冒険者ギルド酒場のリサは、なびきません~常連さんたちの甘さは過剰です~
冒険ギルド酒場のリサは甘い言葉に弱いですが、なびかずエールを運びます~ムール貝の次の段階~
短編連作集です。一話でも完結していますが、よければシリーズでお読みいただき楽しんでもらえたら嬉しいです。
「リサさん、ただいま」
「あ、おかえりなさい、アッシュ先生。いつもの席が空いてますよ」
大学准教授のアッシュ先生は落ち着きがあり、聡明な会話と大人の色気で人気高い。細くて綺麗なオリーブブラウンの長い髪を緩く束ねており、エメラルドのような輝く瞳で見つめてくる。
息が止まりそうになる。非常にやめて欲しい。
今日は夕飯時が過ぎたあたりに先生が訪れた。
「ではそちらに、まずは白ワインをお願いします」
「かしこまりました」
アッシュ先生は隅の窓際の席がお気に入りだ。お気に入りの席で店全体を眺めながら、ゆっくり白ワインの杯を傾けるのが日常となっている。
この前は、アッシュ先生もルカと一緒に甘い言葉をかけてきて私は常時赤面状態だった。ほんと身が持たない。
なんで先生は私のこと気になっているのかな。
気にはなるもののそんな質問をできるはずがない。
「白ワインとお水です、どうぞ」
「ありがとう」
アッシュ先生は食事がしたいタイミングや会話をしたいときに声をかけてくれる。
それまではこちらも声をかけないようにしている。
先生の居心地の良い時間を楽しんでもらいたい。
がやがや賑やかな空間の中に、先生の周りだけゆっくり時間が流れているかのよう。
時間の魔法でも使っているようにみえる。
常連のバルトさんにおかわりのエールを渡したところで、先生の方をみた。
目が合う。先生が微笑んだので食事のタイミングだ。
「リサさん、今日のおすすめは何ですか」
「今日のおすすめはツナとマヨネーズのポテトサラダです。ですがアッシュ先生におすすめなのはムール貝のワイン蒸しです」
「リサさんが私に?いいですね」
「新鮮な貝が入荷できました。
もし貝が苦手じゃなくてお腹に余裕があるなら、ぜひ」
「余裕はお腹にも心にもありますよ。ふふ。ぜひお願いしましょう」
「かしこまりました」
心? いやいや。貝の行く先はお腹ですよ。。。
先生のアピールは貝へのアピールにしておきましょう。
ムール貝、真っ黒な貝の中にオレンジ色の身が輝く。オリーブオイルとみじん切りにしたにんにくを入れ弱火にかける。香ばしく食欲をそそる香りが立ったら、ムール貝と今回は数個あさりを入れ、白ワインを贅沢に入れる。小さいトマトとアスパラも入れましょう。あさりのうまみ、トマトの酸味や甘みも加わって最高な一品だ。
「アッシュ先生できました。バケットも一緒にどうぞ」
「ありがとう、とても芳醇な香りです。ワインが進みますね」
「わかります。私もこのワイン蒸しの香りだけでワイン飲みたくなります。私はこのスープを使ってお米を足して作るごはんも好きです」
「リサさんが好きなもの、食べてみたいですね」
「それならバケットは少なめにしておいてくださいね。貝を食べ終わったら声をかけていただけると調理しますよ」
「楽しみです」
「気に入ってもらえると嬉しいです」
アッシュ先生は普段は優しい微笑みなのに、時折ギラついた色気だだもれの目線で話す時がある。ただのリゾットの話をしているだけなんですが。
心臓に悪い。
ひとかみ、ひとかみと濃厚な貝のうまみが口にあふれこんでくる。
おいしい。ああ、頼んでよかった。
アッシュは静かにその愛しい人の方を眺めた。
☆☆☆☆☆
きっかけは興味だった。
魔術大学の生徒の中でも
冒険者であるレオくんと冒険者ギルド職員のルカくんは大変人気がある。
そんな二人が争い求めている女性がいるときいたときには驚いたものだ。
女性から声をかけられている様子をよく見かける。女性には困っていないだろうに。
ギルドの酒場は利用したことがない。がやがやと落ち着かないからだ。だが、彼女をみてみたい、足を運ぶには十分すぎる理由だった。
「いらっしゃいませ、おひとりでしょうか」リサがアッシュに声をかけた。
「ああ、どこでも席は良い」
周りはもう賑やかになっているが、一番奥の窓際の席が空いているのをみつけたリサはアッシュをそこへ通した。
「こちらだと、少し落ち着けるかと思います。いかがでしょう」
