、家で待ってるねって言ってた。」


おばさん。なんだか凄く俺のことを信頼してくれてるかんじ?

うれしいけど、親から娘を任せたみたいなことを言われると、かなり責任重大でプレッシャーに負けそう。


「・・・葉月。俺と1つ約束してほしいんだ。」


プレッシャーも増し、今回のこともあったから、どうしても葉月に言っておかなければいけないことができた。

真面目な顔で話し始めると、葉月も真面目な顔をして俺の話をきいてくれた。


「夜、外出しないこと。どうしても出なきゃいけない用事のときは、俺に連絡して。送り迎えするから。

わかった?」


葉月はわかった。と言ってくれた。

話し終わったときに、ちょうど葉月の家に着いた。家に着くと、おばさんが家の外で葉月の帰りを待っていた。

お母さん!と駆け寄る葉月を、おばさんは優しく抱きしめていた。

これは親子のことだな、と邪魔をしないように帰ろうとすると、おばさんに引き止められた。


「彰人君。迎えに行ってくれてありがとうね。

それだけで、葉月も心が楽になったと思うの。ありがとう。

こんなときにお願いするのもどうかとは思うんだけど・・・

葉月のことを、お願いね。」


いつもおチャラけているおばさんがこんなにも真剣な表情で俺に話しかけてきたのは、初めてのことかもしれない。

おばさんは『母親の顔』をしていた。我が子を大切に思い、守ろうとする母親の顔。

そんな真剣な『母親』からのお願いに、俺ははい、とだけ答えた。

すると、おばさんはにこっと笑っていつものおばさんになっていた。

・・・今思うと、おばさんにはなんとなく分かっていたのかも知れない。これから起こることが。だから、わざわざ俺にこんなお願いをしたのかもしれない。

今となっては、もう分からないことだけれど・・・。


手を振り俺を見送ってくれたおばさんと葉月に、別れを告げて俺は家へと帰った。

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