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「給食毒物混入、ネット販売事件」

シングルマザーである橋本冬美は悩んでいた。


息子の英太のことだ。


彼は小学校の同級生からひどいいじめを受けていた。


できる範囲で学校や専門機関に相談したが、冬美の経済力では解決のしようがなかった。


「いっそのこと英太をいじめている子は全員、死んでくれればいいのに。」


服の下がアザだらけの息子の姿を見る度に、そんな気持ちが考えたくもないのに日増しに強くなっていった。


そんなある日、ネットを見ていると、無料で簡単に人を殺せる毒薬を手に入れる方法について、という投稿に目を惹かれ、読むと、私にも実行可能そう、という内容だった。冬美はいつものようにアザだらけの息子を迎えた際、この方法を試してみようと考えた。


夜の工場は寒く、暗く、不気味な機械音が鳴り響いていた。正直、あまり近づきたいものではなかったが、これも目的のため。冬美は意を決して構内へと足を踏み入れた。


小さい化学工場は警備が甘く、ヘルメットとつなぎを身につけた状態で、警備室のない裏口から怪しまれることなく侵入できた。とはいえ、夜勤者の見回りもあるので手早く済ませなければ。


構内の地図をみてたどり着いたとある化学タンク。


「このタンクかしら?」


何だかよくわからない化学式のようなものがタンクにラベルづけされている。コックと採水できそうな箇所は容易にわかった。コックを開き、溶液をポリ容器に詰めていく。


「これが上手くいかなくても、また別のタンクを試せばよさそうね。」


正直、まだ少し気の迷いはあった。しかし、息子のアザだらけの体や浮かない表情を思い出し、自分を奮い立たせた。




息子に、給食当番の際、


「給食の前、1番早くに着いて、鍋にこっそりこの瓶の液を入れるのよ。あなたはそれを食べる前に早退しなさい。お母さんが美味しいものを食べさせてあげるから。」


と言うと、息子は不思議そうな顔をしたが、顔を綻ばせ、


「じゃあ、どこに行こっか。」


と喜んでいた。


これは私と息子にとっての特別な日だ。盛大に祝わなければ。




それからしばらくして、息子に例の瓶を渡して実行させた。


学校は大騒ぎになった。やがて、救急車も呼ばれたが、強力な薬品だったらしく、教室はかなり荒れていたらしい。


死亡した15人の生徒のうち、いじめの主犯格の名前があった。


しばらくしたら私は捕まるだろうが、これで息子の仇は討てただろう。


「私と同じ立場の人のためにこの薬品は売ってしまおう。」


某通販サイトに出品し、薬品が売れた頃に私は捕まった。しかし、やはり後悔はなく、やり切ったという気持ちの方が強かった。


僅かにあった罪悪感や気の迷いは、息子のアザのなくなった体、気持ちよさそうにすやすや寝られている顔を思い出し、次第に薄れていった。




橋本英太は母の異変と自分がいじめられていることにぼんやりと気づいてはいた。僕が悪いんだ。母もみんなも悪くない。でも、母が悲しむところは1番見たくなかった。


お母さんがそうすると喜ぶなら、やってみよう。そんな軽い気持ちで事件の引き金は引かれてしまった。




「続いてのニュースです。」


「学校の給食に息子を介して薬物を混入させ、児童15名を死亡させる事件を起こした疑いで、橋本冬美容疑者(40)が逮捕されました。なお、容疑者は殺害に使用した薬品をネット販売で販売していた、という疑いもあり、警察は余罪について調査を進めています。」




警察官の樋口は憤りを感じていた。なんで犯人はこんなに人の弱みを利用するのが上手いのか、正直、知り過ぎているような気がした。


ん?


足利さんの言っていたことが妙に引っかかっているような感じがした。




大村卓二はネットカフェから出て行った。もうだいぶ社会に対してのウサは晴らせてきている気がしていた。


大野は殴られて腫れた頬を擦りながら、少し気の晴れない顔をしていた。


「こんなやつが黒幕だなんて笑っちまうよな。」


ビニール袋から覗く本の表紙から、家庭内DVの対策、どうしたら暴力はなくせるか?、といったタイトルが読み取れた。


大村は学んでも学んでも全然上手くいかない現実に打ちひしがれていた。


「ま、俺は社会のことなんか知ったこっちゃない。どうなろうがどうでもいいさ。」


乾いた笑い声を上げ、顔を少し上げて、気持ち足取りは軽く、彼は人混みに紛れて消えていった。

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