「ここにしてくれて助かった。実は少しうるさいのは苦手でね。どうしてわかったんだい?」
「わかったというものでもありませんよ。店内の声が少し響いた時、表情がこわばったように見受けられたので。失礼だったらすみません」
「魔術大学で准教授をしているアッシュだ。よろしく」
「先生でしたか。すみません。私はリサです。こちらこそ宜しくお願いいたします」
「白ワインを頼みたい」
「かしこまりました」
リサは丁寧にお辞儀をしてカウンターのほうへ向かった。
美人だ。気遣いも良い。少し興味が沸いた。
「お待たせしました。白ワインです。食事はどうされますか」
「そうだね、もう少し喉を潤してから頼むとしよう」
「はい、楽しんでくださいね」
リサはそういうとお辞儀をして別の客のところに出向いた。
さりげなくこちらを気にしているのが分かる。ワインの進み具合を確認しながら、私のタイミングを逃さないように。
良い距離間で居心地がいい。
「リサ!ただいま。会いたかった」
「レオさん、おかえりなさい。今日は討伐でしたか?お疲れ様でした」
「そう。頑張れたのもリサのおかげ」
「私は何もしてませんよ。レオさんが頑張ったのでしょう」
「ちょっとレオ、リサちゃんが赤くなって困っているじゃない。とりあえず座ってエール頼むわよ。ごめんねリサちゃん」
「サーシャさん、すみません」
「レオさん、頑張った後はお疲れでしょう。座ってゆっくりしてくださいね。皆さんエールでいいですか?
「サーシャ、ヴァン、俺の女神様が優しい」
「リサちゃん、モレさんの酢の物と揚げじゃが、今日のおすすめも欲しい」
「はーい、ヴァンさん」
あのシルバーライオンのレオが必死に声をかける。顔を赤らめながらも受け流すリサのやりとりはがぜん興味をそそいだ。
「レオ、リサは俺の幼馴染だ。」
急いでやってきたのだろう、ギルド職員のルカが息をきらしてやってきた。仕事終わりなのか、首元のシャツのボタンをいくつか外していた。
「ルカ、リサはお前の幼馴染であり、俺の女神様。兼用できる。」
「兼用はできない。リサ、俺には白エールちょうだい。」
「ルカ、お疲れ様。今もっていくね」
カウンターが一気ににぎやかになった。
リサがそれぞれにエールを渡し、酢の物と揚げじゃがを運んでいた。
アッシュが目線をリサの方に向けると目が合う。にこっと笑顔でこちらに向かってくれた。
「リサさん、君の周りは面白いね。私も食事にしようかな。おすすめは」
「みなさん、この場所が好きなんですよ。私も楽しいです。先生はどんな気分ですか?お腹すいています?白ワインに合うものがいいですか?」
「そうだね、白ワインに合うものがいいね。お腹はそこそこかな。嫌いなものはないよ」
「でしたら、3種の小皿料理を少しずつ乗せたプレートとバケットはいかがですか?人気の酢の物、白身魚のチーズ焼き、ポテトサラダなら白ワインに合いそうでしょうか」
「いいね。お願いしよう」
レオもルカも必死だけど、余裕がない。あの二人が恋焦がれる人が私を選んだら、きっと満たされるだろう。
きっかけはそんな不純な理由だった。
☆☆☆☆☆
昔のことを思い出していたら、貝があっという間になくなった。
白ワインももうすぐ飲み終わる。
「アッシュ先生、そろそろスープは次の段階にうつりましょうか。白ワインもどうします?」
「そうだね。私も次の段階に進んで、たっぷり味わいたいな」
「スープとごはんをたっぷり味わってください。お持ちします」
「私はスープだけの意味でいったんじゃないんだけどね。」
赤くなってたじろぐリサはすごくかわいい。
昔はただの興味本位、今ではすっかり絆されてしまったようだ。
ただただ愛しい人。
次の段階ね。いい響きじゃないか。
☆☆☆☆☆
「モレさん、今日は酸っぱさマシマシの酢の物を食べたいです」
「どうしたんだ。先生か」
「自分を酢で清めたいです」
「もう、今日は白ワインも少し飲んどくか?」
「モレさん。。エールでぐびぐびいかせてください!」
「おうよ、いっとけ」
あんな大人の言い方だめです。
なんかだめです。語彙力低下を引き起こしています。
なびきません。
短編連作は以上です。このお話は連連載として新規出発予定です。リアクションやブックマーク等いただければとっても嬉しいです。どうぞ宜しくお願いいたします。




